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102.トーリでの最後の夜

 そうして、私たちは数ヶ月前にも訪れた魔石店へ向かったのだけど――。


「あら……? 確かこの辺りでしたよね?」

「そのはずだが……おかしいな」


 記憶を頼りにそのお店があった場所へ行ってみたけど、それらしき建物が見つからない。

 通りの景色は変わらないはずなのに、あのお店だけがまるで消え去ったかのようだった。


 レオさんも同じように困惑した表情を浮かべ、周りの風景を再確認している。

 彼の眉間に皺が寄り、明らかに心配している様子が見て取れる。


「すまないが、この辺りにあった魔石を取り扱っている店を知らないだろうか?」

「魔石を扱ってる店? 雑貨屋なら向こうにありますが……」


 近くで露店を開いていた男性に尋ねてみたけれど、店主は顎に手を当てて眉をひそめている。その表情は、まるでそんなお店が存在したことすら知らないようだった。


「いや、魔石を専門に扱っている店だった。少し暗い雰囲気の店だったのだが」

「うーん……そんな店あったかな?」

「え?」


 店主の言葉には戸惑いと困惑が混じっていた。その反応に、私は胸に不安の波がじんわりと広がるのを感じた。

 私たちの記憶が曲げられているかのような、そんな不安な気持ちが押し寄せてくる。


「なくなってしまったのでしょうか?」

「私は何年もここで商売をしていますけど、そんな店があった記憶はないなぁ」

「えっ? でも、ほんの数ヶ月前に訪れたんですけど……」

「この魔石はそこで購入したものだ」


 レオさんがその場で、今日も身に付けてくれている魔石のペンダントを見せた。その輝きが日の光を受けてきらめく。


「う~ん、言われてみればそんな店があったような、なかったような……おかしいな、思い出せない」

「……」


 魔石を見て、店主は頭を抱えるように考え込んでしまった。


「どういうことでしょう?」

「ううん……」


 レオさんと私は互いに目を見合わせた。その眼差しにも疑念が映っている。


「まるで魔法で記憶を消されたようだな」

「記憶を消された……?」

「いや、そんな魔法が使える者がこの国にいるとは思えないが」

「……」


 レオさんは「冗談だよ」と言って微笑んだけど、その笑顔の裏には深い思索が隠れていた。彼もまた、この奇妙な現象に対してなにか不穏なものを感じているのだろう。


 人の記憶を消す魔法なんて……。

 確かに、闇魔法にそういうのがあったと、魔法書で読んだことがある。

 けれど闇魔法は非常に稀なもので、そもそも使える人がそういない。それに、この国では使用が禁じられているはず。


「単に彼が知らないだけかもしれないな。あのときも俺たちの他に客はいなかったし、他の店の者と付き合いがあるようにも見えなかった」

「……そうですね」


 レオさんの言葉に頷きつつも、私は心の中で消えてしまったお店の謎を考え続けた。

 もう一度行きたかったけど……。なくなってしまったのなら仕方ないわ。


「どうする? 向こうの雑貨屋に行ってみるかい?」

「はい、そうですね」


 心の中には小さな不安が残っているものの、今はそれを考えても仕方がないと、気を取り直して次のお店に向かうことに決めた。




     *




 その日の夜、第三騎士団の皆さんとの最後の夕食は、心あたたまるひとときとなった。


「お義姉様が帰ってしまったら寂しいです……! またすぐ遊びに来てくださいね!!」

「うふふ、そうね」


 アニカがそう言ってくれるなんて、よほど私の作る料理を気に入ってくれたのかしら?

 マルクス様の隣で、口いっぱいに料理を頰張っているアニカの言葉に、本当にまたすぐ来られたらいいのにと思った。


「今夜は飲むぞ~! リック、潰れるなよ!」

「おまえがな」


 ヨティさんたちは楽しげにお酒を飲み、第三騎士団の方たちと意気投合してちょっとした宴会のような雰囲気になっている。

 その光景を見ていると、私も自然と笑顔がこぼれた。


「楽しそうですね、ヨティさん」

「今日はトーリでの最後の夜なんだし、シベルちゃんも一杯くらい飲もうよ!」

「それじゃあ、一杯だけ」


 そんなヨティさんの言葉に、私もワインを一杯だけいただくことにした。

 グラスを口に運ぶと、ほのかな酸味と豊かな果実の香りが広がり、心がほっこりする。


「はぁ~……、美味しいです!」

「シベルちゃん、もう一杯」

「いえ、これ以上飲むと酔ってしまうので……」

「大丈夫大丈夫、殿下だっているんだし~」

「そうですか? では、もう一杯だけ」


 グラスが空くとすぐにワインを注いでくれるヨティさんの言葉に、ついつい私もおかわりしてしまった。

 気づけば、周りの声が少しずつ遠くなり、心地よい酔いが身体を包み込む。


「……シベルちゃん、あまり無理しないでね?」

「はい! 私もとても楽しいです」

「そうか」


 隣にはレオさんがいて、心配そうな表情を浮かべながらも優しく微笑んでくれる。レオさんの顔を見ていると、不安が消えていくような気がした。

 周囲には楽しそうに笑っている騎士様たちがいて、その笑い声がこの場所のあたたかさを一層引き立てている。


 アニカとマルクス様も元気そうで、トーリの街の平和が守られていることに、私は深く安堵した。


 本当に来てよかったわ。

 これからも私はこの国の平和をレオさんと一緒に守っていきたい。


 そう強く思いながら、再びグラスを口に運んだ。



何やらフラグがプンプンですね……w


本日コミカライズ第8話が更新されました\(^o^)/

壁ドンと腕相撲のシーンですよ〜!

(ヨティの細マッチョなかっこいい筋肉も見れます!!)

今ならなんと!8話まで登録不要で無料で読めちゃいます!!すごすぎる……!!

もう少しで一部有料になっていくので今のうちにぜひ〜!

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