第153話 偶然の再会。
引洋神社で梵字の書かれた書物を読んでいた。
・・・古い上に梵字で書かれているので読めないと思っていたが、何故か、段々と読めるようになっていった。
あれか?言語機能の力か?
・・・にしては効力が遅い気がするが。まぁいいか、読めればそれでいい。
そう思いながら読んでいると隣から巫女がやって来て。
「・・失礼します。お茶と軽めの昼食になります。・・・随分と熱心に見ているのですね。住職様が見込まれただけはあります。・・力を持つ者として。」
その言葉に反応したが私は。
「・・・ということは、あなたが次期後継者ですかな?」
この質問に巫女は。
「・・・お恥ずかしながらそうです。私は住職の孫であります。・・・おじいさまから聞いております。微力ながらお手伝いをさせていただきます。・・・では失礼します。」
にこやかに答えて去って行った。
私はありがたく思いながら茶とおにぎり三つを食べた。
・・・食べ終わり、再び書物を調べた。
内容は退魔の法や武器付与ができる仕組み。・・・説明文さえも梵字とは。平安の日本はこれが主流だったのか?
・・しばらく読むこと一時間。
住職がやってきて。
「・・どうです。捗っていますかな?」
この質問に私は。
「・・・順調とは言えませんが、ボチボチです。いくつか手帳に書いて実際にしてみようと思います。ただ、知識が半端だと効果が薄いようなので理解しようと必死です。」
半笑いで答えた。
・・・これについては事実。ただ見ただけでは言葉の真意は掴めない。言葉を理解しなければ本質が見えず、何もおきない。何もできない。
・・・極端に言えば英語と同じだ。
文字を見たことがあるとは言え、意味が分からなければ見た意味が無い。
言語機能のおかげで分かるが、真意を知るのに時間が掛かっている。・・・そう思いながら読んでいる。
住職は。
「・・ほっほっほっほ。熱心じゃぁの。・・・所でお主?ワシの孫と身を固める気はないか?」
一服の茶を吹きかけた。
・・危ない危ない。危うく汚す所であった。
私は。
「・・何を言うのですか?あんたは?」
冗談にしては笑えん。
住職は。
「・・いや何。あんたほどの力の持ち主が寺の跡継ぎになれば、次世代の子は強き力を持ったまま生まれ続けるからの。・・ワシにとっても嫌な話だが、家の存続の為にも是非。」
笑いながら聞いてきた。
・・・嫌な話ならするなと言いたい。だが、家とはそういうものだ。
私は。
「・・・悪いけど。あっちでは将来を誓った相手がいるので。」
丁重に断った。
住職は。
「・・・愛人でも良いぞ?・・孫も承知してくれる。・・ほれ。」
そう言って指さす方向に先ほどの巫女さんが障子の影に隠れて聞いていた。
・・・何も言わない辺り正気ということか。
私は。
「・・・住職にも巫女さんにも悪いが。俺は不器用な男だ。」
そう言って書物に目を向けた。
住職は。
「・・そうかぁ。残念じゃのぉ。・・・上手くすれば両手に花なのにぃ~。」
諦めた顔で部屋を出た。
巫女さんも一緒に去って行った。
私は。
「・・ふぅ~~。ティナがいたらどうなっていたことか。」
安堵のため息をついた。
一方。
異世界では。
「・・・へっくしょん!!」
基地の外で剣の稽古をしていたティナはクシャミをした。
・・・いきなりのことにしばし考えて。
「・・・あっちで女性にでも絡まれましたか?・・やっぱりついていけば良かったかな?・・いいえ。シンスケは私一筋。そこは信用しています。・・・でなければあんな事はしませんし。」
赤面しながら俯いた。
しばらくしてから再び稽古に戻った。
地球。
夕方。
寺での書物を全て読み、感じな部分は手帳に写しきった。
私が退出しようとしたとき住職が来て。
「・・おや?もう帰るのか?・・折角だし、夕飯も用意するが?」
この言葉に私は。
「・・いいえ。さすがにそこまで図々しい事はしたくないので。・・・昼食をいただいただけでも気持ちは一杯です。」
さすがに遠慮したい。
住職は。
「・・気にすることもあるまい。言っただろう?現れた時は力を貸す。それが寺の掟であり創始者様の意思だと。」
真剣な顔つきである。
私は。
「・・でしたら、こっちで困ったときになったらその時に力を貸してください。・・・まぁなるべく迷惑は掛けません。」
この言葉に住職は。
「・・ほっほっほっほ。大丈夫じゃ。この辺りは無論。政治家連中も迂闊には手を出さんよ。・・何しろ、あいつらにとってここは重要だからのぉ。・・・ワシの孫の力は占いに特化してのぉ。一ヶ月先の限定だが当る確率は百%。・・・奴らにとっての一ヶ月は充分な時間。おまけに都合の悪いことも結果に出るから口止め料は半端ではないからのぉ。・・・ふっふっふ。」
最後は怪しい笑顔である。
・・・何かやばい寺に来たのかも知れない。
私は。
「・・仏様も許す範囲を考えて生きてください。」
一礼して寺を出た。
しばらく歩きながら考えた。
・・・この梵字をどう活用するか?・・・光石をどうするか?
・・光石。気になって作ってみたら光属性を宿す石。しかし、自然に出来た物で無く人工的に作られたという結果が出た。
こんな物を作れるとしたら光属性を宿した魔術師か錬金術師しかいない。
しかし、あっちでも鉱石の種類や歴史をそれなりに調べたが人工的な石を開発したという記述は無かった。・・・鉱石を使って色んな物を作っているが鉱石そのものを作ったという前例が無い。
・・・これは歴史の裏に触れた気がする。
少し寒気がするが、裏オークションに参加している以上今更である。
そう思っていると後ろに近づく気配を感じた。
「・・これはこれはこんな所で会うとは奇遇ですね?」
振り返ると黒田がいた。
オークションしか会っていない意外な人物との再会に私は。
「・・これはお久しぶりです。私も驚いています。こんな町中で出会うとは。」
一応の社交辞令に黒田は。
「・・ふっふっ。私とて用があれば外出はしますよ。今回はとある人物と会合していましてね。その帰りですよ。まぁ当然、車に乗る所をたまたまあなたを見かけましてね。こうして声を掛けに来た次第です。」
簡易的な説明をした。
私は。
「・・それはわざわざありがとうございます。しかし、偶然会ったという理由で声を掛けに来たわけではありますまい。」
意味深なことを言った。
黒田は。
「・・ふっふっ。ここでは何ですからあちらの喫茶店はどうです?」
そう言って指さしたのは`喫茶 ニャンニャン`。
私は。
「・・店名がいかにもだが。良いのか?」
黒田は店を見た。
しばし考えて。
「・・・・まぁ、私が誘いましたから。」
しどろもどろである。
どうやら知らずに指さしたようだ。・・・笑いを堪えて後に付いていった。
店に入ると。
「・・・いらっしゃいませ。お客様。・・・ニャンニャン♪」
猫耳と猫尻尾を付けたメイドが出迎えた。
・・・予想はしていたが、当たるとは。・・・店の主人の性癖が理解できる。
私は黒田に続いていった。
・・・店内は少し古風の内装、派手な色合いや置物もない。置いてある物は観葉植物と壁に掛けられた草原と海が書かれた二枚の絵。
客はそれほど多くなく、まばらになっていった。
・・取りあえず人が周りにいなさそうな場所に座り、やって来たメイドが。
「・・ご注文は何にしますかニャン?」
接客に黒田は。
「・・ではコーヒーを一つ。あなたは?」
私は。
「・・俺も同じで。」
メイドは`かしこまりましたニャン♪`と言って去って行った。
私は。
「・・こういうご趣味が?」
イヤミの言葉に黒田は。
「・・ふっ。私はどちらかというと犬派です。」
さらっと受け流した。
・・・さすが、裏オークションの支配人。動揺しても頭脳と精神に一切のブレ無し。
コーヒーが二つ置かれ、メイドは再び去って行った。
私は少しすすって。
「・・・それで?わざわざのお誘いの目的は何でしょうか?」
この質問に黒田は。
「・・ふむ。あまり長話はしたくないということですか。・・分かりました。本来であれば次に来たときにでもと思っていました。予定が早まりましたが、単刀直入に言います。・・・私の所で働く気はありませんか?」
怪しい笑みを浮かべた。