第19話 会話と疑問。
私の後をつけてきたのは、『麗剣』であった。
一体何のようだろうと考えたが、魔物の騒乱の時、オークキングを横取りしたこと以外考えられない。
あの件は、ギルド長に提案し、了承を得て、彼女たちの手柄で落ち着いたはずだが。・・・まさか、バードスと同類で戦うのが好きとか、模範的な冒険者だと聞いていたが、噂は当てにならない部分があるから嘘が半分以上混ざってることがあるからな。
実際、この件で嘘をついているし、そんなことを考えながら向こうを見ると、全員、殺気だってはいなかった、何か言いたそうな雰囲気。・・特に前にいる赤い髪の女は、すごい目つきで睨んでくる。
あの時、怒鳴ったことがそんなに気に障ったのか?
しばらくすると、金髪の女が話し出した。
「私は、『麗剣』の一人、レオナと申します。・・まず、あなたを尾行したことを謝罪します。不愉快になるのは当然です。」
そう言いながら、頭を下げるレオナ。
高ランクの冒険者が、己の非を認める。
中々できるものではない、地球では非を認めず、頭を下げるどころか、開き直る年上が星の数ほど存在する、見習ってほしいものだ。
そう考えながら私は。
「いえ、殺気とかがなかったので、何かお話があるなぁと感じましたから、それで、私に何か用事ですか?」
一応、敬語を使ったが、相手に通じただろうかと思いながら、レオナは。
「はい、あなたに話というか、聞きたいことがあります。・・・なぜ、オークキングの件をあんな形にしたのですか?」
その疑問は当然である。
これだけの手柄を他人に譲る、金や地位を目的に生きる人間にとっては勿体ないことだ。その質問に私は。
「ギルド長に伝えたことが全部です。あれ以外に思いつくことはなかった。・・・それだけです。」
この答えに、レオナは。
「・・失礼しました。私たちが聞きたいのはそういうことではありません。なぜ、あなたはこの考えに至り、実行したのか、どうしてそこまで、他人のことを考えるのか。・・・それが聞きたいのです。」
この質問の意図になんとなく気づいた。
人は、どんな地位を持とうと、どんなに金を持とうと、それを赤の他人の為に惜しげなく使う人間は圧倒的に少ない。自分、又は親族以外の人は無視するのが基本であり、現代人の常識になっていた。
悲しいことだが、そんな風になるほど世の中は腐ったということだ。そんな思いを一旦考えるのをやめ、私は。
「俺は、この辺りに来たのがつい最近ではありません。二年前に、この近くの森の中を彷徨っているところにオオカミに襲われている老人と出会い、助けました。」
「・・・その人は狩人で経験豊富な人だとすぐに分かり、まだ、未熟な頃の俺はその人に弟子入りをしたのです。修行は厳しいものでしたが、師匠が俺を強くしようとしてくれたのは確かだった。・・・その師匠も1週間くらい前に病気で亡くなりました。」
「俺は、師匠の墓前に誓ったのです。強い男になると、体も心も強い男に。体は鍛えれば強くなりますが、心の方はどう強くすればいいのか分からない。だから、よほど自分が切羽詰まってること以外では他人の為に何かできないと、・・・それが俺の考える心を強くするものだと思っています。」
私は考える限りの答えを言った。
師匠の墓前に言った言葉。これに嘘はない、だが、どう強くなればいいか分からないからこそ、思いつくかぎりの行動をしようと決心したのだ。
・・・四人を見ると、魔術師とくノ一は目を丸くし、レオナは少し震えだした。そして、赤い髪の女は顔を伏せ、私を見ないようにしている。
しばらくして、レオナは。
「素晴らしい考えです。そんなことを聞いたのは初めてで、どう反応すればいいかわかりませんでしたが、あなたは騎士のような考えを持っているのですね。・・・このレオナ、感服いたしました。」
そう言って再び頭を少し下げたレオナ。そして、
「今回の件、ギルドからの報酬はもらいましたが。あなたに助けてもらった恩があります。私たちにできることがあれば、何でもおっしゃってください。」
その言葉に、ピクッ、と反応する赤い髪の女。
それを見て、考えた私は。
「それでは、レオナさんの鎧をじっくりと拝見してもいいでしょうか?・・・俺は、鍛冶をしていまして、武器や防具を作っているのですが、貴女の鎧は実に美しく、素晴らしい物です。・・・是非、参考に見せてもらってもいいですか?」
この言葉に、顔を上げ、驚愕した赤い髪の女。
そして、このお願いを聞いたレオナは。
「えっ? 私の鎧をですか?・・・まぁ、鍛冶をしているのなら分かりますが、リーダーのティナが着ている鎧は、どうですか?」
そう言って、ティナの方に顔を向けるレオナ。私は。
「まぁ、ティナさんの鎧も素晴らしいのですが、その方は、どうも俺のことを気に入らないようです。・・例え、恩返しでも嫌がる人に無理矢理なことはしません。こっちも気分が悪くなる。」
この言葉を聞いたティナは。何か言いたそうに口をパクパクしたが、なにも聞こえない。
それを見て、呆れ顔をしたレオナは。
「それは大丈夫です。ティナは、あなたを嫌がってはいません。・・それは保証します。いつ頃がよろしいでしょうか?」
それを聞いた私は。
「はぁ、では、お互いに時間が空いた時、ギルドでは目立ちますから、連絡は受付嬢を介して取り合う形で。」
冒険者の連絡は、色々ある。
手紙だったり、ボードに記載するとか。受付嬢を介して連絡するのは、長いこと仕事を休む時に使われることが多い。それを聞いたレオナは、`分かりました。それでは。`と短編的に言って、四人ともこの場を離れた。
一段落ついた。高ランクの冒険者との会話はきつい、少しでも機嫌を損ねれば斬りかかるんじゃないかと肝を冷やした。
だが、規則正しいパーティーだというのは本当のようだ。
しかし、彼女たちとの会話で、師匠のことを話した時、ふとある疑問があったことを思い出した。師匠が亡くなった夜、話してくれた100年前の事件と黒髪について。
当初は、私を守るためと思っていたが、この町に来て、酒場や道具屋等での会話で、大虐殺事件のことは全くと言っていいほど無関心であった。
日常的な会話の中で、この町の歴史について聞いてみた。
無知すぎるといざというとき困るからだ。
そして、その内容は、平凡なもので、創立者が英雄の仲間とか、魔物が恐れる鉄壁の都市と呼ばれる功績を挙げた冒険者とか、そういう町のいい話ばかりだった。道具屋で、大虐殺事件について聞いてみた。
あの事件は毒草が原因だから道具屋は知っていると思ったが、`そんな事件あったか?`という程度のものであった。道具屋が知らなければ他も知らないだろうし、下手に聞いて回ると怪しまれる恐れもあった。
だが、事件に深く関わる商売をしている人でさえ知らない事件。
どうして師匠はそんな話を私にしたのか?
そんな疑問を考えたが、あの時は、これからの生活で知っておくことを一つでも多く知ろうとしていたから棚上げにしたが、今思えば、おかしいと感じた。もし、師匠が死に際に話すとしたら今の現状を言うはず、なのに、100年前の事件という誰も気にしない話をするのは変だ。
考える内に、あることを思った。
もしかしたら、師匠は私に何かを伝えようとしていた。
だが、それを直接言うことができず、あえて遠回しな言い方をしたのなら、策略的なアニメではそういう場面はある。・・しかし、あの師匠がそんな回りくどいことをするなんて、もしかしたら、何か陰謀が、ギルド長、いや、この町の領主に深く関わる何か。それならば、間接的な言い方にも納得いく、もし、直接言っていれば、私が警戒して、気づかれると考えたのだろう。
疑り深い性格な私、そう考えた師匠が本当の意図に気づいてくれるようにしたのなら、そう結論付いた私は、一旦考えるのをやめた。
なぜなら、もし、この結論が正しければ、組織どころか町を敵に回す可能性があるからだ。
今の私を町の一員として認めてくれている、その間は、おとなしく狩人兼冒険者として活動し、動きを見せようならその時に行動すればいい。・・・かなり遅く、悪い手だが、証拠も何も無いただの憶測ではこれが限界だ。
むしろ、そうならないことが一番いいのだが、希望的すぎるか、そう思いながら私は帰宅することにした。
一方、分かれた『麗剣』は。
彼女たちが住んでいる家に帰宅した後、レオナは。
「・・・・ティナ、なぜなにも言わないのです。あの人は、あなたの運命の人なのでしょう? なのに私ばかり話させて、貴女は何も言わないのはどういことですか?」
この話をしたレオナ。
ティナは、シンスケを尾行する前に三人に、運命の人に会えたので仲良くなるように協力してください。と言ってきた。最初は、`えっ?`と思った三人だがティナが本気の目をしていたので、一応協力することにした。
しかし、肝心のティナは、彼を前にして何も言わず、最後までレオナが会話することになってしまった。呆れ顔をしたレオナにティナは。
「・・だって、何を話していいのか分からないし、変なことを聞いて印象を悪くするのはよくないかなぁと思ったり、どんな顔で話せばいいか色々考えすぎて、もう、私もどうしたらいいのか全然分からない?!」
なんだよ、そのピュアな乙女のような言葉は。と三人は思った。
冒険者として、王都でも活躍していた頃、王様や王子と面談してもここまで緊張することなく、凜々しく、規則正しく、丁寧に対応してきたあの頃はどこにいった?と考えていた。
ティナは、そんな話をしながら両手を頬にあてながら、体をくねくねし出した。さながら、恋に夢中な女そのものであった。
そう思いながらレオナはシンスケのことを考えた。
あの騎士道を行く男が、なぜ、バードスとコンビを組んでいるのか、そんな疑問を感じたので、機会があれば聞いてみるかと思っていた時、ティナがすごい目つきで。
「レオナ、彼は私の運命の人。例え貴女でも彼を渡す気はありません。もし奪うのなら、その時は決闘を申し込みます。」
そんな物騒なこと言ったティナにレオナは。
「奪いませんし、渡さなくてもいいです。私は、彼がバードスとコンビを組んでいるのが疑問に思っただけです。なにもしませんから大丈夫です。」
その言葉を聞いたティナは、安心した顔をし、再び体をくねくねし出した。
端から見ればキモいが、リーダーの希望が叶ったのだ、暖かく見守ろうと考えた三人であった。
追記、話に出てこないかもしれないから、一応記すことがあります。
魔術師ミルフィと斥候ルミリィについて、
行動を共にしている内に、ミルフィとルミリィはお互いが愛し合うような関係になっていた。ようするに百合の関係である。なぜそうなったかと言うと、ティナとレオナを尊敬し、憧れていたので、別々の時にパーティーに加入。
そのことを知った二人は、当初はどちらが尊敬の念が強いか競争する間だったが。
お互いの念が同等と感じ引き分けという形で終わった。
しかし、それ以降も会話と行動を共にする内に、いつの間にか、お互いのことを思い始め、終いには愛し合うようになった。夜は、一緒に寝たりする程の関係である。
ちなみに、ティナとレオナは、あの二人が仲良くしているのを見て、姉妹のようだと思い、愛し合っている事は、知らない。




