第6話 ギルド長と初仕事。
ギルド長は、師匠の親友だった。
少し驚いたが、師匠はあまり自分のことを言う人では無かった。・・・親友の一人二人いたとしても不思議ではない。
ギルド長は。
「まさか、本当に弟子がいたとはなぁ。・・・あの頑固者をよく説得できたものだな。」
と何やら感心したような言い方であった。それの言葉に私は。
「・・・まぁ、あの時はオオカミに襲われているところを偶然見つけて、助けた恩返しに修行をつけてくれたのです。」
私の言葉に、ギルド長は。
「・・・知っている。あいつが不覚を取るなど滅多に無かったことだ。・・・最初それを聞いたときは、飲んでいた酒を吹いてしまったわ。」
がはは、と笑いながら話すギルド長。
「だが、お前さんに聞きたいことがあるのだが、・・・・・あいつ、ドルネットは死んだか?」
真剣な顔つきになったギルド長。
私は、少し下向きな顔で。
「・・・・はい、昨日、突然倒れて、そのまま眠りました。・・・その時、師匠は、町に行っていいぞ言ってもらえましたので、私は、初めてここに来ました。」
最初は、所々言葉を詰まらせたが。最後の言葉は己の自信と覚悟を込めていった。
その言葉にギルド長は。
「・・・やはりな、あいつは言っていた。・・・もし、弟子がギルドにきたならばわしは死んどるだろうと言っていたからな。・・・・縁起でも無いこと言いよって、まぁ、あいつがそんなふざけたことを言うやつじゃ無いことはよく知っている。」
少し沈んだ声で言ったギルド長。
私はある疑問があったので聞いてみた。
「・・・ギルド長は、師匠と親友だと言っていましたが。冒険者時代は、一緒にパーティーを組んでいたのですか?」
この質問に、ギルド長は。
「・・・いや、あいつは最後までソロとして活動していた。わしは、パーティーを結成しようとしたとき誘ったが断っての。・・まぁ、他の仲間はあいつのことを悪く思っていなかったから、酒飲み仲間としてよく愚痴を言いあっていた。」
「・・・・・さて、昔話はこれくらいにするか、これ以上は長い話になる。さて、ドルネットは、基本的なことを教えてもらっているだろうから。・・・この町に来て何か思うことがあるのなら聞いてやる。言ってみろ。」
と言うギルド長の言葉に、私は。
「・・このギルドで、ランクの高い人たちはどういう人たちですか?なんて言うか、知らずに行動して相手を怒らすのはまずいと思いまして、さっきの三人組は弱いですけど、高ランクの人たちは違うと思いますから。」
師匠からは、世間一般的なことしか教えてもらったが、有名な人たちの情報とかは教えてもらっていない。
この質問にギルド長は。
「・・・高ランクか、うちのギルドで有名な冒険者は二人と言ったところか。・・・一人目は、『麗剣』という女性だけの冒険者チームを率いるリーダー、ティナだ、Aランクの実力者だ。」
「・・・あの子は滅多なことでは人に絡むような子ではない。むしろ、冒険者たちの模範ともいうべき姿勢と行動をしている。・・まぁ、今は別の町である長期仕事に就いているからまだ帰ってはいない。」
女性だけの冒険者チームか。
さすが異世界、実力があれば女性でも上に立つことができる。ある意味では私にとっては自由な世界だ。・・・その人たちにはあまり興味は無いがな。
ギルド長は続けた。
「・・・二人目は、ソロで活動しているやつでバードスという者だが、戦うことが大好きな戦闘狂で今もそれなりに強い魔物の所に行って戦っている。・・・人に絡むことは滅多にない。強いやつ以外に興味が無いからな。・・・ランクはB、その性格と持っている武器が斧からついたあだ名が、『狂斧のバードス』という異名だ。・・・・本人はこの異名を気に入っている。・・・他に質問は?」
私は。
「・・・その人たちは、ランクでは、上か中くらいの人たちですか?」
この言葉に、きょとんしたギルド長。
「??・・・なんだその上とか中とか、そんなもの知らんぞ。」
え?、と思ったが、ギルド長は何かを思い出したのか。
席を立ち本棚にある一冊の本を手にし、読んでいた。
読みながらギルド長は。
「・・・・ああ、確かにそんな制度はあったな、しかし、冒険者の数が多くなりややこしくなるからとして廃止になっている。・・・・しかし、よくこんなことを知っているなお主は、この制度が廃止になったのは、百三十年前の出来事だぞ?」
・・・百三十年!? あの本は、そんなに古い物なのか!? と心の中で驚いた。
顔に出さないようにポーカーフェイスを決め込みながら、私は。
「・・・俺の住んでいる村に、物知りなじいさんがいてその人から聞いたんです。まさか、そんな古い知識だとは知りませんでした。・・・・早くに確認できてよかったです。」
かなりの大嘘をついたが、これは仕方ない。
と思いつつ私はある事件のことを聞いた。
「そういえば、師匠から百年前におきたという大虐殺事件があると聞きましたが。」
この質問に、ギルド長は。
「・・・ああ、確かにあったなそんな事件。・・・じゃが、大虐殺と大仰に言っとるが村が無くなる事件はよくある。・・・魔物の群れに襲われたり、盗賊連中に殺されたりと色々とな、それにあの事件がおきたことで素材や物品の管理がギルドでできたことの方が大きかった。」
「・・・記録では、店に出す品物や素材が悪く、中には疫害をもたらす物さえ売っていたと記されている。その為、国やギルドが厳しく取り締まろうと動いた。・・しかし、実害も無く被害に遭った人も少数であり、何よりも商人たちが積極的では無かった。」
「・・・なぜなら、それらの物は高額で売れるからな誰もやめたりはしなかった。・・法律を改正しようにも死者が多くないのにそんなことをする必要は無いと言うバカな貴族連中がいたという。・・・しかし、この事件が起き、多くの死者がでた為、貴族連中は沈黙し、・・法律が改正されたという。」
「・・一部の者達は、これは天罰だ。と言う者もいたそうだ。・・一応、法律が改正される事件として大虐殺事件ということで仰々しく記したそうだ。・・まぁ、今では気にする者もほとんどいなくなったからそんな話をしても、知らんと言われるだけだ。・・・他には?」
最大の懸念が消えた。
黒髪であることも、その同類であることも気にする必要が無いことがわかった。 ・・しかし、万が一、その村の子孫の者達と出会って、殺し合いになる可能性がある内には下手なことはしゃべることはできない。
だが、異世界のことを話しても笑われるだけだろうから誰にも話すことはない。
私は。
「いいえ、もうありません。長い説明ありがとうございました。」
そう一礼した。ギルド長は、
「ほぅ、中々の言葉遣いと動作だな、ドルネットの言っていたとおり礼儀の心得は持っているようだな。・・・よし、これで説明は終わりだ。冒険者の仕事をしていく中で何か疑問に思ったことがあるのなら受付で聞くといい。・・・では、これにて終わりだ。」
ギルド長が、締めくくりの言葉を言った。私は席を立ち扉の前に行くとギルド長に振り向き一礼して部屋を出た。
私は、受付場に戻り先ほど行こうとしたい依頼ボードの前にいる。周りの人の数は少なくこちらに話しかけることもないのでじっくりと見た。
内容は、魔物の討伐と素材集め、薬草集めと新種があれば提出。・・・その他個人での依頼で商品の護衛や店の見張り、中には魔術で作った試作品のテスト募集など本当に色々あるなと思った。
最初は、個人依頼は受けない。・・・これは信用と実績が無ければ受けれないしあるいは、受けたとしても無関係なことをされる可能性もある。
こういう場合は、ギルドが常時受け付けている依頼を多くこなすことがベスト。・・・しかし、魔物の討伐と素材集めはしない。
なぜなら、私は狩人だ。
狩人としての仕事を冒険者の仕事として受けるなどしたくはない。本当に私は頑固な人間だとつくづく思う。冒険者ランクにも興味は無い。・・・私がこの世界で生き、仕事をするのにランクの称号はどうでもいい、自由に生きたいのだ私は。
・・・以上のことを考えて、私が受ける最初の仕事は薬草の素材集めだ。
ボードの説明文に依頼の紙を受付場に持ってくることと記載していたので、私はその紙を手に受付場に向かった。
受付嬢は。
「・・・はい、素材集めの依頼ですね。初心者ですからこれから受けるのは正しい方ですね、では、薬草をできる限り集めてください。・・・集めた物はギルドの裏にある受け取り場に持ってきてください。・・・あと、途中で素材になる魔物を狩ったとしても違反にはなりません。その分入るお金が増えると考えてください。」
受付嬢からの説明を聞き終え、私はギルドを出た。
ポケットの所持金を見た。・・・銅貨十枚、小銀貨三枚、・・薬草を入れるための袋を買う金額としてはギリギリと言ったところか。・・・道具屋の看板を見て中に入り手頃な袋を発見、小銀貨一枚を支払い店を出た。
案外スムーズに行くものだなと思ったがすぐに考えを変えた。・・・何を期待しているのだ私は、マンガやアニメにあるような出会いやハプニングでも期待していたのか。
ハプニングはあった方がいい、だが今は仕事に集中だ。
町から出て、南西に向かった、家があるのは南東だから逆方向の森に向かった。
森の中に入り薬草の採取を開始した。
師匠から傷薬や解毒になる草さらには塗り薬になる草を教えてもらった。・・・ある程度集めた頃、人の視線を感じた。
私は小声で探知を発動した。範囲内に赤い球が七つ一カ所に集まっている。敵意を持っているのは確実だ。・・・・あとは、どう相手連中が行動するのか?・・家に帰っては駄目だ。場所を知られるわけにはいかない。
相手が出ないのならこっちから呼ぶまで。そう考えた私は。
「隠れてないで、出てきたらどうだ?バレバレなんだよ。」
挑発的な言葉に対し、七つの内三つがやってきた。
それらは、ギルドで絡んできた三人組だ。
「・・・よぅ、ギルドでは世話になったな、テメェから受けた痛み倍返しにきたぜ。」
いかにも、お礼参りにきたチンピラの台詞を言ってきた。
私は、呆れながら。
「・・・ギルド内でのケンカは、お前らが勝手に絡んできただろうが、そのくせ俺にあっさり負けるし。・・・やってきたギルド長に泣きながら処罰してくださいとお願いするも断られて逃げ出すし、どう考えてもお前らが悪いだろうが。」
そういった私に対し、チンピラは。
「うるせぇ!ギルドのことなど知るか!!あと泣いてねぇしふざけたこと言うなぁ!・・・まぁいい、ここには止めるやつもいねぇし、お前が死んだところで魔物のせいにできるしやりたい放題だぜ、へへへ。」
本当に三下のチンピラだなと思った。
だが、今の言葉に少し不可解なものを感じた。
「・・・ん?、魔物のせいというのはわかるが、どうして盗賊のせいにもなると言わないのだ?・・・まさか、お前らがその盗賊ってことでいいんだなぁ?」
カマをかけた言い方をした私にチンピラは。
「なぁ!?どうしてそのことを!?」
駆け引きという言葉がないのか、こんな幼稚な言葉遊びに引っかかるとは日本のサラリーマンの方がまだ手強かった。
しかし、盗賊とは、・・ギルドでは冒険者としての仕事をしているならば他は何をやってもいいとは言っていたが、隠してたことを考えると言いにくいことをたくさんしているだろう。
・・・と考えている私にチンピラは。
「まぁ、知ったとこでどのみちテメェがここで死ぬことに変わりは無いがな。・・・ボス!出番ですぜぇ。!」
チンピラの大声に、残りの四つが動き出した。
それぞれ剣や槍を装備している。・・・・そして、ひとりだけ大剣を背負った男がいる。
大剣の男の前でチンピラは。
「ボス、こいつが例の生意気な新人です。・・・俺らのことも知られたようで、是非ボスの手でこいつに絶望を与えてください。」
そう一礼したチンピラを無視したような態度を取って私に視線を向けたボスは。
「おまえか、話に聞いていた変な技を使う新人ってのは。・・・子分が世話になったお礼はたっぷりとしてやるぜ。」
にやけ顔をしてボスは言った。