治癒しよう!
「しかし、よく酒に酔わせることを思い付いたの」
完全にグロッキーになった盗賊の介抱をしているミリィを横目で見つつ、ルディアが感心したようにいってくる。
「これだよ」
俺は拾った酒瓶をルディアに見せた。
「こいつらが酒盛りしてたなら、酔うはずだろ。あのアイテムの効果は酒に効かないか、飲んだものに効かないか、どっちかだろうと思ってな」
「なるほどの。良いところに気がついたもんじゃ」
そうそう、頭領から例のアイテムを没収しておかないとな。
酔い潰れている頭領からアイテムを外し、しげしげと眺める。
うむ、よく分からん。
「これには、精霊の力を感じるの」
ルディアが覗き込んできて、呟く。
「はぁ、精霊ね」
精霊のことはルディアから話は聞いていたが、実物は見たことがないんだ。
「おそらくじゃが、魔女の呪いがかけられた際に、精霊界とこの世界とが行き来できなくなったんじゃ」
それまでは、精霊は一般的にどこにでもいたはずじゃ、とルディアは続ける。
「今ではほとんど姿を見ることがないからの」
なるほど、それにしてもそんな珍しいもんを、何でこんな盗賊ごときが持ってるんだ?
「おおかた、盗品じゃろうの」
そりゃそうだろうな。一応預かっておいて、後でギルドへ提出しておくか。
「さてと、勇者殿の治療も、してやらんとの」
「あぁ、忘れてた。ミリィ頼めるか?」
盗賊たちの手当てをしていたミリィに声をかける。一通り手当てを終えたようだ、全員ぐったりしているが、死にそうな反応していたヤツは治っている。さすが聖女、こと治癒回復にかけては他の職業より優秀だ。
「大丈夫。任せてお義兄ちゃん」
ミリィは疲れを感じさせず、元気に答えるとロイドたちのもとに向かう。倒れているそいつらを撫でていると、やがて傷口が塞がっていく。
俺やルディアでも傷を治す魔法は使えるが、こいつらはステータス上のヒットポイントも下がってる。俺たちでは傷を治す他に、ヒットポイントを回復する魔法を別で使わないといけない。両方を同時にできる聖女
のスキルは、その点便利だ。
ちなみに、俺やルディアは傷を受けたときは、傷を治す魔法だけでいい。ステータスに縛られてないからな。
やがて、ロイドがパチリと目を開く。
「ミリィさん、救援に来てくれたんですね!」
そういって嬉しそうに抱きつこうとするのを、そっと身を引き避けるミリィ。
「おい、ロイド。勝負は明日からじゃなかったのかよ?」
俺は嫌味っぽくいってやる。
「レ、レイジィ!? なぜお前がここに!?」
「なぜお前がここに? じゃねーよ。完全に騙すつもりだったんじゃねーか」
「こ、これは、あれだ。盗賊どもの被害を聞き取りしていたら、勇者として一刻も早く討伐する必要があると感じたからだ!」
「へいへい、そーですか」
よくもまぁ、しゃあしゃあと抜かせるもんだ。
「どっちにしろ、勝負は俺たちの勝ちだな」
「何をいう、勝負は明日からだったのだから、今回はノーカンだ!」
「さすがに、その理屈は無理が無くねーか?」
「とにかく、俺はお前に負けたわけじゃないからな!」
「なぁ」
俺は少し真面目な顔していってやる。
「俺たちが来なかったら、お前らは死んでたんだぞ?」
「ウッ!」
「それが、今減らず口叩けてるのは誰のお陰だ?」
「クッ!」
「なぁ? 誰のお陰だよ?」
俺は意地悪く追い詰めてやった。
「ミ、ミリィさんのお陰……」
こいつ、意地でも俺に礼をいいたくないらしい。
「今、ミリィは誰のパーティーメンバーだ?」
「わ、わかったよ! 礼を言う! 助かった! でも、お前を認めた訳じゃないからな!」
どこのツンデレだよ。そういうのは、キツメのかわいい女の子だけにしてくれ!
「……主殿も大概じゃの」
「……お義兄ちゃん?」
あ、ヤベ、声に出てたか。
「ま、まあ、とにかく無事で何よりだ。盗賊どもを突き出しに行くか」
「誤魔化したの」
「誤魔化したね」
「あぁ、誤魔化した」
三人とも五月蝿い。
こうして、俺たちは騒々しく町へ戻ることとなった。