第166話 動揺の戦い その二。
教会。
午後。
ここでの警戒は他と比べて厳重だった。当然である。
・・・周囲は森に囲まれた国。いくら見通しが良いように伐採をしていても遠くの物は見えない。
駐屯地で待機しているアルトリネは。
「・・各地の状況は?」
騎士隊長は。
「・・今のところは異常ありません。魔物たちの姿は確認されておりません。しかし、未だいる可能性はしております。」
アルトリネは別の騎士隊長に。
「・・住民達の様子はどうですか?」
騎士隊長は苦悶の表情で。
「・・表だっての騒動はありません。ですが、襲来の折、外出を控えさせている影響で少し不安の様子がうかがえます。」
アルトリネは。
「・・手の空いてる者達は食糧配給をお願いします。・・・我々も大事ですが、民衆達が騒動を起こすのだけは避けなければなりません。」
騎士隊長は敬礼し、出て行った。
そして次の指示を出すまえに騎士が現われ。
「・・・申し上げます。ギルド長が`ワシも出る`と叫んで抗議しております。冒険者が説得していますが、聞く耳もたずで。・・・お手数ですが教皇様にお願いを・・」
苦い顔をする騎士にアルトリネは。
「・・分かりました。後で様子見ながら説得してみます。・・・ふふっ、あのお方は相変わらずですね。」
苦笑していた。
その時、騎士が駆けつけ。
「・・はっ、はっ。・・・申し上げます!!魔物たちが進軍してきました!!!」
この報告にアルトリネは。
「・・・状況は?」
騎士は。
「・・はっ。昨日と同じ種類が攻めてきました。・・それと、ロックオオカミを複数、確認が取れました。」
苦い顔にアルトリネは。
「・・そうですか。やはりいたと。・・・他にも上級がいる可能性があります。気を引き締めて事に当たるように。」
騎士は敬礼し、去って行った。
アルトリネは。
「・・・・壁の補修作業は?」
この質問に隣にいた騎士隊長は。
「・・はっ。すでに完了しております。倉庫街の安全は確保しました。しかし、アナコンダの残敵がいる可能性がある為、昨夜から完全封鎖し、調査はしております。」
アルトリネは。
「・・・的確な判断です。ご苦労様です。・・・では、あなたは倉庫街の指示をお願いします。」
騎士隊長は敬礼し、走って行った。
アルトリネは側にいた女騎士に。
「・・・あなたは正門へと向かい、皆の指示をお願いします。・・・私はギルド長の所に行った後、すぐに向かいます。」
女騎士は敬礼し、走って行った。
アルトリネは。
「・・さてと。あの人を説得。・・・いえ、気絶させていきますか。」
物騒なことを言いながら走り出した。
帝国。
王都。
ここはどこよりも悲惨が多くそしてどこよりも被害が少なかった。
午前を過ぎ、午後に差し掛かったとき、天候が晴れから曇りへと変わっていった。
それを見たマグネスは。
「・・・こいつはまずい。・・・兵士達に伝えよ!門の警備に人員を増やせと!」
この指示を出したのとほぼ同時に兵士の一人が駆け寄ってきて。
「・・き、騎士団長!!ま、魔物たちが突然現われました!!」
この報告にマグネスは。
「・・突然!?・・・詳細な報告を!!」
兵士は息を整え。
「・・はっ。・・・自分が門の警備をしていたとき、魔物たちがいた地点が突然、黒い霧が発生。そこから魔物たちが大量に現われました。」
この報告にマグネスの隣にいた騎士は。
「・・・黒い霧から?現われた?・・・何を言っている。そんな魔術やスキルは聞いたことが無い。・・虚偽を申しているのか?」
威圧する騎士に兵士は。
「・・で、ですが。そうとしか・・・」
冷や汗を掻きながら虚偽ではないと言っている。
マグネスは。
「・・・もうよい。虚偽だろうが真実だろうが。魔物たちが現われたのは事実。・・そうであろう?」
この言葉に兵士は。
「・・はい!!それは間違いありません!!!」
はっきりと答えた。
マグネスは。
「・・すぐに迎撃と防衛準備を!!昨日と同じ布陣で展開!!敵の出方次第では反撃に出る!!!」
この指示に騎士達は雄叫びを上げた。
・・・マグネスは近くにいた冒険者に。
「・・・そこの君!!酒を飲んでいるバカ連中に伝えろ!!仕事がきたぞとな!!」
出撃を命じた。
いくらバカだろうが人手が少ないこの状況。まさに猫の手も借りたいだ。
・・・冒険者は。
「・・そ、それが。・・先輩方は酒を飲んだ後、爆睡しまして。先ほど起こそうとしたのですが、無反応です。」
頭を抱えたマグネスは。
「・・だったら水をぶっかけててもたたき起こせ!!!事は一刻も争う!!!」
酔い覚ましを命じた。
冒険者は怯えた表情で頷き、走り去った。
・・・マグネスは一旦、先ほどのやり取りは忘れて。
「・・・それで?魔物の種類はどうだ?」
騎士は敬礼し。
「・・はっ!現在、確認できる限り昨日と同じ種類であります。・・・ただ、減っているという印象は受けませんでした。」
苦い顔の騎士にマグネスは。
「・・そう曇るな。増強した。それだけのことだ。さて、この局面をどう乗り切るかが問題だ。・・動ける者は?」
騎士は。
「・・昨日に比べて、約二十人は出撃不可能です。傷の治りが遅く、前戦に出すのは危険だと医師の判断です。・・また、エッジソンも健在ですが、弾薬の数は少なく、ドワーフ達が作成しておりますが、すぐには補給はできません。」
これにはマグネスも動揺した。
・・・昨日の戦いではエッジソン隊が活躍してくれたおかげで難を逃れた。しかし、弾が撃てなければ壁の役割しかなく。
・・・それも突破されるのは時間の問題だ。
マグネスは。
「・・・エッジソン隊は正門前に並べ、近づいた魔物たちのみに集中。絶対に無駄弾を撃つなと伝えろ。・・・前方の防衛ラインは騎士団ならびに兵士達。そして冒険者達が引き受ける。・・私も前戦で指揮をとる。」
この指示に中年の騎士隊長は。
「・・お言葉ですが。団長自ら指揮するのは承諾できません。団長の身に何かあれば指揮系統が乱れます。ただでさえ、言うことを聞かない冒険者達がいるのです。・・どうか、ご自重を。」
嘆願していた。
マグネスは一理あると考えていたとき、若い冒険者が走ってきて。
「・・す、すみません!!・・先ほど、水をぶっかけたのですが。・・先輩達は全然起きません!!!」
これに中年の騎士隊長は。
「・・・な、何だと!?・・そんなに飲み過ぎたのか?!!馬鹿たれどもが!!!」
一喝した。
・・・・他の隊長達も同様の顔である。若い冒険者はどうしたらいいのか分からず顔を伏せていた。
マグネスは。
「・・やめろ!!!まだ経験の浅い冒険者をそんな風に怒ってどうする?!!!今は、人数の少ない状況をカバーすることだけ考えろ!!!」
怒声に隊長達は沈黙した。
マグネスは。
「・・・すまんな。君が悪いわけでは無い。・・このまま自分の持ち場に向かってくれ。」
冒険者は少し涙目のままお辞儀して去って行った。
・・・隊長達は団長の優しさに感心しと同時に冒険者達に失望の感情を持った。
当然だ。勝利してもいないのに酒を飲むなど言語道断。・・・評価が爆下げするのは必然である。
・・しかし、マグネスだけは違った。
いくらなんでも酒を飲んだくらいで目を覚まさないのはおかしい。何者かが一服盛ったか?だが、こんな状況で喜ぶのは魔物だけだ。
・・・当然、魔物にそんな事をする隙どころか侵入すら許していない。
マグネスは。
(・・とすると内部犯の可能性が高い。該当するのはあいつだけか。・・何を考えている?)
歯ぎしりする思いであった。
こうして、各国での戦いは始まった。
一方。国境線の戦いでは。
アルミ率いる`狂犬`が奮戦していた。
・・・ゴブリンだけの集団に苦戦することは無かったが、魔物側の後方からリザードマンが強襲。ゴブリンとの連携は目を見張った。
・・・リザードマン達の真っ正面からの攻撃に注意を引くと、ゴブリンの急所狙いが炸裂。そのタイミングも見事。
・・魔術や弓による援護攻撃しようにもゴブリン達が盾を持って防いだ。
完璧な集団戦法にアルミ達は苦戦を強いられていた。
そして、シンスケとティナは。
・・・リザードマン十体とリザードマンハンター二体を相手に手こずっていた。