第133話 裏オークション その三。
裏オークションビル前の黒服に案内されて中に入った。
・・・一年前の最初の頃。
自分で行っていたのに案内されるとはかなり待遇が良すぎる。
・・・そう思っていると待機室に到着。
相変わらずの良すぎる接待というべきか。周りの出品者達も遠慮無くお菓子やジュースを飲食している。・・・・私たちもかなり寛いだ。
菓子の種類も今までのコンビニやスーパーで見かける物だけでなく高級品が置かれていた。しかも、その表札には`高待遇者のみ`と書かれていた。私は高待遇者なので普通に食べていた。・・・他の待遇者は私を含め三人ほどいるようだ。・・・他の二人はビジネススーツを着ており、見た感じ良い素材を使っている。
その中の一人が。
「・・・初めまして。名前は明かせませんが。とりあえず、佐々木と名乗らせていただきます。・・失礼ですが、あなたは毛皮を提供されている方ですか?」
調査している顔であった。
・・・どこかの会社のスパイか?私は。
「・・・まぁそんな所でしょうか。・・・私もとりあえずは河合と名乗らせていただきます。・・それで?毛皮が何か?」
この質問に佐々木は。
「・・・大したことではありません。あれだけの品質をどこで入手。というかどうやって行っているのか聞きたいと思いまして。」
こいつも気付いてる?私は。
「・・・人の秘密に入り込むのは良くありませんな。・・そちらは何を提供して?」
教える気はないが、相手が何をしているのかを知りたいものだ。
佐々木は。
「・・これは失礼。確かにマナーがなっていませんでした。・・私の方はIT関連を専門にしています。・・・内容はご想像にお任せします。」
悪い笑顔で答えた。
・・・正直、怪しい。ITといえばインターネットを中心とした技術を開発している。ハードウェアから通信サービスまで。・・今の時代では主流であり、最も表の社会では儲かる職業だ。
こんな裏オークションとは無縁のはず。・・・可能性は二つ。どこからかハッキングした技術を売る為。もう一つは調査をする為。・・・前者はともかく後者は普通はない。
・・・何故なら、調査と言っても何を調べるというのだ?IT関連が調査するのは家庭とか会社の情報が漏れていないかを調べるのが普通だ。
それなのにこんな非公開オークションで私に接触してきた。しかも毛皮を売っているのを承知で。・・・つまり、高待遇者になるまで提供したのは私に会う為。浅い待遇者よりも怪しくしない為か。・・・随分と気長なことで。
私は。
「・・・そうですか。・・・大変ですね。そんな業界からの物を売るとは。・・・余程、お金に困っているので?」
少し挑発した。
相手が乗るかどうかで何とか無く分かる事がある。
佐々木は。
「・・ははっ。お恥ずかしながら。この業界も厳しくなりまして、新製品を開発してもボツだと破棄される事が多いのです。・・・だからこそこういう場所でないと売れないのです。」
苦笑いで答えた。
・・しかし、その目は笑っていない。冷たい感じである。真っ当な職で無い事は確かである。
私は。
「・・・そうですか。私も似たような者です。制度や税金。売る物の種類など。兎に角、厳しくて商売になりません。表の販売はそれ相応の会社に任せて私は金が貰えれば充分。・・・こういう場所の方が儲かりますからな。」
半笑いで答えた。
・・・勿論、ウソである。私のやっている事を考えれば表の会社に優遇されるのは異世界の事を世間に広めると同義だと考えてる。・・・目立つのも嫌いだし。
佐々木は。
「・・そうですか。どの業界も大変ですね。」
その時である。
奥の扉が開き、黒田が現われたのは。
「・・皆様。本日はようこそ。今宵のオークションも是非、盛り上げてください。では・・・」
説明が始まった。
・・・毎回聞いているので分かっているが、新規の者がチラホラいる。支配人も大変である。
私達は今回、何もない。
ゴリラの死骸を提供しているのは黒田も知っているのだから。・・・私の出番が来たので奥に入っていった。
黒田は。
「・・ようこそ。品物についてはすでに提供されていますので、番号札をお渡しします。・・・今夜も素晴らしい日になりそうです。」
札を渡しながらニヤニヤしていた。
・・・今夜はかなり荒れそうだな。そして、新たな札が配られ、オークションが始まった。
私は十二番。相変わらずの真ん中である。
司会者は。
「・・・皆様。本日のオークションに来ていただきありがとうございます。今宵は素晴らしい日です。誰もが予想できない奇想天外な品がありますので。どうぞ、ごゆるりとご堪能ください。」
ざわめきが響いた。
・・・客達は何が出てくるのか楽しみという感じだが、中には内容を知っているような顔があった。それでも笑っているという事は、他の客達がどんな表情するのか見物するという感じだ。
司会者の前にクマの置物が置かれて。
「・・では、一品目。・・これは鎌倉時代に作られたとされるクマの置物です。作った人物は丹治久友という大仏造りに携わったとされる鋳物師の作品です。・・・有名な人ではありませんが、腕前は確かとされています。・・それでは一万からスタート。」
知らない名である。
・・・大仏は知っているが創作者は知らない。後で調べてみるか。・・・そう思っているともう終わった。落札は五万。・・・随分と安いな。・・それとも温存しているのか?オークションは順調に進んだ。
新作のソフトウェア。・・・会社の二重帳簿。・・・新型のマッサージ機器の設計図。
・・・犯罪の証拠品やまともそうな品。裏オークションならではの品々である。そして、十二番が登場の時。
カーテンが突然閉じた。
客達が動揺していると司会者は。
「・・落ち着いてください。次の品はあまりにも大きく、有り得ない物ゆえに準備に時間が掛かりますので隠させていただきました。・・・準備が終わったようです。それではご覧あれ!!」
その叫びと同時にカーテンが勢いよく開いた。
・・そこに現われたのはゴリラの剥製である。だが、通常よりもやや大きく、黒い毛皮で覆われ、屈強の筋肉。何よりも注目は腕が四本ある事。
・・・客達は。
「・・なんだあれ?ゴリラ?・・にしては大きいし。あの腕は?」
「・・・信じられない。・・オオカミやワニの素材だけでも驚いたのに、これは反則よ。」
「・・噂は本当という事か?・・・異世界が存在するというのは?」
ガヤガヤと騒いでいた。
・・・一人の声を聞いたとき。異世界の事が噂になっていると確信した。まぁあれだけ有り得ない物を提供し続けば嫌でも理解されるのは当然。
・・知られたくない思いで裏の世界に足を踏み入れたのに結局はバレるのか。
・・しかし、表で有名になるよりはマシか。ここでは個人の秘密は守られるのが鉄則なのだから。
司会者は。
「・・お気持ちは分かりますが、静粛にお願いします。このゴリラの剥製には他にも驚く事があります。・・こちらをご覧下さい。」
そう言ってステージから出てきたのは大がかりな機械を持ってきた黒服達。
ゴリラの剥製の左右に機械を設置、まるでビームを発射するような装置である。
司会者は。
「・・この機械は十万ボルトほどの電流を流す装置です。今から、ゴリラの剥製に電気を流します。・・・通常であれば十万ボルトを浴びれば焦げて燃えます。」
その言葉と同時に機械のスイッチを入れた。
`バチバチ`と電気が迸り、ゴリラの剥製に直撃。かなりの光と音が会場を包んだ。客達は予め、黒服達が用意してきたゴーグルと耳栓を装備し、見守った。
電流が止むと。・・ゴリラの剥製には何も変化がなかった。
司会者は。
「・・・ご覧の通りです。このゴリラの皮膚と毛皮は耐電圧に優れており、調査の結果、百万ボルトの電圧にも耐えられます。また、ゴリラの筋肉質、爪や牙は従来の物より高い品質を持っております。これらを解析すれば更なる発展が得られる事は間違いありません。・・それでは一万からスタート。」
私は感心した。
そこまで調べきるとは信頼こそが絶対の裏社会の真面目さというか慎重さというか。表の社会で生きる不正や手抜きをする連中に見習わせたい。・・・だが、失敗すれば死ぬ。
そんな残酷な生活よりマシかも知れない。・・・結局、どっちが正しいのか分からない。
そんな事を考えていると会場では。
「・・三百万!」
「・・五百万!」
「・・八百万!」
かなりのハイペースで進んでいた。
そんなに欲しいとは。・・技術の発展と利益向上の執念。恐るべし。
・・競りの金額は一千万を超え、二千万も超えた。客達の声も徐々に少なくなっていった。
・・・そして。
「・・三千万!!」
「・・・・三千十万!!」
「・・・三千二十万!!」
三千万を突破。
客の声も残り三人だけ。かなりの金持ちのようだ。
この三人は三千万から一気に上げていき。
「・・・四千万!!」
「・・・四千百十万!!」
二人だけの対決となった。
両者の位置はVIP席。離れているがかなり睨み合っていった。
わずかな金額の競り勝負。
「・・・四千百十三万!!」
この声を最後に聞こえなくなった。
勝利を確信したその時。
「・・・・・・・四千百二十万!!」
飛んだ金額を提示。
・・・競っていた相手は悔しい表情を浮かべながら沈黙した。
司会者は周囲を見渡し。
「・・・ゴリラの剥製は、四千百二十万で落札です!!」
終りの声と同時に喝采の拍手が満ちあふれた。
・・今までこんなことはなかったが、二人の健闘にどこか打たれたのだろう。最高の音が鳴り響いた。
・・そこからの品々は普通で、金額も最高で三十万で終わった。
オークションは無事に終了。客達は退場していった。
しばらくすると黒田が現われ。
「・・・皆様。本日はありがとうございました。・・これからそれぞれの落札価格の五%を引いた金額をお渡しします。・・・番号を呼ばれた方から順に入ってください。」
そう言って黒田は奥に戻った。
出品者達はお金を貰って帰って行った。私たちは一番最後に入った。
ケースの中には大量のお金が入っており、黒田は。
「・・・こちらが今回の品の落札価格、三千九百六十四万になります。・・・今後とも是非、このような品をよろしくお願いします。」
とびきりの笑顔で言ってきた。
私は。
「・・・できたらな。・・今度は毛皮か革を持ってきます。」
普通の笑顔で答えた。
・・・この場合は下手に偉そうな態度を取るのは相手を挑発しているようなもの。この関係は良好のままにしたい。
かと言って無理なことはしない。
そういう意味を含めての返事に黒田は。
「・・勿論です。毛皮も革も大好評です。・・・いくら電脳時代でも生きていくにはそれ相応の服と日常品が絶対必須ですので。・・・またのご利用をお待ちしております。」
この言葉に私は。
「・・・はい。また出品させていただきます。」
返し言葉を述べて退出した。
ビルの外に出た私たちはそのまま帰宅したかったが。・・・どこからか視線を感じた。
私は。
「・・・ティナ。・・・少し寄り道しよう。」
この言葉にティナは頷いた。