第109話 先手必勝。
翌朝。頭が痛い起床である。
酒場でラム酒を飲み過ぎたのか?だが、三杯しか飲んでいなかったはずだが。・・そんな疑問をしたが、隣で寝るティナの姿を見て吹っ飛んだ。
・・・緑の鎧を着て、両手両足を縛られた状態で寝ていた。
・・昨日の夜、やったのか?・・覚えがない。
ティナの拘束を解いて、私は洗面台に向かった。・・しばらくするとティナが食堂に来た。
私は。
「・・・夕べ、何があったのだ?」
恐る恐る言う私にティナは。
「・・・覚えてないのですか?・・・あんなに激しかったのに。」
そう言いながら右手を頬に付け、少し赤面していた。
まさか、一線を越えたのか?酔った勢いで純潔を?
・・・・そう思った時、ティナは。
「・・・ふふっ。・・冗談ですよ。夜はいつものプレイをして、そのまま寝ました。」
ほくそ笑みながら言った。
・・私は安堵した。夜の営みはしたいが、酔った状態でしたとあってはあまりにも虚しすぎる。
・・・一息入れた私は。
「・・それならよかった。こんな形でお前の初めては奪いたくない。」
そう言って食事の用意をした。
・・・軽めのパンとスープを食べ、装備を整えて出かけた。特にやることはない。・・・この間手に入れた`フレイムアリゲーター`の革を数日後に開催される闇オークションに持っていくだけである。
・・しばらく歩くと街の中が騒がしかった。
立ち聞きすると。
「・・聞いたか?各国から使節団が到着したってよ。」
「・・あぁ知ってる。帝国との親睦を深めようと来たらしいぜ?」
「・・しかし、タイミングがいいよな~~ぁ。帝国が困っている時にやって来たのだから。」
「・・案外、知ってて来たんじゃねぇか?・・・どこに情報が漏れているか分からないんだから。」
・・一つの話題で持ちきりである。
・・・使節団か。・・確かにタイミングが良すぎる。復興はある程度終わったのは外側の話。
内側では物資の不足やケガ人の多さなど。長期的に掛かる物事がある。
そんな中、来た使節団。・・何かの目的、例えば、物資を優遇する代わりにこちらの要求を呑んで貰うような。昼ドラの展開が起こる可能性が高い。
そう思っていると。
「・・おい!・・大変だ!・・使節団代表には各国の王族が来たそうだ!」
「・・マジかよ?!・・教会からも枢機卿が来たとか?」
「・・それが、教皇自らだと。」
「・・とんでもねぇな。・・・何が起きようとしているんだ?」
最新情報に驚愕していた。
私も驚いている。本来なら貴族が来るはずなのに王族が来るとは。・・重要な要件があるのか?
そう思っていた時私は。
「・・・ティナ。ヤバい予感がする。・・・国から離れた方がいいか?」
少し怯える私にティナは。
「・・だいたい分かります。今回のことでまたヨルネ皇帝か将軍が依頼してくると?・・・それならば、今すぐ、ギルドの依頼を受けましょう。・・別の依頼を受けている最中なら後から来る指名の依頼を逃れることができます。」
ティナも同意してくれた。
・・・王族のことに関わるのはご免だ。・・私は狩人の生活がしたい。・・・二人は頷き、すぐにギルドに向かった。
・・ギルドに到着して中に入った。
それなりに冒険者はいるがのんびりとしている。重大な話はまだ無いようだ。・・私はボードに向かい、適当な依頼を探した。
・・魔物退治はあるが、それは除外した。・・・見つけたのは周辺の調査。
魔物の種類や数を把握する仕事。・・私は受け付けに向かい、依頼を受ける申告をした。
・・受付嬢は。
「・・・あの、Aランクの貴方様が受けるには低すぎると思いますが?」
困惑する受付嬢に私は。
「・・依頼があると言うことは困っていると言うことだ。・・・それなのにランクがどうのこうので選ぶなど、俺は嫌だ。」
早口で説明した。
・・少し焦ってミスをしたが、疑われてはいないようだ。
受付嬢は、何故か少し涙目になって。
「・・・ぐすっ。・・・分かりました。ではお願いします。」
何故か、ハンカチで目を拭きながら発行書を渡した。
・・よく分からんがこれで仕事に行ける。私たちは早足でギルドを出た。
・・・ギルド内。
受付嬢の隣にいたもう一人の受付嬢は。
「・・・すごい方ですね。」
感想を述べる受付嬢に、涙目の受付嬢は。
「・・えぇ。近頃の冒険者は金の多さや受けるには低レベルなど、何様の態度で仕事をするばかり。依頼を出した人達の気持ちなんて、全然分かってない。・・・なのに、あの人はAランクなのに簡単な依頼を受けてくれる。・・素晴らしいお方です。」
涙を流しながら語った。
・・・受け付け場にいた職員全員。あの冒険者を称え、語り継ごうと心に誓った。
・・・シンスケが知らない所で起きた。・・はた迷惑な話であった。
発行書を手に、私たちは門に向かった。
準備とか必要な調査だが、事は一刻を争う。
正門に到着し、門兵に見せたら。
「・・・・確かに、ではお気を付けて。」
敬礼して通してくれた。
・・・どうやら手は回っていないようだ。・・・このまま王都を離れ、明日に帰れるように調査をすることにした。
王城。玉座の間。
新皇帝ヨルネは困惑していた。
各国から来た使節団。・・・事前に聞かされいたので準備はできていた。問題は、王族と教皇が自ら来たこと。・・さすがに知り得ない情報であった。
今は、長旅の疲れを癒やして貰うために客室で寛いで貰っている。
・・・歓迎パーティーは予定通りおこなわれる。彼のおかげで珍しい食品、鰹節を用いて料理の味は進歩している。・・後は、王族達が満足してくれれば問題ないが、来た理由は今後の交渉だろう。
今の帝国の情勢をどこまで知っているのかは分からないが困っていることまでは知っているはず。そこをつけ込んで要求してくるだろう。
・・特に教会辺りが。
そうなるとこちらも受け身で対応は悪手。
・・・もし、そんなことをすれば帝国は輸入よりも輸出の方が多くなり、貧困の道筋を辿ってしまう。・・ここは虚勢でも強気な態度で臨まねば未来はない。
・・考えていた時にヨルネは。
「・・・また、あの二人に依頼を出した方がいいのかな?」
この呟きに近くに居た将軍は。
「・・難しいですね。・・・料理が成功したからといって、外交も成功するとは限りません。ましてや、王国も関わるとなれば、かの二人が帝国の為に知恵を出してくれるか。」
難しい顔で答えた。
二人が王国のAランク冒険者なのは確実。であればパーティーでの交渉は不向きだろう。帝国に肩入れしすぎて王国が黙っているとは思えん。
・・Aランクは国が認めた冒険者。
・・・国を裏切るような行動は避けたいはず。例え、王国から出る時、称号を返還していたとしても。
その時、騎士が玉座の間に入ってきた。
「・・失礼します。正門からの伝令が入っております。」
そう言って将軍に報告書を渡した。
将軍はそれを受け取った。
「ご苦労であった。下がって良い。」
労いの言葉を言った。
騎士は敬礼し、退出。
報告書を見た将軍は。
「・・・皇帝。二人はギルドの依頼で王都を出たようです。」
報告を聞いたヨルネは。
「・・・先手を打たれたということね。・・・街では噂になっていますからね。・・聞いた時、私が依頼するかもと考え、脱出したのでしょう。」
ほくそ笑みながら呟いた。
・・本来であれば、王族に対する不敬罪になるが、気にしていないようだ。
将軍は。
「・・・これでは、依頼できませんね。・・・かくなる上は私たちで対処するしかありません。」
真面目な顔の将軍にヨルネは。
「・・そうね。・・・帝国の未来は私が守ります。」
覚悟を決めた。
夜。王城のダンスホール。
煌びやかに光るホールには、あらゆる料理と高級酒が並び隅っこの方では音楽団によるバイオリン演奏が流れていた。壁の周りには白のマントを羽織った騎士達が整列していた。
・・・各国の使節団の護衛騎士や従者が思い思いのまま料理を楽しみ、曲に耳を傾けていた。踊りに興じる者はいないのは不向きだから。
・・・・ホールの中央では皇帝ヨルネが二国の代表者達と挨拶していた。
「・・・お初にお目に掛かります。・・私はハルグ王国の代表、オリビア第一王女でございます。」
「・・・お初にお目に掛かります。・・私はレティル共和国の代表、ルストルフォ第一王子にございます。」
「・・・お初にお目に掛かります。・・私はこの度、デオム帝国の新皇帝になりました。ヨルネと申します。・・・遠い所お越しいただき、ありがとうございます。」
三者挨拶を交わした。
ここから始まるは国の王族同士による話し合い。・・・未来を担う若者達の知恵が存分に試される。
・・・そして、ホールにはいるが。新皇帝に挨拶していない教皇は何を考えているのか。