第130話 地球の改革商品。
私たちは帝国で修行をしていた。
・・・と言っても魔物を狩ったり、店で買った鉱石で武器や防具を作ったり、手に入れた魔石を色々と工夫して道具や装備品を作ったりと。・・・できる範囲の事をしていた。
地球でも相変わらずの裏オークションに出品する生活。
オオカミとクマの毛皮やワニとアナコンダの革は大好評。
今まで知らなかったが競り落とされた品々は専門機関で調査がおこなわれ、元にした製品の数々が世に出ていた。
・・衣類、・・鞄類、・・靴類、・・敷物類。・・・生活する上で重要な部分で活躍。
使用した人々は。
「・・この靴を買ってから足への負担が軽くなったよ。壊れにくいから工事現場でも重宝しているよ」
「・・この鞄は実に良い。軽いのに頑丈でちょっとの事では壊れないし。何よりも、前にたき火に近すぎて激しい火花が突然来てね。燃えるかと思ったけど。・・・燃えるどころか焦げ跡も一切無い。すごいわよこれ。」
「・・・このコートは温かくて寒い日に出かける用事には必ず着けている。しかも、どんな素材で作られているのか、破けにくいんだよ。・・・この間、包丁を持った通り魔が斬りかかってきた時、とっさにコートでガードしたら全く斬れていない。通り魔は変な顔をした後、刺してきたけどコートに穴は開かなかった。・・そいつもすぐに捕まったけど。これがなかったら死んでたよ。」
「・・このカーペットはすごいんだよ。汚れが付着してもすぐに拭けて新品同様。うちで飼っている猫が引っ掻いても傷一つ無い。・・おまけに巻いた状態で運んだ時はすごく軽かった。何なんだこれ?って本気で思ったよ。」
つぶやきがネット上で広がっていた。
・・・・実際、通り魔に襲われた事はニュースで報道されていた。
犯人も`刺したはずなのに何ともないなんて、あのコートは防刃か防弾チョッキか?`と証言していた。・・・これを聞いた人々はコートを買いに殺到。
値段は多少張るが、長い事使う事と命が助かるのなら安いと思ったらしい。
当然ながら警察や自衛隊でも購入していた。・・・コートというよりその素材で作った防弾チョッキを企業に依頼する形で。
・・こうして私が持ち込んだ異世界の物が地球で活躍する事になった。
この間、裏オークションに来たとき、黒田が。
「・・あなたのおかげでオークションは大盛況。・・遠くからワザワザ来てくださる方々もいらっしゃるほどに。・・・どうです?今度は生きた物を出品しては?」
すでに気付いた黒田に私は。
「・・・そんな事をして、管理できるのですか?ここの常識が通用するとは思えません。脱走したらここ潰れるかも知れませんよ?」
少し脅してみた。
黒田は勿論、背後の黒服達も息を呑んだ。
・・しばらくして黒田は。
「・・そうですね。我々がいかに完璧な管理方法をしても通用するかは疑問でしたね。失礼、今の発言は忘れてください。・・・できるのでしたら、死骸を持ってきても大丈夫です。運ぶ際は我々が手伝います。」
私は少し考えて。
「・・・ではその時にでも。」
断言はせずに帰宅した。
死骸か。・・・持ってきた物は店で加工して貰った革。中身は私とティナが三食なり、保存食なりで使っている。
・・・魔石。あれは魔力を持った人だからこそ価値があり、それ以外にはただの美しい宝石。・・・となれば、魔石以外を持って行った方がいいのかもしれない。
この考えにティナは。
「・・問題はないと思います。向こうが要求しているのなら、管理方法とか確立していると考えるべきです。・・生きているならまだしも死んでいるのなら大丈夫です。何かあっても自己責任ではありませんか?」
淡々と述べた。
何か冷静というか冷淡というか。
・・・そう言うわけで私は地球では絶対に見かけない魔物を探す事にした。
結構居るのだが、ゴブリンやオークでは何かありきたりな気がする。・・・もう少し印象が強い魔物でもいない物か。こんな事を考える辺り、余裕があるのかそれともバレたから開き直っているのか。
・・・しばらくすると帝国で全長二百センチの四本腕のゴリラを見つけた。
印象が強い。・・強すぎる。私は剣を抜き、突撃した。ティナも剣を抜き遠くから支援してくれる。
ゴリラは私の姿を見ると雷を全身に纏った。・・雷の魔石を持っている。私は剣に火を纏わせ、`雷人招来`で身体強化した。
両者の距離が近づくとゴリラは右腕の下部分で殴ってきた。
私はそれを余裕で躱す。・・・地面に激突した拳は激しい稲妻を迸りながら破壊した。・・一発でも食らえば即死だ。
ゴリラは続けて左腕の下部分を殴ってきた。
私は懐に入って躱した。・・・かなり危険な場所だが、離れすぎると上部分の両腕の攻撃がくる可能性が高い。・・ならば、攻撃しにくい場所に向かえば良い。
私はゴリラの腹に剣を突き刺す同時に爆発。
教皇との一戦で学んだ爆発技。・・・遠距離ならともかく近距離での使用はかなり怖い。だが、対策さえすれば問題ない。
着ている装備は耐熱に優れ、爆発する瞬間、左腕で顔面を防いだ。
・・・ゴリラは悲鳴を上げた。・・・私はすぐにその場から離脱。
追い打ちをかけようにも今回は傷をあまりつけたくない。爆発も小規模で怯ませるくらいである。ゴリラはすぐに体勢を立て直し上部分の両腕の手をお互いに掴んだ。
その姿はプロレス技の一つダブルスレッジハンマーだ。
私は更に後方に飛んだ。振り落とされた両腕は先ほどの稲妻とは比べられないほど激しく、破壊力も高かった。
・・・私は後方に目を向けた。ティナも分かってくれたのか頷いた。
私は。
「・・・炎魔剣!!」
炎が円を描いてゴリラを囲った。
ゴリラは周囲を見渡していると。
「・・激水砲!!」
ティナの技が炸裂した。
激流の水を見たゴリラは逃げようとしたが周囲を炎が囲って逃げられない。・・・ゴリラは為す術無く洪水の餌食になった。勢いのまま押され、壁に激突し、悶絶した。
私は剣に魔力を込め、意識を取り戻す前に心臓目掛けて突き刺した。
・・・絶命したゴリラを見た私は。
「・・・さてと、後は運ぶだけだ。」
荷車に乗せ始めた。
重い。重すぎる。・・・だが、ずぶ濡れだから雷の強化は使えない。`物質変換`で大地を鉄に変えて操り、クレーンのように荷車に積み込んだ。
何とか地球に持ち帰れたゴリラを見た私は。
「・・・さすがに家まで来させる訳にはいかないな。・・夜に別の場所で連絡するか。」
そう考えた。
・・・その時、ふと家を見た。見た目は勿論、中身も古い。老朽化していてもおかしくない。建て直す気はないが修善はした方がいい。
・・・幸い、金はかなりある。
今までのと合わせると一億は超えている。・・・私は近々業者を呼ぼうと考えた。
そして、夜。
ティナに留守番を頼んで私は人気が無い夜道に荷車で移動。・・・家からだいぶ離れ、都会から近いが人が来そうにない廃工場に入った。
私はここに来る前に公衆電話に場所と時間を指名した。
しばらくすると大型のトラックと複数のバンが来た。
バンから何人かの黒服が現われ、その中に黒田がいた。
「・・お待たせしました。早速、拝見させていただきたい。」
かなり嬉しそうである。
私は頷いて荷車のゴリラを見せた。・・・黒服達は開いた口が塞がらないのか呆然としていた。
黒田も同様だがすぐに気を取り直して。
「・・・これはこれは素晴らしいです。・・・早速、運ばせていただきます。オークションの開催は十四日後ですので、用事があるのでしたら、受け取りは後日来ていただいても構いません。・・・運ぶぞ。」
黒服達に命令を下した。
我に返った黒服達はゴリラを総出でトラックに詰め込んだ。・・・屈強な大人三十人でも運ぶのがキツいので一緒に手伝った。
・・・積み終えた後は私以外、全員かなりの疲労をしていた。
そして、彼らはそのまま廃工場を後にした。・・ゴリラにはすでに雷の魔石は抜いている。少し傷は付いたが、あれだけの存在だ。小さな傷等どうでもいいだろう。
こうして狩人としての仕事も順調に捗った。
冒険者としての仕事もした。
帝国で周辺調査や商人の護衛依頼。・・・国境線では魔物たちの動きが活発になり戦いが再び起こった。兵士達は勿論、エッジソン隊も参戦。
しかし、魔物たちは学習したのかエッジソン隊に簡単にやられる事無く、被害を出していた。
・・・これには私たちも参戦。強くなるのに絶好の機会。
・・だが、日帰りの戦いの上、ギルドからの依頼は不定期。効率が悪すぎる。・・・他に良い場所はないか王国のギルドと両方調べた。
その時、ある依頼が王国にあった。
・・依頼内容は`遺跡調査`。
近年、見つかったとされている遺跡を調べて発見したら持ち帰るという依頼が貴族からきたのだ。
・・私は。
「・・貴族なら専用の兵士がいるだろうに。・・なんでワザワザ?」
この言葉にティナは。
「・・・無理だからでしょう。遺跡に住む魔物たちは強いですから。・・共和国の遺跡と同じだと思います。」
そう答えた。
共和国の遺跡。・・・過去の偉人が住んでいた場所。と言う事はここも似たような何かが居るという事か。
・・私は。
「・・折角だし、受けようか。気になるしな。」
ティナも同意してくれた。
依頼を受けた私たちは王都から北北東にある場所。馬でも三日はかかる。私たちは鉄荷車で移動した。
・・旅の道中に私は。
「・・・しかし、何で今になって調査を?・・最近ならともかく、近年というと最低でも一年前には知っていた事になる。・・強いからという理由で断念したのなら分かるが、再び調査する理由は一体?」
この疑問にティナは考えて。
「・・おそらくは何かを見つけて自慢したいのでしょう?・・・貴族は妙な事で見栄を張りますから。」
呆れた回答であった。
私は。
「・・・だが、ギルドに依頼した時点で自慢も何もないと思うが。」
ティナはさらに呆れて。
「・・献上された時点で自分の物。例え、依頼を出しても成功するか分からない。・・・そんな貴重な品々を自慢したいと思うのは収集家としての性格なのでしょう。・・・依頼主の名前もその家の息子のようですし。」
なんて言ったら良いのか分からない。
自慢したいが危険な所には行かずに他人に任せ。手に入れて渡されただけの物をまるで自分が取ってきたように自慢する。・・・考えがよく分からん。
まぁ、安全で快適で金持ちの考えなんぞ庶民に分かるわけ無いか。
・・・私はただ強くなる。それだけだ。
旅をしている間、野盗が襲ってきたが全て返り討ちにした。
・・・そして目的地に到着した。