第157話 対処する国々。
突如として起きた四カ国の同時、魔物の出現。
民衆ならびに兵士達が動揺する中、国のトップ達は冷静に対処するかのように努めていた。
・・・何故ここまで平静でいられるのか?
時は遡る。
帝国の王都。
皇帝の部屋。
ヨルネ皇帝は机の上にある四つの道具を見ていた。
・・・無線機三つと小型の鏡が置いてある。
この鏡はかつてドワーフ族が異世界と通信できたとされる鏡を元に作った。鏡同士が繋がることには成功したが、声と姿を写すことはできない。
・・・成功すると信じて、各国の王族に一つだけ配達された。
しかし、そこから進展が無く諦めかけたとき、ある男の無線機の話が出た。
・・・電波という方法は遠くからでも相手の声を受信し送信することが可能。しかし、欠点は中継地点が無ければそれ程遠くには届かない点だ。
この欠点を補う方法として鏡が思い浮かんだ。
繋がっているなら電波だけは通るのでは無いかという。
・・・度重なる実験の結果。見事に成功。
無線機を各国の王族達に早急に配達された。
ヨルネは無線機で。
「・・オリビア女王。聞こえますか?」
しばらくして無線機から。
「・・こちらオリビア。聞こえますわ。・・凄い道具ですね。これ。」
驚きと関心の声である。
もう一つからは。
「・・・こちら、ルストルフォ。こちらもオリビア女王の声が聞こえます。・・皇帝陛下の方は聞こえますか?」
皇帝は。
「・・聞こえます。・・そちらも問題ないようですね。」
最後に残った無線機にヨルネは。
「・・アルトリネ教皇。・・聞こえますか?」
即座に無線機から。
「・・聞こえます。・・・勿論、お二人の声も。・・・このような技術を完成させるとは、ドワーフの人達は素晴らし仕事です。」
関心のある声である。
オリビアは。
「・・・うまく、各国と繋がったようですね。・・・では、ヨルネ皇帝。・・本題に入りましょう。・・皆さんも気付いてると思いますが。・・魔物たちの動きですね?」
この質問にルストルフォは。
「・・あぁ。・・共和国では森の中にある魔物の集落が襲われる事件も相まって緊張と不安が蔓延している。・・調査をしているが進展無し。・・・貴族の連中はこれを利用して税金を増やしては?とふざけた事を言う始末だ。」
苛立ちが見える。
アルトリネは。
「・・こちらでは魔物たちが消え、周囲の不安が無い事で市民は喜んでいますが。冒険者達には不満の声が多い。・・一応、仕事を回していますが、どこまで耐えられるか。」
疲れ切った声である。
オリビアは。
「・・こちらも同様です。・・商人の中には大喜びの者もおりますが。大きな事件が起きたときの事を全く考えておりません。」
ため息交じりの声である。
ヨルネは。
「・・各国でも似たような事が起きているのですね。・・・私はこの事に不安を感じるのです。もし、魔物たちが大規模な攻勢を仕掛けてきたらと。・・・皆さんはどう対処していますか?」
この質問にオリビアは。
「・・私の方では各街の実力のある冒険者を何人か集めています。・・Aランクの冒険者の四人がもうすぐ到着するはずです。・・私が攻めるなら中心部。王都を狙います。・・その対処として警備を強化しています。」
アルトリネは。
「・・こちらでは騎士達を街の周囲に配置し、不満を言う冒険者達の為に警備の依頼を出しています。・・オワリの里の人々も街に避難をさせています。」
ルストルフォは。
「・・こちらでも同様。冒険者ギルドの長が優秀でな。・・・戦闘があった場合は自ら前戦に立ってくれるそうだ。」
ヨルネは。
「・・私の方では前線基地にAランクのお二人を行かせています。王都の警備に回そうと思いましたが、今回の事件は、魔物の本拠地に元凶がいる感じがするのです。・・・そいつさえ倒せば、終わると思います。」
これに対してオリビアは。
「・・・つまり、帝国の方で決着がつくまでは私たちは防衛戦を強いることになるということですね。・・・正直、苦戦は必死ですね。」
他の者達は沈黙した。
・・・防衛戦はただ守るだけでは無い。
周囲を囲まれた場合は孤立し、薬品はおろか食料も補充できない。
・・・各国はそれ相応に物資を用意したが、大勢の人がいる以上、いつかは尽きる。しかも、相手はどれだけの戦力なのか分からない。
・・ここは帝国の戦士達に頑張って貰わなければ困る。
ヨルネは全ての命運が自分の肩に掛かっている。・・・そんな思いが重りとなってのしかかる。
それを察したのかアルトリネは。
「・・皇帝。気を確かに。・・今、あなたが倒れるようなことになればそれこそ終りです。・・大丈夫です。私たちの戦士達はそんなにヤワではありません。・・一週間くらいは持てますよ。・・・ですよね?」
この問いにルストルフォは。
「・・当然だ。私の国は弱くは無い。・・・むしろ、このまま進軍してもいいかも?と思える位だ。」
少しの笑いにオリビアは。
「・・先ほど苦戦と言いましたが。訂正します。・・私の方も余裕ですよ。何でしたら、何人か派遣しましょうか?」
笑みのある声である。
トップ達の声にヨルネは理解した。・・・皆が励ましてくれていることに。
自分たちだって余裕は全くない。そんな中、ヨルネにあーだこーだとは言わず、責任を追及するのはことも言わない。
そんな声にヨルネは。
「・・・ふふっ。・・心配無用です。こちらはこちらで全力でやるだけです。・・安心して吉報を待ってください。」
虚勢ながらも声を張った。
安心したのかオリビアは。
「・・さて、それでは、今後の動きについて話しましょうか。」
長い話し合いがおこなわれた。
時は戻り。
王国。
オリビア女王は玉座の間で。
「・・それで、魔物の数と種類は分かりますか?」
この質問に兵士は。
「・・か、数は不明ですが。・・種類はゴブリンにオーガ、オークを数十頭を確認!!他にもオオカミやスライム多数!!・・それと、スケルトンらしき個体もいたという報告が。」
これにはアルフォンス宰相は。
「・・スケルトン?ばかな。今は朝だぞ?・・奴らは日光には弱いはずだ。」
兵士は。
「・・そ、それが。・・・魔物たちが現われる少し前に突如、雲行きが怪しくなり。・・・空が雲で覆っております。」
オリビアは。
「・・・天候も操ると言うことですか。・・・そんな化け物がいるのとは。・・そこのあなた。すぐにバードスさん達に連絡を。・・・すぐにでも動けるように準備して欲しいと。」
兵士は一礼して退出した。
共和国。
報告を聞いたルストルフォも同様の質問をした。
「・・・数は不明です。・・・種類はゴブリンにファイターモンキー。それとマンティスやゲッコーを多数確認との報告が!!」
これに対して貴族の一人が。
「・・バカな?!何故、それだけの魔物が一斉!?・・貴様の報告ミスでは無いのか?!!」
受け入れがたい真実に貴族は罵声した。
他の貴族達も同様に罵声したがルストルフォが。
「・・・静まれ!!!!・・そんなこと言っている場合か!!?・・お前達はさっさと自前の護衛兵達に出陣命令を出したらどうだ!?」
この号令の貴族の一人が。
「・・お、お言葉ですが。・・私の護衛の為でして。・・・・その、万が一、死んでしまったら。」
おどおどした返答である。
・・・他の貴族達も同じ顔である。
それを見たルストルフォは。
「・・・そうか、残念だな。この事件で功績を挙げてくれるのなら、今までの事を考えてもよかったのだが。・・・仕方ない。君。すぐに兵士達ならびに冒険者ギルドに通達を。防衛を見事に成し遂げたのならそれ相応の褒美を取らすと。」
兵士は一礼して去って行った。
意外な事を聞いた貴族の一人が。
「・・し、仕方ありませんな。・・私の優秀な護衛兵を向かせます。必ずや、陛下のご期待に応えてくれるでしょう。」
怯えながらも強気と欲の篭った発言。
・・・他の貴族達も続くように発言した。
ルストルフォは内心呆れていた。
・・・ここまでの手のひら返しには清々しさを感じるほどだ。
だが、ルストルフォは貴族達の護衛兵には何も期待していない。
何故なら、奴らが守るのは貴族だ。・・・金を出してくれる雇い主がいるからこそ働き、守る。・・・逆に市民を優先するように行動すれば雇い主から契約違反とかで退職もしくは違約金を支払われる。
・・・故に奴らは市民を守ることは無い。
ルストルフォは。
「・・期待していますよ。」
言葉とは裏腹に冷めた瞳をして。
教会。
兵士詰め所。
騎士の長達ならびに兵士の長達が緊急会議をしていた。
・・・部下達にはすぐに正門に向かい、防衛任務に当たらせている。
話しているのは何故、魔物が出現したのかというある意味、無駄な話し合いである。
会議中にアルトリネ教皇が完全武装して入ってきた。
騎士の一人が。
「・・お待ちしておりました。教皇様。」
一礼した。
他の者達も同様である。
アルトリネは。
「・・して、状況はどうですか?」
この質問に騎士が。
「・・はっ。現在、魔物の数は不明ですが、種類は大方判明しております。ゴブリンにベアー、オオカミとアナコンダを多数発見。・・他にもいる可能性を考慮しております。」
報告にアルトリネは。
「・・ご苦労様でした。・・これだけの魔物が突如出現するとは。・・・向こうに高位の魔術師がいる可能性がありますね。・・・この天候の変わりようも頷ける。・・・魔物に動きは?」
騎士は。
「・・はっ。・・・魔物たちは現われてから動きはありません。・・しかし、いつ攻撃してきてもおかしくないと報告が・・」
その時、詰め所に兵士が。
「・・し、失礼します!!・・魔物たちに動きが!!・・ゴブリンとオオカミの大群が一斉に襲ってきました!!・・現状、兵士ならびに冒険者で対処しています。・・・それと気になることが。・・アナコンダが姿を消したと報告があります。」
この報告に騎士達は`逃げたか`と楽観したが、アルトリネは。
「・・・消える前に何をしていたか。分かりますか?」
この質問に兵士が。
「・・それは、分かりません。・・・あっ、そう言えば兵士の一人が`アナコンダは左の方に行った`と報告が。」
これを聞いたアルトリネは。
「・・左?・・・!!そこのあなた!すぐに数名の騎士ならびに兵士を連れて左にある倉庫地区に向かいなさい!!・・あそこには最近、新しく城壁を塗り替えたばかり!魔物対策はまだされていません!!アナコンダなら簡単に潜入されます!!」
この号令に騎士は敬礼し、詰め所を出た。
・・教会を囲む壁には魔物や動物が嫌う匂いを染み込ませた塗料が塗られている。遠くからでは効果は無いが、壁に触れれば香りがし、すぐに逃げる。
・・・正門には多数の乗馬が出入りするので塗ってはいない。
だからこそ警備は門にのみ集中できる。
・・・しかし、倉庫地区の壁は老朽化していたので壁を新しく塗り直していた。・・・無論、まだ最期の仕上げはしていない。
アルトリネは確信した。・・・向こうに知恵のある何者かがいる。
でなければ的確に侵入できる場所に魔物が向かうはずが無い。
アルトリネは。
(・・・これは長期戦になりそうですね。・・・もしかしたら、上級魔物もいると考えた方がいいでしょう。)
襲いかかるであろう未来を見ながら生き残る作戦を話し合っていた。