第115話 解体屋と孤児院。
オークションは無事に終わり、私は資金を貰った。
二千四百九十八万から手数料が引かれて、二千三百七十三万千円といった所である。
その帰り道。予想通りと思えば良いのか、チンピラが十人囲んできた。
その内の一人が。
「よぅよぅ。兄ちゃん?・・・大事そうにアタッシュケース持っているようだが、いい稼ぎしたのか?・・危ないから、俺たちが預かってやるよ~~。・・勿論、預けた依頼料として全額貰うがな。」
下卑た笑いを上げた。
・・アホらしい。要はカツアゲしますと言っているようなものだ。
・・もう一人が。
「・・それと、そこの綺麗な姉ちゃんも預かってやるぜ~~~?・・たっぷりと楽しめそうだ。」
舌なめずりして言った。
・・ティナは呆れ顔でため息をつき、私は何の感情もなく目の前のチンピラをぶん殴った。・・そいつは飛ばされ、だいたい五メートルぐらいで地面に落ちた。
・・起き上がらないが体はビクついている。・・・生きているようだ。
それを見たチンピラは。
「・・テメェ~~~。ふざけやがって~~~。・・やっちまえ!!!」
叫んだと同時に一斉に襲いかかってきた。
・・私とティナは素手で相手をした。・・結果は分かりきっていた。
スキルも魔術も無く、ろくに体を鍛えていないチンピラ十人がきても相手にならない。・・・全員気絶し、路地裏のゴミ捨て場に放置した。
・・・歩きながらティナは。
「・・・大丈夫ですか?・・警察が来る可能性が。・・」
その続きを言う前に私は。
「・・・問題ないよ。相手はこの辺りの不良ども。警察が逮捕するのはあいつら。・・・仮にオークションの事を知っていてももみ消すだろう。・・何しろ、この辺りで開いているのだから。・・黙認しているのだろう。」
そう答えた。
・・・高級ビルでおこなわれている事を警察が知らない可能性は低い。ならば、手を組んで見逃す代わりにいくらか裏金を貰っているだろう。
・・・人間の組織に絶対的な正義は存在しない。
私たちは帰宅した。
翌朝。
・・・朝のニュースを見たが、恐喝の疑いでチンピラが十人逮捕したという報道が流れた。・・・もみ消すと言うより前科か最近起こした犯罪で落ち着いたのか?
そう思いながら、食事を終えた。
・・その後、魔方陣で異世界に行き、転移魔方陣で帝国に向かった。・・・今回は昨日聞いた例の解体屋の逮捕、その詳細を知る為に。
・・目的の場所に向かうと小さい看板は無く、ただの空き家になっていた。
向かいの武器屋で話を聞こうと思ったがこっちも閉鎖していた。・・どうなっているのか分からず悩んでいると。
「・・おおう、お主はこの間の若造じゃ無いか。」
片手に酒瓶を持って現れたドワーフのルルドであった。
その姿を見た私は。
「・・・こんな朝っぱらか酒か?・・・休みなんですか?」
この疑問にルルドは。
「・・何言ってやがる!!・・こんなの酔いの内に入るか!!・・酒呑んでなきゃ良い仕事はできねぇんだぜ?」
怒り顔で答えた。
・・ティナは小さな声で。
「・・ドワーフは基本、酒しか飲まないのです。・・大量に飲んでも全然酔わないのです。」
補足してくれた。
そんな会話しているとルルドは。
「・・所でお主ら、個々に何のようだ?・・・ここの主は夜逃げしたって言うのに。」
その言葉に私は。
「・・夜逃げ?!・・・一体に何をして?」
この疑問にルルドは。
「・・・何だ知らんのか?・・この向かいの解体屋と結託して高そうな魔石を取り出して、安物の魔石に変えて冒険者に渡していたという話。・・・何でも、武器屋の主が向かいの解体屋が`気難しく職人気質`だと言って冒険者に`性格は難しいが腕は良いのか?`と思い込ませているようだ。・・・冒険者はそういう話には興味を持つからな。」
言いながら酒を飲んだ。
・・・成る程、最初に来たとき、あの解体屋について説明したから親切心で言っているのかと思えばそういう魂胆とは。
・・・私は。
「・・?ということはあの門番も協力者なのか?」
この言葉にルルドは。
「・・?門番?そんな話は聞かんな。・・何だ?知っているのかこの店?」
事の経緯を私は説明した。
終えた後、ルルドは酒を飲んで。
「・・成る程な。・・ここを使ったのか。・・まぁ持ち込んだのがフレイムアリゲーターで良かったな。・・あれはそんなに魔石は大きくないからな。」
すこし笑顔で言った。・・まぁ良かったと取るべきか。ティナは。
「・・しかし、武器屋は捕まらずに逃げるとは。・・・一体?」
この疑問にルルドは。
「・・発覚したのは夜だ。・・ある冒険者が自分が狩った魔物の魔石が価値があると聞いて、持ち続けようとしたが酒場で飲みすぎて金が無くなってな。・・・代わりに魔石を売ろうとしたが安物だと言われたらしい。・・それで衛兵に通報。解体屋に家宅捜査している最中に武器屋は逃げたって話だ。・・・悪運が強いって事だろう。」
酒瓶をからになった。
確かにその通りである。夜中、衛兵が向かいの店になだれ込んだらバレたと思うのが普通だ。だが、早々に逃れたあたり。・・・発覚されるのは時間の問題だと思っていたのだろう。
用意周到すぎるな。
・・事情を知った私たちはその場を後にした。
ついでに門番が務めている場所に向かった。朝入ったのは別の門だから。・・そこに行くとあの時の衛兵がいなかった。
聞いてみると。
「・・ああ、あいつか。・・何でも気にしていた解体屋が詐欺をしていたと聞いてショックを受けてな。三日間ぐらいの有給休暇を取っている。・・・今頃、ベッドで寝転んでるんじゃねぇか?・・・あいつ、メンタル弱いから。」
呆れ顔で答えた。
・・どうやらナイーブな性格のようだ。疑いすぎであった。
私たちはそこを後にし、街を散策した。
・・その足で孤児院に向かった。
鰹節の作りは順調かを確かめに到着したとき、私たちの姿を見た子供達が駆け寄ってきた。
「・・あ、お兄ちゃん。綺麗なお姉ちゃん。・・・教えてくれたかつおぶし?・・作るのを手伝ってくれている人がいるの。」
嬉しそうに言った。
・・あれの手伝い?・・何か怪しい。私たちは作業場に向かった。
するとそこに居たのは城の料理長であった。
私達の姿を見た料理長は。
「・・・おや?君たちか。・・・この鰹節をここで作っていると聞いてな。少し手伝っている。・・無論、レシピを盗むつもりはない。できたら買い上げようとしている。」
笑顔で答えた。
・・・まぁ、そうだろうな。ここはヨルネ皇帝が運営している場所。事情も知っているだろう。
しかし、料理長自ら出向くとは余程気に入ったのか?鰹節。・・・日本ではなじみ深い食品だがこれ程までに真剣な人は私が知る限りでは初めてである。
・・・後は、少しでも孤児院の役に立ちたい思っている可能性もあるか。
・・私は。
「・・鰹節を使ったレシピ。いくつか教えましょうか?」
この言葉に料理長は。
「・・・遠慮すると言いたい所だが、私の知らない料理を知っているのなら基本だけでもいい。教えてくれ。」
真剣な顔で答えたのでいくつか教えた。
・・うどんや野菜のおひたしといった出汁を使った数々の料理を教えた。作り方自体は簡単でこの世界でも手に入る食材である。
・・鰹節をふりかける料理もあるが、問題がある。
・・食感だ。
鰹節を削った物はまるで紙を食べている感覚で、下手をすると口の上にへばりつく事がある。・・私は問題ないが、それを貴族や王族ならば問題がある。
人前で大口を開けて取るなど恥ずかしい事この上ない。
故に教える気にはなれない。
・・料理長はそれらを食した後。
「・・ありがとう。・・おかげで言い料理案が浮かべそうだ。」
お礼を言って城に戻った。
・・かなり急いで行くとはそうまでして試したい事でもあったのか?そう思いながら孤児院で少しだけ過ごした。
・・・そこから先の時間は、特に変わった事も無く狩人の生活をした。
・・・この時まで、私とティナは厄介ごとに巻き込まれる事を知らなかった。