第3話 おどろきと別れ。
あれから、二年の時のが流れた。
甲川新介、二十五歳。
狩人であるドルネットさんの元で修行し、いくつか変わった部分がある。
・・・まず、体つきで少し出ていた腹がへこみ、それどころか腹筋が少し割れかけていること、腕の力こぶも以前よりも大きくなり、足に至ってはふともものやわからい部分がかなり減るほどまでに鍛えられていた。狩りの仕方を実際にするぞという教えから、毎日オオカミと戦った。
・・・日に三回、多ければ七回も戦った。
時折、スライムがやってきたことがあった。初めて見たときは楽勝な相手だと思い軽い気持ちで戦った。だが、オオカミよりもタチが悪かった。・・・刀で攻撃してもブヨブヨとした弾力で手応えなく、スライムの攻撃である体当たりは岩が腹に思いっきり当たった感覚でやばかった。
師匠は。
「スライムには、刺突攻撃それも勢いをつけなければ倒せない。槍があるからこれでやれ。」
そう言われ槍を手に戦い、思いっきり突き刺した。
・・・すると、体から水が出てそのまま風船から空気が抜けるかの如く、縮んでいき、最後には水だけになってしまった。
師匠曰く。
「スライムは、倒しても素材がないから狩人にとっては出くわしたくない魔物だ。まぁ、大きさによっては魔石を持つやつがいるが、これは小さいやつだな。」
どこかがっかりな言葉で言っていた。
空を飛ぶやつとの戦い方である弓の扱いも実際やるぞということから、何発も撃ち続けた。
・・射撃は苦手だと言ったのだが師匠が。
「そんな甘いことで、狩人や冒険者がやれるか! つべこべ言わずにやれ!!」
ごもとっもな意見だったので、真剣を通り越して死ぬ気で撃ち続けた。
私の帰る家、いや小屋か。どっちにしろ帰る場所を自分で作れと言うことで作った。材料は、師匠の小屋を作る際、余った木材を使い、幅七m・長さ七m・高さ七m、寝ることしか活用できない小屋が完成した。
・・屋根の部分は、三角ではなく板をそのまま張り付けたもの。見た目的には正四角形に近いもになった。
だが、私は、ここでは寝ずに魔方陣を書いた。
・・・さすがに、寝るなら普通の家がよかったので地球に帰ることにした。幸い、修行や食事以外でともに行動することがないので、バレることはなかった。
魔方陣が完成し、くぼみに血を垂らした。後は、中央に立つだけでだった。
その瞬間、目の前の光景が変わった。
気づいたときは、倉の前に立っており、外は真っ暗だった。
冷静に考えれば突然の出来事だった。魔力を使うわけでもなく、ただ立つだけで行き来ができるとは。
・・・ちなみに、魔方陣から出てもう一度中心に立つと、再び、小屋の中に戻ってきた。
往復に問題はなく、再度地球に戻ることにした。実家に入り、時計を確認したが、夜の十時。あちらの世界でもだいたい同じような暗さだったので、タイムラグはなしと考えていいだろうと思った。
念のため、向こうに行く際は、朝の五時で、時計を持って行くことにした。
異世界ミルムガルドに戻り、修行の日々の中。
師匠が今まで獲った獲物や、薬草のなどを町の冒険者ギルドに売りに行っている。・・・町で獲物と薬草の類いを他の店が売るためには、まず、冒険者ギルドに行き、鑑定をする。
・・・毒のある獲物や薬草がないのかをチェックをし、その種類に定められた金額の合計を支払うことが国からの決まりごとになっていた。これを破り勝手に売ったりすると。
厳罰となり最悪、死刑になるという。
なぜかというと、百年前。
とある村で、疫病が蔓延し、村人が苦しんでいたところ。病気に効く薬草を持ってきたという商人が現れた。・・・村人達がその薬草を煎じて飲んだ時、状況はさらに悪化した。実はその草は毒のある薬草であったからだ。
その結果、村人の人口約九十%の人が死んだという。
・・・その人間は姿を消し、消息は不明であるという歴史に名を残す大虐殺事件となったという。
そのため、冒険者と狩人はもちろん、外からやってきた行商人でさえ、物を売る際はギルドに通してからというのが決まりました。
私も師匠について行こうとしたが。
「お前が、町に行くだの何を言っている。ヒッヨコが行っていいほど町はあまくはない。ましてや、ギルドに行くのだの。・・・どれだけ舐めとるのだお前は行くのなら、わしが行ってこいという実力を手にしてからにしろ。」
ずいぶんと厳しい町だなぁとこの時、思った。
師匠と食事したとき思ったことがひとつだけ、味が濃すぎる。・・・獲物の骨をそのまま鍋に入れて煮込む。
その時に調味料は使わない。・・・それがスープとなる。
肉は、黒焦げになる寸前まで焼き、焦げた部分といっしょに食べる。野菜は採ってきた薬草で生のまま食べる。薬草の中には、レタスによく似た大きさの物があり。
それがあった場合は、包んで食べていた。だが、それでも濃すぎる。・・・日本人である私は、こんな濃い味は慣れない。
さっぱりとした味が好みである。
・・・しかし、下手に地球の調味料を持ってきたら、怪しまれるので持ってこない。幸いと言うべきか、食事は、日に二回、朝と夜のみ。・・・昼は無く、食事の量も一人二皿までであり、スープの皿と肉と薬草の乗った皿だけである。
こんな量では満腹にはならず、実家に帰ったとき。
さっぱりとした味である味噌汁や米、店で買ったお惣菜を主に漬物を買って食べていた。
所持金はそんなに多くなく、月に使うお金は家の維持費が約七十%・・電気と水道とガスの含まれる。
残りは食費であり、大量には買えない。
お金の問題も出てきた。
向こうの世界のお金について師匠に聞いてみた。すると、袋から、銅貨十枚・・・小銀貨五枚・・銀貨五枚を机に置いた。
「これが金だ。種類は、全部で五つ。金貨、小金貨、銀貨、小銀貨、銅貨がある。オオカミやファルコンはよくいる獲物だから、それぞれ銅貨三枚と言ったところだ。・・・獲物の大きさや種類によっては、小銀貨が出されることがある。しかし、金もことまで知らんとはどんな田舎から来たんだお前は。」
この言葉に`しまった`と思った。
だが、一度言った言葉を無かったことにはならない。
どうするか考えていたら、師匠が。
「まぁいい、お前がどこから来たのかなど、どうでもいいこと。・・・この際だ、聞きたいことがあるのなら聞いてやる。知らんことは、答えられんぞ。」
少しほっとしたが、なんか私のことなどどうでもいいような言い方だが、怒ることはなかった。
こんなのパワハラに比べたら、微々たるものだ。
聞いてやるという言葉に甘え、スキルについて聞いてみた。
師匠は。
「スキルか、あれはすぐに習得できる物ではないな。瞑想でこのスキルが欲しいと思い続けなければならない、その時間は、個人差もあるが、一ヶ月あるいは、十年はかかる。しかも、そんなに時間をかけても習得できるのは、一つで、ごく希に二つは習得できる。」
「・・・そんのもの習得するくらいなら、魔術を習得するのが早い。魔術は、魔道書を読んでその内容を理解できたとき、習得できる。属性も五つ 火、水、土、風、雷がある。属性も理解できた魔道書によって違うようだ。因みに、わしは、そんな物に興味は無かったから、読んどらん。」
「・・・後は、習得できる数も、理解した分だけ習得できる。三つか五つも習得するやつもいれば、一つを極めようとするやつもいる。」
魔術は、本を読むだけで習得できるとは、ずいぶん簡単だなと思ったが。
魔道書一冊は高く、小金貨一枚は一番安いそうだ。
師匠が冒険者として引退まで続けられたのは、武器や防具を自分で作り続けたら、生き残ることができたと苦笑していた。
鍛冶としての経験があると知ったときは、この人と出会ったのは運命だったのかもしれないと思った。
私は、師匠に鍛冶としての修行もお願いしてみた。
すると師匠は。
「そう言うだろうと思ったわ。明日から、教えてやる。お前の持っている武器も柄の部分が鉄でできた棒のような物で持ちにくだろう。・・・木で柄や鞘の作り方を教えてやるよ。」
師匠は本当にすごい人だ。
・・・こっちが言おうとしていることが分かっているかのような言葉や行動をしていて、これが元冒険者としての経験なのかと思った。
鍛冶としての修行は、思った以上に神経を使った。
鉄の打ち方はもちろん、木で作る鞘と柄は少しのミスも許されないほどの繊細さを要求された。その結果、打ち続けて十回めにして刃渡り六十㎝のまともな剣ができあがった。
・・初めて自分で作ったときすごく感動したのを覚えている。
スキルで作るより手間がかかるが、そのぶん作ったときの気持ちは言葉言い表せることができないくらい物だった。・・・柄の部分も手になじむような物であり、それを二つ作った。
一つは剣に、もう一つは刀にそれぞれつけた色は、白だが若干黒がついている一般的な物だった。鞘も柄に合わせたような色で作った。
こうした日々が二年も続いた。
できればこのまま、一人前になった後でも師匠の元で暮らそうと思っていたが。・・・別れは突然やってきた。
師匠の家の中で夕食を終えた直後、倒れた。・・・私はすぐに寝床まで師匠を運んだ。
最初は毒草を食べたのかと思ったが、それならば、同じ物を食った私にも影響があるはずだがなんともなかった。
師匠は咳をしながら話をした。
「心配するな。寿命が尽きただけだ。・・・元々、お前と出会う前から体が弱っていたからな。あの時、強がったが本当は咳がひどく出てまともに動くができなかったのだ。」
修行の中でも、師匠は咳をしなかったのは私が離れた後、気づかれないように咳をしていたとのこと。
私は。
「なぜ、そんな体で私に修行をつけてくれたのです?!」
師匠は苦しそうな顔で。
「・・助けてくれた恩のためだ。と言うのが最初だったが、お前と暮らすうちに面白いやつを弟子にしたの思っての。そんなやつに、わしの体のことを言えば余計な心配をするだろうと思っての。わしは、そういう気遣いが大嫌いなのじゃ。」
その言葉で、師匠は師匠だったなと思った。
人に心配されるくらいなら、言わない方がいいと考えたのだろう。
そんなこと思いつつ、師匠は。
「そんなことよりも、お前に言っておきたことがある。」
何だろうと思いつつ、黙って聞いた。
「シンスケ、お前、異世界から来た人間だろう。」
その言葉に頭の中真っ白になった。
なぜ?どうして?どうやって?・・・そんな言葉が頭の中でぐるぐる回った。
師匠は。
「知るきかっけはお前の髪の色だ。この世界に黒色はいない。その髪の色は、異世界固有の物だろう。百年前の大虐殺事件は教えたろう?」
私は、首を縦に振った。
師匠は。
「その歴史が詳しく書かれていた本があっての。毒草を持ち込んだ人間の髪の色も黒色だと書かれていた。しかし、当時そんな髪の色などいないことから見間違いだろうということで、それ以外の本からその部分が消された。・・・だが、五十年前、わしは、黒色の髪をした人間をこの森で見たことがある。」
師匠は続けた。
「・・・当時、わしは現役の冒険者で、この森に鍛冶場を作っていた。作った物を人に自慢げに見せるつもりが無く。`何か作れ`と言われるのも嫌いだったため、ここで人知れず作っていた。・・・そんなとき、森から現れたのが黒色の髪をした人だった。わしは何者かと尋ねたとき、そいつは日本から来た者だと言った。」
「・・・聞いたこと無い国だったから疑ったが。そいつが持っていた本をわしに見せ`この本の通りにやってきた`と言った。文字は読めなかったが、そいつが本の内容をすべて言ったとき、半信半疑だった。・・・だが、そいつがスキルを使ったことから、信じる気持ちが大きくなった。何しろ、スキルの習得は難しいことは前に教えたろう。それを四つ使ったのだからな。」
`四つ`の言葉に驚いたが、それ以上に私以外にもここに来ていたとは。
・・・しかし、考えてみれば当たり前だ。何しろ本の内容がここに来てから全て当たっている。前に来た人間がいたとしても不思議では無い。
師匠は続けた。
「わしは、そやつからいろいろ聞いた日本のこと、異世界のこと、驚くことばかりだった。しかし、それと同時にあの大虐殺事件を起こしたやつも黒髪だったことを思い出し、わしはそいつに聞いてみた。・・・すると、そやつは、そんな事件は知らない。と必死になって否定した。分かっておった。五十年前だからの生きていてもよぼよぼのじいさんで`若いおぬしでは無いわ`と笑った。」
「・・・そやつは、ほっとしたが。わしは町に行くのを勧めなかった。当時は、黒髪のことは町の人間は半分しか信じておらず、もしおぬしが行けば黒髪がいたとして殺されるだろうと言った。」
「・・・そやつは顔を青くしたが`なぜそのことを教えてくれたのですか?`と言ってきたので`それを起こしたのはおぬしでは無かろう。`とわしは答えた。」
本当にこの人はいい人だと思った。
その人といい私もこの世界に来て出会った人がよかったと感謝した。
師匠は。
「そやつは、わしと一緒にすぐに元にいた場所に戻り、そこから元の世界に帰っていた。名前は聞いておらんが、どことなくシンスケに似たような雰囲気ではあったがな。」
少し考えた。
私と似ている。五十年前。・・じいちゃんかもしれない。
・・それならば、年月はもちろん倉の二階には行くなと言った言葉にも理解できた。
私は師匠に。
「どうしてそこまで知っていて、俺を弟子にしてくれたのですか?いくら恩人とはいえ、ここまで教えてくれなんて。」
その言葉に、師匠は`ふっ`と少し笑って。
「言ったろう。お前が面白いからだ。・・・それと暮らしていくうちに楽しいと思った。わしの知る限りのことをお前は何の疑いもなく、素直に聞き、それらを実戦して見せた。・・・うれしかった。人に物を教えるのがこんなに楽しいことだと知ったからな。お前には感謝してる。ありがとう。」
その時、私は頬に何か流れるものを感じた。
それが涙だと知ったのは、触れたときだった。・・・なぜ、唐突に流れたのかは分からない。だけど、涙を流すことには何の疑問を抱かなかった。
それを見た師匠は、
「何、流しとるのだ。男がこの程度で涙を流すな。流すのは、信頼した相手の死を知った時、流せ。」
少し厳しめに言われた。私は腕で涙を拭き、再度師匠を見た。
「・・・いいかシンスケ、わしに教えられることは全部教えた。一人前とは言えんが、冒険者としてはいい線で活動できるだろう。・・・餞別に、その棚の下にあるものをお前にやる。見てみろ。」
私は、席を立ち棚のいちばん下にあるものを見た。
中には、鉄の籠手と具足、それと銀の色をした水が入った小瓶が一つ。
籠手の長さは、前腕までの長さ、色は少し黒いが全体は銀白色、装飾や文字は刻まれていない。具足の長さは、足首から三里まであり、色も同じく少し黒がかった銀白色、同じく装飾や文字は刻まれていない
シンプルな作りであった。
師匠は。
「お前のサイズに合わせて作った。わしの最後の作品だ。みずぼらしいが、今わしが手に入る中でもいいものを使った。」
私は、この二つの品を見てどんなものよりも美しく見えた。
黙って見ていた私に師匠は。
「それと、その小瓶の中にあるものは、髪の色を変える魔法薬が入っている。・・・この国の人間は、銀色が多いからな。・・・使うときは、中身を全部髪にかければ、すべての髪が自動的に銀色になる。」
「・・・水の魔術が得意な魔術師が作ったもので、様々な髪の色を変えて遊ぶための代物だ。一度つけると元の色には二度と戻らないため、それは元に戻すためようの代物だ。・・・黒色のものは無い。つけるときは、覚悟してつけろ。銀色の髪なら、町に行っても怪しまれることは無い。」
その言葉に、私は。
「これが手に入るまで、俺が町に行くのを止めていたのですね。黒色だったから。・・・俺を守るためにあんな厳しい言葉で。」
目の奥が熱く感じたが、それを我慢した。・・・また、小言を言われるから。
師匠は。
「まぁ、そんなとこだ。これでわしがお前に伝えることは全部伝えた。その籠手と具足を付けてわしに見せてくれ。」
私は、すぐに籠手と具足を付けた。
ピッタリとした長さ、幅、どれをとっても完璧な代物であった。
それを見た師匠は。
「よく似合う。それならば、狩人としても冒険者としても笑われることは無いだろう。・・・ふぅ~~少し疲れた。わしは寝るが最後に言っておく。」
私は、耳を澄ませた。
「行ってこい。その目で世界を見ろ。・・・そして、狩人としても冒険者としても、悔いの無い人生を送れ。」
それは以前、町に行きたいと言ったとき、師匠が言った。
・・町に行っていいぞという許可の言葉であった。
師匠は、そのまま目を閉じた。
息をする声が全くしなかった。
「師匠?・・・師匠!!・・聞こえないのですか!!!」
私は泣いた。
・・・思いっきり泣いた。
・・枯れるのがどうでもいいくらいに泣いた。
朝になった。
私は、師匠の墓を作った。
師匠の家の裏、鍛冶場の近くに作った。
師匠は物作りが好きだったから、ここがいいだろうと勝手に思って作った。
私は、墓の前で一礼をした。
「師匠、今までありがとうございました。俺、頑張ります。最初に言った強い男になります。体だけでなく、心も強い男に。」
そしては、私は、剣と刀、籠手と具足、そして小瓶を使って髪の色を変え、町に向けて歩きだした。
改めてみて、変だと思い、書き直しました。ありがとうございます。
後、疫病の部分が抜けている事に今気付きました。
すみません。