表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狩人の変わった生活  作者: 満たされたい心
第二章 修行の旅
103/268

第91話 ある決断。








 国境線。


 前線基地。


 基地内は慌ただしい雰囲気であった。・・負傷者の搬送、治療。

 動ける者がほとんどいない医療室。・・唯一動いているのは医者と看護師だけである。


 ・・包帯で巻かれ身動き取れない者や意識が回復しない者が多数。ポーションなどで治療しているが、傷を治すのが主で失われた体力や魔力は回復しない。


 ・・その為、動こうにも動けない状況なのである。


 ・・その中にベッドで寝ている私がいる。・・隣にはティナがいる。


 目立った外傷は顔にできた傷のみ、その他に傷は無い。


 ・・・ティナは。


「・・お互いに大丈夫ではありませんが、生きることはできました。・・これもシンスケが私の装備を改良してくれたおかげですね。」


 そう言って微笑んでいた。


 私は。


「その様子だと、あまり気にしていないのか?・・・顔の傷?」


 この言葉にティナは自分の頬に手を添えて。


「・・別に、傷を負うのは冒険者なら誰でも負うもの。・・一々気にしていてはきりがありません。・・・それとも嫌ですか?・・顔に傷がある女は?」


 少し不安な顔のティナに私は。


「・・・いいや。気にしていないのなら良い。・・俺は、どんなになってもティナを捨てる事は無い。」


 少し照れくさいことを言った。


 あまりの恥ずかしさにそっぽを向いた。・・ティナも同様に顔が赤かったが、私はそれを知らない。


 ・・・それを見ていた他の冒険者達は。


(くっそ~~~。何だよ、そのラブラブ夫婦な会話ぁ~~~)

(イチャつきやがって~~。見せる為にワザとやってるんじゃねぇだろうなぁ~~~?)

(ちっくしょう~~~。何であんな美しい女性が、あんな冴えない男に~~~。)

(こっちにも女性冒険者はいるが。・・全っ然振り向いてくれない~~~。教えろよぉ~~~)


 等と恨みがましい考えと視線を向けている冒険者達。


 当然ながらそれを感じられない私とティナである。


 そう言えば何か忘れているような気がする。・・思い出そうとした考えていた。・・そんな中、廊下の方がやけに騒がしい音を出していた。


 また急患でも来るのかとこの時、思った。






 司令室。


 ゴルトールは報告書をまとめていた。


 ・・エッジソン隊の活躍、兵士並び冒険者の活躍、魔物たちの弱体化。

 ・・戦いの歴史上、これ程の偉業を成したことは無かった。


 ・・ヨルネ様にいい報告ができる。・・そう思ったが、今はグリネ皇帝に渡すことが最優先か。


 ・・既に伝令を走らせ、簡単に報告をしているはず、後は詳細な報告書を提出するだけ。


 その時である、突然扉が開き、兵士が現れ。


「お仕事中に失礼します。・・緊急事態です!!・・突如、王都に魔物が出現!!街を半壊し、大壁を破壊!!・・そのまま真っ直ぐにこちらに向かっております!!」


 この報告にゴルトールは。


「な、何だと?!・・どんな魔物が現れたのだ?!!」


 この質問に兵士は。


「そ、それが。・・・今まで見たこと無い魔物で、・・王都に配置していましたエッジソン隊の攻撃にびくともせず。・・次々と破壊しておるとの情報です。」


 困惑する兵士。


 ゴルトールは頭を抱えていた。・・どうしてこう次から次へと不幸が襲ってくるのだ?


 ・・前皇帝の死。・・魔物の集団の活発化。・・・上位種の出現。・・トドメに未知の魔物。


 これ程までに大挙してやってくるなど、聞いたことも無い。・・だが、今はそんなことを考えている場合では無い。


 ゴルトールは。


「・・直ちに動ける者達を集めよ!!・・この基地を放棄する!!・・・動けない者達を即刻連れ出せ!!!」


 この指示に兵士は。


「!?こ、この基地を捨てるのですか?!・・そのようなことをすれば、司令官の立場が・・」


 続きを言う兵士にゴルトールは。


「そんなことはどうでもいい!!!・・今の戦力で、未知の魔物を倒せるはずが無い!!・・犠牲が多く出るのは確実だ!!・・・ヨルネ様はそれを望まない。」


 最後の言葉を聞いた兵士は正気に戻った。


 ・・ヨルネ様。・・常に民を重んじるお方。・・寿命で死ぬ以外を良しとしないお方。


 兵士は。


「・・分かりました。・・直ちに全兵士に伝えてきます。」


 敬礼して司令室を後にした。


 一人になったゴルトールは席を立ち、壁に掛けてある大槌を手に持った。・・城で受けた傷は完治している。


 ・・・やるべき事をしに、部屋を出た。





 上空。


 七天魔はこの光景を見ていた。


 グリネの体を媒体に復活したベヒーモス。・・圧倒的な力で蹂躙、全てを破壊するはずだったが、何故か、王都を出て前線基地に向かって行った。


 `堕落ハリーネイア`は。


「・・・ねぇ、レドルザ?・・何で基地に向かっているの?・・・王都を壊滅じゃぁ、無かったの?」


 この質問に`叡智レドルザ`は。


「・・おかしいですね?・・理性を失えば、目に映っている生命体を殺す存在にしたはずです。・・何で襲わないんだ?」


 疑問に思うレドルザ。


 ・・・考え込む六匹。


 ・・・何かを察したのか`竜王バムハル`は。


「・・おそらく、理性が完全に消えたわけではないようだ。・・・わずかに人間の気配をベヒーモスから感じる。」


 この言葉に`千毒ラテス`は。


「な!?・・・魔物になっても理性があると?・・・信じられません。・・人間の精神では不可能はずです。」


 この言葉に五匹は頷いた。


 ・・手練れの戦士でさえ、百%魔物化すれば理性は消え去る。・・今までの実験がそれを証明している。

 ・・ローデルの場合は、レドルザが人間の要である頭脳をいじくらず、下半身のみを魔物と融合させた。

 ・・・その為に、多少、発狂はしていたが、薬や培養液で調整し、ようやく落ち着ける所まで仕上がったのだ。


 しかも、かなりの日数で。


 ・・・それをわずか数分で克服したと?・・この疑問にバムハルは。


「・・あの人間、グリネと言ったか?・・・元々、異常なまでの野心と長い時をじっと待つ忍耐。・・この二つが長いこと磨いていた為に、わずかながら常人よりも心が強くなったのだろう。・・その結果が、魔物になっても理性をわずかに保つことに成功した。・・と言う所であろう。」


 この説明に`剣魔シドール`は。


「・・ならば、かの者が基地に向かっているのは?・・・ハリーネイアが最後に言った`二人`。・・基地にいると感じて、殺しに行ったと?」


 この質問にバムハルは。


「・・その可能性はある。・・・頭の切れる王女なのだろう?・・わずかに聞いた言葉でその結論に至ったのだろう。・・難しいことではない。」


 その言葉に`運命ルムビ`は。


「・・それって、ヤバくない?・・・あの異世界人が死んだら、楽しみがなくなっちゃう。・・そんなの嫌よ!!・・・ミノタウロスの時は、全力で戦っていたから面白かったのに。・・・今、疲弊しているあいつが死んだら、面白くないじゃん!!」


 駄々をこねていた。


 ・・・その気持ちは一緒である。・・全力で戦い、死に物狂いの結果が勝利であれ、敗北であれ。・・面白いものになるのは間違いなし。

 ・・・シドールの場合は、自ら戦ってこそ意味があり、その為に、ダンメスを向かわせた。


 自分と戦うに値する力を身につけたのか確かめる為に。・・・それが、こんな結果で終わる。


 さすがに承諾できない。


 シドールが。


「・・・私が始末しようか。」


 そう言って剣を抜く。


 バムハルは。


「・・・ならぬ。・・痕跡を消す為にやったのだ。出ては意味が無い。・・・さすがに異世界人も自分の体のことは理解しているだろう。・・逃げの一手を選ぶだけだ。・・それに、ベヒーモスは二日で死ぬのだろう?・・レドルザ。」


 この言葉にレドルザは。


「それは間違いなく。・・自然に死ぬように薬を混ぜています。・・臨床実験も済んでいます。・・確実です。」


 この返答に一安心した。


 ・・ならば、自然に死ぬまで見ることにした。・・さすがにこれは予想外。


 ・・どんな風に事態が動くのか。


 ・・別の意味で楽しむ`七天魔`。






 前線基地。


 基地内は兵士達によるケガ人の搬送をしていた。


 ・・突然、医務室に現れ、未知の魔物が基地に向かっている為に放棄することが決定。・・避難を開始した。・・・動けない者達はタンカーに乗せられ、運ばれていった。

 ・・私は、松葉杖をついて歩いていた。


 ・・骨折は、ハイポーションで治ったが痛みがまだ残っている。・・おまけに魔力も底をつき、歩くのが精一杯。

 ティナはそんな私を肩に担いで一緒に歩いてくれている。


 ・・・情けない。


 ・・いくら強敵と戦ったとはいえ、後から現れた魔物と戦うこと無く逃げるなど。


 だが、私の我が儘にティナを巻き込むわけにはいかない。・・黙って避難することにした。


 全員の避難がほぼ完了した時、ゴルトール司令官が現れ。


「・・諸君。・・現在、最悪の状況に陥っている。・・・たった今より基地を放棄し、近くの領地へと避難する。・・・我々動ける兵士達は、最後尾にて諸君らを逃がすことに全力を尽くす。・・以上だ。」


 その言葉を最後にゴルトールは数十名の兵士達と共に基地の方に向かった。


 ・・誰もが思った。・・殿を務めることに。・・・無言の移動。・・誰もがこの世の終りと言うべき顔をしていた。


 ・・・移動開始して数十分後、地響きが生じた。


 ・・遠くから聞こえる音。・・戦闘が始まったのだ。


 私は悔しかった。・・自分がつくづく情けない。・・・私にもっと力があれば。・・こんな体でも動ける力があれば・・・。


 そう思った瞬間。


 突如、世界が白黒になった。


 ・・そして。


【スキル、`覚醒`を獲得しました。】



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満たされたい心
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ