第101話 調べ物と結論。
歴史資料コーナーに向かったのはヒヒイロカネを調べる為である。
何しろ、今まで聞いたことのない金属。つまり、現代では失われ、実在するか分からない物だと言うことだ。
・・まぁアダマンタイトは地球のギリシャ言葉アダマスから派生し、ダイヤモンドやある種の金属など非常に堅固な物質を示すのに使われている。
これも昔、アダマンタイトが地球にあるかもと思い、ネットで調べた結果である。
・・異世界で出会った品物や人からの話を総合すると、・・二つの世界は昔から秘密裏に交流があったという結論に至った。
この考えはある意味正しいかも知れない。
今まで出会った魔物、鉱石の種類、街の風景。・・世界同士で交流すれば物品と引き換えに情報を貰っていたと仮定すれば。
・・しかし、地球の歴史では異世界について調べれるとフィクションという形で表示される。
・・つまり、昔の記録に異世界に行ったという話は一切無く、消されていた。
・・似ている物で、妖精の島アヴァロン。・・妖精が住んでいたという伝説の島。現代ではグラストンベリーかも知れないという説がある。
もし、異世界の事を挿すのなら納得できる話である。
・・あらゆる神話や伝説に登場する魔物。最初はいるんだなぁと思い、気にはしなかった。・・しかし、帝国への旅の中で出会った数々の魔物や地球の偉人達。
・・ここまでくると偶然で片付けるのは不可能であった。
その為に私は歴史資料コーナーにいる。
・・ここならあらゆる歴史が記載され、学校では教えられていない歴史や眉唾物とされオカルト扱いの物まである。
・・私が注目したのは伝説や神話の歴史とオカルト歴史である。
正規の歴史では信じることはできないと判断された話は削除されることが近年で発見されている。・・ならば、曖昧かつ面白いという理由で記載されている本を見れば、異世界に関連する項目を見つけることができるかも知れない。
・・以前、『旧約聖書』のネット項目を気まぐれで見ていた時、ベヒーモスの図を見た。・・頭の部分は似ていないが体の部分は似ている部分があった。
つまり、過去の異世界渡航者がベヒーモスを見て、後世に残そうと書いた可能性が高い。
・・・結果としては過去の人達には信じて貰えなかったが、私としては感謝の言葉しかない。
・・・私は聖書を手に取り、一ページずつ見ていた。
ベヒーモスの他にはレヴィアタン、ジズ。・・それぞれ、陸、海、空を象徴し、神が作った三匹の動物だという。・・他にも二匹いたということか。
・・ルルドさんの話ではベヒーモスは絶滅したと言っていた。
二匹も絶滅してくれたらいいと会ってみたいという異なる二つの考えが私にある。
・・この図とは異なる姿をしているのか?どれ程の威圧感のある魔物なのか?
狩人以前に人間として興味が沸く。しかし、現れたら勝てるかと言えば微妙である。・・ベヒーモスを倒せたから倒せるとは思わない。
強さの上下よりも場所と相性である。
陸のベヒーモスは同じ土俵だから勝てた。しかし、二匹は空と海。
・・人間との相性は最悪である。水中と空中を自在に移動できない。そこまで超人ではない。
・・さてと、私は魔物に関する書物を一通り見た後、ヒヒイロカネという金属を調べた。
これについては調べるのに苦労した。・・何しろ記載されている本が見つからないからだ。・・鉱石や貴金属に関連するコーナーを見て回ったが見つからない。
・・諦めていた時、ある本が目に入った。
『竹内文書』という本だ。
・・何故気になったのか分からないが手に取ることにした。・・項目欄を見ると`ヒヒイロカネについて`のページを発見。
ある意味運命を感じた私はすぐに席に着いた。
『竹内文書』。・・古代の文書を装ったとされている偽書。神代文字で記され、天皇の勅命で訳したとされる写本群と言われている。
内容は、天皇の始まりやイエスキリスト、五色人など、当時の日本で珍しい物を記載しているイメージを持つ。その中でヒヒイロカネの項目を見た。
・・古史古伝における日本で使われていた伝説の金属。その原料も加工技術も失われ、三種の神器制作にも使用されていた。その性質は金よりも軽く、ダイヤモンドよりも硬く、永久不変の性質を持つ。更には、驚異的な熱伝導性を持ち、茶釜の材料として使われた際、木の葉数枚の燃料で十分な熱量が確保されたという。・・また、輝く金属、太陽の金属とも呼ばれ揺らめく表面は幻想的な存在感を持っていたという。
・・輝くね。私が見たヒヒイロカネはどちらというと紫色をしていた。
・・まぁ、生物の皮膚であり炭素繊維も入っていたから変わったのだろうが。少し盛りすぎていないか?と思える文章である。
・・しかし、これは収穫である。
鎧の加工に使おうかと思ったが、日本刀の材料に使うことにした。
・・今は、玉鋼と発火合金とアダマンタイトとレニウム。この中にヒヒイロカネを入れるとなれば、この四つの内一つを除外するしかない。
・・作った苦労を考えれば痛い思いだが、背に腹は代えられない。
・・私は、アダマンタイトを抜くことを考えた。
・・アダマンタイトは鎧造りに使うことにした。・・ヒヒイロカネで鎧は無理がある。熱伝導性が優れすぎて防御には向かない。
・・私は資料を戻し、図書館に一緒に入ったティナを探した。
・・確か、入った後お互い自由行動にしたはず。少し歩くと武術コーナーにいるティナを発見。
何を読んでいるかは分からないが真剣な顔つきである。
私が近づくとティナが。
「・・シンスケ。・・もうよろしいのですか?」
振り向いたティナに私は。
「・・ああ。俺は終わった。・・ティナは何を読んでいるのだ?」
私が少し覗いた。
そこには「新陰流、柳生宗矩」と書かれていた。・・これまた日本で有名な名である。
・・柳生宗矩。柳生十兵衛の父親にして、古今無双の達人、剣術無双と呼ばれている侍。
・・将軍に仕え、島原の乱、大坂の陣といった有名な戦に参戦し、数々の功績を残している。また、沢庵和尚の元で座禅を学び、兵法にも優れていたという。
・・特に有名なのが、大坂の陣の戦い。将軍、秀忠の元に七人の刺客が襲ってきた時、一瞬にして七人斬ったと言われている。最速最短の達人。
・・・私は。
「・・興味があるのですか?その人物に?」
この質問にティナは。
「・・そうですね。剣術については詳細には書かれていませんが、兵法や理念がよく書かれています。特にこの心法という項目。・・相手の動きや心理状況を把握し、自身の心理状態への到達と維持。・・つまり、自分を知り、相手を知ることでいかに有利に動き、勝利するかという兵法が書かれています。」
「・・私はこの内容に感動しました。・・あそこでは常に襲ってくる魔物や盗賊に連日警戒していると心も体も疲れることがあります。・・私もそうです。しかし、これにはその対処と呼べることが書かれている。・・これを用いれば私はもっと強くなれるかも知れない。・・・そう思えるのです。」
そう言って再び本を読んでいる。
・・異世界にも本を扱う場所はあるが、あそこは保存が目的であまり開放的でも戦に役立つ術がある訳でもない。・・・魔術本しかないはず。
・・あれ以来行っていないからよく知らない。
ティナの邪魔にならないように私も他の本を読むことにした。
・・それから一時間後。
私がティナから少し離れた場所で鎧図鑑を読んでいると。
「・・・シンスケ、お待たせしました。」
そう言って私に近づいてきた。私は本を閉じ。
「・・もういいのか?」
この質問にティナは頷いた。
私たちは図書館を後にした。・・時刻は昼頃、近くにあるバーガーショップで簡単に済ませ、買い物をした。
・・最後の目的、陣中食の補充。
スーパーで味噌を買い、保存食と缶詰を購入。・・後は、鰹節も購入した。・・ティナにこれを使った料理を味わって貰いたいと思ったからだ。
・・買い物を終え、家に帰ることにした。
・・・しばらく、家の中でゆっくり寛いでいた。・・急ぐ理由もないからだ。
私は縁側で茶を飲みながら。
「・・こうして、思い返してみると。・・・この世界と向こうは昔から交流があったんだな。」
この呟きにティナは。
「・・その話は昼食の時に聞きましたが。・・本当なのでしょうか?・・少なくとも、向こうでは異世界のことは一切知られていません。・・・ですが、隠していると考えれば分かります。・・理由もあるでしょう。」
そう言って茶を飲んだ。
・・・理由か。この世界は信じない人間が多いことが原因で伝わらないだけだが。魔術が存在する世界で異なる世界の存在を隠すとなるとそれ相応の理由がある。
・・その事で思い出したが、あのミノタウロス、ダンメスが`異世界人`という言葉を言っていた。
勝ったら教えると約束したが、あの時は疲労困憊で思い出すこともなかった。・・・その後もトラブルが続き、今の今まで忘れていた。
・・片腕を斬り落とした以上、もう会うこともない。
・・仮に会えたらその時にでも聞けばいいだけのこと。
・・しかし、そうなるとダンメスのボス。シドールも`異世界人`を知っていることになる。奴がどれ程生きているかは知らないが、少なくと人間の倍以上は生きている。
・・そう感じるほどの威圧があった。
だとすれば、他の上級、それもシドールクラスの魔物がいることも考えねばならない。
・・何故なら、シドールだけが特別ではないからだ。
あの時の戦いで、上空に何かいると思った時、複数いたと感じた。・・・何匹いるか分からないが、そんなに多くはいないはず。
アニメやマンガでもよくある四天王や七英雄とか。数は少ないがそれだけ強力な存在。
そんな連中がいてもおかしくない。・・・調べるにしてもそういう存在なら国でもトップクラスの役職以外は知らない可能性がある。
・・中世は秘密が多いからな。
・・今の私なら聞くことができるかも知れないが。・・狩人から離れすぎた行動だ。
・・あくまでも私は魔物を狩り、素材を使うなり売るなりして生活する者。・・・勇者のように世界の真実とかラスボスを倒すとかそんなものに興味は無い。
・・・子供の頃はあったが、大人になった今では無用なトラブルは避けたい性分になっている。・・・少し寂しい気分だが、それでも近くに居る愛する者を悲しませるよりはずっといい。
・・私はこれからの事を考えながら茶を飲んだ。