第162話 身の程知らず。
夜。
私たちはテントに戻った。
・・・あれから将軍と話をしたが現状報告と推論のみで進展無し。・・・それから正面で警戒していたが魔物たちが全く来ず。こうして、各々の拠点に戻っていった。
テントの中に入ってゴブリンを呼んだ。
「・・・聞きたいことがあるのだが、お前のいた場所にはどれだけの数がいたのだ?」
この質問にゴブリンは。
{・・・ソレハワカラナイ。・・イツノマニカフエテイルカラ。}
申し訳ないような表情である。
ティナは。
「・・・弱りましたね。勝手に増えているのなら、今も増え続けていると考えた方がいいでしょう。楽観視ができる状況ではありません。」
苦い顔をした。
・・・私も同意だ。今朝の戦闘で魔物たちの数が減ったと思ったら実は減っていませんでした。なんて嫌な思いはゴメンだ。
だが、妙でもある。・・それが本当なら相手は増え続け、こちらは減るだけだ。
・・・夜に偵察に来る以上それ相応に知っていてもおかしくないはず。にもかかわらず、攻め続ける意思が全くない。
・・・ただこの場で戦闘し、離れる。それだけだ。
私は。
「・・・ティナ。・・相手の狙いって分かるか?」
突拍子の無い質問にティナは。
「・・正直分りません。相手の行動である程度は予測はできるのですが。今回のは情報が少なすぎます。とても予測所から推測もできません。」
お手上げ状態である。
私は。
「・・・そんじゃぁ。明日も今日と同じ事をするしか無いかな。・・・幸いというべきか上級が出張ってきている。・・・あいつらをある程度倒せば、何か進展が起きるかも知れない。」
確信があるかないかの言葉である。
・・・これはゲームの知識。ある程度のミッションをクリアすれば相手から行動を起こすというパターン。
無論、現実にそれはない。しかし、それに望みをかけるしか無い。
ティナは。
「・・・確かにそれ以外にありませんね。・・・ではもう寝ましょう。明日に響きます。」
あくびをしてベッドに入った。
・・・いつものティナとは思えない行動。余程疲れたのだろうと感じた。ゴブリンもベッドの下に潜った。・・私もベッドの中に入った。
しばらくすると私の意識が途絶えるように深い眠りに入った。
夜。
王国。王都。
正門前では兵士達が虚ろな目で見張りをしていた。
・・・朝の戦闘から昼まで絶え間なく続く魔物たちの戦闘は`疲れた~~`と口にすることもない程の疲労感を与えていた。
兵士は。
「・・・先輩。魔物たちは何故、いきなり退いたのでしょうか?」
疲れ顔の兵士に年配の兵士が。
「・・・さてな。こんなことは初めてだ。ただ連中がいなくなったのならいいんだが。・・今もあそこに陣取っている。・・・最悪だぜ。」
最早、何かを言う気力が無いほどの脱力である。
・・・王都の離れた場所では魔物たちが集まり、静かにしていた。座っていたり、立っていたり、ウロウロしたりと。いったい何をしているんだ?と思わせる雰囲気。
・・従来の魔物たちの動きでは無い事は確実である。
その時、後ろから。
「・・お疲れ様です。お夜食をお持ちしました。」
メイドがパンとコーヒーを持ってきた。
・・・二人の兵士は嬉しそうにいただいた。現在、門前ならびに駐屯所では城から派遣されたメイド達が兵士達にお世話をしている。
・・・女王陛下の計らいである。これには兵士達は喜んだ。
こんなむさ苦しい男達しかいない場所で輝く花たちはまさに眼福。治療の手伝い所か食事を持ってきてくれるだけで活力が漲る。・・・実に単純な生き物である。
メイドが。
「・・・今のところはどうですか?」
この質問に年配の兵士が。
「・・全然動きがありません。このまま朝まで何もしないのでは?と思える感じですよ。」
妙に丁寧口調である。
隣にいた兵士が。
「・・そうです。時々、動いてもあの場所から離れることもありません。まるで指示されたようで正直不気味であります。」
先輩と話していたときよりも活き活きとしていた。
・・・二人は少し睨み合っていた。それも仕方ない。綺麗な女性の前では格好つけたがるのは男の本能である。
見ていたメイドは。
「・・うふふっ。お二人ともお元気ですね。・・これからも頑張ってください。」
微笑みの言葉に兵士二人は。
「「お任せあれ!!」」
息ぴったりである。
王城。執務室。
・・・オリビア女王とアルフォンス宰相は現状報告に頭を悩ませていた。
朝から始まった魔物との戦闘。・・・城壁の破壊からの奇襲。悩まない方がどうかしている。城壁は急ピッチで修復作業しているが、どんなに急いでも二,三日は掛かる。
・・・おまけに朝から昼は魔物たちとの戦闘。作業効率は悪くなる。
宰相は。
「・・・今のところ、他の場所で不審物は発見されていないようだ。・・何時も置いてある樽や木箱を徹底的に調べているが、爆弾らしき物は無いそうだ。」
安心した表情に女王は。
「・・・ですね。あれだけの破壊です。他にもあるかもと思われるのは当然。・・だとすれば仕掛けはあれだけだと考えた方がいいでしょう。」
ため息をついた。
宰相は。
「・・しかし、考えたな。城にいる比較的、手の空いているメイド達を派遣し、兵士達の士気を上げさせ、現状報告がスムーズにできることに。」
妹の考えに賛同した。
女王は。
「・・・ただでさえ、かなりの疲労です。食事と睡眠を取っても取れない疲れは絶対にあります。・・ならば、男達が喜ぶ癒やしを与えれば、疲労回復は向上し、口も軽く、丁寧な報告をしてくれるでしょう。」
悪い笑みをした。
・・・宰相は妹の策略には本当に頭が上がらないと実感した。その時、ノック音がした。
扉が開き、メイドが現われ。
「・・失礼します。騎士隊長が面会を希望しております。」
女王と宰相は顔を見合わせた後。
女王は。
「・・断る理由もありませんし。通してください。」
宰相も同じ顔である。
・・・メイドは扉を閉め、次に現われたのは騎士隊長。
「・・失礼します。夜分の面会。誠にありがとうございます。・・つきましては。女王陛下にお願いがあります。」
真剣な顔つきに女王は。
「構いません。・・それで願いとは?」
王たる態度の女王に騎士隊長は。
「はっ!!・・此度の戦いを終わらせるべく。魔物たちの所に突撃するべきです。」
堂々たる発言に宰相は。
「・・その提案は了承しかねる。・・隊長も見ただろう。魔物たちの動きを。更に言えば天候さえも変えてしまう存在がいる以上。迂闊に手を出せばこちらの被害は甚大だ。」
状況説明に隊長は。
「・・ですが。このまま防衛をしていても好転するとは思えません。・・そのような存在がいるのなら逆に好都合です!!王国の持てる力を出して討伐するべきです!!!」
熱意ある発言である。
しかし、女王は。
「・・・現在。魔物たちの中にはそのような存在は確認できていない。それに。ここだけでなく。共和国。教会。帝国からも魔物たちが襲撃していると情報が入っています。しかも向こうも同様に天候が変わっている。つまり、強大な力を持った存在が王国にいるとは限らない。・・・何か質問はありますか?」
反論するならしろという顔つきに隊長は。
「・・・な、ならば。ここの魔物たちを統率する存在を倒せばよろしいのでは?・・いくらなんでもあれだけの数の魔物たちを動かしている存在さえ倒せば。少なくとも王国への被害は止められるのでは?」
少し弱気発言に今度は宰相は。
「・・・貴殿の言うことはもっともだ。しかし、未だに確認は取れていない。魔物の騒乱のように統率する奴は目立っているから分かるが。今回は目立つ魔物が多すぎて判別できない上に相手の動向も分からない。ハッキリ言えば未知数なのだ。・・・無闇な突撃はこちらの消耗するだけだ。・・・その後に起きることは理解できるな?」
怒気を込めていた。
・・・さすがに分かる。体力、気力ともに尽き果てれば蹂躙されるのみ。自分たちだけで無く、市民達も死んでしまう。・・・隊長は沈黙した。
それを見た女王は。
「・・・理解しましたか?・・ならば持ち場に戻りなさい。あなたにはまだやることがあります。」
それと同時に扉が開いた。
・・・隊長は何も言わずに出て行った。
見届けた後宰相は。
「・・・はぁ~~・・・考えは理解できるが。もう少し現状と未来を見てほしいものだ。・・まぁ、前戦で戦う者達には酷な事だがな。」
ため息交じりである。
・・女王も同じ気持ちである。後方で指揮を執るならまだしも最前線で命をかけて戦う人達に先のことを考えろ等、残酷としか言い様がない。
・・・今日生きれるか分からない瀬戸際なのだから。
女王は。
「・・・ですが。これで隊長も自重してくれるでしょう。・・では、先ほどの続きを。」
一瞬不安を感じたが、それを拭い去るかのように話を戻した。
・・・騎士隊長は廊下を歩きながら怒りで頭がいっぱいである。
自分の考えが通らなかったことに腹を立てている。一応、納得したような素振りをしたが、内心、不満だらけである。
隊長は。
「・・くそっ。ここで戦果を上げれば陛下と宰相への印象が強くなると思ったのに。・・何が強大な存在だ。何が未知数だ!・・・結局の所、弱腰では無いか。・・まぁ、あんな小心者の王から生まれたのだ。何をしても所詮、小心者だ。」
後半部分は小さく呟いた。
・・・誰かに聞かれたら不敬罪で処される発言。それを知っての行為である。
歩きながら隊長はしばし考えて。
「・・・待てよ。そんな強力な魔物がいるのなら、そいつを見つけて倒せば。少なくとも王国の魔物たちはいなくなるのでは?・・もしそうなったら。国民達の支持は俺に集中し、無能で小心者の王族を排斥できるのでは?・・・俺だって貴族の当主。同士を集めれば可能。・・・いける!俺が国の王になれるのが!」
「・・とすれば、戦場でいい気になっているグラドを上手く利用して正門に釘付けにする。・・・そして、Aランクの冒険者達に雑魚どもを蹴散らす。・・・そうすれば上級の、強大な存在が出ることは間違いない。・・後はタイミング良く俺が騎士団を率いて行けば討伐はできる。・・・よし、そうと決まれば早速、同志を集めなければ!!」
喜び勇んで走り出した。
完全なるあれになろうとは知らずに。