第124話 アルトリネ対アレイスター。
私は中を見て驚いた。
・・ここまでの研究設備と薬の材料が揃っている。
地球でもここまで投資している国は中々ない。・・・何故なら、国にとって利益にならない事に金を使う事は無い。金が増える事以外に興味が無いのだ。・・・国民の安全とか保障とかそんな事を真剣に考える政治家が果たして何人居る事やら。
・・・話は逸れたが、ここまでの設備にどれだけ資金を投入し、どれだけ搾り取っていたのかが充分に分かるくらいだ。
私は。
「・・さてと、スキルを使うとするか。・・`探知`発動。」
周囲の状況が頭の中に入っていった。
研究室の隣に部屋はあるようだ。・・・私は扉の前に来たがそこは壁であり、扉は無かった。隠し扉という事はどこかにスイッチがあるはず。・・・私は周囲を見渡した。
机の上には資料や薬や実験道具ばかり、しかもかなり乱雑に置かれている。・・引き出しの類いも無く、それ以外に目立つ物と言えば巨大なフラスコのみ。
とすると壁のどこかにスイッチがあると考えるのが妥当。
壁を見渡しているとティナが。
「・・・スイッチと言いましても。壁にある物と言えば飾られている絵だけでしょう?」
そう言って絵の前に立っていた。
確かに研究室にある一枚の絵、書かれているのはでかい木が一本そびえ立つように描かれているだけ。・・研究室には合わない場違いな絵。
私は。
「・・う~~~ん。普通に考えて、絵をどかして、そこに変な赤いスイッチがあって、押せば開く。・・なんて古典的な仕掛けのはずが。」
言いながら絵をどかし、スイッチを押した瞬間、壁が横開きに開いた。
あまりの単純な仕掛けに脱力した。・・考えてみればこの世界は中世に近い時代感。帝国の技術がすごかったから忘れていた。
・・開いた扉に騎士達は警戒しながら入っていった。
すると騎士達は入り口辺りで呆然と立ち尽くすのみで奥には進んでいない。・・私は嫌な予感をしつつ中を覗いた。
そこはある意味地獄絵図のような光景である。
・・・無数にある牢獄、檻の前には刻まれ、焼かれた死体が乱雑に置かれていた。・・檻の奥は暗くてよく見えないが腐臭がかなり漂っていた。・・正直、これ以上見ていいものでは無いが。ここに証拠が隠されている可能性が高い。
私は。
「・・俺が調べようか?」
この言葉に分隊長らしき騎士は正気を取り戻し。
「・・いいえ。これは私たちの仕事です。・・貴殿はここにいてください。」
そう言って騎士達に命令を出し、行動した。
テキパキと動いているようだが、後ろめたさというか後悔の感情がヘルム越しで伝わってきた。・・そんな中、一人の騎士が牢屋の中に入り、突如、大声を上げて泣き出した。
困惑する私に近くに居た騎士は。
「・・貴殿も知っているとは思うが、アルトリネ団長を陥れようとした騎士がいてな。・・その者は隊に入ってまだ一週間くらいの新人で、真面目で努力家な青年だった。泣いている者は新人の教育係でまるで弟ができたようだと。酒の席で言っていた。・・そんな新人が団長を陥れ、挙げ句の果てには森の中で死んだなど。・・・到底、信じられる話では無かった。」
その説明に私は。
「・・一つ、いいでしょうか?捕縛しようと動いたと聞きますが、もしかして、・・」
続きを言う前に騎士は。
「・・ああ、動いたのは近衛騎士だ。」
少し怒気を込めて宣言した。
納得した。・・あいつらなら教皇の命でどんな汚い仕事もやる。・・ここに新人騎士がいるのなら。おそらく、秘密裏に捕縛し、研究室で非道な実験の道具にされた。
表向きには犯罪者として逃亡し、死亡した。
・・それくらいのでっち上げは簡単だ。相手が権力の最高責任者なら。
・・そう思っていると研究室に慌てて入ってくる騎士が。
「・・す、すみません!応援をお願いします。・・至急、教皇の間に来てください。!!!」
大声で叫んでいた。何が起きたのか?
時は少しだけ遡る。
教皇の間で対峙するアルトリネ率いる騎士団十名と教皇アレイスター一人。
・・・十対一。・・しかも十人は手練れの騎士でアルトリネも歴戦の騎士。・・勝負は見えていた。しかし、騎士達並びにアルトリネの表情は険しかった。
何故なら、彼女たちは教皇の実力を寝物語として聞いていたからだ。
暗がりでよく見えなかったが改めてかの姿を見た。・・・白いマントを羽織り、ミスリルとオリハルコンで作られた白銀の鎧を身につけ、頭には金でできた輪っかが着けらており中央には赤い宝石が輝いていた。
・・教皇アレイスター。
若かり頃は騎士団長として数々の武功を上げてきた実戦派の騎士。・・中でも一番印象深い話が、帝国の皇帝ディオンとの壮絶な戦いの日々。
かの皇帝は聖槍グングニルを手に、侵攻していた。
・・・教会に進軍したときはアレイスターが自ら最前線に立ち、ディオンと一騎打ちをしていた。
決闘は凄まじく、辺り一面が火の海となり、大地は竜巻が抉ったように穴が開き、無数の斬撃の跡が周囲に残されていた。
当時の騎士団や帝国の兵士達も別で戦う事はせず、ただ見守っていただけだという。
・・しかし、その戦いも帝国の北方から魔物が侵攻してきたという理由で中断し、帝国の侵攻は止まった。・・アレイスターはその功績で大司祭にまで上り詰めた。
その後、皇帝が自らのおこないを謝罪し、和平交渉に持ち込んだとき自ら使者となり、進めてきた。その結果、互いに完全修復とまではいかないが交流できるまでの関係となった。その功績から先代教皇の死後、新たな教皇として君臨した。
アルトリネは。
「・・一ついいでしょうか?・・何故このような事を?貴方様は何よりもこの国を、平和を愛していたのではないのですか?」
この疑問に教皇は。
「・・・確かに愛していた。若い頃は民に尽くす事こそが騎士の本望だと。大司祭、教皇の地位になっても同じだと思った。・・しかし、年を取るごとにこう考えた。・・`これが俺の人生か?`とな。・・そう思った時、俺は自分のバカさ加減に嫌気が差した。これだけの力がありながら他人の為に使う?・・何とも馬鹿らしく愚かな生き方をしたもんだと。」
この言葉にアルトリネは。
「・・愚かな生き方?」
怒気を込めた言葉に教皇は。
「・・あぁ愚かさ!!力ってのは自分の為に使うもんだ!!他人の為?国の為?くだらん。くだらなすぎる!!・・ああ!こう思うとあの時、帝国のディオンに協力しておけば良かった!!そうすれば、大陸全ては俺とディオンで独占できたってのに!!やり直しができるならしたいよ!!本当!!!」
この独白にアルトリネは。
「・・教皇。・・いいえ、アレイスター。・・・これ以上の問答は不要のようですね。・・全員!その者を捕えよ!!」
この号令と共に騎士達は突撃した。
騎士団全員の顔は怒り心頭。・・・アレイスターがこんな男だったことに対する失望が前面に出ていた。
アレイスターは。
「・・ふっ。スキル`加速`。」
呟いた瞬間、その場から消えた。
・・・騎士達が周囲を見渡したその時、アレイスターは騎士団の後ろにいた。・・背後に感じる気配に気付いた騎士達が振り向いた瞬間、全員の首が吹き飛んだ。
血飛沫が噴射し、さながら血の噴水の如く。・・・騎士達は全員、絶命した。
その光景を見たアルトリネは。
「・・君、すぐにここから去り、残りのチームに伝えよ。・・`教会から脱出せよ`と。」
その言葉を聞いた後方にいる騎士は。
「!!アルトリネ様!それは?!」
何か言おうとしたときアルトリネが。
「行きなさい!!早く!!!」
怒鳴り声に反応し、騎士は走って行った。
一部始終見ていたアレイスターは。
「・・逃げないのか?・・それとも、諦めて俺の女になるか?」
この言葉にアルトリネは。
「・・どちらでもありません。あなたを捕縛する。・・ただ、それだけです。」
そう言って剣を構えるアルトリネ。
・・彼女自身も分かっている。アレイスターの力の方が上だという事に。しかし、負けるわけにはいかない。
アレイスターの目的。教会の完全なる支配。
・・・若返った姿を民衆に見せ、神の奇跡が舞い降りたと豪語し、自分への支持を盤石なものにする。最終的には他国に干渉、即ち戦争を起こそうとしてる。・・・当初は理由は不明だったが、今の話からするにただの独占の可能性が高い。・・・させるわけにはいかない。
そう思い、アルトリネは。
「・・スキル`猛進`!!」
スキルを発動。見えない壁が彼女を覆い、突進する。それを見たアレイスターは。
「・・炎よ。剣に宿りて敵を討て!」
上段構えに上げた剣から炎が蛇の如く纏わり付き、業火を纏った。
アレイスターは突進してくるアルトリネを正面から迎え撃った。・・激突する両者。止められたことに若干驚くアルトリネだが、それでも止まらずに押し続けた。
アレイスターは余裕の表情を浮かべていたが。
「・・・面倒だ。・・爆発剣!。」
炎の剣が突如爆発した。
・・爆風でアルトリネは吹き飛ばされた。床に転がりながらも体勢を立て直した。幸い、`猛進`の壁により、ダメージはなかった。・・黒煙が晴れていき、無表情なアレイスターが立っていた。しかも無傷。
至近距離からの爆発に耐える。・・・剣の効力かそれとも別か?いずれにしても相手が健在である事に変わりは無い。
アルトリネは姿勢を正し、今度はスキルを使わずに突撃した。・・同じ事をやっても意味は無い。ならば、戦法を変えるだけである。
右横薙ぎからの攻撃にアレイスターは受け止めた。`肉体向上`で力一杯の攻撃を相手は片手で受け止め、受け流した。・・そこからアレイスターの剣が返す刀の如く、アルトリネに向かってきた。
・・・しかし、アルトリネにはスキル`予知`がある。五秒ほど先の未来が見えるだけだが、戦闘において五秒は大きなアドバンテージである。・・・最小の動きで躱した。剣が頭をギリギリで通過、数本の髪が宙を舞う。
通り過ぎた事を感じたアルトリネは左拳をアレイスターの腹にぶち込んだ。
少しだけ後方に飛ばされるアレイスターだったが、体勢が崩される事無く床を滑るように下がった。
距離を取る事ができたアルトリネは。
「・・光羽剣!」
光の魔術を発動。
剣に光が纏い、光剣と化した。・・・もはや、出し惜しみは無用。生きたまま捕える事が難しなった以上。・・殺す気でいかないと勝てない。
アレイスターは。
「・・ふっ。炎よ、纏え。」
再び、炎の剣を作り出した。
そして、激突した。・・・互いの剣が縦横無尽に交差していった。攻防は凄まじく、受け止めたり、流したりと決定打が決まる事無く応酬していった。何度剣同士がぶつかり合ったか分からない。
その時、アルトリネは。
「・・発光!!」
左手から光が発した。
これに攻撃力は無い。だが、相手の目をくらませる事はできる。
・・以前、シンスケに光の魔術について説明したとき。
「・・攻撃系ばかりですな。・・光なのだから相手を怯ませる方法がありますよ。」
そう言って教えてくれた技である。
正直、疑問だった。確かに眩しいが、それほど効果があるとはは思えなかった。・・・しかし、実際に何度か魔物相手にやっていく内にバカにできないと自覚した。
いきなりの光にアレイスターの攻撃が止んだ。
アルトリネは勝機と捉え。
「・・光羽乱斬!!」
輝きが入り乱れる無数の斬撃。
この前にはどんな相手であろうと切り刻まれる。・・・そう思っていた。しかし、アレイスターは違った。
アルトリネの攻撃が始まる前に。
「・・スキル`召喚`。」
形勢逆転の言葉が響いた。
騎士の緊迫した報告に私たちは走った。
もはや、騎士団のみ解決とかそんな事を言っている場合ではない。・・・走る事十分ぐらいで最上階の教皇の間付近の階段に到着。・・・全員がほとんど息切れの状態、呼吸を整えて走りを再開した。
・・扉が開いている教皇の間。
だが、何の音もなかった。静けさが支配する空間。・・そこにあったのは、地に伏し、倒れているアルトリネであった。