第8話 狩りと仕事。
あの盗賊達との殺し合いから一週間が過ぎた。
あの一件以来、妙に注目されていた。
`期待の新人だ、`とか、`パーティーに入ってくれないかな`とか色々と、でも、私はパーティーに入る気は無かった。
・・・なぜなら、狩人が主な仕事で冒険者はついでみたいなものだから、冒険者を生業としている人たちにとっては不愉快な気持ちにしてしまうのでは無いかという不安があったからだ。
パーティー募集の紙は見ないようにしてきた。
あくまでも私はソロとして活動する冒険者として振る舞った。・・・実際、私以外にもソロで活動する冒険者がいたので助かっている。
この一週間、私は狩人としての仕事を本格的に開始した。
まず、素材になる魔物、オオカミやファルコン、他には反対の森に行って蛇と猿とでかいカマキリを狩っていった。・・・その途中で、ゴブリンの集団およそ十匹と戦った。
だが、結果は圧勝。
火の魔術を使いゴブリン共を一掃した。
具体的には、私の好きなマンガのあの技を放った。
「ゴブリン共、これで焼き尽くしてやる。・・・チェェスト!!!」
叫び声と共に右ストレートパンチから放つ炎の拳、喰らったゴブリン共は黒焦げになった。
ゴブリン討伐の証は体内にある魔石を取ることだったので一応取った。・・・どんな獲物であれ有効活用するのが狩人の基本なのだから。
ちなみに、魔石にはそれぞれ属性と同じ色をした石があり、それをアクセサリーや武器に付けることで通常の倍の威力になるという。
・・・残念ながらゴブリンの魔石は無色で、こういうのは大概、砕かれて、鍛冶屋に持って行き、武器の強度を上げるための材料として使われるそうだ。・・・そのことを知ったのは無色の魔石をギルドに持っていったときに聞いた。
このことを知った私は、これは武器や防具作りに役立つと考えた。
受付嬢に。
「・・・この無色の魔石を、魔物を狩っても自分の物として持って帰ってもいいのですか?」
この問いに受付嬢は
「・・・構いませんが、加工と鍛冶の技術が無ければただの石ころですよ?」
問題なかった。
それ以来、ゴブリンを見かけては、魔石を入手し、持って帰っては、武器や防具作りに没頭した。
・・・出来た武器は、短剣と斧と槍と大槌、防具は、胸当てと兜と肩当て、兜は日本風の角を付けた鬼兜であった。・・・・この凝り方、私の欲求を満たすには十分であった。
因みに満足は、全身鎧のフルプレートであった。
・・・以前、武器屋でその鎧を見たときは、胸が苦しく、息が荒かった。
店の人に変に思われるから我慢して、防具の参考に革の胸当てを買い、家に帰った。
・・・今でも忘れられない。
あの全身鎧の形、足から首の所までの作りに加え、関節部分は少し肌が見えるくらいの隙間しか無い。・・・・完璧な作りであった。
今、地球の日本のマンガやアニメに描かれている鎧は、鋼鉄の部分は胸と足と腕だけで他は服での部分が多い。
・・・中には、ビキニアーマーのような物までありこれは鎧というより水着であった。
そもそも鎧というのは体を守るだけで無く、その中身がどれほどの肉体なのかわからないようにする物であり、少しサイズが合わなくても身を守るもの。
・・・鎧がこすれて怪我しないように体を密着する物であり、その窮屈から戦闘前は涼しい顔でも、戦闘後はその窮屈から疲労が通常よりも辛くなるものなのだ。
それを女性が着たとなれば、一見、色気が無いものが。・・・鎧の上から見るボディーラインはその者のスタイルを表し、戦闘後の疲労で見せる顔や仕草には言葉では言い表せない興奮を与えるものだ。
・・・そう私は、鎧フェチ。
女騎士の全身鎧を着たマンガやアニメ、果ては同人誌を購入するほど好きなマニアックなのである。
・・・・引かれるので、誰にも言ってない。
さて、そんな一週間が過ぎた頃、依頼ボードに調査依頼があった。
何でも、北東の岩山あたりに見たこともない鳥がいるらしく、無害なのか調べてほしいとのこと。
・・・この依頼は冒険者としては受けない。だが、狩人としては見てみたいと思った。
私はそれだけを見て無言でギルドを出た。
目指すは北東の岩山、見たことのない鳥を見て、場合によっては狩る。
歩いて半日以上はかかると言われる場所ではあったが。私はある物を開発したので二時間ぐらいで到着した。
それは、バイクだ。しかもただのバイクではない。
通常、バイクの車輪はゴム製のタイヤが必要だ。でなければバランスが悪く、操作もしにくい。
しかし、私には`物質変換`のスキルがあり、しかも変換した物質は私が触れていれば操ることが出来る。
・・・・その力を利用し、鋼鉄製のバイクを作った。・・・まず、バイクは買っても仕方ないので自転車を購入。それに乗りどう動くのか、どう曲がるのかを検証し、何度も乗り感覚を身につけた。
そして、プラモデルのバイクを購入し、作りを徹底的に覚えた。後は`物質変換`で鋼鉄のバイクを作り、ローラーを操り動かした。
結果は上々、速度と曲がり方に問題なし。
これなら歩くよりも断然速く行動できる。・・・しかも、魔力の消費も少なく、二時間休みなく走らせたが、少し呼吸が乱れただけで体力は問題なし。
そんな調子で岩山に来た。
あたりは岩だらけ、設備もされていないのか荒れ放題。・・・歩くのが困難な場所であった。
しばらく歩いて見晴らしのいい場所に着いたとき、ある鳥を見た。
それは大きかった。ファルコンの三倍はあるんじゃないかという大きさ、ゲームで言う中ボスの大鳥のような姿であった。
そして、この鳥が肉食だとすぐにわかった。
なぜなら、目の前で魔物の肉を食っているのだから。・・・肉食である以上、この大きさだ、人間も食う可能性があるのなら野放しには出来ない。・・・だが、温厚なやつならば放ってもいいかもしれない。・・・そう考え、無防備で敵意も無く近付いた。
だが、大鳥は私の姿を見るや餌が来たという目を見せて、空を飛び襲ってきた。
速度は速く、躱すのが精一杯であった。
・・・結論、狩りの対象だ。
狩人としての仕事を開始した。
大鳥は、空を飛び回り、こちらを観察していた。・・対して私は、手持ちの武器を見た、刀と剣、短剣が二本、道具袋にはポーションが二本、解毒薬が二本。・・・・飛び道具が無い。
自殺しにきたのか、と思うくらいの飛び道具の無さ。
唯一遠距離攻撃があるのは魔術のみである。
しかし、相手は空高く飛び回っている。・・・下手に撃っても躱されるだけだ、魔力を温存しつつ戦うしかない。
大鳥は滑空しながらきた、全力で躱してもすぐに反撃できず空に上がるだけだ。
・・・・ならば手は一つ、すれ違いざまに抜刀する紙一重の攻防。
大鳥の攻撃を右に躱す、かなりの風圧だがそれに耐え、抜刀、大鳥の足の部分を斬った。血が噴き出したが致命傷にはならない。・・・大鳥はすぐに空に上がり、こちらを警戒した。
(まぁ、この程度で倒せるとは思えないからな、さてどう出るかな?)
そんなことを考えていると、大鳥は口を開けた。
口の周りに風が渦巻き大玉が出来た。・・・それを大鳥は私に向けて放った。
それに驚きながらも全力で回避した。
間一髪であった、球が当たった場所は小規模なクレーターが出来た。・・・中々の威力だ。
これを見た私は思った。
こいつは魔石を持っている、しかも属性付きの魔石を。
私は、こいつを何が何でも狩りたかった。・・・狩人として、好奇心旺盛な人間として。
私はある考えを思いついた。
大鳥は、こちらに近付く気は無いようだ、飛び回って様子を見ている。・・・おそらく、風の魔術を撃つタイミングを見ているのだろうと思った。
ならば、こちらの番。
私は、雷の魔術を左手に集中させた。
大鳥はそれを見て、口を開け大玉以上の大きさと渦を巻いていた。・・・力ある魔物ゆえの誇りかどうかはわからないが真っ向勝負をしようといてた。
それを見た私は、雷を囮に放ち、それを避けた大鳥の場所に右手に集中させた火を放とうとしたが。・・・・この作戦をやめ、右手の火の魔術を隠すこと無く見せた。
両者の溜めが終わった頃がゴングが鳴る時だ。
大鳥は、風のブレスを放った。
私は。
「雷火双魔掌!!」
技名を言い、放った。
激突する魔術、それを見る人と魔物、互角の力。・・・この時間が永遠に続くのかという錯覚を覚えた。
しかし、拮抗は徐々に崩れてきた。
こちらが押されてきたからだ。
私は踏ん張った。地面に足がめり込むほどに力を入れた。
このままでは負ける。・・・だが、逃げるという選択は無い。私の頭は空っぽになっていた。細かい事もこれからの事も何もかもどうでもいいかのように。
「吹き飛びやがれ!!!!」
魔力をありったけ放出し、雷と火の威力は上がり、形勢は逆転した。
雷と火は風を押し返しながら大鳥に向かった。
・・・大鳥は避けることができずに、命中した。
空は爆発した。
黒い煙の下から大鳥は落下した。
崖に落ちないギリギリの所だったが、近い場所に落ちてよかった。
私は慎重に近付き、剣を突き、生死を確認した。深々と刺してもピクリとも動かなかった。
・・・解体作業をおこなった。
大鳥の体内、心臓に近い部分を探した。そして、魔石を見つけた。・・・思った通り、色は緑色の両手で持つほどの大きさであった。
このサイズなら、加工し放題、何が作れるのか楽しみだ。・・・だが、浮かれている場合ではない。
大鳥の肉は食えるし、骨は加工できる、羽毛は燃えてしまって使えない。
狩人としてこれらを持ち帰りたいが、大きすぎる。
考えた私は、マンガにある大きな荷車を作り、乗せようと考えた。・・・魔力は半分も無いだろうと思うくらいの消耗、だが、根性で作った。
こんな所で、野宿はごめんだ。いつ魔物に襲われるかわからない。
私は。
「ファイトーー!!・・・イッパッッッッッッツ!!!」
そのかけ声とともに行動した。
・・・バイクを荷車に作り変え、大鳥を乗せ、私は前の牽引する席に着いた。
本来ならその先に馬を繋げて牽引させるのだが、馬はいないので、荷車を操ることにした。
はじめは、時速十キロで走行し、休憩を入れながら町まで戻ることにした。・・・到着するのは夕方ぐらいだろうから少し早めの気持ちで動かした。
私は、その時、ミスを犯した。
大鳥を見つけたとき、`探知`を使うべきだったと。・・・ここに人はいないと勝手に思い込んでいた。
・・・戦いを一部始終、見ていた存在がいたことを、私は知らなかった。
岩陰に隠れていた男は、私が去った後、姿を現した。
「へぇ~~、強いじゃないか、・・・あんな冒険者がいたとは知らなかったな、・・久しぶりに町に戻ってみるか。」
身の丈ほどの大斧を背中に背負った男は、忍び笑いをしていた。