女子だけのパーティーだと何かと物騒なので虫除け役として雇ったオジサンが最強の勇者だった件について
「回りくどいのは好きじゃない。社交辞令は飛ばして本題から言わせてもらおう。君たち三人とも受け入れる用意が僕たちのパーティーにはある。いや、遠慮は要らない。女子だけのパーティーを狙う犯罪者まがいの連中も冒険者の中にはいると言う。君たちのことは前々から心配していたんだ」
いきなり道端で呼び止められ告げられた尊大な申し出に、私はぎこちなく微笑んだ。
「あの、お申し出、ありがとうございます。帰って皆と相談します」
私は王立冒険者養成学園の四年生だ。四年制のこの学園では、三年を掛けて戦闘術や魔法、野営のマナーなど冒険者のイロハを学び、最終学年に上がると卒業後を見据えパーティーを組む。気心の知れた同級生と組むもよし、奴隷を買ってシステマチックで殺伐としたパーティーを組むもよし。卒業までの一年間は教師が影に日向にサポートしてくれるから失敗を恐れる必要はない。私も仲のいい女子二人とパーティーを組み、積極的にクエストに挑んでいたのだけれども。
「いやいやいや君がパーティーリーダーなんだろう? 君がうんと言えば決まる話だ。知ってのとおり僕はエックハルト公爵家に連なる者だし、うちのパーティーリーダーのリヒャルトは王族だ。メンバーのローマンはいずれ王宮の筆頭魔法使いになるに違いないと噂されるほど優れた魔法使いだし、僕たちのパーティーに入りたいという申し出は多い。実際、対応に苦慮しているほどだ。でも、僕としては君たちの為にも――」
このままでは約束の時間に遅れてしまいそうだ。でも、私は必死に笑顔を保つ。こういった手合いを怒らせると後が面倒だからだ。
「あの、じゃあ、その方たちを入れてあげてください。私たちもパーティーを組まないかという申し出があまりにも多いので、モーリス先生に相談に載っていただいているところ、だから」
「げっ、モーリスのやつと相談してんのか……!?」
学園でもとりわけ厳しい教師の名を出すと、やっと公爵家のご令息――クルトの顔が引き攣った。
「お返事できるようになるまできっと時間が掛かるし、その間、活動が滞ったら申し訳ないから。あの、そういう訳なのでそろそろ失礼して、いいですか? この後も打ち合わせがあるんです」
どうやら打ち合わせにはモーリス先生も同席すると誤解してくれたらしい。ちょんと膝を折って別れの挨拶をすると、クルトはごねる事なく胸に手を当ててくれた。
「そ、そうか。残念だが、仕方がないな。――あっ、そうだ、他の者に声を掛けるから、この話はモーリス先生には報告する必要はないからな!」
「はい」
ぱたぱた走って角を曲がると、私は頑張って作り笑いをしたせいで引き攣っている頬をむにむに揉みながらながら待ち合わせ場所へと急いだ。
ギルド近くにあるのに鉢植えがたくさん置かれ、ガーリーな雰囲気の食堂は、食事時以外の時間にはお茶や甘味も出してくれる上、粗野な男性客が寄りつかない。私たちのお気に入りの場所だ。
「遅くなってごめん、アドリエンヌ、キーラ」
開け放してあった木の扉の中へと飛び込むと、私と同じ制服を着た二人の少女がぱっと笑顔を浮かべた。
「どうしたの、ミア。何かあったんじゃないかって心配していたのよ?」
高くやわらかな声でおっとりと上品に喋る少女、アドリエンヌは作りもののように美しい顔をしていた。瞳の色は若葉の翠。美しい金の髪を腰まで垂らしている。王立冒険者養成学園の制服を着ていなければ深窓の令嬢にしか見えない。
「あと十分待って来なかったら、探しに行こうって話していたんだぜ?」
もう一人、女性にしては乱暴な話し方をするキーラは燃えるような赤毛の持ち主だった。凹凸の少ないアドリエンヌとは対照的に筋肉質でメリハリのある躯つきをしている。頭の上には一対の獣耳がピコンと立ち、街中だというのに索敵に余念がない。キーラは好戦的な事で知られる獣人なのだ。
「ごめん、また男子から、勧誘、されて」
「またかよ!」
キーラが呆れたように両手を頭の後ろに回し、アドリエンヌが上品に首を傾げた。
「今度はどなたからだったの?」
「クルト。例の、王子さまのパーティー」
「王子ってあの、出来が悪いって評判の第八王子?」
アドリエンヌの顔が嫌悪に歪んだ。そう、王子と言ってもリヒャルト王子は八番目。王位を継承できる可能性はないに等しい。大体出来が良かったら王立冒険者養成学園の隣にある王立高等学校の方へと行っているはずなのだ。
キーラもちっと舌を鳴らす。
「隣のクラスのハーフドワーフのかわい子ちゃん、断りきれなくてこの間連中に同行したが、身の危険を感じてクエスト半ばで離脱したらしーぜ」
「まあ、途中放棄のペナルティを受けてでも逃げたくなるようなことがあったのね」
リヒャルト王子たちのパーティーは、メンバーの身分が中途半端に高いため、教師も扱いに困っていた。気に入らない同級生を無理矢理パーティーに加盟させて人目のない迷宮の中で痛めつけたり、女子に不埒な真似をしようとしたりとその悪行は枚挙にいとまがない。
「女子だけで活動していると物騒だろうから、心配なんだって言ってくださったけれど」
「一番心配なのはあんたらだっつーの!」
「でも、実際女子だけだと面倒ごとが多いのよね。男性のメンバーが一人でもいれば、こう言った勧誘も減るんじゃないかと思うのだけど」
優雅にティーカップを持ち上げたアドリエンヌの言葉にキーラも私もぎょっとして目を見開いた。
「――あ、もちろん王子のパーティーに加わるって意味じゃないわよ? 誰かいい人いたらいいのにって思ったの」
確かに。
キーラが鼻に皺を寄せ考え込む。私も溜息をついた。
私はキーラとアドリエンヌが大好きだ。綺麗で、見ているだけで幸せな気分になれるし、二人とも頭が良くて、向上心に溢れていて、女子にありがちな甘えたところがない。だから四年生になった時、パーティーを組まないかって誘われた時はとても嬉しかった。リーダー役を押しつけられたことだけは今も納得していないけれど。
二人といるとすっごく楽しいけれど、アドリエンヌは入学二日目にして『姫』という綽名がつけられるほど気品のある美少女だし、キーラも派手な顔立ちとプロポーションで何かと男子にちら見される存在だ。私はつまらない黒髪に黒目で彼女たちとはまるで釣り合わないけれど、一応は女だ。
つまり何がいいたいのかと言うと――男子が、うるさい。
パーティーへの勧誘は日常茶飯事、最初はちょっと嬉しかったけれど、今は鬱陶しいことこの上ない。彼らの目当てはアドリエンヌとキーラ、私なんかおよびじゃないのだから。
でも、今はまだいいのだ。学生であるうちは教師が守ってくれるし、冒険者ギルドの人たちも気を配ってくれる。でも、卒業してしまったらそうはいかない。絡まれるだけならまだいい方で、迷宮の中とか人気のない場所で待ち伏せされてレイプされた、なんて事件は実は珍しいことではないのだ。
「確かに一人男がいれば違うだろーけどよ、実際問題、無理だろ。学園の男子生徒にそういう意味で信用できる奴、いるか?」
即答できる。いない。
「奴隷を買うっていうのはどう? 奴隷なら絶対服従するから安全だし、筋肉むきむきの方なら戦力の増強にも繋がるわ」
アドリエンヌの口から筋肉むきむきなんて言葉が出てきたことに私はびっくりした。顔が綺麗すぎて物凄く俗語が似合わないんだよね、この子。
キーラは浮かない顔だ。
「だけどよー、女冒険者が男奴隷を買うって、なんつーか、外聞が滅茶苦茶悪いぜ?」
どうしたって下衆なことを考える人はいる。変な噂を流されるかもしれない。
「私も大人の男の人に命令したりするのは、ちょっと……」
安全な相手だとわかっていてもきっと緊張してしまうし、緊張しなくなってしまったらそれはそれでまずい気がする。私はたまに街で見かける女主人のように、大人の男の人を平気で怒鳴りつけられるような女性にはなりたくないのだ。
「うーん」
頬杖を突いて考え込んでいると、キーラがぽんと手を叩いた。
「あいつ、どうかな。ほら、二年次の実習で仮パーティー組んだ時、学校の紹介でポーターを雇ったことがあっただろう?」
記憶を辿る必要もなかった。気弱な笑みを浮かべたオジサンの顔がほわわんと脳裏に浮かぶ。
「大量の素材を持ち帰らなければならないクエストを与えられた時だったかしら」
「そうそう。マジックボックスは高価すぎて持ち歩きたくないってミアが言うからポーターを雇っただろう? 先生が連れて来たおっさん、ガタイはいいのに腰が低くて、あたしたちが女子ばっかりだっていうんで色々気遣ってくれて、結構感じがよかった」
アドリエンヌが頬に掌を添える。
「やだ、キーラもあの方、いいと思っていたの? 私もなのだけど」
「マジか!? ミアは!?」
いきなり話を振られ、私は一瞬、う、と息を詰まらせた。
「私も、あのおじさんには悪い印象、ないかも……」
一緒に迷宮に素材採取に行った時、オジサンはべらべらうるさく話しかけて来てメンバーの気を引こうとはしなかった。
それだけではない。私が転びかけた時、片腕だけでひょいと抱き留めてくれた。思い出しただけでかあっと顔が熱くなり、私は両頬を掌で押さえる。
家族以外の男の人に息がかかるくらい近づいたのはあれが初めてだった。
これまでにも他の男子とパーティーを組んでクエストをこなしたことはあったけれど、皆、アドリエンヌとキーラに夢中で、私になど目もくれなかったのだ。そもそも別にくっついて歩いていたわけでもないのに、転びかけた女子――クエスト中なのだから、もちろん武器や防具を装備していて結構重い――を抱き留めるなんて芸当、そうそうできるものではない。しかもオジサンは私が体勢を立て直すと、ごめんねとまるで自分が悪いことでもしたかのように手を引っ込めた。腰に回された腕にも一切いやらしい意図を感じなかった。
オジサンなのに、ときめいた。なんて、親友であるこの二人にも絶対に言えない。
学園には確かにオジサンより若くて容姿も整っている男子がたくさんいるけれど、下心まみれで浮ついている姿を見たらイイだなんて全然思えない。これまでに出会った男性の中で好感度が高いのは断然オジサンだ。
「あのオジサン、フリーなのかな。それともどっかのパーティーと専属契約してるのかな? そういうことってどこに行けば調べられるんだろう」
「先生に聞いてみればいいんじゃないかしら」
「専属契約結ぶなら、報酬もちゃんと考えなくちゃいけねえよな。相場ってどれくらいなんだ?」
「ポーターは頭割りではなく、日当らしいわ。獲物の如何にかかわらず、一日で銀貨一枚とか」
「安すぎじゃね!?」
「多分、村人とか農民とか、戦うことができないクラスなのよ」
「あんなにいいガタイしてんのに?」
この世界にはクラスというものがある。
十歳になると教会で神さまから賜ることのできる祝福だ。たとえば、剣士というクラスを賜ったならその人には剣をふるうのに適したスキルも併せて与えられる。魔法使いなら必ず魔力があってなにがしかの魔法を使えるスキルが得られるし、勇者や剣聖といった特別なクラスを得た者なら、剣術はもちろん、万人を惹きつけるカリスマ性や聖魔法といった希少なスキルまでセットで手に入る。
一応は神さまから賜ったクラスに貴賤はないということになっているけれど、村人は特段優れた才能を与えられないハズレとみなされている。とはいえ、努力すれば普通に剣をふるえるし、冒険者にだってなれないことはないのだ。ただ、他の人に知られたら馬鹿にされるだけで。
「オジサンは力持ちで身も軽かったし、その気になったら剣聖だって騙ってもバレなさそうだけどなー」
「何にせよ、クラスを根掘り葉掘り聞くなんてマナーに反するわ。おじさまが見つかってもあんまり突っ込んではだめよ、キーラ」
「でも、パーティーに入れるんだったらさ、聞いてもよくね?」
長く形のいい足を高々と組んだキーラが焼き菓子を口に放り込みながら笑う。お行儀が悪いのに、キーラがするとどうしてこんなに格好よく見えるんだろう。
「何にせよ、方針は決まったわ。おじさまを探しましょ」
私は勢いよく立ち上がった。
「わ、私、先生に聞いてみる」
「あたしも行くよ!」
善は急げである。私たちは会計を済ませると学園に戻り、職員室に突撃した。でも、結果は芳しくなかった。
「あー、あいつかー。あいつはなー、『不死鳥』の所属なんだよなー」
「不死鳥!?」
先生がもたらした情報に、私たちは愕然とする。『不死鳥』と言えば、迷宮の最前線を張っているA級パーティーの筆頭だった。つい数日前にも迷宮で一つ目巨人を仕留めたと聞いている。そんなパーティーに所属しているなら、ポーターと言えどもいい給金を貰っているに違いない。
「私たちのパーティーに入ってもらうのは無理そうですね」
「いいと思ったんだけどなァ……」
「仕方がないわ。また別の手を考えましょう」
すごくすごく残念だけどその話はそこで終わってしまった。……そう私は思っていたのだけれども。
「あっ、アレ、あのおっさんじゃね?」
ある日、夕食をとりに出かけた町の食堂でくだんのオジサンを発見し、三人は目を瞠った。
何だか様子がおかしい。
無精ひげを生やし全体に薄汚れている上、装備はボロボロ、昏い表情で俯いている。
などと観察している私たちも元気溌剌というわけではなかった。うまく煙に巻いたつもりだったのに、このところ王子パーティーがしつこいのだ。
私たちは素早く視線を交わす。
オジサンが欲しい。何があったのかは知らないけれど、これはチャンスなのではないだろうか。
「……幾らまでなら出せる?」
アドリエンヌが聞く。お金の管理は私の担当だからだ。
「まだ収入が不安定だから……日当ではなく、報酬を四分割する方が、いいかも……?」
コンスタントにクエストをこなすようにしているが、私たちはまだ駆け出し、大きく儲かる案件は受けられない。お金にならない学校の課題に取り組まねばならない日もある。
「了解よ。とりあえずは旧交を深めましょう。行くわよ」
アドリエンヌがオジサンのいるテーブルに向って踏み出す。
オジサンは包囲網が完成するまで、私たちに気づかなかった。
「こんにちは、オジサン」
「久しぶり、ですね」
「あのさ、ここ、座ってい?」
声を掛けると目を丸くして私たちを見上げる。
「あ……久しぶり、だな、嬢ちゃんたち……。あー、綺麗どころとご一緒できるなんて光栄だが、今日はその、奢ってやれるだけの金がなくてだな……」
顔色が悪いのはそのせいだったのだろうか。でも、どうしてお金がないのだろう。そういう人には見えなかったけれど、ギャンブルにでもハマっているのだろうか。あるいは娼館に入れあげているとか。
私はぶんぶんと首を振った。いやいや迷宮で怪我して、回復薬で財布が空になってしまったのかもしれないし? 何だったら財布をおとしたのかもしれない!
「あっはっは、大丈夫だって。たかったりしないさ。あたしたちだって最近はそれなりに稼いでいるんだ」
キーラがからりと流す。続いてアドリエンヌが言った言葉に、オジサンはほっとした顔をした。
「私たち、殿方には奢ってもらわないことにしているんです。後が面倒なので」
「……嬢ちゃんたちはしっかりしているなあ」
くたびれた笑顔にきゅんとくる。
舐められたらいけないと思うからだろうか。冒険者をやっている男の人たちは大抵上から目線で、暑苦しいくらい自信満々に振る舞う人ばかりなのに、オジサンは最初から全然違った。肩肘張らず、隙だらけの顔を見せてくれる。
オジサンだし、別に好きとかそういうわけじゃないけれど、そういう顔を見せられると何だかほっとする。
オジサンの正面の椅子を引き、どっかと腰を下ろしたキーラが話を切り出した。
「聞いたぜー。おっさん、『不死鳥』のメンバーなんだって?」
アドリエンヌと私も左右に腰掛け、視線をオジサンへと向ける。
「学園でバイトする方って、冒険者としてはうまくいっていない人が多いって聞いていましたが、おじさまって本当は凄い方だったんですね」
オジサンが気まずげに頭を掻いた。
「いや、凄いのはあいつらで、俺は別に……」
「はは、相変わらず腰が低いなア」
キーラが片手を上げて店員を呼びエールと料理を注文する。オジサンの前にあるのは飲みかけのぬるいエールだけ。夕食時だというのに料理はない。
店員がテーブルを離れると、キールはオジサンに向かって身を乗り出した。突いた右肘で顎を支えてオジサンを見据える。
「ね、『不死鳥』の仕事って忙しいの?」
オジサマはなぜか視線を逸らし、エールを一口飲んだ。
「あー、この間まではそこそこだったが、これからはそうでもない、かな」
「じゃあさ、おっさん。あたしたちのパーティーと掛け持ちする気、ない?」
「えっ?」
オジサンは順番に私たちの顔を見まわした。それからいきなり身を引く。がたっと椅子が音を立てた。
「いやいやいや、自分で言うのも何だけど、何だって君たちのような若い子がこんなオジサンに声を掛けるんだ!?」
キーラの目が細められる。
「おっさんはさあ、あたしたちのパーティーでポーターやってくれてた時、あわよくば一発キメられるかもとか、期待したこと、ある?」
オジサンは真っ赤になった。
「そんなこと、考えるわけないだろう!」
「ははっ、だからだよ」
キールがにゃはっと表情を崩す。アドリエンヌもしたり顔で微笑んだ。
「おじさま。おじさまはそれが普通だと思っているかもしれませんけれど、大抵の男性はそんな風に慎ましく振る舞ってはくれないんです」
「……あ」
オジサンは理解してくれたらしい。
「女だけでパーティー組んでるとさー、いやらしい目で見てくる連中が多いんだよなー」
「男の人が一人いるだけでも、大分違うと思うんですよね」
「ああー……」
オジサンがテーブルの上に置いた手を、アドリエンヌがそっと両手で包んだ。
「基本的に問題は自分で解決します」
戦えない人に、守ってくれなんて無茶を言う気は私たちにはない。
「おじさまはいてくださるだけで構いません。あとは普通にポーター役をお願いします。とりあえず最初の一ヵ月は試用期間ということで、報酬はその日の利益の四分の一でいかがですか?」
「……っ、待て待て待て、多すぎる! それに俺はその、今日、『不死鳥』をクビになったんだ……」
「――――ええ!? クビ!?」
綺麗に揃った三人の声が食堂内に響き渡る。一瞬視線が集まり、私たちはしまったと口元を押さえた。
クビだなんて穏やかではない。詳しく聞いてみる。そうしたら、『不死鳥』でのオジサンの待遇が非常に劣悪なものであったことが明らかになった。がっぽり儲けているに違いないのに、報酬は相場通りの一日銀貨一枚。幾ら戦闘に参加しないにしても、そんなはした金で危険な迷宮の最前線までついてこいだなんてどうかしている。
おまけに戦闘中、自分がミスをして魔物に吹っ飛ばされてオジサンを巻き込んだというのに、持たせていたアイテム類が破損したことを知ると、弁償しろと身ぐるみ剥いで放り出したのだという。
おかげでオジサンはたまたま験担ぎで守り袋に入れていた銅貨一枚――エール一杯分のお金しか持っていなかったのだ!
「うわっ、何それ信じられない。『不死鳥』って凄いパーティーだと思っていたのに、最低じゃん」
「お話から受けた印象から判断するに、その方たちは普段からおじさまを粗略に扱っていたのではありませんか?」
酷い目に遭わされたのである。愚痴ってもいいのにオジサンはほろ苦い笑みを浮かべるばかりで、『不死鳥』の悪口を言おうとしなかった。
「まあ、俺も悪かったんだ。戦いもしないのに煩いことを言ったから」
「おじさま、私たちのパーティーに加わって下さっていた時には随分と大人しかったですけど、あれは遠慮していたのですか?」
「いや、嬢ちゃんたちはちゃんとしていて、別に言うことなんてなかったから」
「ふんふん、『不死鳥』はあたしたちよりちゃんとしていなかったと」
「嬢ちゃん……」
オジサンが困ったように眉尻を下げる。どうやらオジサンは凄くいい人らしい。
「――まあ、今話したのは俺の側の話だ。もしかしたら俺は酷い嘘つきで、嬢ちゃんたちを食い物にしようとしているのかもしれん。『不死鳥』をクビになったことで口さがないことを言う奴が出てくる可能性もある。仕事を失ったばかりだからお誘いは嬉しかったが、パーティーに俺を入れて本当にいいのか、嬢ちゃんたちはよく考えた方がいい」
アドリエンヌが笑った。
「あら、そんなこと言っていいんですか? 私が思うにおじさまは、今夜眠るベッドにすら事欠いているのでは?」
図星だったのだろう。オジサンが言葉を詰まらせる。
私たちは素早く視線を交わした。
これはもう、決まりでいいよね?
「それじゃあ、明日から一ヵ月は試用期間と言うことで」
キーラがエールのジョッキを持ち上げる。アドリエンヌもカクテルのグラスを手に取った。
「おじさま、私たち三人でツインの部屋を二つ使わせてもらっているんです。今夜の寝床は余っているベッドでいいですよね」
オジサンの肩がびくっと跳ねた。
「待て。うら若い女性と同じ部屋で寝るわけには――」
「学校の女子寮だぜ? 不埒な真似なんかしたら、元S級冒険者の教師が駆けつけて来てフルボッコだ」
「女子寮!?」
「大丈夫大丈夫。その辺はすごくゆるいから。男奴隷買った奴なんか普通に部屋に住まわせているし。女が多い宿屋くらいの感覚でオッケー」
「しかし――」
「とりま、新メンバー加入を祝してカンパーイ!」
「かんぱーい!」
オジサンの戸惑いを無視してジョッキとグラスが打ち合わされる。
「んーっ、おいしー!」
半分ほどグラスを干し、ぷは、と息を吐く。お酒を飲んでいるような顔をしているけれど、私のグラスの中身は果実水だった。アルコールに弱くてすぐへろへろになってしまうので、部屋以外ではお酒を飲まないようにしているのだ。
「お、料理が運ばれて来たぜ。オジサンもしっかり食べとけよ」
「えっ、いや俺は」
「遠慮しないで。ご飯を食べるお金もないんでしょう? 気になるなら前払いだと思ってくれていいわ」
私は四枚取り皿を取ると、湯気の立つ大皿の中身を取り分けはじめた。オジサンとキーラの分はたっぷり山盛り、アドリエンヌと私の分はほどほどに、だ。
「今日はご飯を食べたら寮へ行って休んで、明日改めて細部の話し合いと契約を済ませましょう。装備も買い換えないとね。準備が整ったら明後日の朝から迷宮にアタックするわ」
「装備まで世話になるわけには」
「おっさん、わかってねーな。ボディガードの装備がボロいと、あたしたちの身の安全にかかわるんだよ」
「これからよろしくね、おじさま。ほら、ミアも」
アドリエンヌにせっつかれ、私もおずおずとオジサンに挨拶した。
「よろしく、お願い、します」
ぺこりと頭を下げると、オジサンがどこか居心地悪そうに身じろぐ。
「……あー、でも」
「じゃあ、たべましょうか」
「おいこら待て、俺の話も聞け。パーティーに入ってもいいが、一つだけ条件があるんだよ」
「へえ。何だい?」
私たちは料理に伸ばし掛けていた手を止め、オジサンを注視した。
「その、だな。俺のクラスについては、聞かないで欲しいんだ」
アドリエンヌが瞬く。
「……それだけ、ですか?」
オジサンがもったいぶって頷いた。
「それだけだ」
考えるまでもなかった。
「オッケー。聞かない。それじゃ、いっただっきまーす!」
「いっただっきまーす!」
これでオジサンは私たちのものだ。
テンション高く食事に取りかかる私たちに、オジサンが苦笑した。
「……いただきます」
それからはとんとん拍子にことが進んだ。
オジサンはおそらく三十代半ば、男として脂の載った年頃だ。体格がいいから、きっちり防具と武器を装備すれば立っているだけでも十分牽制になる。あえて剃らないようにしてもらった無精髭も迫力だ。
筋肉質な体躯は分厚く、新しく買い求めた防具を装備させると戦闘職にしか見えない。どうせならもっとそれらしく見えるようにと、迷宮でドロップした剣を渡したら、素人とは思えないほど様になった。
「本当にいいのか? こんなにいい剣を貸してもらって」
ミスリル製ではないかと思われる剣は刀身が真っ黒に塗られていて、禍々しくもかっこいい。所々に金で文様が入っている黒い鞘にも凄みがある。
「いいの。迷宮でドロップして大喜びしたまではいいものの、重すぎてキーラでさえ装備できなかった代物だから」
キーラが未練がましく念を押す。
「今はそうだけど、もう少し筋肉がついたらあたしが使うからな。折ったりすんなよ」
「大切に扱うよ」
そう言うと、オジサンは剣を鞘から抜いた。何気なく上へ右へと振ってみたりする。
よほど重いのだろう、振る度にオジサンの上腕に筋肉が盛り上がった。
キーラが目を細める。
「おっさんって、本当にポーターだったのか?」
「そう言っただろう?」
オジサンは穏やかに微笑んでいる。
「おっさんのクラスが気になるけど……聞いちゃいけないんだよなー」
「ちゃんと覚えていたか。いい子だ」
やけに慣れた仕草で剣先を回し鞘に納めると、オジサンはキーラの頭を撫でた。
一対の獣耳がぴんと立ち、しっぽが膨らむ。
「な……っ、何すんだっ!」
「あれ? 獣人はこういうスキンシップが好きなんじゃなかったっけ。違ったならすまん」
キーラの口がむぐむぐ動いた。そっぽを向いたまま、悔しそうに言う。
「違く……ねーけど……」
うぐ、と私は心臓を押さえた。気風のいい姐さん風のキーラの照れ顔、可愛すぎです!
アドリエンヌが片手を上げ、もう一方の手で私を引っ張る。
「はいはーい! キーラばっかり狡いですよ、おじさま。私にもしてください」
「えっ!? アドリエンヌ!?」
「ミアにもお願いします」
「えええ!?」
いつもクールなアドリエンヌが撫で撫でを要求するなんてと驚いていたら、私まで巻き込まれていた。
私は思わず後退ろうとする。だって、キーラやアドリエンヌならご褒美だけれど、私の頭なんか別に撫でたくないに決まっている。でも、こんな言い方をされたら優しいオジサンのことだ、断れるわけない。
だから自分から辞退しようとしたのだけれど、その時にはもうオジサンの大きな掌がアドリエンヌの頭の上に乗っていた。
オジサンにしては少し乱暴に金髪が掻き回される。最後に少しくしゃっとなってしまった髪を手櫛で適当に整えると、掌が、私の頭の上へと。
「!」
思わずぎゅっと目を瞑って首を竦める。
オジサンの手が優しく優しく私の頭を撫でた。
キーラもアドリエンヌも何も言わない。
やけに静かなのが不思議で、そろそろと目を開けると、真顔で私の頭を撫でているオジサンと目が合った。
「……っ! ……っ!!」
かあっと躯が熱くなった。きっと顔も赤くなっている。アドリエンヌみたいな美少女ならともかく、私ごときが赤くなっても見苦しいだけだ。戻れと祈るのに狼狽えれば狼狽えるほど顔が熱くなる。
恥ずかしいよう……。
キーラの声が聞こえた。
「えっも」
「おじさま、それ以上はミアが可哀想です」
「あっ、ああ……」
アドリエンヌにしたように、私の髪を軽く整えてからオジサンの手は離れていった。
その日から私は発作的にこの時のことを思い出しては悲鳴を上げて悶えるようになる。
試しに受けてみた迷宮で素材採取をしてくるというクエストはうまくいった。その次のクエストも、次の次のクエストもだ。
オジサンは男性で年上だけど、上から目線でああした方がいいこうすべきだと『忠告』してきたりしない。私たちのやりたいようにやらせてくれ、持って欲しい荷物は言わずともマジックボックスに詰め、強い魔物との予期せぬ遭遇にも狼狽えたりせず自主的に適切な距離を取って指示を待ってくれる。
「おっさんとの探索が快適すぎて、おっさんなしではクエストをこなせない躯になりそーだぜ」
迷宮内を歩きながら嘆くキーラに、私はこくこく頷いて同意する。
だってオジサンとの探索ではどんなに努力しても生じるであろうストレスが一切ないのだ。信じられない。
「……おじさまってば有能すぎ。本当にどんなクラスを持っているのかしら。でも、マジックボックスは運び屋や商人の一部に生じるスキルだし……この立ち回りの巧さはオジサマ自身の努力の結果なの……?」
オジサンは回復薬や水などいつ必要になるかわからないもの以外はマジックボックスにしまって持ち運んでいるのだが、これがどうやら魔法を付与された市販品の鞄ではなく、オジサン自身のスキルのようなのだ。鞄ならいざという時、他のメンバーに丸ごと渡すことができるが、スキルだとできない。不便だと思われるかもしれないが、スキルだとどうやっても盗めない上、魔力が続く限りものを入れられるという利点がある。そしてオジサンの収納量は随分と大きいらしい。入れて見て入らなかったということがない。
色々と気になるけれど、私は小さな声で釘を刺す。
「詮索、だめ」
魔法使い専用のローブに長い杖を装備し隣を歩いていたアドリエンヌが肩を竦めた。
「わかっているわ、ミア」
とはいえ私もアドリエンヌに注意できるような立場にない。
私は思う。
オジサンのスキルが本当は戦闘職関係なのではないだろうか。
戦闘中、オジサンは邪魔にならないところに退いて見ているのだが、その時常に右手が黒い剣の柄に添えられているのだ。
オジサンは戦えないはずだけれど、もし私たちが魔物に負けて殺されそうになったら、オジサンはあの剣を抜くのではないだろうか。
オジサンは魔物に勝つ? 負ける?
私はぶんぶんと頭を振った。勝ちそうな気がするけれど、冒険者は思い込みで行動してはならない。こんなことを考えていたら、いざという時オジサンに頼ってしまいそうで怖い。
オジサンは非戦闘員。何かあったら、私たちが守ってあげなきゃいけない存在なのに。
「……人がいる」
ぼんやりと考え事をしながら歩いていた私は、オジサンのごく小さな声にはっとして足を止めた。
キーラの耳がぴくぴくと動いている。食いしばられた口元が口惜しそうだ。オジサンは獣人で感覚の鋭いキーラより早くその存在に気づいたらしい。
待っていても私たちがそれ以上進みそうにないことに気づいたのだろう。通路の先に人影が現れた。
「凄いね。魔法で気配を消していたのに気がつくなんて、驚いたよ」
魔法使いのローブに見るからに高そうな魔石が嵌め込まれた杖。同級生のモーリスだ。
私は手に持っていたボーガンをいつでも構えられるよう、わずかに体重を傾けた。アドリエンヌがあえてのんびりと挨拶する。
「あら、ごきげんよう、モーリス。それに、リヒャルト殿下。こんなところでお会いできるなんて奇遇ですわね」
もちろん本当は偶然だなんて思っていない。迷宮は広いのだ。たまたま会うなんてことがあるわけない。王子たちは私たちを待ち伏せしていたのだ。
「残念だなあ。アドリエンヌは聖魔法も使えるんだろう? 女の子でも戦力になるなら堂々とパーティーを組んでずっと一緒に楽しむことができたのに」
モーリスは本当に優秀な魔法使いだと聞いていたけれど、リヒャルト王子の仲間だけあって目がイっていた。言っていることもヤバい。
「パーティーのことならもう何回もお断りしていますけれど」
わざと何も気づかない振りをするアドリエンヌの言葉を乱暴に遮ったのはリヒャルトだ。
「黙れ! 聞いたぞ。王子である俺の誘いを断っておきながら男をパーティーに引き込んでよろしくやっているそうだな。そのおっさんがおまえらの新しいパーティーメンバーか?」
前に出てきた王子の手は、剣の柄を握っていた。
私たちは素早く視線を交わす。
まずい。
王子の得物は魔剣だ。使い手がへぼでもとんでもない破壊力を発揮する。
「あなたたちには関係ありません。行きましょう、ミア、キーラ。……きゃっ!」
アドリエンヌが踵を返し来た道を戻ろうとすると同時に足元に巨大な魔方陣が浮かび上がった。罠が仕掛けられていたのだ。
「卑怯だぞ、てめえ……っ」
躯が痺れて、動けない。
糸の切れた人形のように頽れた私と違い、キーラは剣を構え、怒鳴っている。でも、とても戦える状態ではなさそうだ。
キーラの剣が王子によって叩き落とされる。
「はは、無様だな。だが、おまえたちが悪いんだぞ? おとなしくパーティーに入れば優しくしてやったのに。これは俺たちに逆らった罰だ。まずはそのおっさんを嬲り殺しにしてやる。それからおまえたちを犯す。これまでの無礼の分、ちゃんとご奉仕して見せろ。そうすればこれからも俺たちに仕えることを許してやる。だがもしまだ逆らうようなら、ゴブリンやオークの巣に放り込む」
王子が抜き放った剣を手にオジサンを見た。驚いたことにオジサンはまだ立っていた。だが、何も言わない。多分、魔法にはかかってはいるのだ。
「ふん。たかがポーターのくせに随分と麻痺耐性が高いようだな。まあ、かまわん。いきがいい獲物ほど狩るのが楽しいものだからな!」
王子がオジサンに斬りかかる。だが、王子自慢の魔剣は、オジサンに髪の毛一筋ほどの傷を刻むことすらできなかった。一瞬で抜き放たれた黒い剣がぎいんという重い音と共に、魔剣を弾いたのだ。
「なに……っ」
魔剣に引きずられ、王子の上半身が泳いだ。
「どういうことだ、モーリス! こいつ、まるで魔法が効いていないぞ!?」
「そんなはずは……っ」
状態異常魔法は効いているかいないかの判別が難しい上、成功率が低い。弱らせて痛めつけるより、確実に息の根を止める方を優先した方がいいと思ったのだろう。モーリスが翳した掌に火の玉が生まれた。
「死ねッ! もうおまえみたいなおっさんの出る幕はねーんだよ!」
ごう、と音を立て火球が飛来する。オジサンはまた無造作に剣を一閃させた。
座り込んだキーラが唖然としているのが視界の端に見えた。
火の玉は消滅していた。
「何だよ、それ……」
オジサンがゆっくりと王子に近づく。
「くそっ、ぶっ殺す!」
王子が剣を構え、オジサンに斬りかかった。放たれた殺気は確かに本物だったけれど、勝負にもならなかった。
やすやすと魔剣を受け流したオジサンが王子の右手首を斬り飛ばす。
「クソが」
「ぎゃあああああ!」
噴出する血を見たモーリスとクルトが真っ青になる。
「おま……っ、おまえっ、自分が何をしたのかわかってんのか!? リヒャルトは王子だぞ!? おまえは今、この国を敵に回したんだ!」
「馬鹿かおまえは。おまえたちはここを、人目がないから俺を殺しこの子たちをレイプする場に選んだのだろう? なら俺が何をしようが余人に知れるわけがない」
「……っ」
狼狽える様子の全くないオジサンに、クルトが剣を抜き、斬りかかった。オジサンはやっぱり何気なく攻撃を避けると、剣を持っている方の腕を斬り落とした。
強力な魔法を発動しようと思ったのだろう。必死に詠唱するモーリスにも無造作に近づき、顎の下からナイフを突き上げる。
「ギ……ッ」
「うまいもんだろう? こうすると魔法使いは魔法を使えないんだ。大丈夫、急所は外しているからすぐには死なない」
モーリスが無力化されたことで麻痺の魔法も解けたようだった。
のろのろと起き上がった私の前に、オジサンがしゃがみ込む。
「大丈夫か?」
「……はい」
「怖かったろう?」
ぶわっと涙が込み上げて来たけれど、私は必死に嗚咽を押し殺し、首を横に振った。
この人は私が守らなければならなかったのだ。なのにできなかったから、こんなことをさせてしまった。
「安心しろ。おまえたちには何もしない。三人で冒険者ギルドまで戻れるか?」
私はとっさにオジサンの腕を摑んだ。
「オジサンは? どこ行くの?」
オジサンは困ったように笑った。
「俺はちょっとこいつらをオークの巣に投げ込んでくる」
ひいっと見苦しい悲鳴が上がる。王子たちが芋虫のように這って逃げようとするのが見えたが、既にかなりの血を失っているせいだろう。思うように動けないようだった。
「それが済んだらこの町を離れる。短い間だったが、世話になった」
ここでこの人を行かせたら、きっと二度と会えなくなる。
私はオジサンに縋りついた。
「誰にも言わない……! 誰にも言わないから、行かないで……っ!」
オジサンの眉尻がへにゃりと下がる。
「おいおい、俺はこの国の王子を殺そうとしているんだぞ?」
「先に殺そうとしたのはあの人たちだし、オジサンは私たちを守ってくれたよ……!?」
「そうよ。それにこんなに強いポーターを私たちが逃すと思う?」
「言ったよなア、快適すぎておっさんなしではクエストをこなせない躯になっちまったって」
いつの間に復活したのか、キーラとアドリエンヌがオジサンの腕を左右からがっちりと捕まえていた。
「なりそうというだけで、まだなったとは言ってなかったぞ」
「うるせえ、男が細かいこと言うなよ。ミアを泣かせる気か?」
どすの利いた声に、オジサンが言葉を詰まらせる。
「おまえたち……」
「オークの巣に投げ込むのはいい案だと思うわ。この人たち、生かしておいたら絶対私たちに復讐しようとするわよ。ついでにオークたちが女子にするようにこの人たちも歓待してくれたらいいのに」
「同感だ。きっとバレないしな。そのうち誰かがオークの巣から魔剣を見つけて、王子はオークに殺されたってことになる。どうせ王宮でも持て余してた馬鹿王子だ。追求しようなんて奴がいるわけがない」
「おまえは……いいのか?」
オジサンが私を見る。
私は急いで拳で目元を拭うと、パーティーリーダーとして要請した。
「オジサン、私たちのパーティーの正メンバーになってください!」
ふっとオジサンの表情が緩む。
ぐしゃぐしゃと頭を撫で回され、私はさっきまでと違う意味で泣きそうになった。
こうしてオジサンは私たちのパーティーの正メンバーになった。
どうやら王族が嫌いらしく時々とんでもない毒を吐くようになったけれど、基本的にオジサンはこれまでと同じく腰が低くて穏やかだ。
オジサンにどんな過去があるのか、クラスは何なのか、気になるけれど、私たちは聞かない。そんなことよりオジサンが一緒にいてくれることの方が大切だからだ。
気が向いたら評価、お願いします。
キャラメモ
私:ミア/ヒト族/私、オジサン呼び/黒髪黒目
パーティーメンバー1:アドリエンヌ/ヒト族?/腰まである金髪、翠目、貧乳。するんっとした体型。/私、おじさま呼び、おねえさんぽい丁寧な喋り方。/魔法使い
パーティーメンバー2:キーラ/獣人/赤毛、筋肉質な肉体、ボンキュッボン/あたし、おっさん呼び/剣士。
リヒャルト/第八王子/剣士で魔剣もち
クルト/エックハルト公爵家子息
モーリス/魔法使い
オジサン/三十代半ば。体格がいい。長身。/『不死鳥』の元メンバー。ポーター。クラス不明。
一応読み切りだけど、ミアとの恋愛とか、オジサンの過去とか、『不死鳥』が帰ってきてくれと頭を下げてくる話とか、アドリエンヌの実家の話とか気力があればいつか書くかも?書かないかも?