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狩人の変わった生活  作者: 満たされたい心
第三章 狩人とは
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第108話 即位式。






 夕方。皇帝の即位式が開催された。


 ・・豪華絢爛に飾られた玉座の間には貴族達が参列し、両側の壁には騎士達が白いマントを羽織って待機していた。

 その中に私とティナがいた。


 同じように白いマントを羽織って。・・貴族達がヒソヒソと話をしているが私はティナとは話さない。こんな場面で護衛が雑談する等、言語道断である。


 ・・・そんな中、玉座の門が開かれた。


 現れたのは豪華な赤いマントに煌びやかな銀のドレス。金の王冠と金の錫杖で王としての威厳と存在感を出していた。・・何よりもヨルネ王女様の顔、無表情の中に強い意志を感じる瞳。目撃した人達は誰もが口をつぐんだ。


 玉座の前で歩みを止めると、そこに居た将軍が。


「・・・これより、即位式を始めます。・・尚、本来この場には宰相が立ち会うことになっておりますが。・・・現在、その職を持つ者がおりません故に私が代行させていただきます。意義のある者がおりますか?」


 この言葉に反対の意見はなかった。


 ・・・国を救った英雄以外にこの大役をこなす者だと存在しない。


 周囲を見渡した将軍は。


「・・・王女ヨルネ様。・・・王冠を携わり、玉座に座りし時、皇帝として君臨することに一切の後悔はありませんか?」


 皇帝になる為の大事な過程。


 ・・皇帝に就けばその生涯を全て帝国に捧げるという意味合い。


 ヨルネ王女は。


「・・・この身は既に国の物。・・・そこに一切の迷いはありません。」


 強気瞳で宣言した。


 将軍は。


「・・・ヨルネ王女様が皇帝になることに意義ある者はおるか?・・・無ければ沈黙を持って答えるべし。」


 周囲を見渡し、貴族達に告げた。


 その言葉に誰一人意見を言う者はいなかった。


 ・・将軍はヨルネ王女様に顔を向け。


「・・・玉座に座り、新たなる宣言を。」


 そう言ってその場から二,三歩下がって道を空けた。


 ・・・ヨルネ王女様は一歩一歩進み。


 そして玉座に座った。


「・・・皆。・・・私が皇帝としてこの国を軍事的では無く、人々の役に立つ生産国としてここに宣言する!!」


 声高らかに新たなる誓い、帝国の行く末を宣言した。


 ・・拍手喝采が響いた。・・・貴族達のみで騎士達は誰一人おこなっていない。・・・護衛は場を盛り上げるのでは無く、守る為にある。

 つまり、ただ突っ立っていれば良いということか。


 私とティナは少し退屈を感じた。・・何も事件が起きないのは良いことだが体を動かすのが基本の私たちにはあくびを耐えるのに精一杯である。


 ・・・こうして、即位式は終了し、貴族達は玉座の間を退出、食事会が開かれるホールに向かった。


 騎士達は貴族達の最後に退出。・・残ったのは私とティナ、将軍と新皇帝のヨルネのみ。


 退出しようとした時。


「・・・シンスケ殿並びにティナ嬢。こちらに来てください。」


 将軍が呼び止めた。


 私たちは顔を見合わせ、玉座の前に移動した。


 皇帝ヨルネは。


「・・本日は私の依頼を受けていただきありがとうございます。・・・お二人には少々心苦しい思いをされたとか。」


 申し訳なさそうに言う。


 騎士達の態度のことを言っているのか。


 私は気にする素振りを見せずに。


「・・いえ。・・部外者が神聖な儀式に参加するのは場違いです。・・彼らの気持ちは最もです。」


 とりあえず、当たり障りのない言葉を言った。


 このタイプの人は思い詰めると全部自分のせいと考え、ノイローゼになる可能性が高い。・・・丁寧に気にすることのない言葉で言い含める。・・これしかない。


 皇帝ヨルネは。


「・・・ありがとうございます。少しホッとしました。・・・この後ですが、食事会の護衛はありませんが、参加されますか?」


 この質問に私とティナは示し合わせて。


「・・折角のお誘いですが。冒険者の依頼はここまでですのでご遠慮させていただきます。」

「・・私も同じです。・・この場に参加できただけでも名誉に感じております。」


 丁寧にお断りした。


 これ以上はさすがにキツい。食事会といっても和気あいあいの宴会ではない。腹黒い貴族達の会話や探り合いの場であることは間違いなし。


 皇帝ヨルネは。


「・・そうですか。・・いいえ、無理を言って申し訳ありません。報酬は将軍から受け取ってください。」


 言葉と同時に将軍は二つの小袋を渡した。


 少し中身を見たら小金貨がかなり入っていた。


 私は。


「・・・毎度、ありがとうございました。・・・それではこれにて。」


 羽織っていたマントを返し、オジキをして玉座の間を退出した。



 廊下を歩きながら私は。


「・・・ふぅ~~~~。ようやく終わった~~~。・・・帰ったらさっさと寝るか。」


 右肩をトントンと叩きながら仕事帰りのおっさんの台詞を言った。

 

 ティナは。


「・・・あまり気を抜かないでください。ここは王城。どこに騎士達がいるか分からないのですよ。」


 そう言いながら少し周りを見た。


 警戒する顔。未だに騎士達の不満は残っていると示唆していた。確かに今の言葉は場合によっては不敬罪に当るかも知れない。


 何しろ即位式の護衛という名誉ある仕事を嫌な風に言ったのだから。


 ・・・・・実際、嫌だが。





 皇帝サイド。


 食事会がおこなわれるダンスホールには貴族達が団らんをしていた。


 蝶よ花よという雰囲気では無く、これから先の皇帝に取り入って何をするのかを話し合っていた。・・・その周りには様々な料理が運ばれていた。机はあるが椅子がない、立食パーティーである。


 ・・・会話を一時止め、食事を始める貴族達。


 そんな中、ある貴族が。


「・・・これは何という料理ですか?」


 指さしたのは綺麗な盛り付けをしたスープである。


 料理人は。


「・・これは水団という料理です。・・・皇帝陛下の即位式に目新しさをと将軍閣下からのご指示の元、考案された物です。」


 笑顔で説明をした。


 貴族は疑いながらも。


「・・では、それを一つ。」


 料理人に指示した。


 ・・・手早く小鉢に盛り付けをし、貴族に渡した。一口食べた直後。・・・貴族は無言のまま食べ続けた。・・・食べ終わった後、料理人に`おかわりを`と少し恥ずかしげに催促した。


 ・・・新たに追加された小鉢を手に、貴族は自分がいた場所に戻り、他の貴族達に料理を紹介した。


 それに興味を持った貴族達は次々と水団の列に並び、食べていた。


 それを遠目で見ていた将軍は。


「・・どうやら成功したようですね。」


 この呟きに隣にいた皇帝ヨルネは。


「・・そのようですね。・・・本当に彼には感謝しかありません。」


 笑顔で成り行きを見ていた。


 ・・・帝国の未来を少しでも良い方向に。・・亡き父が抱いていた理想を実現する為の第一歩だと。






 王都。


 私たちは夜中の街を歩いていた。


 賑やかな笑い声。往来する人々の無邪気な笑顔。・・・誰もがヨルネ様が皇帝になったことを祝福しているようである。


 私は。


「・・・折角だ。どこかの店で飯を食っていくか。」


 街の雰囲気に飲まれてティナに相談した。


「・・良いですね。ならあそこの酒場はどうです。」


 目の前にある店を指さした。


 私は頷き、入店した。その騒ぎはうるさいものだが不快と感じるほどのものでもない。・・要するに宴会の雰囲気である。


 ・・私たちは席に着き、メニューを見た。


「・・さてと、何するかな?・・・このゴブガエルの唐揚げとフレイムアリゲーターの炒め物は旨いのか?」


 この質問にティナは。


「・・美味しいと思いますよ。・・私も食べたことはありませんが、不味いものを出す店はありませんよ。」


 常識的な回答である。


 私は定員に唐揚げと炒め物、それとラム酒を注文した。


 しばらく待つこと二十分。・・・料理が到着。


 カエルの唐揚げは思っていた以上のグロテスクでは無かった。ちゃんと切り分けていて鶏の唐揚げに近かった。ワニの炒め物は肉にニラともやしとニンニクが入っていた。

 ティナと乾杯し、食べることにした。


 カエルは弾力があり、噛むほどに肉汁が出る。中々に病みつきなる。・・・炒め物は肉は少々硬いが噛みきれない程ではない、味付けはどちらというとニラレバ炒めに近いといった感じである。


 食べながら私は。


「・・これだけ美味しいものがあるのに、どうして俺に料理の依頼を?」


 この疑問にティナは。


「・・庶民の料理だからでしょうか。・・・貴族が食べるにはイメージが悪いと思っているのでしょう。・・・私にとっては変な拘りです。」


 少し呆れ顔で答えた。


 ・・それについては私も同意だ。どんな料理でも旨ければいいと思うのだが、この辺りは庶民と貴族の考え違いかも知れない。私はラム酒を飲んだ。酸っぱいがスッキリとする味である。



 ・・こうして、即位式は問題なく幕を引いた。


 ・・・だが、これからが皇帝ヨルネの大変な一日がおきたのである。



 次の日。各国からやって来た使節団が到着した。


 王国からはオリビア王女が。・・共和国からはルストルフォ王子が。・・・教会からは教皇アレイスター。護衛にアルトリネ団長を伴って。








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