盗賊退治だ!
荷馬車で山のそばの岩影まで運んでもらい、俺たちはそこに身を潜めた。
「さて、どこにいるかだが?」
「昼間は目立つでの、暗くなるまでさほど時間もなし、待つかの」
「でも、暗くなってどうやって見つけるの?」
俺とルディアが呟いたのを、ミリィが尋ねてくる。
「連中だって夜目が利くわけじゃないからな」
「灯りを使うはずじゃの」
「私たちだって見えないんじゃないの?」
ミリィの質問に、ルディアがニヤリと笑う。
「暗視の魔法を使うのじゃ」
「暗視の魔法は狩人や斥候の人しか使えないんじゃあ」
驚いた様子のミリィに俺も教えてやる
「暗視の魔法なら俺も使えるぞ」
「えぇッ! お義兄ちゃん無職でしょ!?」
まぁ、驚くのも無理はないわな。
「お前にもかけてやろうか」
「他人にかけることまでできるの!?」
ルディアに教えてもらった魔法はスキルとは違い、基本的に理論を覚えれば、自分でも他人でもたいした違いはない。なんとなくスキルで使えるんじゃなくて、基本を理解して学問として身に付けていれば問題はない、とルディアはいっていた。
「あぁ、任せておけ」
「お義兄ちゃん、凄い」
ミリィの尊敬の眼差しがこそばゆいぜ。
「主殿、もう少し静かにしてたもれ」
おっと、少し騒ぎすぎたみたいだ。
見れば、向こうの方で何人かがたむろしている。
あれが盗賊かな?
「戦利品を担いでおるの。盗賊じゃろうな」
「よく見えるよね」
ルディアが伝えた方向を見たミリィが、じっと目を凝らすが、さすがに遠いらしくよく見えていないようだ。
「遠目の魔法じゃ」
「えぇッ! って、驚くのもう疲れてきちゃった」
我が妹ながら諦めが早いな。
「位置が悪いな。ここからだと、岩影から出たらこっちの姿が丸見えだ」
「アジトの周りの視界を確保してあるんじゃろう? 暗くなってから、あの辺りを捜索じゃの」
ルディアの言葉に頷いて、俺たちは夜を待った。
さて、充分暗くなってきたし、そろそろ動くか?
「待つのじゃ主殿。あれを見りゃれ」
うん?町の方から、灯りを持った連中がやってきてるのか?
「おい。まさかあれ」
「間違いないの。勇者殿じゃの」
マジか~、思わず天を仰いだぞ。なんの準備もなしに、いきなりノコノコやってくるかよ普通?
いや、準備はしてるか。一直線にアジトらしき所を目指してるから、場所はメドがたってるんだな。
「さて、どうするか?」
「決まっておろ。後をつけて横からかっさらうんじゃな?」
「だな」
さて、俺たちも行動開始だ。
暗闇に紛れて、ロイドたちの後ろにつく。ロイドと
戦士風のやつと、魔法使い風のやつがいるな。
前方に洞窟が見えてきた。なるほど、あそこがアジトか。
洞窟前で見張ってるやつがいるが、さて、どうするのか。
「睡眠!」
魔法使いが魔法を放ちやがった。見張りは寝るだろうが、中の連中は気づいてもう警戒してるだろうな、この様子だと。
ロイドたちは堂々とアジトの中に入っていく。警戒してないと不意打ち食らうぞ?
俺たちも少し間を開けて、そっと忍び込む。俺やミリィは部分的な皮鎧しか身に付けてないし、ルディアな至っては旅人ようの丈夫な服程度しか着てないから、ほとんど音はでないが、ロイドたちは大丈夫かね。
しばらく進むと案の定、ロイドたちは盗賊六人に前後から挟まれていた。
「勇者として、貴様ら盗賊には負けん! スキル『英雄の覇気』!」
ロイドがわざわざ宣言してスキルを使う。まぁ、いいんだけどさ、宣言する必要ないだろ。
しかし、盗賊の頭領らしいやつがニヤリと笑う。そいつが首から下げているペンダントが輝き、緑色の光が盗賊たちを包んだ。
「残念だったな。デバフは無効だ」
何か魔法のアイテムだな、ありゃあ。さて、ロイドはどうする?
「では眠れ! 睡眠!」
魔法使いが、睡眠の魔法を使った。この相手も警戒している状態で眠りがきくなら、たいした実力の使い手だが。
「状態異常スキルも無効だ」
盗賊の頭領が、自信満々に告げる。あ、これヤバくね。
あっという間に、六人に袋叩きにされるロイドたち。
「やべぇ! 助けるぞ!」
「灯りを消すぞよ!」
俺たちは暗視の魔法を使っているから、灯りがなくても動けるからな。状態異常がきかないなら、いい手だ。
ルディアが鎮火の魔法を使って灯りを消した。
灯りはほとんど松明か蝋燭だからな、これで充分だ。
「なんだ!」
頭領が事態を把握する前に片を付ける。
飛び出した俺は、目の前で背中をさらしてる盗賊を殴り付ける。
数発殴って倒れさせたが、こりゃまずいな、手間がかかりすぎる。
足元に酒瓶が転がっていたので、拾って殴ろうとして、いいことを思い付いた。
「ルディア! 盗賊に補水の魔法を使ってくれ」
補水の魔法は、相手の体内に液体を送り込む魔法だ。普通は水を飲めないほど体力を消耗したりしたときに、治療のために使うのだが。
もちろん、害意がある今回のような時は、相手に抵抗される可能性がある。だが、ルディアの技量であれば抵抗はまず不可能だ。
「何を飲ませるのじゃ!」
「俺が魔法で呼び出す!」
「了解じゃ!」
俺はルディアの手元に、ある液体を呼び出した。
ルディアがそれを盗賊たちに、魔法で強制的に飲ませる。
しばらくして、盗賊たちはフラフラしだし、一人また一人と倒れていく。中には這いつくばって、盛大に吐いてるやつもいる。
「お義兄ちゃん、なにしたの?」
全員倒れたところで、不思議そうにミリィが聞いてきた。
「ルディアが宿の部屋で保管してた、洗浄用の酒だよ」
「洗浄用?」
「あぁ、傷口やら治療用の器具やらを洗うのに使うんだ。傷口が膿んだりしにくくなるんだぞ」
「主殿、あれは蒸留をした高純度の酒じゃぞ。大の男でも一口で潰れよるし、場合によっては命にも関わるのじゃぞ」
ルディアが血相を変えて詰め寄ってくる。
「ミリィがいるだろ。ヤバそうなヤツに病気治癒をしてやってくれ」
病気治癒のスキルは状態異常ではない、自然になった病気を治すスキルだ。今の盗賊たちにもきくだろう。
「俺たちはさっさとこいつらを縛り上げちまおう」
「主殿」
珍しくルディアが、固い態度で話しかけてきた。
「なんだ?」
「酒の代金は必要経費で出してたもれ」
真剣な表情のルディアに、俺は思わず吹き出した。
「なぜ笑うんじゃ。あの酒は値が張るのじゃぞ!?」
わかった、わかったと怒るルディアを落ち着かせる。
「出してやるよ、それくらい」
俺はこの言葉を、後に後悔することになる。
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