第16話 オークキングとの対決。
Aランクパーティー『麗剣』がオークキングと対峙していた。
彼女らの姿を見て、弓兵と魔術師は巻き込まれることを恐れその場から逃げ出した。・・・他に人がいないことを確認した後、それぞれ無言で武器を構えた。
オークキングもその姿を見て強者と認定し大斧を片手で構えた。
両者睨みをきかせたが、それも長くは続かなかった。・・・ルミリィはスキル`加速`を発動し、目に見えない速度でオークキングの片眼を潰した。・・・オークキングは片手で目を押さえた、そのスキにレオナは土属性の魔術を使い槍の先端に土を集めたその姿はハンマーであった。
レオナは近づき大きく振り上げた。
「岩石鉄槌!!」
叫びながらオークキングの脳天にぶち込んだ。
片膝をついたオークキングにティナは水の魔術を発動し、剣に集約した。
「水圧斬!」
水の剣がオークキングの胸の部分を横一文字に切り裂いた。・・・血が多く噴き出しオークキングは悲鳴を上げた。
そして、トドメに詠唱を終えたミルフィが四属性の魔術を同時に発動。
「炎火球! 風圧斬! 雷撃弾! 土石弾!」
炎が燃え、風が斬り、雷が走り、土が激突した。
勝敗は決した。
彼女たちは騎士のような格好をしているが、騎士みたいに正々堂々と戦うことはない。・・・生き残るための最速最善の手を尽くし、魔物を狩る。・・・それが冒険者だ。
オークキングは片膝をついたまま動かない。
死んだのかと思っていたが息の根が完全に止まっているか確認しないと安心できないそう判断し警戒した。
その判断は正しかった。
突如、燃えながらオークキングは立ち上がり、右片手に大斧を振り払った。
立ち上がりを見たティナ達は、すぐに距離を取った。・・・間一髪、大斧は空振りをし、ティナ達の被害はゼロである。・・・燃えるオークキング、炎の中に二つの目が光ったのが見えた。片眼は確かに潰したはずなのに、ギルド長がオークキングの注意事項で自己治癒能力があることは聞いていたが、あまりにも速すぎる再生力である。
オークキングは、再度大斧を横に振ると同時に雄叫びを上げ炎を消した。
・・・その体にはやけどの部分だけが残り、切り裂いた箇所は直っていた。だが、そのやけども見る見るうちに治り、完全復活した。
・・・その再生力を見たティナ達は。
「全員!再生する前に集中攻撃!出し惜しみ無く力を使います!攻撃開始!」
的確な指示と当然の攻撃手段、これに全員が同意し行動を開始した。
オークキングは咆哮し突進した。・・・狙いはティナ。このパーティーの頭であると判断し攻撃をした。それを見たレオナはティナの前に行き、盾を構えつつ魔術を使った。
「突撃充電!!」
土属性は大地に足がついた状態のとき、自身の体を強化する魔術を使うことが出来る。
但し、溜め込むことが出来るのは一回。・・・しかも、溜め込むとき体に不純物が入った感覚がおき、かなり気持ち悪い気分になる。
だが、レオナはそれを不屈の精神力で耐えた。・・・オークキングが、レオナの姿を見るや、大斧を振り落とした。
それを盾で防いだ。オークキングの圧倒的な力は、弾くことも出来ず、反撃も出来ず、ただ立っているのがやっとであった。
オークキングがレオナに釘付けている間、ルミリィはオークキングの背後に回り、素早い動きで両足を短剣で斬った。・・・だが、これはダメージを与えるものではなく、オークキングの体勢を崩すものであった。
実際、攻撃を受けたオークキングの力は弱まり、盾で少し横にずらすことが出来た。
大斧が地面についたと同時に、レオナは槍を構えた。
「突撃解放!!」
そう叫び槍をオークキングの腹に突き刺した。
そこから溜め込んだ力が一気に解放し、オークキングの体に衝撃を与えた。
レオナはそこから離脱。・・・両膝をついたオークキングにミルフィが水の魔術を発動。
「激水砲!」
水流の如く手の平から発射された水は、オークキングに直撃。・・・それを受けたオークキングは仰向けに倒れた。
そこに、ティナが水の魔術の奥義を発動。
「氷結剣!」
水の魔術は、凝縮すると氷の刃になる。
魔力は通常の二倍消費し、大きさは剣の二倍といった感じであった。・・・その剣を大きく振り落とし、オークキングの首をはねた。
首と胴体は分かれ、完全に死んだ状態と見た目で確認した。
四人は勝利を確信し、安堵の空気に入った。・・・後は、残党を掃討しこの騒乱を終わらせようとティナが指示を出そうとした。
その瞬間、オークキングの体が起き上がった。斬られた首を片手に持って、それを元の位置に置き、傷が塞がっていった。
『麗剣』はあり得ないと思った。
彼女たちは、これまでにも多くの魔物を狩ってきた。・・・治癒力がある魔物との戦いでも対抗策をその場で練り、勝利してきた。冒険者にとっての失敗は`死`を意味する、その為に手段を選ばず徹底的な戦法で勝ち、生き残ってきた。
そんな経験豊富な彼女たちですら目の前の現実にはついていけなかった。
首を斬っても再生する魔物に一度も会っていなかったからだ。・・・そんな呆然としている彼女たちにオークキングは攻撃をした。とっさにレオナが条件反射で前に出て、攻撃を盾で防いだ。・・・しかし、先ほどの魔術で体に上手く力が入らず盾ごと吹き飛ばされた。それを見た他のメンバーはすぐに我に返り、迎撃を開始した。
しかし、先ほどのように動けず、闇雲に近い攻撃をした。・・・オークキングは首元に近付いてきたルミリィを簡単に掴み獲り、そのまま握りしめようとしていた。
「あ!!がぁ!!あっぁぁぁ!」
苦悶の表情と叫び声を上げるルミリィ。
彼女を助けようと魔術を発動するミルフィと剣で攻撃をするために小走りするティナ。・・・その二人を見たオークキングは、手に持っていたルミリィをミルフィに向けて投げ飛ばした。それを見た彼女はとっさに魔術を使うのをやめ、無防備状態で、飛んできたルミリィと激突。・・・二人とも吹き飛ばされ倒れた。
一方、ティナはオークキングの足下に行き、剣で左足に斬撃、斬ることは出来たが、オークキングはそれに意を関せず、左手でティナを払い飛ばした。・・・ティナはとっさに左手でガードしたがその腕は折れ、吹き飛ばされた。
勝敗は決した。・・・レオナは盾を持っていた右側の肩が脱臼しまともに動けない。ルミリィとミルフィはお互いにぶつかり倒れたままひどく咳き込んでいた。・・・ティナは左腕を折れ、苦悶の表情のまま倒れていた。
オークキングは、彼女たちが与えた傷は完全回復し健在であった。彼女たちにとどめを刺そうと行動。まず最初にティナに目を向け大斧を振りかぶった。・・・・それを見た彼女は、ここまでかと諦めたその直後。
突如、ティナから見て左側から大きな炎が直線となってオークキングに直撃。
それを受けたオークキングの体は燃え上がり、火を消そうと体を激しく左右に振っていた。何がおきたのだろうと左を見たティナは、ルミリィとミルフィの後方からやってきた二人を見た。・・・一人は`狂斧のバードス`、もう一人は見たことのない鎧と兜を身につけた男、その兜についた上向き三日月からさながら鬼を連想する姿であった。
私とバードスがオークキングの元に駆けつけた頃、麗剣とオークキングが真っ向勝負を開始する前であった。
それを見た私は。
「今は、加勢するべきではないな。『麗剣』は自分たちだけでオークキングを倒す策を考えているはず、行ったところで邪魔になる。・・・ならば、俺たちは、彼女たちに向かっている魔物共を掃討するとしよう。」
戦況を確認した私は。
『麗剣』のおよそ二百メートル後方から向かってくる魔物計十匹を相手にしようとバードスに提案。
・・・それを聞いたバードスは。
「できれば、オークキングと殺り合いたいが。リーダーはシンスケだからな、わかった、おとなしく従うか。」
かなり不満を抱いた返答だが、従ってくれてありがたい。
私は感謝の意を述べ、魔物共に向かっていった。・・・向かいながら私は思った、この戦いで技名を言うとき英語と日本語を交互に使っていることに。・・・その場の勢いで叫んでいるから無茶苦茶になっている日本語に統一しようと考え、魔物共と戦った。
あっけなく終わった。・・・周りは魔物の死体だらけになり、バードスに次の場所に行こうかと言い出そうとしたとき、後ろから悲鳴とぶつかる音が聞こえた。
すぐに振り返った。・・・『麗剣』が苦戦を強いられていた。リーダーであるティナが単身、切り込んだが吹き飛ばされ見るからに重傷であった。・・・トドメを刺そうとしたオークキングに私は剣を水平にし、炎を宿した。
「炎魔突き!!」
剣の切っ先から炎が直線となってオークキングに向かった。
直撃したオークキングは燃え上がり体を激しく動かしていた。・・・そして、すぐにバードスと共にオークキングのいる場所に向かった。
着いたとき、辺りを見渡した。盾騎士は倒れ、魔術師とくノ一は貝の状態で倒れ、リーダーは左腕を押さえながら両膝をついてこちらに目を向けていた。
・・・すぐにわかった。・・・彼女たちは負けたのだと。
火が消えたオークキングの体はやけどの部分が再生していた。
ギルド長から自己治癒力があると聞いていたがここまでとは、そんなことを考えていた私にバードスは。
「ヌハハハハ! 『麗剣』を倒すとはなぁ、こいつは骨がめちゃくちゃありそうで、楽しめそうだ!!」
この状況で笑うのは不謹慎だぞと、注意をし、バードスは`そりゃ悪かった`と頬を引き尽かせながら言った。
さて、オークキングの体は完全に復活した。
それを見て構えた私にティナは。
「逃げてください! このオークキングは首を切断しても再生する力を持っています。私が何とか時間を稼いでいる間に早く!!」
そう叫ぶティナ。
その情報を聞いた私は、これはかなり手強いと思った。・・・首を斬っても再生するなら生半可な攻撃ではダメだ。一撃、それもかなり強力な力でやらなければ勝てない。・・・そう考えた私は、自分の刀を見てあることを思いついた。
隣にいるバードスに。
「バードス。オーキングの相手をしてくれ。スキルを使ってもいい。俺がとっておきの技で仕留める間時間を稼いでくれ。頼む。」
そう伝えた私にバードスは。
「いいぜぇ!!おまえのとっておきの技を使う時間は稼ぐが。・・・別にあれを倒してもいいんだろう?」
どっかで聞いた台詞言ったバードスに私は。
「ああ、倒してもいいぜ。但し、俺が技を完成したときは叫ぶから絶対に逃げろよ。命の保証はないからな。」
私の大声にバードスは`おうよ`と答えた。
そんなやりとりを見たティナは。
「な!何を言ってるんですか!私が時間を稼ぐから逃げてと言ったじゃないですか!!」
そんな悲痛な叫び声をしたティナに私は。
「うるせぇ!!!お前こそ、そんな怪我で何ができる!!逃げるのはおめぇだ!!とっととその場から離れろ!邪魔だ!!」
あまりにもイラつくことを言ったので、怒鳴り口調で叫んだ。
それを聞いたティナは、呆然とした顔で少し下がった。・・・オークキングは人間のやりとりをタダ黙って見ていた。普通、魔物はこんなことはしない。・・・やはり、少し理性があると判断した方がいい。
かなりの強敵を前に、バードスは。
「いくぜぇ!オークキング!!スキル 狂乱発動!!」
そう叫び、突撃したバードスを迎え撃つオークキング。
そして私は、剣を鞘に収め、刀を両手で構え。
「スキル、物質変換、発動。」
そう静かに唱え、刀に魔力を注いだ。