第151話 女王の心配。
都市での出来事を聞き、私はそのまま家に向かった。
あそこにいても何も得られない可能性がある。・・・ここは大人しく自分が強くなることのみ考えることにした。
夜。
夕食はオオカミの肉を焼いた簡単な物を食べ終えた。・・時間は二十時。
作業者がもう帰った頃だと思い、転移した。
もし、いた場合は・・・。
地球に到着後、周囲を見渡した。
・・・誰も居ない。よかった。いたら頭を思いっきり殴って記憶喪失にさせようと考えていた。家を見てみると、かなり変わっていた。
壁は壊され、柱と屋根だけが残り、キッチンや風呂場も取り壊され、周囲には新しい木材やコンクリートが置かれていた。
さすがに機械類は置いていないようだ。私はすぐに携帯で検索し、今からでも泊まれる場所を探した。
・・そしたら、ここから一時間の距離に二十四時間やっている健康ランドがある。・・・まさに天の助け。
早速向かうことにした。
車がないので鉄のローラースケートを作り、魔力運転した。・・・幸い、田舎だ。電灯も数カ所にあるだけでほとんど誰も居ない。
私は気兼ねなく進んだ。
一方、王国。
王都。
アルム都市から出発したバードス一行は予定よりも早く到着した。・・・本来なら四日はかかるのだが。
レオナは。
「・・・意外と早く着きましたね。・・・まぁ、道中、魔物の襲撃が無ければこんなものですか。」
安心なのか物足りないのか曖昧な感想である。
レオナの赤ん坊を抱いているミルフィは。
「・・・仕方ありませんよレオナさん。ここ最近、魔物たちが姿を見せないのですから。盗賊の警戒もしましたが、こちらも動き無し。・・・安全ではありますが、異常でもあります。」
忌憚なき感想である。
隣にいるマチルディは。
「当然ね。ここまで全く遭遇しないのは`何かある?`と言っているようなもの。だからこそ、女王様がお呼びになったのでしょう。Aランクである私たちを。」
何かを察したようである。
・・・これについてはここにいる全員も感づいている。何しろ、ここ数日。魔物に関する依頼が全くなく、困惑する日々。
そんな時の呼び出しだ。・・・・何かを掴んだ可能性がある。
門の所に行くと門番が。
「・・・失礼します。Aランク冒険者の`風守`のご一行様でしょうか?」
この質問にバードスは。
「・・あぁ、そうだ。ギルド長より女王様の要請でやって来た。」
ギルド長が`王都に着いたら説明せよ`と言われたので説明した。
門番は誰かと話した後。
「・・お待ちしておりました。・・すぐに玉座の間へ。女王陛下がお待ちです。」
催促の言葉にレオナは。
「・・ちょ、ちょっと待ってください。・・今は夜ですよ。」
今の時間で謁見など聞いたこともない。
門番は。
「・・いえ、大丈夫です。・・女王陛下より`就寝時間以外で来られたのなら通せ`と通達が来ております。」
そう言って指さす方向に馬車が止まっていた。
バードス達は顔を見合わせた。・・・余程のことが起きていると感じたからだ。彼らは馬車に乗り、王城へと向かった。
玉座の間。
明かりがロウソクと外から出る月明かりで照らせた部屋。
・・・本来なら誰も居ない場所。しかし、そこには人影が複数あった。
玉座に座るオリビア女王。・・・隣にはアルフォンス宰相。・・・二人の目の前にはバードス達が立っていた。ちなみに赤ん坊はメイド達が面倒を見ている
女王は。
「・・・今夜はこちらの無理な申し出に付き合わせてすみません。」
そう言って謝った。
レオナは。
「・・いいえ。それほど重要な話だとこちらは思っております。・・・話というのは近頃起きている魔物についてですか?」
この質問に宰相は。
「・・その通りだ。街の情報ではここ数日、魔物が全く姿を見せず、冒険者ならびにギルドが困惑した状況。喜んでいるのは商人ぐらいだ。`護衛費が浮いた`と酒場で大笑いしていた。」
ため息をついた。
その商人はバカだ。・・・突如、魔物が活発化していつも通りになったらその商人の護衛を誰が受ける?
・・・マチルディは。
「・・・質問よろしいでしょうか?・・その状況の中、何故、私たちが王都に呼ばれたのですか?こういう場合は調査を依頼するのではありませんか?」
冒険者としての意見を述べた。
これについてはレオナ達も同意。・・・事前に調査してこそ対応が可能なのだ。バードスは沈黙していた。
宰相は。
「・・無論、調査もおこなったが。結果は空振り。各街や村が襲われたという報告も無い。これについて会議をしたが、実りある意見も進言もなかった。・・・これだからイエスマンは。・・」
最後の部分は誰にも聞こえないように呟いた。
マチルディは少し考えて。
「・・・ということは、私たちが王都にいることは何か重要なことがここにあるということですか?」
ありえる事を言った。
女王は。
「・・・いいえ。この城にも街にも重要な国宝はありますが、あくまでも象徴みたいな物です。凶悪な魔物が封印されている代物はありません。・・・今回の件、何者かの作為的なものを感じるのです。それで、私が攻め込むとしたら何処か?と考えた結果。王都だと考えました。・・国を攻め落とすのなら心臓部。王城のある街を陥落した方が他を制圧するのは楽だからです。・・何しろ、人々の安全かつ拠り所を失ったのです。取り返そうという考えはあまり無いでしょう。」
目をつむりながら予測した。
これを聞いたレオナ達は驚きの顔をしていた。
その時、レオナは。
「・・・女王陛下。そのような事はありません。市民達は皆、陛下を支持しております。過小評価されることはありません。」
弁護を述べた。
・・・これはお世辞では無い。実際、各街や村では女王に対する悪感情は無い。暮らしを良くしようと色々と取り組み、可能な限りの政策をしてくれている。
当然、貴族達の中には不満を持つ奴もいるが、あまりにも支持を多く持っている為、大手を振って言うことはできない。
沈黙かつハイとしか言えなくなった。
女王は。
「・・・ありがとう。・・・さて、話を戻しますが。その為に王都の防衛を強固にしようと考えたのです。あなた達の他にもBランクの方々も来てもらうように要請しています。・・・兵士達ならびに騎士達も用意できる武装はしています。帝国からの技術のおかげで武装が強化していますから。」
安堵の表情である。
各国とのスムーズな交流は緊急事態に強い。
レオナは。
「・・・では私たちの配置も冒険者と同様な場所にですか?」
この質問に宰相は首を横に振り。
「・・いや、君たちには遊撃隊として都市中央の臨時詰め所である宿屋で待機してもらう。有事の際は最も危機的状況に陥っている場所の救援に行って貰う。」
最初の采配にミルフィは。
「・・え?ちょ、ちょっと待って下さい。それは何というか曖昧ではありませんか?王都で一番危険に晒されるのは正面の門ではありませんか?」
これにはマチルディとルミリィハ同意し、レオナはしばし考え、バードスは沈黙していた。
・・・当然の答えである。戦時下で最も狙われるのは入りやすい箇所だ。大軍を引き入れる為だから。
女王は。
「・・勿論、最初はそのつもりでしたか。先ほど言ったとおりこの事態には作為的なものを感じるのです。・・国の外からなら門を固めるのは定石です。何しろ、内側を気にすることはないのですから。・・しかし、国内での事のなら話は別です。」
「・・魔物が姿を見せない以上、何処かに隠れて命令を待っているはずです。とすると、王都でも何かしている可能性があります。念のために厳戒発令ならびに調査をおこなっていますが、私的には遅いと思っています。もしかしたら既に工作が完了しているかも知れません。・・そこで、バードスさん達には臨機応変に対処していただきたいのです。臨時詰め所の近くには抜け道がいくつもあります。そこを通ることで通常よりも早く現場に到着します。」
この説明にミルフィは納得し、マチルディとルミリィも同意、、レオナも頷いた。
バードスは。
「・・・・・あ~~~~。ようは、行けと言われた場所に行って暴れれば、良い、ですよね?」
頭を掻きながらしどろもどろに答えた。
・・・王族の前、無礼な事はできない。しかし、慣れないこと故ギクシャクしている。独り身だったら苦労はしないが、今は妻と子がいる。
迷惑を掛けるわけにはいかない。
女王は。
「・・・え、ええ。まぁ。・・・そんな感じです。」
苦笑いで答えた。
レオナ達は小さいため息をついた。
宰相はどう答えていいか分からない顔である。
地球。
翌朝。
私はマッスル健康ランドで一夜を明けた。
・・・ここは風呂屋と言うよりジムに近い場所だ。トレーニング器具は種類豊富だが、寝る場所が畳と毛布だけとは。
まぁいいか、本来の目的は陰陽道を知ることだからだ。
私は早速、それに相応しい場所に向かった。