第14話 魔物の騒乱。
翌朝、私は起きた。
バードスは未だに寝ていて、腹をかいている。・・・寝相が悪すぎる。このまま寝かすわけにはいかない。
仕事に行かなければいけないのだから、たたき起こすことにした。
「バードス、もう朝だぞ。さっさと起きて支度をしろ。朝飯は用意してやるから。」
そう言って体を思いっきり叩いた。
こんな筋肉質の大男だ、生半可な力では起きない。・・・硬い体に少し手が痛かった。
バードスは半目の寝ぼけ顔で私に目を向け。
「よぉ、シンスケ、おはよ~~、早いな、起きるのは。」
低い声で挨拶してきた。
早いといっても、時間的には七時ちょうど、地球の社会人はとっくに起きて朝飯を食べてる時間だ。
・・・まぁ、この世界には起きる時間が決まっていないから、個々自由といった感じだな。
朝飯は軽めに、固いパンと水、狩人と冒険者の仕事はきついものばかりゆえ食べ過ぎると胃を痛めてしまう。
朝食を終え、出かけることにした。
バードスは、作った装備を着て、私は飾ってあった日本式の装備を着た。それぞれの準備が整った。
私の鎧姿を見たバードスは。
「・・・なんだかな。・・イかつい感じな鎧が装備したら、ますます迫力ある感じになったな。」
そんな感想を述べた。
まぁ、鎧は相手を威圧することにも意味がある代物だからな。・・・師匠が作ってくれた籠手と具足はそのまま身に着け、装備のバランスに若干違和感を感じるが。・・・日本式の鎧を知らない異世界はある意味で好都合であった。
町に入る前に衛兵に呼び止められた。
顔を見せたらすんなり通してもらった。・・・そりゃそうだ。いつもと違う格好すればわからないのも無理はない。・・・ギルド内でも同様のことがおきると考えた。
所が、ギルドの周りが何やら騒がしかった。
冒険者達が外に集まっている。
・・・近くの冒険者に訪ねてみた。
「なんか、ギルド長が重大な話があるとかでみんな外に出てるんだよ。・・ていうかおまえ誰?」
重大な話とは一体何なのか?・・・とりあえず顔を見せ、冒険者を安心させた。
しばらくすると、ギルド長が他の職員と一緒にやってきた。
「今日、ここに集まってもらったのは他でもない。・・・南東方面で、魔物の集団を確認したと昨日報告が上がった。おそらく、『魔物の騒乱』が始まったと予測される。」
ギルド長の言葉に全員がざわめく。
・・『魔物の騒乱』?聞いたことがない。
バードスに聞いてみた。
「確か、二年に一度あると言われている魔物の活発が異常に高いと言われている現象でな、様々な考えはあるが。・・・繁殖期が近いとか、強い魔物が他の魔物を従えて暴れてるとか、その年によって事情が違っていると言われている。・・・まぁいうなれば、魔物の数が多すぎるのを『魔物の騒乱』と言われている。」
なんという年だ。ていうかタイミングがよすぎる。
鎧を着た初日に、初実戦と呼ぶに相応しい戦いがおきるとは、アニメではよくある王道のパターンだが、実際に体験すると嫌な気持ちになる。
・・・隣の戦闘狂はすごい嬉しそうな顔している。
ギルド長は。
「静かにしろ。いきなりだと思っている連中がいるだろうが、前々からの調査報告で、魔物が殺気だっているという報告を複数受けている。・・・そのため、我々ギルドもこの事態を解決するための対策会議を昨日おこなった。」
「・・・そのプランを今から言う、何か質問があるときは、聞いてから受け付けるが手短にな。では、プランを説明する。・・魔物は確認できただけでゴブリンとオークとスライムとアナコンダとオオカミが確認できた。」
「・・E~Dランクは、スライムやオオカミの魔物討伐に当たれ、戦闘に自信があるのならアナコンダやゴブリンと戦ってもよし、但しオークは駄目だ。・・・レベルが違いすぎるからな。・・・逆に戦闘に自信が無いやつは後方で負傷者の救援と補給物資の搬送だ。」
「・・・Cランクの冒険者はオークや未だ確認の取れていない魔物討伐だ。それと、Aランク『麗剣』は、力を温存する形で前戦の指揮を執ってくれ。・・・今回の騒乱は強い魔物がいるという報告を受けた。」
「・・・正体はオークキングだ。・・通常のオークよりもでかく、自己治癒力を持つ魔物だ。こいつの討伐に`麗剣`をぶつける。・・・何か質問はあるか?」
その言葉に、Cランクの冒険者が手を上げた。
「あの~、バードスさんはどうするのですか?Bランクの冒険者でかなり強い人ですけど。」
弱々しい声で聞いてきた冒険者にギルド長は。
「バードスは、何を言っても前戦で戦いたがるし、強い魔物がいればそこに勝手に行く。指示を出すより、遊撃要員として戦わせた方がいい。・・・それに今は、シンスケと組んでいる。万が一の歯止め役が出来たことが幸運だ。シンスケ、バードスの暴走をよろしく・・・あれ?シンスケは?」
そう言ってキョロキョロするギルド長、そうか、鎧を着ているからわからないんだ。
兜を脱いで顔を見せた。
ギルド長は。
「おお、そこにおったか、ていうか何だその鎧?おまえ、今回のことを予測してきてきたのか?」
その答えに私は
「いいえ、新しくできた鎧を着て仕事をしようと来てみたら、今回の騒乱がおきただけです。」
この言葉にギルド長は。
「そうかぁ、タイミングがいいのか悪いのかわからんが。・・・とにかく、バードスのことをよろしくな。それと、おまえも程々にな、冷静なやつが一人でも多くいた方が、戦況で有利に動くことがあるからな。」
「・・・他の者達も同様だ。功績をたてたいとか。英雄になりたいとか。そういう理由で何も考えず突撃したやつは必ず死ぬ。生きてこその宝だというのを改めて認識して行動しろ。」
「・・・もし、この忠告を受けずに勝手な行動をしたやつが死んだとしても、ワシは知らんからな。・・・それだけは覚えておけ。」
最後の言葉を言うと同時に殺気を飛ばしてきた。
中々の殺気だ。・・・年を取っても、その存在感は未だに健在ということか。冒険者達は、一瞬畏縮したが、すぐに気合いを入れた顔になり、直立不動になった。
それを見たギルド長は。
「よし、他に質問もないようだから、早速向かってくれ。・・・ワシおよび職員も補給物資を持って後から行く。それでは諸君の健闘を祈る。・・・・出発!」
その号令とともに冒険者達は出発した。
南東方面、平原と森があるありきたりな場所。
その平原には、今まで見たことがないくらいの魔物数があった。・・・報告にあった魔物はもちろん、他にもでかいカマキリやでかいトカゲ、凶暴な猿もいた。
これらを見たバードスは。
「いいねぇ、今回の騒乱も数が多いぜ、ぞくぞくするなぁ。」
興奮して言ったバードス。
そういえば、二年に一度と言っていたな。てことは、前の騒乱にも参加したのかな聞いてみた。
「ああ、その時はまだDランクでな、しかもタダの繁殖期で、強い魔物はいなかった。・・・精々オークぐらいしか強いやつはいなかった。だが、今回は、強い魔物、オークキングがいるらしいからな、・・・・まだ姿を見せていないが、楽しみは後に取っておくか。」
にひひ、と笑うバードス。
本当に戦いが好きだなと思った。・・しかし、私はこの数を見ても怯えることはなかった。普通はこの数を見れば初心者は二の足を踏むものだ。
実際、E~Dランクの経験が浅い者は怯えた表情をしていた。・・・だが、今はこの落ち着いた自分には感謝だ。
取り乱しては狩人の仕事などできるはずがない。
`麗剣`のリーダー ティナが前に出た。
「これより、魔物討伐を開始する。・・・ギルド長の命により私が指揮を執ります。皆、覚悟はいいですか?」
この言葉に無言で武器を構えた冒険者達。
私とバードスも同じく武器を取り構えた。
それらを見たティナは、長剣を上に掲げた。
「・・・・突撃!!」
この号令とともに冒険者達は雄叫びを上げながら走り出した。
魔物達はこちらを見て、怯えることなく、押さえていた殺気をむき出しにして迎撃に走った。
・・・戦いは一言で言えば激戦であった。
武器や魔術で魔物を狩りまくりる冒険者達。・・・あらゆる手段で獲物をむさぼる魔物。
魔物をかなり殺しまくったと同時にこちらの被害も出ている。負傷者は、後方に待機した者達が運び、治療をしているが、戦線に復帰することはまずない。
そんな考えも目の前の魔物、ゴブリンやでかいトカゲを前にした時点で考えを放棄した。
二刀を構え、まず棍棒で殴りに掛かったゴブリンを躱し一太刀で殺し、トカゲも長い舌を出して横一文字の攻撃がきた。・・・その攻撃を倒れ込む形でしゃがんで躱した。
ジャンプして躱すという手もあるがそれだと体勢が崩しやすく次の攻撃に対処できない。・・・すぐに立ち上がりトカゲの横に向かって走った。
剣に雷を宿し、接触する瞬間。
「雷剣撃!!」
そう叫びトカゲに斬りつけた後、刺した。
斬った傷口に剣を突き刺したと同時に雷がトカゲの全身に行き渡り、悲鳴を上げ倒れ込んだ。・・動けなくなったが念のため刀で首を斬り落とした。
倒した後、さらに魔物がこちらに向かって襲ってきた。
オオカミやアナコンダ、棍棒や石斧を持ったゴブリン、計十匹かそれ以上が殺気だって襲いかかってきた。・・・この数を一々相手にするのは効率が悪すぎる、そう考え、剣を地面に刺し、左手の平を相手に向けた。
そこから炎の玉を宿して。
「燃焼機関銃!」
左手から炎の玉が上下左右にランダムに出てきた。
炎に当たった魔物は燃え上がり倒れた。・・・避けた魔物は次にくる炎を避けきれずに当り燃え上がった。
・・・一通り撃ち終わった後、魔物の死亡を確認し、一段落ついた。
すぐに気を引き締め、バードスを探した。この戦いが始まって間もなくはぐれてしまった。
`探知`を使おうとしたが、聞き覚えのある雄叫びが聞こえたのですぐに向かった。
見つけたときには、バードスの周りは魔物の死骸だらけであった。・・・大斧を派手に振り回し近付いた魔物を複数を一太刀でなぎ払った。
・・・本当にすごいやつと感心したが、バードスの懐に入り込んだゴブリンが石剣で腹に突き刺したが、鉄の腹巻きが防いだ。
それを見たバードスは、ゴブリンの顔を右手でつかみ、握りつぶした。
バードスに近付いた私は。
「バードス無事か?!」
・・・私の姿を見たバードスは。
「おう!平気だぜ!シンスケが作ってくれたこいつのおかげでな、ありがとうよ。いいもんだぜこの鎧は。」
その言葉をいいながら鉄の腹巻きを軽く叩いた。
私はよかったと思った。・・・バードスの装備はあまりにも軽装過ぎるので困っていたところ、昨日の鎧会話がきっかけで作ることが出来たのだから。
そういえばそのきっかけを作ってくれた『麗剣』はどうしているのだろうと考えたが。
・・・魔物が近付いてきたので考えるのをやめた。
一方、`麗剣`は。
前戦で指揮を執りながら、魔物討伐をしていた。・・・魔術師ミルフィはあらゆる魔術を駆使して魔物を討伐していた。
「炎火球! 風圧斬! 雷撃弾!」
三属性の魔術を連続で発動し、次々と当てていった。
斥候ルミリィは短剣を逆さ持ちにして。
「スキル`加速`発動。」
そう呟き、彼女の姿は一瞬にして消え、次に姿を現したのは魔物共の後ろにいた。
彼女と対峙していた魔物は首から血を吹き出し絶命した。
・・・魔物共が、盾騎士レオナに向かって走り出した。
彼女は槍と盾を構え。
「・・・私を簡単に倒せるとは思うなよ。岩石槍激!」
盾を地面につけ、土魔術を発動。
下から無数の土槍がでてきて魔物共を串刺しにした。そこから逃れた三匹のゴブリンは、レオナに棍棒で攻撃してきた。・・・それを涼しい顔で盾で防ぎ、横に薙ぎ払った。倒れたゴブリンを槍で連続刺し、一撃で仕留めた。
リーダー、ティナは。
「右方向にオオカミの群れが突進してきた。防御陣形を取れ!体勢を崩したのち一斉攻撃開始!」
的確な指示の元、冒険者達を動かし、見事、損害無く魔物を掃討した。
・・・近付いてきたゴブリンやアナコンダ、計五匹を彼女は。
「水圧斬!」
剣に水の魔術を付加、凝縮した水は一種の刃物と化し、その長さも伸ばした。
横薙ぎの一閃で蹴散らした。
それを見た冒険者達は。
「やはりすごい、あの美しさと強さはまさに戦乙女だ。」
「あの方がいればこの争乱もすぐに収まる。我らが美しい戦乙女に勝利を。」
「ティナ様の美しさに泥を塗る魔物共を駆逐しろ!」
`おお`と雄叫びを上げて冒険者達は戦った。
それを見たティナは、冒険者達がやる気になって戦う姿に複雑な気持ちになっていた。
「・・・やる気があるのはいいのですが。このスキルの影響で高揚していると思うと、彼らを操ってる感じで嫌な気持ちになってしまう。」
リーダー、ティナのスキルは`八面玲瓏`という常時発動型。
このスキルは、清らかに澄み切った雰囲気と誰とでも円満、巧妙に付き合うことができることから味方に対して、身体能力と気力が上昇、彼女を守るという気持ちが強ければ強いほど、その気力はさらに上昇する。
・・・但し、このスキルは洗脳に近いので本人の意思とは無関係に彼女のことを好きになってしまう傾向がある。又、同性には身体能力は上がるが、気力が上がることはない。
彼女を守るという気持ちを抱いても、同性であるため気力上昇の対象にはならない。
追記として、所有者本人に対しては能力が上昇することはなく、このスキルをオン/オフという形でコントロールすることができない。
ティナがこのスキルを望んだのは、一言で言えばモテなかったからだ。
・・・卓越した剣術と水魔術の力、そして指揮官としての統率力、どれをとっても優秀な人材である彼女がモテなかったのは、その強さ故に。・・・異性からはその高潔さと戦闘力から戦乙女として崇拝され、同性からは`お姉様`と呼ばれ慕われている。
しかし、崇拝と好意は違う。
崇拝は神の信仰に近いものであり、神に好意を抱く人間はいないからだ。・・・だからこそ、ティナは望んだ。崇拝の対象ではなく、私のことを好きになってという気持ちを。
その結果、得たスキルが`八面玲瓏`である。
このスキルを習得してからは、異性からは崇拝ではなく、好意を抱かれたが。・・・その全てが、スキルによる影響であり、彼女のことをスキル抜きで好意を抱く異性がいなかった。
彼女は後悔した。・・・このスキルのせいで人の心を操っているという罪悪感を持ってしまったからだ。習得した当初は、ハルグ王国でAランクの冒険者として活動していた。
だが、この場所に居続けると、王子又は王様と時々謁見しているティナがこのスキルによって二人を洗脳してしまうと考え、王都レドルムを出た。
・・・仲間達もその考えに同調し、共に行動した。
その際、パーティー名も`白き剣`から、`麗剣`に変えた。・・・パーティー名を変えるときにはギルドで改名の手続きを行う必要があり、それを済ませ、地方都市アルムに向かった。
ここで、細々と冒険者稼業を続け、王都には二度と戻らないと決めたからだ。
パーティー名を変えたのは、己への後悔と戒めの為であった。・・・ちなみに彼女たちについているカキツバタの絵の花は、幸せは必ず来るという花言葉に少しの希望を抱いて付けてもらった意匠であった。・・・・本物の恋がくることを期待して。
こうして、戦況はやや冒険者側が有利になっていった。
平原の奥にある森の中から二つの赤い瞳が睨んでいた。