第165話 動揺の戦い。
黒い霧から魔物たちが大軍で現われた。
それを見たアルミは。
「・・な!なんだい!?いきなり現われやがった!!」
かなり驚いていた。
・・・他の三人も同様である。
ルーズは。
「ドルド!?あんな魔術があるの?!」
この質問にドルドは。
「・・し、知らない。・・・あんな霧から現われるなんて。聞いたことも無い。」
首を横に振っていた。
何が起きたのか分からない四人にティナは。
「とにかく迎撃準備を!!あなた達は持ち場には戻らずにこの場で応戦!!そこの兵士さん!!すぐに基地内に戻ってこの事を知らせて!!」
この号令に兵士は敬礼し、基地内に入っていった。
アルミは。
「・・ちっ。言いたいことはあるがこの場ではそれが最善か。・・あんたたち!!私らの力を見せつけな!!」
そう言って防衛ラインへと向かって行った。
私は。
「・・的確な指示だ。惚れ惚れする。・・・俺も負けてられないな。」
剣を抜きながら向かって行った。
鎚は基地内にある。取りに戻る暇は無い。
・・ティナは。
「・・惚れ!・・・もう、シンスケ。こんな時に・・・」
赤面しながらもじもじしていた。
だが、すぐ気を取り直して後を追った。
移動しながら私は。
(・・今まで通りで無く。違った行動をし、こちらの油断を誘う。・・・あのマンガに似た状況だな。)
思い返していた。
・・・あるマンガでは追う者達と追われている者達が鬼ごっこしていた時。
追う側が途中で来なくなったので諦めたのかと思った時、リーダーが`こちらの油断を誘い、動揺を与える`という推測を立てていた。
・・・実際、その考えは正しく追ってきた。
・・・これによく似ている。
魔物たちが定刻になっても現われず、諦めたと思わせ、襲撃する。・・・質の悪い策だ。
・・・私が現場に向かうとアルミ達は奮戦していた。
向かってくるゴブリン達を斧で蹴散らし、隙間から狙うゴブリンを弓矢で迎撃。・・・棍棒が縦横で蛇のようにうねり、後方から魔術で援護。
・・・実にパーティーの連携が上手くいっている。これを見るのは`麗剣`があった頃以来である。
私は。
「・・・・いいパーティーだ。ならば、邪魔にならないように別の所を請け負うか。」
そう言って相対したのはリザードマン達。
後からティナが追い付き、共に迎撃した。
王国。
正午。
ここでは浮かれていた。・・・冒険者達はくつろいで眠っていたり、ボードゲームで遊んでいたりと仕事をする気ゼロである。
・・・兵士達は門で見張りをしているがあくびを隠さずに堂々としている。
疲れが抜けきっていない。
臨時の作戦場にいる騎士達はグラドに。
「・・グラドさん。戦いは終わったのでしょうか?」
この質問にグラドは。
「・・・そう思いたいが。魔物たちは忽然と消えたのだ。敗走した瞬間を見ていない。警戒はしておいた方がいい。」
不安げな顔である。
その時、横から。
「・・おやおや。グラド団長ともあろう方がずいぶんと小心ですな。」
そう言って近づいてきたのは野心家の騎士隊長である。
・・・後ろには複数の騎士が付いてきた。いずれも貴族出の騎士達だ。その実力も折り紙付き。
当然、実戦で戦い、生き延びている。
グラドは。
「・・小心で結構です。私は生き残る為の最善を尽くしているだけです。」
この言葉に周囲の騎士達も同様の顔をしていた。
・・・誇り高く戦い、死ぬ。・・・騎士としても本望。
その認識は間違っていない。・・しかし、中には死にたくない。まだ生きたいと思う者もいる。
それを恥だと教えられたがそれでも怖い。
そんな彼らにグラドは。
「・・その想いを持って何が悪い?死にたくないのは当たり前だ。・・・俺だってその考えでこの盾を手にした。・・誰かを守るのは勿論。・・・自分も守る為にな。」
そう言って盾を見つめていた。
・・・その言葉に騎士達は笑う所が胸に響いた。元Aランク冒険者で数々の死線をくぐり抜けてきた猛者が弱音を見せた。
・・・虚勢を張ることも無く。その姿に惚れた者もいた。
騎士達は全員思った。`この人に付いていこう`と。・・・その為、目の前にいる騎士隊長の誘いを断っている。
隊長は。
「・・ふん。まぁいいでしょう。例え、戦いが始まろうとご安心を。私の率いる優秀な精鋭達が返り討ちにしますよ。」
少し笑いながらお供と共に去って行った。
グラドは。
「・・変わったな。・・・昨日の夜。女王陛下に謁見したようだが。・・・気に入らないことでもあったか。」
ある程度の憶測を言った。
・・・あの手の輩にはうんざりするくらい見てきている。おそらく、功績を挙げて団長にでもなりたいのだろう。
・・・別にくれてやってもいい。
・・地位などグラドにとって責任が重すぎて疲れるだけである。
その時、天気が妙に暗くなっていくのを見た。
グラドは。
「・・・各自、警戒を。・・壁の補修作業の所に冒険者を配置に。」
最速の指示に騎士達は敬礼した。
・・・嫌な予感がする。・・それは的中した。
王都の正門ならびに左右の破損の壁の近辺から黒い霧が出現。・・・そして、魔物たちが一斉に現われ、進軍した。
兵士は。
「!!!た、大変だ!!!魔物たちが突如、現われ!!攻めてきた!!!」
叫び声に浮き足立ってた冒険者達がすぐに武器を取り、持ち場に急行。
あまりの事に冒険者達は。
「!!な、なんだよ!?終わったんじゃねぇのかよ!!!」
「くそっ!!俺、まだ飯食ってねぇのに!!!」
「文句は魔物たちに言え!!!いい加減なんだよ!!あいつら!!!」
罵声が飛び交っていた。
騎士隊長は。
「・・ふふっ。来たか。お前達。準備は良いな?」
騎士達は満面の笑みで頷いた。
騎士隊長は。
「・・よし。では作戦を開始する。・・・魔物たちの拠点と思しき場所に進軍!!蹴散らして、魔物の頭を叩く!!・・・行くぞ!!!」
号令とともに馬に乗って進軍。
・・・騎士達も馬に乗り後に続いていった。
騎士隊長の目は曇っていった。・・・魔物たちが何故、現われたのかは不明だが。少なくとも強大な力を持った存在がいるのは確定だ。
・・・しかし、いくら強かろうと魔物。
知恵と連携を得意とする人間には到底敵わない。魔物の頭一体を複数で叩く。
・・・人間同士なら卑怯だが、魔物なら大丈夫。・・・何しろ肉体強度が人間より強い。タコ殴りにしても誰も文句は言わない。
更には魔物対策の道具も所持している。
・・・勝利したのも同然である。
そして、強大な魔物を倒し、その首級を手に堂々と凱旋。民達から称賛の声が鳴り響き、小心者の女王から褒美をたんまり。
・・・その勢いで自分こそが王として相応しいと声高々に宣言し、王位を手に。
そんな妄想を膨らませながら魔物たちの所に向かって行った。
共和国。
王都。
朝になり、午後になりそうになっても森から魔物たちが現われない。
ブラダマンテは。
「・・・ギルド長。・・・状況は?」
この質問にギルド長は。
「・・今のところ変化はありません。森の中を調査しようにも戦力が減る可能性がありますので、偵察はしておりません。」
報告にブラダマンテは考えて。
「・・・良い判断です。無闇に行かせるのは得策ではありません。・・引き続き警戒をお願いします。」
ギルド長は頷いた。
・・ここは王国と帝国では違い、寛いでいる冒険者達は少ない。森の中に魔物がいる以上。いつ襲ってきても不思議では無いからだ。
・・・戦いが終わったと感じるのは初心者の冒険者ぐらいである。
一方、騎士達はいつでも出られるように装備を万全にし、兵士達は物資の不足が無いかを確認。少々食料が減っているので冒険者達や漁師達に頼んで王都近くの釣り場で魚を釣っていた。
・・・誰もが今日は平和でありますようにと願っていた。
しかし、それは終りを告げた。
・・・雲行きが怪しくなり、ギルド長とブラダマンテは警戒した。そして、森から魔物の軍勢が現われた。
ギルド長は。
「・・やはり終わらないか。・・全員!!迎撃準備!!一歩たりとも入れるな!!!」
号令とともに冒険者達は武器を構えた。
ブラダマンテは。
「・・・総員!!敵を近づけず、いつでも対処できる位置で防御陣形!!!」
騎士達ならびに兵士達は一斉に進軍。
・・王都と魔物たちと丁度中間辺りで陣を形成。昨日とは違い、迅速に行動していた。
襲いかかるゴブリン達にブラダマンテは。
「・・行かせない!!!渦水槍!!!」
三叉槍の矛先から水が溢れだし渦を形成し、一直線に向かっていった。
それをくらったゴブリン達は体を削られ、当たらなくともその余波で二メートルほど飛ばした。
ギルド長は。
「・・さすがはブラダマンテ団長。相手側と同じく、昨日とは違う動きで牽制されるとは。・・・私たちも負けていられない。・・彼らが思う存分戦えるように援護しなければ。」
その時、後方から冒険者が走ってきて。
「はっ、はっ、はっ。・・・ギ、ギルド長。・・・た、大変です。・・・浜辺に、ファルコンやイーグルが無数に飛び交い、釣りをしていた冒険者ならびに漁師達に攻撃を!!!」
ギルド長は驚いていた。
・・何故この時に鳥型、しかも肉食系の魔物が現われた。
ギルド長は。
「・・っ。すぐに遠距離系の武器で応戦!!何人かの魔術師は攻撃を!!あそこは食料供給の重要な場所!!全力かつ無茶をしない程度で!!!」
少し無理な注文をしてきた。
・・・弓が得意な冒険者と魔術師は難しい顔しながら向かって行った。
ギルド長も分かっている。自分がどれだけ無理難題を押しつけているのかを。しかし、現状、食糧事情を考えると釣り場を魔物たちに抑えられるのは阻止したい。
・・・船での漁も鳥型の魔物がいる以上危険すぎる。
ギルド長は。
「・・・持久戦はこちらに分が悪い。・・・内部崩壊だけは避けなければ。」
冷や汗を掻きながら騎士達の援護に向かって行った。