決闘だ!
「さぁ! 覚悟しろよ。この無職が!」
ロイドが吠えている。なんでこうやる気なのかね、もう少し勇者として、落ち着きというものを身に付けてほしいもんだよ。
俺たちはギルドの外に出て、お互いに向き合う。
「ミリィさん! 開始の合図をしてくれ!」
ロイドはミリィに合図を要求する。ほう、いきなり殴りかかって来るかと思ったが、一応、誰かに合図を頼むのか。と、俺が感心したところで、
「馬鹿め! スキル『英雄の覇気』!」
いきなり不意打ちでスキルを使ってきやがった、汚ぇヤツだ。
「このスキルは貴様のステータスの命中、回避、ダメージ、防御をそれぞれ50づつ下げるのだ! 謝るなら今のうちだぞ!」
あぁこれがステータスを操るとか言う、勇者のスキルか。
「なるほど、確かにな。俺なんかステータスがマイナスになってるわ」
ステータスがマイナスってどうなんだろうな。命中マイナス50って、相手が当たりにきてくれても外れるのか?
「謝れねぇなら死ねよッ!」
剣を抜いて切りかかってくるロイド。ガチで殺す気かよ!
大上段に振り上げた剣を、俺めがけて振り下ろしてきやがる。
なるほどな、ステータスに縛られたままなら、確かに避けられないわ。充分にスピードがある。おそらくパワーもあるんだろう。
「よっと」
魔力を込めた左手で剣を受け止める。ステータスの縛りを受けてない俺にとって、ろくに鍛練もしてないロイドの剣など、見切るにさほど難しくない。ただ早いだけ、だ。
そのまま、タイミングよく刀身を左に捻る。
面白いほど簡単に、ロイドから剣を奪えた。
「なっ!? 俺には『武器封じ耐性』のスキルがあるのに!?」
そりゃ、スキルとステータスだけで戦ってたら、武器を奪うことは無理だろうけどな。俺には通用しない、ろくに鍛練もしてない、ただ握ってるだけの奴から剣を奪うなんざ、簡単なことだ。
「そら!」
右手でがら空きになったロイドの顎を、撫でるように殴り付ける。
カクンと頭が振られ、ロイドの目から意思の光が消えた。
そのまま、バタリと倒れ伏す。
「こう殴ると、自由を奪えるんだったよな?」
「上出来じゃ。しばらく体の自由がきかんじゃろ。たいして怪我もさせとらんじゃろうしな」
後ろで見ていたルディアが、満足そうに頷いている。
「お、お義兄ちゃん、凄い。どうしたの? なんでそんなに強いの?」
ミリィが勢い込んで聞いてくる。
「ま、まぁな俺が本気を出せばこんなもんよ」
「良い師匠が付いたからの」
俺とルディアが同時に答えた。
「え、この子、ホントにお義兄ちゃんの師匠なの?」
ルディアを指差し、ミリィが不信そうに尋ねてくる。
「まあ、一応、頭が上がらんくらいには師匠だぞ」
仕方なく、正直に話す。満足そうに微笑むルディアの横顔が、正直忌々しいが何も言い返せない。
「お師匠さんなんだ。でも奴隷なんだよね?」
「正確には知識奴隷じゃの」
「じゃ、じゃあ、お義兄ちゃんに気があるわけじゃないよね?」
チロリ、と俺を意味ありげに見てから、ルディアが口を開く。
「さての、好いた惚れたは人の自由じゃしの」
「私はね、お義兄ちゃんと運命の糸で結ばれているの、きっと前世からの運命なのよ」
だって、同じ日に拾われてるんですもん、と目を輝かせてミリィは夢見るように話す。正直ちと怖い。
「パーティーが離ればなれになっちゃった時は、どうしようかと思ったけど、こうしてまた同じパーティーになれたわけだし」
邪魔しないでね、とルディアを牽制するミリィ。
「待て待て、まだ正式にはお前はロイドのパーティーメンバーだろう?」
あわてて注意するが、そんなことはどこ吹く風とミリィは俺を見つめる。
「勇者様がギルド内でおっしゃったんだから、間違いないわ。私は今日からお義兄ちゃんのパーティーメンバーよ」
「主殿よ、お主の妹君はずいぶんと押しが強いの?」
「物心ついてからずっとこんな調子なんだよ」
ルディアの溜め息に俺も相づちを打つ。
まあ、ミリィが俺に好意を抱いていることは分かってるんだが、ちょっと度を越えてるところが心配の種だ。
「俺たちはまだ、明日も講習を受けなきゃならんのだぞ?」
「大丈夫! 私も一緒に受けるから!」
これも駄目か。
「主殿、まぁ、害があるわけでもなかろ。好きにさせてやったらどうじゃ?」
ルディアがそっと助言してくれる。そうするか、仕方あるまい。
「ミリィ、じゃあ、好きにしろ」
「ありがとう、お義兄ちゃん! 大好き!」
待て、今どさくさに紛れてなんていった?
「これは一波乱ありそうじゃの」
ルディアの言葉に、俺は頷くしかなかった。




