第2話 出会い、そして修行。
「マジかよ・・・」
二回も言ってしまった。
しかし、唖然としても仕方ない、まずは周囲の探索をしなくては、ここが本当に異世界で魔物がいるの森なら安全を確保しなければ休むことができない。・・・来るときスキルを獲得したので早速使うことにした。
「たしか、探知のスキルを得たから、使ってみるか。こういう場合は口で言って頭の中でイメージするのが定石だな。・・・`探知` 発動!!」
その時、頭の中にゲームでよく見るマップのような物が浮かんできた。
「へぇ~~、こんな風に展開されるのか、目の前にマップが出てくるのかと思った。」
・・・驚きも通り越すと冷静でいられるとは、順応が早すぎると私は思った。
だが、ここが異世界でスキルをもらったのが事実であるのが証明されたわけだ。
「周囲は、真ん中が俺だとしたら、半径約五十mくらい探知ができるな。今のところは魔物の気配は無しか、・・ひとまず安心できるな。」
一番の危機であるいきなり襲われる心配が無いことが分かり、ほっと胸を下ろした。
「後は、歩きながら人がいる場所まで行くか。・・・`探知`のスキルもどこまでの時間、展開できるのか知りたいしな。」
私はとりあず前を歩くことにした。
森の中、普通は周囲に気を配りながら進むものだが。・・・`探知`のおかげで気楽に歩くことができ、スキル様々だなと思った。
歩いて約三分で頭の中のマップが消えた。
「・・だいたい三分か、まぁ初めてはこれくらいの時間かな、鍛えていけば時間も範囲も広がる可能性がある。・・・たいていの冒険物はそういうパターンが多いし、今の現状把握ができ次第、修行するか。」
別に、焦ることはない。
呼び出されたわけでもなく、世界の危機でもない。
自分の力がどこまで高められるのかを考えると、体が疼いてきた。・・・体力系の人間だな私は。
そんなこととを思いつつ再度スキル、`探知`を使うことにした。
「`探知`発動・・・体の力が少し抜けた感じがした。これが、魔力消費の感覚というわけか」
新たな感覚を覚えつつ、再び歩き出した。
約二分後、反応があった。
「・・・これは、光が三つ、二つは赤いが、一つは青い。・・・定番で考えたら赤いのは敵で、青いのは味方か非戦闘員か、いずれにしても確かめてみるか。」
私は、光のある場所まで、静かに近づいていった。
茂みに隠れつつ。・・・その場所まで行き、その光景を見た。
二匹のオオカミが木を背にしている一人の男性老人を襲っていた。
「やっぱり、赤いのが敵、青いのが味方か、いや味方と決まったわけじゃないがな。・・・さて、どうするか。」
助けに行こうにも手持ちに武器はない。
・・・スキルにも直接的な攻撃手段はない。
あるとすれば`物質変換`ぐらいだろうが。・・・何か変えられる物はないかと、周りを見た。
すると、手のひらサイズの石を見つけ、拾った。
「これを使おう。`物質変換`発動!」
鉄をイメージしてスキルを使った。
・・・石は一瞬で鉄の塊になった。
「・・・よし、だがこのサイズでは、ナイフも作れないが。・・たしか、足りない部分は魔力で補うようなこと言っていたな。試しに、日本刀を作ってみるか。」
鉄の塊を手に、日本刀の形をイメージしてスキルを使い続けた。
すると、鉄がみるみるうちに質量が増え、刀の大きさ、長さ約六十㎝になっていた。
・・・そして、日本刀の完成である。
その時間、五秒。
「できた。体の力が大分減ったな。・・・だが、戦える。」
私は、闘志を燃やし、茂みから行きよいよく出た。
「おら!!、オオカミども、おまえらの相手は俺だ!!さぁ、かかってこい!!!」
大声を上げながら、オオカミを見た。
二匹は振り返り、老人は、`何だ`という顔をした。
二匹は警戒しているのかあまり近づこうとしない。・・・私は距離を確認した。
相手とは、だいたい百mくらいの位置。
・・・すぐに突撃できる距離ではない。
だが、対峙しての戦闘は初めてで、どういう風に攻めていいのか分からず戸惑っていた。
そんな私の気持ちを知ったのか、一匹のオオカミが歩きながら近づいてきた。
(・・・まずいな、相手は、警戒しているが、脅威とは考えていないな。・・・もう一匹はおじいさんを見ているし、くそ、どうすればいい?)
その時、頭の中で懐かしい声がした。
(焦るな!)
死んだじいちゃんの声がした。
(!!)
その瞬間、子供の頃を思い出した。
(いいか、新介、獲物と対峙した時、大事なのは二つ。・・・非情さと勢いだ。・・獲物に情を感じては狩りはできない。気弱な状態では獲物は仕留められない。冷静な対応しつつ、狩るときは勢いで狩れ!おまえは、銃を使うことは許されないが、使ったとしても当らんだろう。・・・ならば、罠を張って待つか、それとも、棍棒をもってやるか。・・いずれにしても、好きなやり方でやれ。だが、もし棍棒でやるのなら、相手と対峙し、お互い引かない状況なら、やることは一つ。・・・先手必勝!!・・気合いのかけ声を言いながら突撃あるのみ!! )
過去の出来事が走馬灯のように頭の中に流れた。
・・そういえば、じいちゃん、妙に熱血のあることを教えてくれたな。
だが、今はそれに感謝するだけだ。
私は、日本刀を上段の構えに息を大きく吸った。
「チェェェェェェェストォォォォォl!!!!!」
叫びながら走った。
オオカミは一瞬びっくりしたのか、その場に立ち止まった。
・・・距離はおよそ五十m、ひたすらに走った。
距離が短くなったとき、オオカミは平静を取り戻したのか、すぐに私に向かって走った。・・・互いの距離が縮まりつつ、オオカミは大きく口を開け、その牙を見せた。
それに噛まれる恐怖を感じたが、一度ついた勢いは止まらない。
私は、頭の中が空っぽになる感覚になりつつ、走るのをやめなかった。
そして、刀が届く距離に近づいた瞬間。・・・私は、勢いよく刀を振り下ろした。
だが、右に避けられた。・・・かなり焦った私は、がむしゃらに刀を右に横薙ぎに振った。
それが運良く、オオカミの右目に当たり、血を吹き出した。
オオカミは、悲鳴をあげながら転んだ。・・・このチャンスを逃す手はない。
私は、再び上段の構えをして大きく振り下ろした。
オオカミの体は首と胴体が分かれ、胴体から血が多く吹き出した。
「・・はぁ、はぁ、・・・やった。」
初めての獲物を狩った感覚に戸惑いつつ、私は、慌てて、もう一匹のオオカミに目を向けた。
だが、オオカミは、おじいさんが持っていた斧で、すでに仕留められていた。
「大丈夫ですか?」
私は、声をかけつつ、おじいさんに近づいていった。
「・・心配は無用。この程度で苦戦するほど、もうろくしておらんわ。」
なんかやけに冷淡な声だな、と思いつつ、おじいさんを改めて見た。
身長百七十㎝くらい、髪は白髪、ひげも白く、かなりの高齢だなという感じがした。・・・だが、その体つきは、鍛え抜かれた体だというのがすぐに分かるくらいの筋力を持っていた。
老人は変に警戒していたので私は。
「・・・俺は、修行の旅をはじめたばかりの旅人です。この森の中を彷徨っていたら、襲われていたのを見たので助けに来ました。」
いきなり異世界から来たとは言えないので、嘘をつくことにした。
罪悪感は少しあるが、この際仕方が無い。
おじいさんは警戒を解いたのか不機嫌な態度で。
「・・・余計なお世話じゃ、と言いたいが、正直、体が思うように動かなくてな、・・まぁ、感謝はしてやる。」
なんか上から目線だが。
年上はこういう者だと会社の上司を見ていたから、イラつくことはなかった。
私は。
「ところで、聞きたいのですが。・・・ここは、地方都市アルムの近くであっていますか?」
本に書かれていたとおりの場所か、確認をおこなった。
違う場所なら転移に何らかの不備がおきたかもしれないから。
おじいさんは。
「そうじゃよ、ここは、アルムの近くにある森じゃよ。そんなこといちいち聞くな。・・どこまで初心者じゃ、おまえは。」
まぁ、不備がなかったのはよかった。
おじいさんの言葉遣いも上司に散々グチを聞かされていたので、イラつくことなく冷静でいられた。
私は。
「・・・始めたばかりとは言え、旅をして一ヶ月ぐらい歩いてきたので、自信が無かったのです。」
すると、おじいさんは。
「一ヶ月?初心者もいいところだな。・・・で、戦ったのも、今日が初めてというわけか。」
私は少し驚いた。
「どうして、戦ったのが初めてだと分かったのですか?」
おじいさんは、ため息をつきながら答えた。
「あれだけ、オオカミにびびっていたら、誰でも分かるわ。それに、武器の扱い方も雑で、子供の棒振りのようなものじゃったよ。・・まぁ、気合いのかけ声だけは、なかなかのものじゃったよ。」
このうす暗い中、あれだけ距離があったのに。
・・・このおじいさん、視力が衰えていないことを感じさせるほどの眼力であった。
私は驚きつつ。
「あの失礼ですが、おじいさんは、何者ですか?」
その問いに、おじいさんは。
「わしはドルネット、この近くの小屋に住んでいる狩人じゃよ。」
狩人。・・・その言葉を聞いたとき、それだけで戦ったのが初めてだと指摘されたのは、ちょっと納得いかなかった。
「・・・申し訳ありませんが、若い頃は、何をなさっていたのですか?」
おじいさんはうんざりした顔で、
「・・・冒険者をやっておったよ、もう何年も前に引退したがな。」
冒険者。・・その言葉を聞いて納得した。
それならば、あの観察眼にも説明がつくし、オオカミの急所に一撃あたえるのも、戦いの経験があってこそのもの。
それにこの人、どことなく死んだおじいちゃんと雰囲気が似ていた。
「・・・あの、突然、こんなことを言うのは、なんですが。」
その言葉におじいさんは。
「なんじゃ、ぐだぐだな態度をしよって、言いたいことがあるのなら、はっきりとしゃべれ!」
なんかみょうにイラついた言葉遣いだが。
・・・私は、めげずに言った。
「俺を弟子にしてください。!!」
頭を下げ、おじいさんにお願いをした。
「・・・はぁ? 弟子だぁ? ・・・何を言うかと思えば、初めて会ったばかりのわしの弟子になりたいだの何を考えているのだおぬしは?」
呆れたのような言い方をされたが、私は真剣な顔で答えた。
「俺は、修行の旅をしていると言いましたが、何をしていいのか分からず旅をしていました。とりあえず、冒険者にでもなって、路銀を貯めようかなと思い、この地方都市に来ました。・・・しかし、そこで、ドルネットさん、あなたに出会いました。」
私は、おじいさんが仕留めたオオカミを見て。
「・・・このオオカミを仕留める手際の良さ、そして、俺が戦うのが初めてだと気づいたその観察力、ドルネットさんが、ただ者ではないことがよく分かりました。・・何もかも未熟な俺ですが、ドルネットさんの元で修行し、強い男になりたいのです。」
おじいさんは、腕を組みながら考え、そして。
「・・・強くなって、冒険者になりたいのか?」
この問いに、私は。
「・・・・狩人兼冒険者になりたいのです。」
私の答えに、おじいさんは、目を丸くした。
わかっている、普通は、冒険者になるものだと思っていたのだろう。
私もそう思った。
しかし、先に狩人と言う言葉を口にしたのも、きっと、猟師にならないか?と言ってきた死んだおじいちゃんを思い出したからだろう。
・・・理屈ではない。そう感じたからの言葉であった。
おじいさんは、ふっ、と口をつり上げて言った。
「・・・変わったやつじゃ、冒険者になりたいというなら分かるが、狩人をやりつつ冒険者をやるなぞよく言えたものだな。」
呆れたのような言葉で言いつつ、馬鹿にすることはなかった。
こんな所も、死んだおじいちゃんに似ていた。人が言ったことを、馬鹿笑いすることなく、聞いてくれるところが。
私は。
「ですので、お願いします。・・・どうか、俺、いや、私を弟子にしてください。」
再度、頭を下げた。
その行為に、おじいさんは。
「弟子はとらん主義だ。・・・と言いたいが、お前には、助けられた恩がある。一通りのことは教えてやる、後は、自分で鍛えるのだな。」
私はその言葉に喜んだ。
「ありがとうございます。師匠。!!」
おじいさんは。
「いきなり師匠呼びとは、気の早い小僧だ。・・まぁいい、今日はもう遅いわしの小屋で泊まっていけ。じゃが、明日からは、お前の小屋は、お前が作れ、作り方もその時に教えてやる。」
おじいさんは、ぶっきらぼうな言い方だが、どこかやさしい部分があった。
私は。
「はい、よろしくお願いします。私の名は、シンスケと言います。」
おじいさんは。
「シンスケ、変わった名だな。・・・まぁいい、わしは口が悪い上に教え方も雑なところがあるからな、途中で死んでも知らんぞ。」
私は。
「大丈夫です。私は、死にません。・・・いろいろなことを教えてもらい、いろんな場所に行って、狩りをするまでは。」
この返答に、おじいさんの口が、少し笑ったような気がするが、すぐに元の怒ってそうな顔になった。
こうして、私は、師匠ドルネッドさんの元で、狩りの仕方、武器の扱い方、体の効率のいい動き方、冒険者としての訓練、その他、生活に必要な知識と物作りなど。
・・・・知っている限りのことを教えてくれた。
それから、二年の月日が流れた。・・・