第94話 穏便と困ったこと。
王女の宣言で民衆達は驚きに満ちていた。
「・・聞いたか?あの魔物を討伐したのは将軍様だと。」
「・・・マジかよ。・・あのデカい魔物を討ち取るとは。」
「・・さすがは将軍様だ。・・・武力は勿論、策略にも長けていると聞くお方。」
「・・・前皇帝の時は落ち目だったけど。・・それを挽回できる程の功績をお作りになるとは。」
かなりの驚愕と称賛で満ちあふれていた。
・・それもそのはず、将軍は前皇帝殺害の時、城にいたのに侵入した魔物を討ち取ることができなかった。
・・・これにより、貴族は勿論、民衆達からもあまり良くは思われなかった。
・・しかし、今までの人望がある為に表だって悪く言うものはいない。・・・それに、魔物に襲われた地区の復興作業に尽力してくれた。
・・・これで何か言う奴は民達からフルボッコされるだろう。
・・・そんな中、王女は。
「・・・静粛に。・・・先ほど述べた通り。こちらにいるゴルトール将軍は前線基地に向かった巨大魔物を討ち取りました。・・・無論、将軍の武力だけではありません。」
「・・地の利と兵力を使い、その場で作った即席の作戦を実行し、魔物を弱らせ、最後に将軍自らトドメを刺しました。・・その過程で犠牲はでましたが、・・・彼らも覚悟の上での戦陣でした。・・・ここに哀悼の意をおこないます。・・・黙祷。」
そう言って目をつむる王女。
将軍も同じように祈った。
・・この言葉に民衆達も冥府にいる者達に祈りを捧げた。
・・・しばらくした後、王女は。
「・・・この度の功績を称え、ゴルトール将軍には英雄勲章を授けます。・・・授与式は今夜、城にておこないます。・・・そして、王都ではこれを記念して祭りを開催いたします。」
「・・・すでに市民館前にて兵士達並び商人達が準備を始めています。・・・屋台ででる数々の料理があります。・・存分に楽しんでいってください。」
その言葉と同時に民衆達からは溢れんばかりの歓声が鳴り響いた。
`英雄の誕生だ`と`国の救世主`等の声が上がった。
・・王女と将軍は笑顔で手を振っていた。
・・しかし、二人の心の中は虚しさで満たされていた。
・・・時は昨日の夜に遡る。
医務室には四人いた。
シンスケとティナ、そして、ヨルネ王女とゴルトール将軍。
・・・しばし、沈黙の中、将軍は。
「・・・納得できません。何故、彼の功績を私の物として発表するのですか?!」
罵声が上がった。
彼が怒ったのも無理はない。・・復興作業が一段落し、王女に報告した時に聞かされた、世間に発表する内容。
それを聞いた将軍は驚愕と同時に怒りで満ちあふれていた。
・・いかに王族とはいえ、ウソを公表するのは、誠実な将軍には耐えられないものである。
・・王女も納得していない様子だったので誰も居なくなるであろう夜に、医務室で密談することになった。
・・将軍の怒りに私は。
「・・怒りはもっともです。・・ですが理由はあります。・・巨大魔物を討伐したのは私ではなく将軍の方がこの国の人々は納得するからです。」
この答えに将軍は。
「・・な?!納得だと!・・そんな理由でウソを公表するなど私は認めない!・・どんなことであろうと功績を成した者がそれ相応の報酬と名声が与えられるものだ。・・例え、君が目立つのが嫌いだったとしてもだ。」
この言葉に王女は。
「・・私も将軍に賛同します。・・帝国は実力主義の国です。・・無名の者でも名を上げることは許されます。」
将軍と同等の答えを言った。
帝国は実力主義。・・それは百も承知。
しかし、私は。
「・・お二方の答えはご尤もです。普通であれば私も受け取りますが、今回のは普通ではありません。・・あの巨大魔物は未だに何なのか分からない未知の魔物。」
「・・・そんな物が突然現れ、大暴れしたのです。・・人々の不安はかなりのものです。・・・そんな中、無名で他国から来た冒険者が、たった一人で討伐した。・・そんなことを信じる人間はいると思いますか?」
この質問に王女は。
「・・正直、信じられません。・・・将軍の報告でも最初は半信半疑でした。・・ですが、将軍が虚偽の報告はしませんし、する理由がありません。・・それ程の内容でした。」
ため息をつく王女。
・・これについては将軍も黙っていた。・・彼も分かっている、こんな報告は誰も信じない。
・・直接、見なければ。
・・将軍は。
「・・ならば、私と兵団で協力して戦い、弱った所を君がトドメを刺したことにすればいいのでは?」
この提案に私は。
「・・それならば、将軍こそがトドメを刺したことにすればよろしいと思います。・・・私ではダメなのです。・・・国の危機を救ったのは人々が知っている人でなければ納得しません。」
「・・それに、真実に少し上乗せして発表しても、信じませんし、何か裏があるんじゃないか。と考える者達が現れる可能性があります。・・皇帝不在の今、その座を狙っている者達にとっては格好のエサです。・・・正直、私はそんなことに巻き込まれるのはゴメンです。」
「・・ならば、穏便に済ました方がよろしいのではありませんか?」
この説明に二人は沈黙した。
・・・確かに、今は表だって何か言う貴族はいないが。・・この発表をすれば、間違いなく何かしてくるだろう。
王族が何かを隠しているとか。・・・そんな噂が飛び交う。
場合によっては箝口令が敷かれているグリネの魔物化を言う輩もいる可能性が高い。
・・だとすれば、将軍が討伐したことにすれば、誰も文句は言わない。
・・将軍の家は高位の貴族。文句を言えるはずがない。
更にグリネの件も言う者はいない、言えば自分が関わっているんじゃないかと疑われる可能性があるからだ。
・・・権力のない一般人よりも権力のある貴族の方が都合が良い。
・・二人はある意味、納得した。
しかし、将軍は。
「・・・君の言いたいことは分かる。・・・だが、君が討伐した事実を私は知っている。・・後日、私個人でお礼がした。・・それは受けてくれるか?」
この言葉に私は。
「・・・目立つ以外であれば受け取ります。」
同意した。
・・将軍はティナにも目を向けた。彼女は首を縦に振った。
・・・こうして、夜におこなわれた密談は幕を引いた。
時は戻り、朝。
城で発表をしている中、私とティナは街の中を歩いていた。
今朝、体の痛みが消え、動けるようになったからだ。・・体のだるさを解消する名目で町を散策する許可をもらった。
ティナは付き添いと無茶をしないように監視として行動を共にしていた。
・・・見渡す限り、蒸気が立ち上る建物が多く、寒い国のはずが少しだけ暖かい空気を出していた。・・ここまでの技術力があるとは、帝国に文明をもたらした地球人でもいるのかと疑うほどであった。
・・しかし、そんなことを考えても仕方ない事。
後日、将軍から色々聞けば良いだけの話である。
・・そんな中、ある建物で数人の子供達が悲しそうな顔をしていた。・・・正直、他人の子供に関われば、誘拐だと勘違いされることが地球ではかなり多い。
・・本来ならば通り過ぎたいが、ここは異世界、中世の時代風の場所。
・・・すぐには騒がれることはないだろうと思った。・・多分。
・・私はティナと一緒に子供達の所に向かった。
「・・どうしたのだ?・・そんな寂しいそうな顔をして?・・・何かあったのか?」
この質問に子供達代表の少年が。
「・・・祭りに出す食べ物が思いつかないの。」
予想外の答えが返ってきた。