第100話 素材と図書館。
ドワーフの工場見学をしていた私は感動していた。
・・迸る炎。・・金属を打つ音。・・細かな手作業。・・・そして、そこから伝わる熱意と気合い。
・・まさに、職人の聖地と呼ぶに相応しい場所である。
・・何よりもこの雰囲気。いい物を作ろうと努力しているこの空気が素晴らしい。・・・扱っている鉱石が沢山あり、中には貴重な物まである。ここまでの物を揃えるのにどれだけ出資したのか分かるくらいに。
・・・今の地球では、いい物を作る気持ちは皆、持っているが、会社という組織が一番厄介。
・・常に金銭のことしか考えておらず、少しでも金を稼ぎたいが為に今まで使っていた物を安い物に変えて、誤魔化すよう。・・・客に売り出すようになっている。
・・・気持ちは分からんでもない。
借金まみれで仕事をしても成果が出なければ無駄になるだけである。
・・だが、守銭奴になれば品質が落ちたとクレームがくる。・・・地球は職人にとって住みづらくなった世界である。
さてと、暗い考えはここまで、もうしばらく見学するか。・・その時、ティナが近づいてきた。
私は。
「・・・退屈か?・・それだったらどこかに行ってもいいが?」
その言葉にティナは。
「・・そうしたいのですが。・・・シンスケを一人にすると何かするんじゃないかと心配で仕方ないのです。」
呆れ顔で言った。
私は手の掛かる問題児か?・・そう思ったが、振り返れば言い返せない自分がいる。
・・私は黙って見ていた。そしたら、ドワーフ達が何やら騒がしかった。
・・私は、近くに居たルルドに聞いてみた。
「・・ん?・・ああ、この間、王都に現れた巨大魔物の素材が届いたと報せが来てな。・・・かなりの大きさだったから切り分けた物が来たが、それでも大きい。・・・総出で作業に当る所だ。・・見に来るか?・・お前さんらも関わった魔物だろう?」
説明を聞いた私とティナは頷いた。
・・・あの魔物の素材か、気になるな。どれ程の役に立つのか。
・・私たちは現場に向かった。
工業地帯の広く開けた場所。・・ここには外から来た数々の品物が一旦集められ、各場所に配られる。
・・通常、ここが一杯になることはないらしい。・・・品物数は多いが、半分ぐらいのスペースしか使っていない場所だそうだ。
しかし、現在は一杯になっている。
・・巨大魔物の素材が並べられ、どれもこれも大きい・・最小で車のヴォクシー並で、最大は二階建ての家並まで。
山のように積まれた素材を見た私は。
「・・これだけの物を素材に?・・一体、何なんだ?この魔物は?」
この呟きに隣にいたルルドは。
「・・それについてはワシも同意だ。・・そんで調べてみたら、古い文献にこれと似た絵柄の魔物が写されていた。・・名はベヒーモス。・・・破壊の魔物と呼ばれ、恐れられた存在だ。」
何とも言えない表情で答えた。
・・ベヒーモス?・・地球でもよく聞く魔物の名だ。
『旧約聖書』という書物にも記されている悪魔の名。・・確か、カバかサイに似ていると書かれていたが。・・どちらというとトリケラトプスに似ている。
・・・いや、ある意味、サイに似ているか。
いずれにしてもそんな伝説級の魔物が出現するとは、ゲームではこのパターンは何かしらの陰謀が動いている設定になっているが。
・・・先の国境線の戦い、ミノタウロスとケンタウロス。
・・エッジソン出撃の決め手となった火縄銃。
・・すでに事が終わっている可能性がある。とすると今後も何か起こると考えて行動した方がいい。
そう思っている私にルルドは。
「・・・シンスケ。・・良ければこの素材、一部をお主に渡してもいいぞ?」
この言葉に私は。
「・・えっ?・・いいのですか?・・・これって結構貴重では?」
戸惑う私にルルドは。
「・・・かまわん、かまわん。・・お主とティナ嬢は、ベヒーモス討伐に尽力したのじゃろう。・・ならば、受け取る資格はある。」
微笑みながら言ってくれた。
・・・正直に言うとありがたい。・・あれだけ攻撃を加えてもビクともしなかった皮膚。防具としての素材は充分。
・・今着ている鎧も`物質変換`で加工しまくった物。・・だが、それにも限界はある。
・・ここは伝説の魔物の皮膚を使った防具を作成するのも一つの手である。
私は微笑みながら。
「・・・では、ありがたく頂戴いたします。」
お礼を言った。
ルルドは満足そうな笑顔で現場に行き、手頃なサイズの皮膚を持ってきてくれた。
「・・・これだけで足りなかったら、何時でも来てくれ。・・・お主なら歓迎だ。」
そう言ってくれた。
・・私は受け取った皮膚を`解析`してみた。
・・・性質はヒヒイロカネと呼ばれる合金と炭素繊維百%の皮膚が混じり合った代物である。
ヒヒイロカネ?・・聞いたことがない。
・・合金ならば私のスキルで作れるかと思ったが、充分に理解していない状態では無理だろうと思い、そこら辺に落ちている袋に入れた。
・・・私は。
「・・ありがとうルルドさん。・・・この素材、余すことなく使わせて貰います。」
再度お礼を言った。ルルドは。
「・・気にしなさんな。・・これも何かの縁ってやつだ。・・・お互いに困った時は遠慮無く相談させて貰うよ。」
中々の商売上手である。
・・私は苦笑しながら握手した。・・・要するに強い冒険者と知り合ったから、今後、取りに行くのに苦労する場所に代わりに行って貰う。みたいな感じだろう。
逆に私も困った時は頼らせて貰うがな。
さてと、意外な代物を手に入れることができた。すぐにでも王国の実家に行きたいが、もう少し城下街を見て回ることにした。何か珍しい物があるかもしれないからだ。
しばらく歩くと食料品や道具が立ち並ぶ商店街に入った。
・・・旅に必需品の小型ナイフや袋、傷薬とテントなどがあり、食料は果物や薬草、肉類、魚介類もあった。・・魚は全部冷凍加工されており、一切腐っていない。
・・帝国の技術力は聞いていたが、実際に見るとすごいという一言しかない。
・・・魚の種類を見ていると、カツオに似た魚を発見。
これは、思わぬ収穫である。このカツオを加工し、鰹節にすればさらに料理の幅が増える。
・・しかし、鰹節の作り方が分からない。・・とりあえず、この魚を購入することにした。
ティナは。
「・・魚を買ってどうするのです?・・刺身にするのですか?」
以前、地球でご馳走した魚料理のことを聞いてきた。
私は。
「・・・いや、この魚には別の使い道がある。・・とりあえず、一旦、実家に戻るか。・・陣中食も切れかかっている。」
そう言って、腰に付けている道具袋の中を見た。
・・保存用の味噌玉が残り、三個しかない。しかし、ここらで味噌を手に入れる術は無い。
・・補充の意味も含めて戻るべきである。
ティナは。
「・・分かりました。そういう事情なら、一旦戻りましょう。」
同意してくれた。
私は買い物を終え、ある場所に向かった。
・・そこは、王都から出て距離大体三㎞ほどにある岩山の中、洞窟である。
ここを発見したのは、国境線の前線基地で一日休暇を貰った時、見つけた。・・人が来ることのない場所。
・・そこにある転移の魔方陣を使い、王国の実家に帰った。
・・・持ってきた荷物は、道具袋に街で買ったカツオ、荷車は`物質変換`で野球ボールサイズに縮め、ベヒーモスの素材を鍛冶場の中に入れた。
・・・私はティナと一緒に地球に向かった。
・・相も変わらず見慣れた景色、だが、肌寒さを感じている。
季節は秋から冬に変わる頃合い。
・・・暖をとる準備に入ってもおかしくない。
・・だが、私はそれよりもやることがあるので着替えて、カツラを着け、ティナと一緒に街に行った。
・・向かう先は図書館。
・・・目的は三つ。
陣中食の補充と鰹節の作り方とヒヒイロカネの正体。
三つの内、二つを見つけるのに図書館はうってつけである。・・ネットで調べれば一発だが、気分転換と買い物がしたかった。
・・取り合えず、鰹節の作り方を調べた。
・・・工場で作る時は一ヶ月から五ヶ月までかかる工程が記されていた。・・さすがに時間が掛かりすぎる。
とはいえ、これ以外に方法がないとすればやるしかないだろうが、もう少し調べることにした。
すると、家庭でも作れる鰹節を見つけた。
まず、カツオを切り身にします。・・次に九十度のお湯で一時間ほど、身の中までしっかり茹でる。じっくり茹で、生臭さをなくし、身が締まる。・・注意することは茹でる時曲がっているとそのまま固まってしまう為、真っ直ぐに伸ばしていれます。・・もう一つはお湯が沸騰し泡が出そうになったら弱火にすること、でないと身が崩れてしまう。
次に茹でたカツオを燻製します。・・燻製機の中に五十℃~八十℃に保ち、一~六時間ほど燻製にし、煙と熱風でカツオのみを乾燥させます。・・燻製にはスモーク材と呼ばれる木材がある。カツオに一番いいのはナラがいいらしい。
次に燻製が終わったら、上下にひっくり返し、カツオを常温で一日寝かす。・・これにより、身の中心にある水分が表面側に移動し、乾燥の具合が良くなります。・・これをしないと表面だけ乾燥し、中心が乾燥しない状態になる。
次に燻製と寝かすを七回繰り返す。・・つまり一週間は掛かる。これで完成。
・・この説明で手間取りそうなのは燻製機だ。
買えば簡単だが、面白みはない。作ることができるのなら作りたい。
やれる幅は少しでも広げたい。燻製機の作り方を調べた。
・・様々な種類があるがここで私が注目したのは一斗缶を使う方法。図も記載されている。・・金網を一定の高さに固定し、空気孔を開け、下にはスモークウッドを置く。熱はたき火を使えばいい。
見る限り簡単な作り方である。
本来ならば針金や鉄棒を使うが、私なら`物質変換`でくっつければいいし、いざとなれば溶接すればいい。
・・・さてと、鰹節の作り方をメモした私は歴史資料のコーナーに向かった。