第93話 決着と今後。
私は、真獄、迦具土を発動した。
青い炎から出る熱気は赤い時とは比べることができない。・・その高熱温度も然り。
ゴルトールは物陰から、彼から放つ青い炎を見て驚愕していた。
見たことの無い色をした炎、彼は何者なのか?・・そんな気持ちで一杯であった。
・・ベヒーモスはその炎に危機感を感じていた。人間の放つ炎など効かないはずなのに、何故か恐怖を感じた。
・・右前足を上げて踏み潰そうとしていた。
・・私はそれを後方に下がって回避した。
・・前方から来る衝撃、それに吹き飛ばされながらも何とか体勢を立て直した。
・・・吹き荒れる砂。視界が全く見えない。
・・・だが、何か嫌な予感で胸が一杯である。
晴れると、そこには、三本角から放たれる雷が集約し、巨大な玉を作っていた。
・・・彼らは知らない。
ベヒーモスはその頑強な皮膚と屈強な力の他にもう一つ恐れられている力。
角から放たれる雷撃の玉。
・・これが放たれれば、周囲一帯は消し飛び何も残らない。・・その範囲は王都並の広さを消し飛ばすほどの威力である。
・・・私はあれが切り札だと分かった。・・いや、誰でも分かるか、あんなの。
あの大きさで放たれる威力は相当な物。・・・避けることも逃げることも不可能。・・・だったら、迎え撃つ以外の選択無し。
・・・私は迦具土にありったけの力を込めた。
`覚醒`状態の私は魔術を限界まで使い続けることができる。
・・残り時間も少ない、ここで決着をつける。
・・・炎の刀は更に伸び、面積も広がり、・・・先ほどのまでよりも三倍は大きくなった。
さしずめ巨人が振る剣の如く。
・・トリケラトプスは視線を逸らそうとせず、真っ直ぐに見ていた。・・そして、雷の大玉は発射した。
・・・速度は約四十㎞。
今の私にとっては遅い。
・・・上段の構えから待ち構え、近づいた時。
「・・巨刀、・・神殺し!!」
叫びながら振り落とした。
激突する、技同士。
・・だが、私の方が少し押されている。・・・踏ん張りがきかず、少しずつ後ずさりになっている。
魔物は、放った後、何もしてこない。
疲れたのか、それとも維持のために動けないのか。・・いずれにしても、ここで負けたら全てが終わる。
・・・私は渾身の力を込めて。
「・・うぅぅぅ。・・・チェェェェェェェリャァァァァッァ!!!」
叫び声と共に雷玉を断ち切った。
・・真っ二つになった玉は胡散し、消えて無くなった。・・魔物は驚いたのか何もしてこない。
・・私はこのスキを見逃さない。
魔物に向かって飛んだ。・・・狙うは右目。・・・傷を付けて、見ることのできない。
・・唯一死角には入れる場所。・・刀は右目を貫いた。・・叫び狂う魔物。
反撃される前に私は。
「・・迦具土、解炎!!!」
青い炎を魔物の体内に放った。
右目から顔、顔から体にと、一気に広がっていった。・・・この巨体では全身に行き渡るまでに時間は掛かる。
・・しかし、私はそれを無理矢理に短時間に終わらせた。
・・魔力は残り少ないが、`覚醒`の効果で魔術の制限と魔力は心配ない。
・・・最後の一滴になるまでやり抜くのみ。
その覚悟の元、炎を放ち続けた。
魔物の意識内では、グリネの意識がわずかにあった。
・・彼女は苦しんでいた。・・どす黒く、破壊衝動に満ちた悪意。・・それが無数に聞こえてくる。
・・この苦しみから逃れられずにいた。
当初は、`堕落ハリーネイア`が最後に言っていた`二人`のことが気になった。
・・彼女は、この二人の為に利用されたと思い、少しだけ体に命じることができたので国境線に向かった。
・・進んでいく内に、二人とは誰と誰なのか分からず、基地ごと破壊しようと思い立った。
・・邪魔する人間達。・・どうでもいい、全て壊すのみ。
・・・そんな考えしか今のグリネを支配していた。・・しかし、その意思も消えかかっている。
体内に流れる炎が全て焼き尽くしていた。・・苦しかった悪意も薄くなり、少しだけ気が楽になっていた。
グリネは炎を見ながら思った。・・`私を癒してくれる炎`。
・・・そう思い、グリネは炎に手を伸ばした。
・・そして、灰となって消えた。
魔物は膝をついた。
・・四本足全部。・・・それからすぐに右側に倒れてきた。
ドスーーーン!!
激しい音と砂煙が辺りを見えなくする。
・・ゴルトールは何が起きたのか把握しようと努めたが、砂煙が濃すぎて何も見えない。
・・・煙が晴れると、魔物は横に寝転がり、動けなくなっていた。
・・・私は、右目に刺さった刀を抜き、地上に降りた。
・・赤い光が消えかかっている。・・もう時間切れである。
・・遠くから、声が聞こえる。
・・・いつも聞いている声が。
・・・直後、激しい痛みと共に気を失った。
上空。
ベヒーモスの進撃を眺めていた`七天魔`は呆然としていた。
・・・驚愕な光景を見ると、慌てる以前に言葉も無く、立ち尽くすことがある。
`運命ルムビ`は。
「・・・何?・・何なの?・・・あの異世界人って、あんなに強かったの~?」
この疑問に`海将ダイオス`は。
「・・少なくとも、共和国では、私の配下と同等に戦えていたから。・・・上位クラスでもそこそこと言った所だ。・・・伝説の魔物を倒せるほどではない。」
そう評価した。
・・・この言葉に`千毒ラテス`は。
「・・し、しかし、実際に勝った。・・つまり、新たにスキルを手に入れたと言うことですかな?・・しかも、身体能力を極限までに高めるものを。」
この推測には、皆は納得していた。
・・・いくらスキルを手に入れても、切り札になる力となれば、容易に習得できない。
・・よほど、自分の力を過小評価していなければ、あそこまでのスキルを手に入れることはない。
`堕落ハリーネイア`は。
「・・ここまでするとは。・・・もう少し、グリネを利用した方が良かったのかしら?」
自分の行いに後悔していた。
その言葉に`叡智レドルザ`は。
「・・いいえ、あの行為は、全員一致の事。・・・口封じは必須。・・・未来のことなど誰にも分からないものです。」
弁護とも取れる言い分である。
皆が意見を出し合っている中、`剣魔シドール`は。
「・・・いずれにしても、今回の件は概ね成功と言った所か。・・かの者の力は勿論、叡智殿の実験。・・海将殿の時間稼ぎ。・・千毒殿の提供。・・そして、堕落殿の計画。・・結果はどうあれ、満足いくものだと、私は確信を持って言える。」
この言葉に他のメンバーは沈黙した。
・・確かに、結果が人間達の勝利であるが、別に勝ち負けに拘ってはいない。
・・見ていて面白ければそれでいい。・・・その点でいえば、満足である。
`竜王バムハル`は。
「・・・だが、シドール。・・お前の同胞がかなりの重傷を負ったが。・・何も思わないのか?」
この言葉にシドールは。
「・・傷を負うのは武士の定め。・・これを理由に戦うなど、ダンメスに恥を掻かせるだけだ。・・死んだら仇討ちはするがな。」
無表情に述べた。
・・・バムハルは思った。
・・ミノタウロス族は誇りを第一に考える魔物。
・・ダンメスは私怨を持っていたが、シドールは違うことに安心した。
・・もし、シドールも私怨でやれば、国一つ一日で滅びる。
調停者としてさすがに無視できない。
・・一通りの会話が終わったと判断したバムハルは。
「・・では、今回の計画はこれにて終了とする。・・・我々の存在が明るみに出ていないとはいえ、絶対安心とは言えん。・・・各自、しばらくの間は、大人しくしておくこと。・・異論はあるか?」
この決定に六匹は沈黙した。
・・肯定と捉えたバムハルは。
「・・では、解散だ。・・・ご苦労であった。」
その言葉を最後に黒い霧に包まれて、`七天魔`全員、この場から消えた。
こうして、戦いは終わった。
数多くの死者。・・歴史に残る事件。
・・そして、活躍した英雄。
・・これらの事は後の帝国の伝承に深く刻まれることとなった。