第105話 二組の勝負。
私とモルジの激突の中。
ティナはルーズとドルドの相手をしていた。
・・剣と棒の拮抗。力の方はルーズがやや上のようだ。少しずつだがティナを押している。・・そう感じたティナは一呼吸を入れ、棒を右横に受け流した。
・・がら空きとなったルーズの右横腹に左掌底打ちを与えた。
剣でやれば勝負は決まるのだが、そのわずかな間に反撃、もしくは防御される可能性があるからだ。素早く動くには剣よりも素手の方が早かった。
・・その目論見は見事に的中。
ルーズは横腹を抱えながら悶絶していた。
一気に勝負を決めようと、襲いかかった時。
「・・火球!」
ティナの左から炎の玉が飛んできた。
・・・・大きさはバレーボール並み。ティナは咄嗟に後ろに飛び、回避した。・・炎は地面に落ち、爆発した。
・・・中々の威力にティナは警戒した。
・・ドルドという魔術師は中級か上級だろう。何しろ、爆発の威力があのサイズでは考えられない威力。・・脅威とまではいかないが無視できるレベルではない。
ドルドはルーズに近づき。
「・・油断しすぎ。・・相手は国境線でケンタウロスを仕留めた女よ。」
無表情で言った。
その言葉にルーズは驚き。
「・・・はっ?・・何それ聞いてない?・・・どこで知ったの?」
説明を求めるルーズにドルドは。
「・・・パーティーに出席した冒険者達が酒飲みながら言ってた。」
淡々と説明した。
ルーズは驚きと怒りで。
「どうして言わないの?!・・そんな大事なこと!?」
・・問い詰めるルーズに無表情を崩さないドルドは。
「・・決闘を受けた後だから。言った所で何も変わらない。」
まるで他人事のように答えた。
・・ルーズはため息つきながら。
「・・はぁ~~。確かにそうね。・・・こうなったら。・・やるだけやるか。」
開き直ったようにティナに棒を向けた。
ドルドも同じように杖を構えた。・・二人は戦闘態勢に入った。・・その様子を見ていたティナは妙な違和感を覚えた。
・・この二人からは何も感じないのだ。
・・パーティーで組んでいる以上多少は仲間に愛着をもつものだ。・・ギルドでリーダーのモルジが挑発を受け、激怒しているのにこの二人からは同じような怒り所かリーダーの為に戦うという気迫が感じられない。
・・・これはおかしすぎる。
・・ローデルの仲間達は監視という名目で一緒に行動していたが、リーダーの為に戦うという気迫はあった。実際、彼らと一時期、魔物討伐で組んだ時。`リーダーに勝利を。`という気迫は少なからずあった。
・・・我が儘がなければそれなりの人物だと言うことだ。・・だが、この二人のリーダーに対する思いが無さ過ぎる。
ティナは不審に思いながら。
「・・一ついいですか?・・・お二人はリーダーをどう思っているのですか?」
この質問に二人は顔を見合わせ。
「・・・別に何とも。」
・・そう答えた。・・ドルドも頷いた。
それを聞いたティナは。
「・・・そうですか。・・・では、続きをしましょう。」
少し呆れ顔で剣を構えた。
二人は何のことかよく分からない顔をしていたが、すぐに元の戦闘態勢に戻った。・・睨み合う三者。・・・先に動いたのはルーズである。
・・棒を突きの構えで突進。・・速度を落とさずにティナの腹に狙いを定めて。先ほどとは速さが違う。・・・しかし、ティナは焦ることなく、左横に回避。
それを読んでいるのかルーズは棒をティナに向けてなぎ払った。
・・だが、これも予測内。・・・すかさず剣で払いのけた。
今度は拮抗することなく一瞬の交差。・・ルーズはそのまま体を一回転させた。・・コマのように回転し、もう一度、棒がティナに向かってきた。・・ティナはそれも剣で払いのけ、少し下がった。・・・明らかに誘っている。
懐に入ろうとすればドルドの魔術が飛ぶ。・・・嫌らしい戦法である。
・・この場合は先に魔術師を叩くのが定石であるが。・・今日の戦いは命を賭けるに値するものではない。・・・・・これはシンスケとモルジのケンカである。
・・ティナはできるだけ、二人を釘付けにする必要がある。
・・ドルドに向かえばルーズがシンスケの元に行くし、逆にルーズのみだとドルドが行くかも知れない。・・・二人の内一人を絞らずに、二人同時に相手をする。
その為にはルーズの相手をしつつ、ドルドに目線を配る。・・・それしかない。
ルーズは回転を止め、ティナに向かって棒を右横払いをした。・・・ティナはそれを剣で受け止めようとした瞬間。・・・棒が三つに分かれ、その中間は鎖で繋がっている。・・三節根である。
ティナの剣を絡め取り、ルーズは思いっきり引っ張った。・・すると、剣はティナの元から離れ、地面に落ちた。
・・拾おうとした瞬間。
「・・土金槌」
突然のティナの地面から土が盛り上がり、腹に激突。
・・少し飛ばされ、咳き込んだが、オリハルコンとアダマンタイトの防御力で致命傷にはなっていない。・・ティナはすぐに立ち上がり、状況を確認。
・・ティナの剣はルーズの足下。取りに行くことは不可能。・・残った武器は短剣とヒヒイロカネの剣。
・・持っている武器にティナは少し迷った。
短剣はともかく、ヒヒイロカネの剣は強力でまだ扱いには慣れていない。いくら決闘場で相手が死ぬことはないが、強い魔術を使えば、制御できない可能性がある。・・・そうなれば観客席に被害が出る。・・・だが、初級の魔術で倒せるか微妙な二人。
・・迷いながらもティナは一か八かの賭けに出ることにした。
ヒヒイロカネの剣を抜いて突きの構えをした。・・・魔力を込め、魔術を発動する準備をしていた。その兆候で剣が赤く光った。
それを見たドルドは。
「・・魔術を発動しようとしている。警戒して。」
ドルドは無表情ながら難色を示していた。
ルーズは。
「・・・何を出すかは知らないけれど。・・こっちもそれ相応にすればいい。・・ドルド、いつものやつよ。」
そう言って棒を突きの構えをした。
ドルドは魔力を込めて。
「・・火刃付加。」
魔術を発動。
・・棒の先に炎の形で作られた刃渡り二十センチの剣が付いた。
そして、ルーズは。
「・・スキル、`猛進`発動。」
スキルを発動。
・・・ルーズは走り出した。・・二人の必勝法、ルーズのスキルで相手の攻撃を防ぎ、炎の短剣でトドメを刺す。
・・・ティナは構えながら相手の出方を見た。
魔術を発動しようとしている素振りを見せれば何かするだろうと予想して。・・・狙いは的中。炎の剣が出現し、スキル`猛進`を発動させた。
・・あのスキルはアルトリネ戦で経験済み。
・・・ティナは慌てること無く、無念無想の如く、心静かに得意な水魔術を発動した。
「・・激水砲!!」
水の砲撃を発動。
その威力はフレイムアリゲーターの時よりも大きい水の激流。迫り来る水の暴流にルーズは恐怖した。・・しかし、`猛進`の見えない壁は防げると信じて突貫した。
・・だが、激突した瞬間、ルーズの足は止まった。・・激流の前に上手く進むことができない。
`猛進`の壁は一定のダメージを無効化する効果を持つ。しかし、それ以上のダメージは無効化するのが難しい。その事をルーズは知らないまま、今まで使い続けてきた。
・・・水の激しさにルーズは立ち止まり、どんどん押されていき。・・そして見えない壁にヒビが入り、砕けた。
ルーズは洪水に飲まれ、後ろにいたドルドも巻き込まれた。
・・・一直線に放出された激水は闘技場の壁に激突。・・・壁はヘコミ、ヒビまで入った。・・・水が無くなると二人の姿は無く、人形が二体だけあった。
・・ティナの勝負は付いた。
シンスケとモルジの対決。
剣同士のぶつかり合いは私の優勢であった。・・相手の力が弱すぎて簡単に防げるし、押し返すこともできる。
モルジはそんな状況にイラつきながら魔術を発動。・・風、・・水、・・土を一回ずつ発動をしては体勢を立て直す連続。
これに対して業を煮やしたモルジは。
「・・・さっさと終わらせてやる。・・デュランダル解放!!」
そう叫んだ時、デュランダルの剣から雷が纏わり付いた。
雷の魔石の効果のようだ。私は冷静に剣に魔力を込めた。・・剣は赤く光り、熱を帯びた。・・突進するモルジの上段からの一撃を難なく防いだ。
・・触れた瞬間、雷が私を襲った。
`バチバチ`とくる雷撃。・・モルジは笑顔で見ていた。しかし、私はそれを涼しげな表情で弾いた。
・・・何回も`雷人招来`を使っている効果かあまり効かなかった。少し痺れるが動けないレベルではない。・・・むしろ肩こりがほぐれて気持ちいいくらいである。
・・そんな光景を見ながら、モルジは私と十メートルほどの距離を取って。
「・・こ、この野郎~~~。・・・コケにしやがって~~~。・・これでもくらえ!!!・・無作為弾!!!」
そう叫んだ瞬間、モルジの手から火の弾が出てきた。
私はそれを冷静に剣で切り裂いた。
モルジは笑い顔で。
「・・はーーはっはっ!・・どうだ?!・・何が出てくるか分からない魔術の感想は?!」
自慢げに笑っていた。
・・・私は呆れた。ランダムならば一回だけじゃなく、連続して出せよ。それならば驚くのに。・・と頭の中で叫んだ。
小声で言えば相手に聞こえる。
私はため息をつきながら左拳に火の魔術を発動。
それを見たモルジは。
「・・何を出すかは知らんが。・・私の魔術に勝てると思っているのか?平民!!・・無作為弾!!」
同じ魔術を発動。
今度は水の弾が出た。
私は。
「・・・火散弾!」
正拳突きからの連続の火弾が炸裂。
・・水の弾は一発目の火弾にぶつかり相殺。・・・残った無数の火弾はモルジに向かっていった。火弾の雨にさすがのモルジは驚き、尻餅をついた。
火弾はモルジの近くに着弾。・・激しい爆発が連続に起き。・・モルジは怯えていた。
そこに、一発の火弾がモルジに命中。爆発した。
・・・爆発が止むと、モルジは半黒焦げになっていた。まだ息はあるようだ。・・私は近づき、剣でトドメを刺した。・・首を斬られたモルジは消え、人形が現れた。
・・・私の勝負はあっさりと終わった。・・ティナの方も終わったようだ。
・・・勝負が終わった後、歓声が轟いた。
・・だが、何故か虚しい気持ちである。そう思うのは周囲の声に熱が篭っていないからだ。・・・勝敗が決したからとりあず声を上げよう。
・・お決まりの行動に感じた。