第89話 第三の戦場 シンスケ対ダンメス。
私とダンメスの戦いが始まった。
ダンメスの速度は速く、金棒の一振りも今までの敵とは比べるべくもない速さであった。私は、それを紙一重で躱した。・・避けるのが精一杯の行動。反撃の暇は無い。
・・避けた後、火の魔術を発動。
火球がダンメスに向かった。
・・相手も攻撃した直後の為、すぐに迎撃はできずに直撃。
激しい爆発音がした。・・・私は仕留めたとは思わない。
・・案の定、煙の中から現れたダンメスは無傷だった。
・・この攻撃を受けたダンメスは。
「・・・それだけか?」
挑発な言葉を発した。
私は。
「・・ただの挨拶だ。」
その一言を機に、剣を両手持ちにした。
雷で強化された体に魔力を込めた剣。・・その速度はダンメスよりも劣るが、避けるには難しかった。
ダンメスは金棒を右片手に持ち、迎え撃った。
・・ぶつかり合う武器同士、少し火花が生じた。
ダンメスは最初は余裕の顔をしていたが、少し苦い顔をしていた。
そして、ダンメスは力任せの横振りをし、私を吹き飛ばした。
しかし、体制を崩すような一撃では無い。・・・少し後退する程度である。
・・その後、私はすぐに近づいた。
激しい攻防が始まった。私は剣を縦横無尽に振り回していた。・・・その速度は速く、常人では追えない程であった。
一方、ダンメスも同じように金棒を振り回していた。・・・速度は私よりもやや速く、力も上である。
その攻撃は暴風の如く。・・・しかも右片手で楽々にこなしていた。
空いている左手は特にすることも無く、宙ぶらである。
・・私は少しイラついた。
こっちは全力でやっているのに相手は余裕だという態度。・・しかし、すぐに冷静になった。・・ここで無闇に攻撃すれば隙ができる。
・・・それはそのまま私の死である。
・・・この状況は正に真の敵は己の中にある。という表現が相応しい。
・・・何度も打ち合う武器。・・剣は刃こぼれを一切していない。金棒にも目立った傷は無し。
・・金棒は予め`解析`を行い、構造を把握していた。・・アダマンタイト百%。
・・正直冗談としか良いようの無い造りである。
・・しかし、剣も負けない位の強度である。
その証拠にこれだけ打ち込んでもまだ戦える。・・数十回の打ち合いをし、再び拮抗状態になった。・・・両者一歩も動けずの状況。
その中でダンメスは。
「・・・中々やるな。・・さすがはシドール様が目に掛けるだけはある。・・・だが、まだ甘い!!!」
その叫びと同時に左手が私の右肩を掴んだ。
激しい痛みが生じた、かなりの握力である。・・そのまま、横に強引に投げ飛ばされた。
少しだけの浮遊感、そして、すぐに来る落下した時の衝撃と痛み。
意識が飛びそうである。
しかし、すぐに頭を横に振り、我を取り戻した。
・・ダンメスを見ると、すぐ近くで金棒を振り上げていた。・・そして、容赦なき一撃が私を襲う。
咄嗟に剣で受け止めた。私の足場が凹む所か陥没した。相手の力が強すぎる。・・退避しようにも体制が悪い。・・片膝をついてまともに動けず、力を入れて振り払おうにも相手の方が上、正に絶体絶命である。
・・・その膠着の中、私は`激動`を使おうかと迷ったが。
今使えば脱出できるが、その後、魔力はダダ漏れになってしまう。
・・まだ、相手の本気が分からない以上賭けに出るのは得策では無い。・・私は、それ以外での脱出を考えた。・・・しかし、時間は無い。
徐々に押されている。・・即座に決断するかしない。
・・・私は。
「・・・はぁ~~~。・・・火焔達磨!!!」
私の体から炎が勢いよく出てきた。
・・・ダンメスはもろに食らった。その顔は一瞬驚いていたが、離れることは無い。・・まだ私を押さえていた。
・・予想はできていた。・・この程度の攻撃で動くことは無いことに。
しかし、この攻撃の真の意味は相手を焼き殺すことでは無い。・・この灼熱の中、呼吸はうまく働かない。・・・息ができなければ離れるしか無いからだ。
それは私にも言えたことだが、これくらいはある程度慣れている。
・・根比べである。・・勢いが弱まることの無い炎。
ダンメスの顔が段々と苦しくなっている。・・そして、私から離れた。
・・それを見た後、炎を解除し、立ち上がった。・・少し疲れたがまだ余裕はある。
・・ダンメスは呼吸が荒く、何度も息継ぎをしていた。
ダンメスは。
「・・・何だ今のは?・・・何をした?」
この質問に私は。
「・・別に、炎の中にいれば息ができない。・・それだけだ。」
あっさりとした答えを述べた。
それを聞いたダンメスは。
「・・・なるほど。さすがは異世界人。・・・考え方が違うようだな。」
かなり気になることを言った。私は。
「・・・どうしてその事を?」
あまりのことに呆気にとられ、本音を言ってしまった。
ダンメスはニヤけて。
「・・知りたいか?・・・ならば、私に勝つことだな。」
そう言って再び金棒を突きの構えをした。
・・・私は剣を構えた。
緊張が奔る空間。
そして。
ダンメスは。
「・・・一ノ衝撃!」
突然、剣が砕けた。
・・その衝撃に私は後ろに飛ばされた。・・地面をこするように飛ばされ、止まった。
・・何が起きたのか分からないが、予想はできる。
・・目に見えないほどの攻撃が剣に激突したのだ。
・・ダンメスは。
「・・どうした?・・・もう終りか?」
この言葉に私は。
「・・・まだまだ。・・・ここからだ。」
そう言って剣を鞘に収め、刀を抜いた。
・・私は走った。・・距離を置いても意味は無いと感じたからだ。
先手必勝。
刀を思いきっり振り落とした。・・ダンメスは金棒を横振りで応戦。
・・激しい火花が生じた。
先ほどまでとは比べられない閃光に一瞬ダンメスは驚いた。・・私はその隙を見逃さない。
・・・猛攻と言うべき突撃をし、ダンメスは防御に徹した。
・・だが、それも長くは続かない。
・・ダンメスは猛攻の隙をついて反撃に出た。・・・同じ手は通じないようだ。
火花が激しくなる攻防は誰が見ても異常である。・・・私は雷を刀に纏わせ、激しい炎が上がった。
しかし、それを操らず、その勢いのまま、斬り掛かった。
・・ダンメスは金棒を盾とし防いだ。・・灼熱の炎はあらゆる物を燃やす。
・・しかし、アダマンタイトの金棒には溶ける要素が全くしない。
・・ダンメスは刀を弾いた。・・返す刀で金棒を横振り、私はそれを迎え撃った。
・・回避すれば隙が生まれる。・・そんな体力を使うわけにはいかない。
打ち合うだけの攻撃。
・・回避も防御も全てがどうでもいい。
ただ攻め続ける。・・・それだけの戦い。
・・・知的の要素は欠片も無いが、なぜだろう。・・すごく楽しいと思えるのは。
・・息もつかない戦い。・・それも唐突に終わる。・・お互いが大振りで武器を振り落とした。
・・その衝撃か、体制が崩れた。・・お互いに。
・・息遣いが激しく、呼吸が乱れる。・・お互いが肩で息をしていた。
私は。
「・・はぁ、はぁ、はぁ。・・・楽しいな、何か。」
息も整えないで発した言葉。
ダンメスは。
「・・・はぁ、はぁ。・・・私もだ。・・・少しだけ、分かった気がする。」
そう言ってニヤけ顔をした。
・・・何が分かったかは分からないがそれ以上言う気はないようだ。
楽しいか。
・・戦いでそう思ったことはあまりない。・・狩りをしている時は、終わった後に楽しかったという感想を持つが、やっている最中に思ったことは無い。
・・何故なら、生死を賭けた場でそう思うのは失礼だと考えたからだ。
・・だが、今は違う。・・一歩間違えば確実に死ぬこの状況。
恐怖を感じるが同様に楽しいと感じてしまう。
・・生き物は不思議である。
・・・感想に浸るのはここまで、互いに呼吸は落ち着いた。
・・戦いの続きである。
・・・私は。
「・・・・ここからは勝負と行かせて貰うぜ。・・・スキル`激動`!!」
切り札を発動した。
・・今ある魔力量を考えると、これ以上温存するのは反って危険である。・・・一か八かの賭けに出る。
目が赤く光り、体に力が漲ってきている。
・・・私は刀を構えた。・・それを見たダンメスは金棒を構える。
・・・そして、私は動いた。・・文字通り目にもとまらぬ速さで。
・・・一瞬のうちに私はダンメスの後ろにいた。・・ダンメスの顔に薄い一文字ができ、そこから赤い液体、血が出てきた。
・・ダンメスは驚いたように後ろを向き、顔に手を置いた。
指に付いた血。・・それを見てニヤけた顔になった。
ダンメスは。
「・・・シドール様が認めるのも納得だ!!」
その叫びと共に突進してきた。
・・振り下ろす金棒。・・その速度も変わらず。・・・しかし、今の私には遅く見える。
・・紙一重で躱し、空いた懐に一文字に斬り裂いた。
少しだけの血しぶき、だが、ダンメスは気にすること無く、左手で殴ってきた。
・・・私は両手をクロス状にし、防いだ。
かなりの衝撃、土煙を上げながら飛ばされたが、倒れることは無く立ち尽くした。
・・ダンメスは金棒を突きの構えで。
「・・二ノ衝撃!!」
金棒の二回突きが迫ってきた。
一回目は見えなかったが、今度のは見えた。・・それを刀で弾いた。
魔力で極限まで強化した刀は砕く所か刃こぼれ一つ無し。
・・それを見たダンメスは。
「・・いいぞ。・・いいぞ。・・・そうこなくてはな!!」
全身から噴き出す魔力。
それは沸騰した湯煙の如く。
ダンメスは再び構えた。
・・ダンメスは喜んでいた。最初は人間の中でもそれなりの手練れだと思っていた。
・・しかし、戦いが続くにつれ、何故か楽しいという気持ちが湧き上がってきた。
・・・こんな気持ちは久しぶりであった。・・そのお礼と言うべき技を繰り出す。
かつて、里の近くにやって来た人間。・・オキタソウジという剣士が見せた技。
・・それを見て更に昇華し、己の技にした。
「・・三ノ衝撃!!」
高速から出る三つの突き。
今までこれを受け、生きた者はいない。・・だが、ダンメスは思いもよらぬ物を見た。
・・私はダンメスが再び構えたのを見て、今度のはかなり強いと感じた。・・一度見せた技を二度使うのは愚策。
・・それでも構えたのはさっきのより威力が強い証である。
・・私は刀を構えた。・・そして、繰り出される三つの突き。
・・その速度は目で追うには間に合わない。
・・私は実戦の勘で防ぐことにした。・・三回連続の攻撃、全てが必殺の一撃。・・防ぐことに成功した。
正直、どうやって防いだのか思い出せない。
・・だが、それよりも刀がかなりの熱を持っていることに気付いた。
あの衝撃だ。発火合金が反応したのだろう。
その時、天啓がきた。
・・この熱を利用して、炎の刀を作ればどうなるのかを。・・私は即座に火の魔術を使い、刀に宿る熱に更なる熱を加えた。
・・すると、黄色い炎が青い炎になった。
・・正に、炎の頂点と言うべき色である。
・・だが、本来ではこの炎に耐えられ金属はない。・・しかし、先日、地球に行った博覧会で見た金属、レニウム。
・・それはこの世で最も堅い金属、沸点温度が約五千度は耐えられる代物。
私は戻ってきた後、すぐ、刀に加えた。
・・結果は、玉鋼が四十%、発火合金が四十%、アダマンタイトが十%、レニウムが十%。
・・かなりの合成金属ができた。
・・・そして、青い炎は一万度の高温。・・レニウムでは耐えられない。
しかし、アダマンタイトと融合することで強度と耐熱が倍以上に跳ね上がった。・・これならば耐えられる。
・・・私は。
「・・いくぞ。ダンメス!!・・・これが俺の奥の手。真獄、迦具土だ!!」
そう言って私は飛んだ。
・・・迦具土、またの名を火の迦具土神。・・古事記に出てくる火の神。
イザナギとイザナミの間に生まれた子供の一人、だが、出産時、イザナミに火傷を負わせ、死なせた。
神を殺す炎。それが迦具土である。
・・かなり仰々しいが、これ以上の名は思いつかない。
・・私は全身全霊の一撃を与える。ただそれだけである。
・・ダンメスはシンスケの武器から出る青い炎を見た。
・・あれは魔の炎。・・七天魔の頂点、`竜王バムハル`しか使えないと言われる炎。
何故、人間が使えるのか疑問だが、今はどうでも良い。
・・・シンスケが上空に飛んだ。
これが最後の一撃。
ダンメスは。
「・・面白い!!受けて立とう!!・・・魔闘金棒!!!」
そう叫んだ時、金棒が黒から赤色に変わった。
・・・ミノタウロス族の特性、魔力を武器に込めれば、己の望む属性に変えることができる。・・但し、変えた属性は全てが近距離専用。
遠くに飛ばすことができない。・・勿論、例外はいる。
・・・ダンメスは火の属性を付与した金棒を両手に構え、シンスケを待ち構えた。
・・・両者の奥義。
・・そして。
「チェェェェェェストォォォォ!!」
「キェェェェェェェェェェェェ!!」
ぶつかり合った。
・・・激しい衝突、大気が揺れ、近づく者は全て弾かれる。
・・・叫び合う両者。
・・・しかし、それも間もなく終わる。
・・・シンスケの刀が金棒を溶かした。
拮抗する中、私は手応えを感じた。
・・少しだけ押している。
・・私は。
「・・ォォォォ。アアアアアアアアアア!!!」
ありったけの力を込めて金棒を斬った。
その勢いでダンメスの左肩に食い込み、斬り落とした。
ダンメスは、悲鳴を上げながら、両膝を地面につけた。
・・・勝負あった。
ダンメスは残った右手を左に添え、痛みに耐え、金棒は半分割れた。
・・・私は、トドメを刺そうと振り上げた。
・・その時、どこからか殺気を感じた。
・・・振り返ると、上空に何かいる。・・よく見えない。
・・・私は少し冷静になり。
「・・・・ダンメス。・・俺はかつてシドールに見逃してもらえた。・・・だから、お前を殺さない。」
そう言って炎を解除し、鞘に収めた。
ダンメスは苦しい顔をして。
「・・・情けを掛けられるのは武人の恥。・・・だが、シドール様はそこまで望まい。・・・お前の勝ちだ。シンスケ。・・大人しくここから去ろう。」
そう言って金棒を手に、立ち上がった。
立つのがやっとと言う顔で。
「・・この左手はくれてやる。・・・好きに使え。」
その言葉を最後に戦場から去って行った。
私はその時、思い出した事がある。・・異世界人の事をどこで知ったんだ?と言う事に。