第149話 将軍の心中。
勝敗は決した。
・・・リザードマンハンターは大きく仰向けに倒れ込んだ。右腕は斬られ、体には深い傷。闘う所か立ち上がることも不可能だ。
・・・一息入れた瞬間、周りの氷が砕け散った。どうやら時間切れのようだ。
先ほどまでリザードマン達と戦っていた場所にはティナ以外誰も居なかった。
私の姿を見るやティナが近づいて。
「!!シンスケ!・・無事でしたか?!・・どこか怪我は?」
そう言って私の体をジロジロ見る。
私は。
「・・・大丈夫だ。しかし、心配しすぎだ。そんなに見なくても。」
苦笑いの私にティナは。
「・・心配なんです。・・私がやったこととはいえ、目の届かない場所で怪我をされるのは。」
顔を俯いていた。
少し、悲しそうな瞳をしていた。
私は。
「・・すまなかった。・・だけどこれが狩人の性分だ。・・・ティナも分かっているだろう?・・それに俺だって君の怪我を見たくは無い。・・・何かして良いのは俺だけだ。」
そう言って両肩に両手を置いた。
・・・ティナは赤面しながら何か口パクしていた。このままキスでもしそうな空間。
その時、気配がした。・・私たちはすぐに離れた。
やって来たのはメガネを掛け、紫の鎧をきた女騎士。今朝も会っている。
女騎士は。
「・・・ご無事でしたか?!・・生き残った冒険者達は無事確保。・・・治療をしております。・・将軍がお呼びです。すぐにこちらへ。」
この言葉に私は。
「・・・要件は。・・・聞かなくても分かるよ。」
そう言ってため息をついた。
・・・ティナも同様の顔。命令違反の事だろう。
女騎士は。
「・・それは将軍から。」
苦い顔であった。
私たちは基地へと戻った。
・・・基地内は慌ただしい雰囲気であった。リザードマン達による攻撃で大量にあった柵の大半が壊れ、投擲機も全て壊された。更には、前線に出ていた者達が負傷したようだ。
軽傷もいれば重傷もいる。重傷者のほとんどが冒険者だが。
・・・そんな光景を見ながら将軍のいる作戦室に行った。
作戦室。
そこには将軍だけで無く、四人の部隊責任者がいた。
私たちの姿を見た将軍は。
「・・・さて、呼んだのは他でもない。・・・戦場での命令違反について何か言うことはあるか?」
真剣な顔つきである。
他の面々も同様である。あまりに冷たく、息苦しい。・・地球の連中なら卒倒しかねない空気だ。
私は汗を少し垂らして。
「・・・弁明は。・・・ありません。」
間を開けての返答。
・・地球の社会では謝る前に何か言い訳を言う奴が多い。・・私もその一人だ。しかし、この空気はそれを許さない。
ティナは。
「・・・こちらもありません。」
濁すこと無く返答した。
ティナも少し緊張しているようだ。
・・・答えを聞いた将軍は。
「・・・ふぅ~~~。・・・まぁ、今回はバカ連中を助ける為に行動し、その結果、リザードマンハンターを討伐することができたのだ。・・・命令違反はそれで不問にする。」
他の責任者達も同様の顔である。
私は。
「・・お待ちください。いくら上級とは言え、一体だけです。・・他にも数体のリザードマンハンターがいるかもしれません。」
この言葉に将軍は。
「・・現在の所、確認が取れているのは一体だけだ。・・・勿論、複数いることも考慮している。だが、相手の戦力を落とすという意味とこちらの戦意を向上する意味での不問だ。」
これに対してティナは。
「・・・つまり、ここで処罰してしまえば、兵士達の士気に関わるということですか?・・ただでさえ、魔物たちの変化で疲労してる中。・・・ここで厳しいことをするのは得策ではないと。」
考えを言った。
将軍は。
「・・・・そう言うことだ。だからといってこれからもやって良いことにはならない。そこだけは間違わないで欲しい。・・疲れただろう。休むといい。・・もっと働いてもらうからな。」
そう言って後ろの扉が開いた。
ここからは将軍達の時間と言うことか。私たちは一礼して部屋を出た。
将軍は二人が退出したのを確認し。
「・・・初日からの成果を上げてくれるのはいいが。・・もう少し、自重してほしいものだ。大事な戦力を失うところだ。」
ため息をついた。
・・・いくらあの二人が戦い慣れているとは言え、戦場では例え、小石で転んだとしてもそれは致命的かつ最悪の状況だ。
通常の魔物でもあっさりと殺される。・・・そうならない為にも連携は大事なのだ。
将軍は気を取り直して。
「・・・ では、各持ち場の報告をしてもらう。・・東側の報告を。」
一人の責任者が立ち上がり。
「・・東側の被害は多数。・・・魔物たちと交戦し、撤退まで追い詰めました。・・負傷者は数十名。軽傷者ならびに重傷者のみ。・・死者はおりません。」
座り込んだ。
将軍は。
「・・・ご苦労であった。・・・正面側はもう聞いている。・・・バカどもの死亡以外は死者はいなかったとな。・・次は、西側だ。」
一人の責任者が立ち上がった。
「・・・西側の被害は。・・・・ありません。」
汗をハンカチで拭いながら報告した。
これを聞いた責任者達は`えっ?`という表情。
将軍は。
「・・・どういうことだ?・・西側にはファイターモンキーがいたのだろう?」
この質問に責任者は。
「・・それが、現われたのは確かなのですが。・・・何故か、柵や投擲機を見て動揺するような仕草をしており、先制攻撃で投擲を開始しましても全く攻勢に出ることはありませんでした。それでも撤退はせず、その場に留まっておりました。・・・こちらもどうしたらいいのか分からず睨み合いをしていました。・・・しばらくすると、そのまま撤退していきました。」
汗がだらだらと出て、その度に拭いていた。
・・・無理も無い。他の所では激戦だったのに、何故、西側だけ何も無かったのか。・・虚偽の報告をしているのか?と疑いたくなる。
しかし、ここにいる皆は、将軍に忠誠を誓う強者。そのようなことは決してしない。
・・・将軍はしばし考えて。
「・・・ダメだ。何も思いつかない。・・・シェヴル。・・思い当たることは無いか?」
この質問に隣に立つシェヴルは。
「・・・将軍が思いつかないことは私にも分かりません。・・何かを狙っていたとお考えだったのでしょうが。・・この基地内で重要な場所は正面にある物資の一時保管場所ぐらいです。あそこは外部からの支援物資を各部署に配布する為に最初に置かれる場所。・・・しかし、リザードマン達は突撃すること無くその場で応戦していただけです。・・・とすると、他に重要な場所は。・・・・・あっ。」
その時、何かを思い出したような顔であった。
将軍が問い詰めるとシェヴルは。
「・・いえ、西側にしかないと言えば一つだけあります。・・・死骸置き場です。・・今まで討伐した魔物の死骸が置いてあります。」
この言葉に責任者の一人が。
「・・お言葉ですが。死骸を持ち帰って有効に利用するのは人間のみ。魔物では食う以外ありません。ましてや、放置して腐敗までしています。・・それを手に入れるのは。」
苦笑いである。
他の責任者も同様である。彼女自身も分かっている。それがどれだけ意味不明な行動なのか。
しかし、将軍はしばし考えて。
「・・・・いや、可能性としてはあるかもしれない。・・・何しろ、向こうには今までいなかったスケルトンの類いがいる。・・・もし、知能あるスケルトンがいるとすれば。死骸から腐死者として蘇らせることも可能のはずだ。」
その言葉に責任者は。
「・・しかし、そんなことをしなくても魔物たちには充分な戦力があります。ワザワザ死骸を使うまでも。」
この反論に将軍は。
「・・・貴殿の言うとおりだ。そんなことをする意味は無い。・・だが、こちらに対して恐怖を与えるとしたらどうだ?・・・例え、魔物たちを全滅させても、腐死者として復活させることは可能だと。アピールする為だとしたら?・・相手の戦意を削ぐことも戦場では重要な事だ。」
沈黙する空間。
思考する中、将軍は。
(・・・気持ちは分かる。奇襲や不意打ちぐらいならするだろう。しかし、こんなやり方を魔物は絶対にしない。・・・これでは人間では無いか。・・・もしかしたら魔物たちの中に人間がいるということか?・・その可能性がないとは言い切れない。これまでの戦いがそれを証明している。・・・だとすればますます分からない。ここを落として何の意味がある?・・・帝国の守りが無くなるとは言え。あくまでも一つに過ぎない。王都は勿論、ヨルネ様の指揮で各場所に駐屯地を配備されている。・・ハッキリ言えば意味が無い。・・・ダメだ。情報が少なすぎる。ヨルネ様に他を探って欲しいと進言してみるか。)
そう思いながら会議を続けた。
その後、昼頃に増援の兵士とエッジソン隊が到着。再配備がおこなわれた。
しかし、その間に魔物が襲撃することは無かった。
夜。
帝国。王都。
大半の人々が寝静まった時間。・・・空中に一つの影がいた。