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狩人の変わった生活  作者: 満たされたい心
第二章 修行の旅
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第92話 帝国の城にて。








 帝国、王城の医務室。


 国が用意できる最新の医療器具が多く存在し、常に最良の治療を行ってきた場所。


 ・・そこに一人の男がベッドに寝ていた。・・彼は、ゴルトール将軍が連れてきた帝国を救ってくれた英雄だと言われている。

 その男、シンスケの側にはティナがいた。


 ・・・・運ばれてから丸一日、目を覚ますことはない。


 ティナは心配そうにシンスケを見て。


「・・本当にバカですよ。・・こんな無理をしてまで狩りをするなんて。・・・いくら狩人でも限度がありますよ。・・目が覚めたら覚悟してくださいよ。」


 そう言って怒りとも笑いとも取れる顔をしていた。


 その瞳に少し悲しさを出して。






 ヨルネ王女の執務室。


 ヨルネ王女はゴルトール将軍と近衛兵長から報告を受けていた。


 兵長は城で起きた事件、将軍は基地で起きた事件。

 

 ・・その二つを聞いた王女は深いため息をついていた。


 ・・だが、仕方のない事だ。・・新皇帝であるグリネが突然、魔物になり、街を半壊し、大壁を壊して前線基地に向かい、その道中にあった村々が滅びた。


 ・・・帝国の未来が不安でしかない。


 将軍は。


「・・ヨルネ様。・・こうなってはヨルネ様が早急に皇帝の座につかなければ、更に混乱し、貴族達が何をするか分かりません。」


 この言葉に兵長も賛同した。


 ・・少し考えた後、ヨルネは。


「・・・確かにその通りです。・・ですが、今は街の復興と村々の救援に尽力をするべきです。・・よって今の私の立場は皇帝代理として、行動するべきでしょう。・・座につくのは落ち着いてからです。」


 この提案に将軍と兵長はしばらくの沈黙の後、頷いた。


 ・・・現状では救援と復興が最優先。・・・貴族達の対応も大事だが、民を蔑ろにするわけにはいかない。


 ヨルネは。


「・・では兵長。あなたは近衛兵団を率いて、村々の救援。・・復興作業は後回しに人命救助を優先。・・・王都に連れてきてください。」

「・・・将軍は城下街の被害状況を把握、こちらも人命救助を優先としてください。・・現状の混乱を大きくしない為に情報を随時報告。・・・民に伝達してください。」

「・・私は貴族達の対応をしておきます。・・代理である私が表に出れば勝手に動く者はいないと思いますから。」


 適切な指示をした。


 ・・兵長は一礼し、すぐに部屋を出た。


 将軍も部屋を出ようとした所、ヨルネに呼び止められた。


「・・・それと、未知の魔物を討伐したという冒険者ですが、まだ目覚めないのですか?」


 この質問に将軍は。


「・・医師の話ではかなりの重傷だと。・・体中の骨にヒビがあり、肋骨が二本折れていると。・・ハイポーションで治療しましたが、意識を取り戻すのに時間が掛かると。」


 この報告にヨルネは。


「・・そうですか。・・目覚めた暁には国を救ってくれた礼として、名誉勲章を授けたい所ですが。・・付き添いの人の話では目立つことが嫌いな方だとか?」


 この言葉に将軍は。


「・・はい。・・私も一度、彼を見ております。・・参謀の暴走に少しの抵抗した後、去ろうとしていました。・・・揉め事や目立つ事が嫌いだというのは分かります。・・・もし違うのであれば私に対して何かしらの事を言うはずですから。」


 報告と推測を口にした。


 ・・・将軍から見ても彼は、自分が活躍したいという気持ちがないと思っていた。


 ・・国境線の戦いで罰として中央で戦っていたが、大物を狙うことなく、自分の持ち場をちゃんと守っていた。・・ミノタウロスを退けた話を聞いた時も、魔物自身が彼に突撃していったと何人かの兵士が証言している。

 ・・・結果を見れば大物魔物を討伐した英雄と見えるが。


 彼は何かの衝動で戦っているように感じた。・・・それが何なのか分からないが、少なくとも悪意は感じられなかった。


 ヨルネは。


「・・・そうなりますと、勲章を授けるのは彼にとっては迷惑ですね。・・かと言って、何も贈らないのは王族として恥ずべき事。・・・こうなりますと、彼が目覚めてから決めることになりますね。」


 この決定に将軍は。


「・・その方がよろしいかと思います。」


 賛同した後、一礼して部屋を退出した。


 一人になったヨルネは窓から景色を見ていた。


 昼の時間帯、本来であれば活気が出ている時間なのに今は静けさが目立っていた。


 ・・ここからでは見えないが、ヨルネは何となくだが見えていた。・・街の人々が生気をなくし、どこか冷めた雰囲気であることが。

 ・・前皇帝が死に、新皇帝であるグリネも死んだ。


 ・・これに喜ぶ人間はいない。


 ・・・例え、どんな人物だろうと、死んだ事で喜ぶのは狂人以外いない。・・・ヨルネは心の中でグリネの事をどう思っていたのか自問自答していた。

 ・・・幼き頃はよく遊んだ、どんなときも一緒だった。


 ・・だが、大きくなるにつれ、妹との関係がどんどん遠くなっていく感じがした。・・物理的な距離ではなく、心の距離が。・・・父上に相談したら。


 `それが大人になるということだ`とおっしゃられた。


 ・・・最初の頃はそうだと無理矢理納得し、ヨルネは自分ができる事を最大限やってきた。・・いつか、妹との距離が縮まると信じて。

 ・・しかし、現実は違った。


 ・・事業をやればやるほど妹との距離は縮まる所か、遠のき、避けられている感覚を感じた。


 ・・自分がやっている間も妹も同じように事業をやっていた。・・ヨルネとは正反対のことを。


 一体、何が妹を動かしていたのか?、どうして何も言わなかったのか?・・・何故、自分は妹と相談しなかったのか。

 ・・・そんなことを思っていた。


 ・・・ヨルネは皇帝の座に着けない理由としてもっともな事を言ったが、実際は恐怖した。


 ・・・皇帝になれば自分も妹と同じように何か変わってしまうのではないのかという恐怖に。


 妹の場合はそれ以前の問題だが、ヨルネは後から変わるんじゃないかと不安が過った。


 ・・・しかし、何時までも代理ではいけない。必ず、皇帝にならなければならない。


 ・・・その前に、見つけねばならない。・・自分なりの答えを。


 ・・皇帝になっても変わらない何かを。


 ヨルネは昼の空を眺めながら決意した。







 医務室。シンスケの夢の中。




 暗い世界に私はいた。


 何故ここにいるのか分からない。何も思い出せない。


 ・・思い出そうと考えていると後ろから声がした。


「・・よ~~う。新介。・・ここに来るとはお前も死んだか?」


 そう言ってきたのは太った男である。


 誰なのか思い出せないが、何故か胸が苦しい思いがした。


 男は。


「・・何だぁ?・・俺を知らないって顔をしやがって~~。・・・本当にムカつくぜ。・・まだ、死んでないようだが。・・今ここで俺が殺してやる!!`筋肉操作`!!!」


 その叫びと同時に男の体は脂肪の塊から筋肉の塊になった。


 ・・何が何だか分からないが、私は身構えた。


 ・・その時、頭の中に何かが閃き。


「・・`激動`!!」

 

 そう叫んだ瞬間、体から力が漲ってきた。


 ・・男は突進してきた。何の変哲もない体当たり。私はそれを左片手で止めた。・・何となくだが勝てる相手だと感じたからだ。

 ・・受け止めた後、私は右拳を放った。


 男はそのまま吹っ飛ばされた。


 ・・・男は倒れたがすぐに立ち上がり。


「・・無駄だ!!・・`痛覚遮断`の効果で何も効かないぜ!!」


 その叫びと共に再び突進してきた。


 ・・正直、なんで戦うのか分からないが。・・死ぬわけにはいかない。


 その感情だけで動いていた。


 ・・私は。


「・・よく分からないが、相手をしてやる。・・かかってこい!!!」


 その叫びと同時に身構えた。


 再び突進してくる男。・・私はそれを問題なく躱し、そして、隙だらけの右脇腹を思いっきり手刀で突き刺した。

 ・・・男の体は堅いが、難なく貫いた。


 吹き出る血に男は驚いた。


 ・・そして、私は感覚で。


「・・雷撃波!!!」


 体内に電流を流した。


 ・・男は叫ばなかったがその表情は苦悶に満ちていた。・・痛くはないが、何故か体が動かない。・・そんな顔をしていた。

 ・・その時、私の電撃が突如、私に流れ込み、痺れた。


 そして、全てを思い出した。


 ・・・トリケラトプスを倒した直後、意識を失ったことを。


 私は。


「・・久しぶりだな。竹夫。・・・幽霊なのか俺の妄想なのか分からないが、こんな形で再開するとはな。」


 この言葉に竹夫は。


「・・全くだ。お前とは地獄でも会わないと思っていたのに。・・・一応言うが、俺も自分がなんなのか分からない。幽霊か妄想か。それすらもな。・・・・こうして会えたからには一つだけ聞きたい。・・・幸せか?今?」


 この質問に私は。


「・・幸せかどうかは分からないが。・・・目まぐるしい毎日を送っているぜ。」


 笑顔で答えた。


 竹夫は呆れた顔で。


「・・そんな顔をして何を言ってやがる。・・・まぁいい。そろそろ行くべき所に行けば?」


 そう言って指さした。・・そこだけは光の点が輝いていた。


 私は。


「そうかよ。・・んじゃ行かせて貰うぜ。・・・最後に言っておく。・・・お前を巻き込んですまなかった。」


 そう言って光の場所に向かう私に竹夫は。


「・・・ふん。どの道、俺は人を殺していたよ。・・・刑務所に行くか地獄に行くか。・・それだけだ。」


 その言葉を最後に竹夫は消えた。


 私は光に触れた瞬間、暗い世界が消えた。



 目覚めた時は見知らぬ天井があった。


 ・・そして、隣にはティナが悲しそうに私を見ていた。









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