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狩人の変わった生活  作者: 満たされたい心
第三章 狩人とは
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幕間 三匹の動向。






 洋館。


 深い森の中に佇んでいる人が来ることのない不気味な館、誰一人近寄ることのない場所で妙な音が響いていた。



 ・・地下の研究室。


 そこには`叡智レドルザ`がある研究をしていた。


 帝国での一件以来、`竜王バムハル`が手出しを控えるお触れを出している。・・・それを利用してレドルザは国境線の基地からケンタウロス、ローデルの死体と魔剣ダインスレイフを回収した。


 彼は死体を使って上級死霊`ナイトゾンビ`を作っていた。


 死霊系の魔物。墓地や戦場に度々現れる、怨念と後悔が強く残った個体が死体となって徘徊する。


 手を出さなければ無害だが、そこを通る人々を敵と認識し襲ってくることがある。・・街道沿いや人が多くやってくる場所に出現した場合、即座に討伐対象になる。

 ・・随分前にシンスケが教会で遭遇した首無し武者もこれに該当する。


 ・・・レドルザはそれを自分の手で作ることを一つの課題として上げていたが問題があった。


 怨念と後悔。この二つが強い死体が手に入らないからだ。


 ・・戦場では後悔の念はあるが怨念は驚くほどに少ない。兵士や冒険者は常に死と隣り合わせ、戦っている最中に殺された時。恨みよりも`ここまでか`と諦めた感情になることが多い。

 その為に死霊系の魔物を作ることができなかった。


 しかし、国境線であの女冒険者に負けたローデルは素晴らしいくらいの怨念を宿していた。・・後悔の念も強く、まさに理想的な素材。


 ・・実験材料としては最高の品であった。


 ・・・ベヒーモスを討伐した日から彼は研究室で薬品と道具作りに没頭していた。・・繰り返される投薬でローデルの体は腐敗がなくなり。ダメになった筋肉質は別の人間と魔物を配合した特注の筋肉質に換え、馬の部分は足や蹄を切り落とし。・・変わりにクマの手足を付けた。


 どうせ改良するなら徹底的且つ面白い方向で体作りをしていた。


 ・・そして、ついに完成した。・・・ローデルの体は今までよりも三倍に膨れ上がったボディービルダー。下半身は馬の胴体にクマの手足がついていた。・・後は、切断された首を針と糸で付けるだけである。

 顔にも改良している部分がある。・・おでこには未来が見える予知目をもった魔物、サイトタカの目を付け、三ツ目にした。歯の部分も岩をかみ砕く魔物、ファングウルフの牙に換えた。


 全ての改良が完了した後は動かせる為にあらゆる薬品を混合した培養液が充満したカプセルの中にローデルを入れて、雷の魔術で液体を活性化させ、死体に染み込ませるように働かせた。


 ・・・そして、闇の魔術。


 古代に失われ、使うことを禁じられた魔術。・・それを発動させた。


 黒い煙が死体に纏わり付き、体内に入っていった。


 ・・次の瞬間、培養液が突如、泡を吹き出し、カプセルの中は見えなくなった。・・勢いが収まることなく、どんどん減っていく液体をレドルザは即座に追加していった。


 ・・それから一時間。


 何度目かの補充が終わった頃、カプセルにヒビが入った。・・一つ、・・二つ、・・三つ。どんどん亀裂が入っていった。

 ・・そして、`バリィィィン!`大きな音を立ててカプセルが壊れた。


 ・・出てきた死体はグッタリと床に倒れた。・・ピクリとも動かない。


 ・・`失敗か`と落胆した時、`ビクッ`と動いた。・・レドルザは静かに見守った。・・すると、死体はゆっくりながら立ち上がった。何も表情を出さず、虚ろな瞳。


 しかし、そこから湧き出る負の感情が凝縮した魔力。


 ・・・成功である。


 レドルザは。


「・・・私の理論は正解だったようだ。・・気分はどうだ?・・ローデル?」


 この質問にローデルは答えない。


 聞いていないのか、それとも答えることができないのか。・・いずれにしても何も言わない。


 レドルザは無視されたことを気にすることもなく笑顔であった。






 妖精の森。


 大陸のどこかにあると言われる妖精だけが住まう森。そこには蛍の光の如く妖精達が飛び回っていた。・・だが、一カ所だけ、光が集まっている場所がある。


 森の中にある泉の中央。そこには数多くの妖精達が一匹の妖精を中心に集まっていた。


 中心にいる妖精。`運命ルムビ`は楽しげに話していた。


 その内容は帝国で起きた事件。・・皇帝の死による内部の後継者争い。・・ルムビが仕掛けた第一王女の政策失敗。・・国境線の激戦。・・・新皇帝の最後。・・人間にとっては不愉快な内容であるが、妖精達は面白そうに聞いていた。

 彼女たちにとって人間達が必死になり、幸福だと思った瞬間、不幸のドン底に落ちるのがなによりの楽しみである。


 妖精は。


「・・すっごく面白かったです!!ルムビ様!・・今回の騒動で人間達はさらに混乱するのでしょうか?!」


 この質問にルムビは。


「・・う~~~ん。その辺りは興味ないからわかんないけど。・・間違いなく各国の王族達が動くのは確実ね。・・何しろ、帝国の歴史上。最大の事件だってレドルザの奴が言ってたし~~。まだまだ、面白いことが起きるかもよ~~~。」


 笑顔で答えた。


 妖精達はその言葉を聞いてさらに笑顔で話し合った。・・・一度人間の国に行きたいと言う者までいるほどに。

 ・・・妖精族は人間達の前には姿を現すことはない。


 何故なら、非力であるからだ。


 ・・幸運と不幸を操るとはいえ、普通の妖精はせいぜい、小石に蹴躓かせる程度の不幸しかできず。一度でも捕まれば脱出することができない。

 ルムビは力が強大であるが故に人間に見られても問題ないのである。


 ・・・妖精達はその事は充分承知している。しかし、それでも行きたいと思う者達はいる。


 ルムビは他種族がどうなろうと知ったことではないが、同族が危険な目に遭うことは絶対に許さない。


 その為、ルムビは。


「・・言っておくけど。私に内緒で行くのはダメよ~~?・・もし、そんなことしたら。・・・私特製のお仕置きがあるから。・・・・ね♪」


 笑顔で聞いてきた。


 その目は笑っているが、いつもの無邪気な笑顔ではなく。人が嫌がる姿を見たくてたまらない笑顔である。

 ・・無論、ルムビは同族に対してそこまでひどいことはしないが、一部の妖精達はトラウマになっている者がおり、ルムビの笑顔を見るだけで悪寒が走る程に。


 ・・・妖精達は静かに頷いた。






 ミノタウロスの里。


 ここでは一つの騒動が起きていた。


 ダンメスが片腕を斬り落とされて戻ってきたのだ。・・彼の実力は里でも上位に入る。加えて、`剣魔シドール`の憧れと尊敬は強く、負けることはシドールの顔に泥を塗ると考えるほどである。

 そんな彼が人間と戦い負けたと聞いた時は誰もが驚いた。


 ・・・だが、罵声が上がることはない。


 ミノタウロスは武人の魔物。・・戦いで負傷した者をあざ笑ったり、馬鹿にすることは絶対にない。しかし、心配する声も上がらない。

 いくら大けがをしたとはいえ、慰めるのは武人の恥。


 故に、驚くことはあってもそこから何か声が上がることはない。


 ・・ダンメスの治療していた老年のミノタウロスは。


「・・これで大丈夫じゃ。しばらくは安静にしておれ。・・・しかし、お主が腕一本落とされるとは、どんな人間だった?」


 無表情に質問してきた。


 ・・誰もが避けたい質問。しかし、老年は気にするそぶりもなく聞いてきた、年寄りの強みとも取れる。


 ダンメスは。


「・・・正直、シドール様が目に掛ける人間など居るはずがないと思った。そんなのは間違いだと。・・あり得るはずがないと。・・油断や慢心はしていなかったが、少しはできるかもという程度で戦った。・・だが、強かった。ギリギリの勝負だった。・・シドール様が気になるのも、何となく分かった気がした。」


 そう言って静かに笑った。


 老年は特に何も言わずに聞いていた。・・さすがに無粋だと。・・勝負している最中、楽しいと感じるほどの何かがその人間にあった。

 詳しく聞くのはあまりにも礼儀知らずである。





 ダンメスは治療を終えた後、家に戻った。


 ・・片腕ではまともに戦うことはできない。・・これからどうするか、じっくりと考えることにした。


 その時である黒い霧が目の前に現れて出てきたのは`剣魔シドール`であった。


 ダンメスは驚いて。


「!!・・これはシドール様。このような場所にどのようなご訪問でしょうか?」


 片膝をついて訪ねてきた理由を聞いた。


 ・・しかし、ダンメスは分かっていた。シドールがここに来たのは先の戦いでの敗北。・・それ以外にないからだ。


 ・・冷や汗を掻いているダンメスにシドールは。


「・・・そう硬くなるな。・・別にお前を責めに来たわけではない。・・聞きたいことがあってな。・・シンスケはどうだった?」


 この質問にダンメスは。


「・・はっ。率直申しまして、人間の中でも実力は上位であります。しかし、その戦闘技術は我流の節があり、騎士というよりも戦士のイメージが強かったです。・・・ですが、まだまだシドール様と戦えるレベルではありません。」


 かしこまりながら述べた。


 ダンメスの見解は間違ってはいない。・・シンスケの実力は地球で暮らしていた時よりも確実に上がっている。

 修羅場も経験し、勝つ為なら己の技や魔術を惜しむことなく使う。


 ・・しかし、あくまでも人間としての基準での話。


 魔物ではよくて、グレートオーガかサイクロプスぐらいである。・・・ハッキリ言って`七天魔`と戦える程の強さはない。


 それを聞いたシドールは。


「・・ふむ。まぁそんな所だな。・・・あれから一ヶ月ぐらいしか経っていないだろうから、当然と言えば当然だな。・・・ごくろうであったダンメス。・・・だが、片腕がない今、これからどうするのだ?」


 この質問にダンメスは。


「・・・それは分かりません。」


 これ以上の言葉は出なかった。・・・シドールは少し考えて。


「・・・ならば、語り部として生きてみないか?」


 この言葉にダンメスは。


「・・語り部?・・・それは今回の戦いのことを後世に伝えることですか?」


 困惑するダンメスにシドールは。


「・・そうだ。我々、ミノタウロス族はその強さ故にどうしても他種族を見下してしまう傾向がある。・・例え、口に出さずとも心の中では思っている者が多い。・・・そこで、ダンメス。・・お前には慢心を持ったミノタウロスとして語る気はないか?」


 真剣な顔で訪ねた。


 ・・一見すれば失敗談を語らせて後の者達が同じ間違いをしないように導く者のように捉えることができる。

 ・・しかし、悪い考えでは人間相手に負けた恥ずかしいミノタウロスと思われる。


 むしろ、悪い方で聞かれる方が高い。・・・シドールからの命はある意味罰則である。


 ・・ダンメスは。


「・・その役目、謹んでお受けいたします。」


 頭を垂れて受諾した。


 ・・ダンメス自身も分かっている。これが自分に対する罰であることに。・・しかし、恥辱だとは思わない。

 ・・これから先、人間に負けないミノタウロスを出さないと思えば、どんな辱めも受ける覚悟である。


 ・・シドールは。


「・・・そうか。・・・長生きするがいい。」


 その言葉を残して霧と共に消えた。


 ・・ダンメスは座り直し、天井を見ながら考えた。・・語り部としてどこから話すか?どのように話せば伝わるのか?


 ・・・今までしたことのない挑戦にダンメスは挑むのであった。











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