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冒険者ギルドに入ろう!

「だぁぁぁ! もう無理だ死ぬぅ!」


 ルディアに問答無用と、龍脈の中に叩き込まれて実戦形式の特訓を受けること1ヶ月。さすがにもういろいろ限界だぞ。


「ふむん、基本はできておったからの、少々荒っぽいことをしたが、しっかり身に付いておるはずじゃがの」


 俺と同じことをやってるはずなのに、なんでこのチンチクリンは平然としていやがるんだ?


「鍛え方が違うからの、それはそうと、この後は実践して鍛えていく方がよいかの」


 そういうと、龍脈の中からひょいと飛び出るルディア。


「ふう、ようやく終わったぜ」


 俺も後を追って、龍脈から出る。出たとたん、ガクっと力が抜けていった。ずっと押し付けられているような魔力の圧力がなくなり、無意識に力を込めなくてもよくなったことで、かえって全身から力が抜けたらしい。


「おっとととと」


 思わずふらつく俺の腕を、思いの外強い力でルディアが掴み、体を支えてくれる。


「しゃんとせい。強力な魔法を使うときは大量の魔力を使うからな、魔力の多い少ないくらいでふらついておったら、命がいくつあっても足りんわい」


「あぁ、悪りぃ」


 一応、礼はいっておくか。こう見えてお師匠様だしな。


「では、町まで戻るかの」


 そういってテクテク歩きだすルディアを追って、俺も歩きだした。ここで転移を使わないのは、龍脈に近すぎて空間が不安定になってるからだそうだ。確かに、なんとなく空間が歪んでいるように感じる。これはきっと特訓の成果なんだろう。


「なぁ、もう魔女の呪いが解けたんなら、お前は奴隷じゃないわけだよな?」


 ダンジョン内を出口に向かって歩きながら、俺はルディアに聞いた。


「そうじゃの、主殿が無職でないのと同程度には奴隷ではないの」


「俺は呪いは解けても、無職なのは変わってねーぞ」


「ステータスの制限を受けていないとはいえ、ステータスを書き換えたりなくしたりはできなんだでな。ステータスを見せろといわれたら、奴隷と思われよう」


「あ、なるほど」


「なので、形式上、主殿が主であってくれた方が都合がよいのじゃが……」


 わしの主は嫌かえ? と上目遣いでうるんだ目を向けてきやがる。こういうところが、ズルいやつだ。


「まぁ、俺もステータス上は無職のままだし、お前がいてくれるとありがたい」


「それならよいのじゃ」


 わしの目に狂いはなかったの、とか呟いていやがる。ん? まてよ。


「なぁ、お前もしかして、俺が近くにいることを知っていて、あのおっさんに自分を襲わせたんじゃなかろーな?」


「なんのことじゃ?」


「考えてみれば、お前が『きゃぁぁぁ!』とか悲鳴を上げる玉かよ」


「か弱い乙女を捕まえて、ひどい言い様じゃの」


 うん、表情を見れば分かる。こいつ仕組んでやがったな。


「俺を利用した貸しを、そのうち返してもらうからな」


「呪いを解いて、稽古をつけてやっただけでは不満かの?」


「俺は欲深いんだ、足りないね」


 そういって笑ってやる。ルディアも笑い返してきた。


「怖や怖や、恐ろしい男に借りを作ってしまったの」


 大袈裟に身震いをするルディアに笑いかけたところで、ダンジョンの出口に到着だ。


「では転移するかの、主殿、やってみるかえ?」


「俺か!? できるのか」


「教えてやったとおりにやれば、確実にできよう。主殿は保有魔力も元々高い、筋もかなりよいぞ。30年も鍛えればわしを超えられよう」


「かなり、絶望的な差があるって言ってるよな、それ」


「可能性があるだけで充分であろ、並みの者では並び立つことすら叶わぬわ」


「はいはい、そうですか」


 お墨付きをもらったので、挑戦してみるか。

 俺は魔力を流し、魔方陣を展開する。


「いけっ!」


 ふっと景色が変わり、周囲が山の中腹から森の入り口に切り替わった。


「ここは、町外れの森のあたりか?」


 回りをキョロキョロ見渡して、現在位置を把握する。だいたい思ってたとこに出たな。あれ、ルディアがいない。


「わしを置いていくとは、主殿もなかなかひどいの」


 ふっと、魔方陣が展開し、その場に現れたルディアは開口一番文句を垂れた。


「あ、すまんすまん。初めてなんで、連れてくるの忘れた」


「そんなとこじゃろうとは思っとったがの」


 さて、町へいこうか、と思ったが今の俺は無一文だった。孤児院には戻れないし、宿もとれんな。


「先立つものが無いと、町ではなにもできねぇな」


「路銀なら、ダンジョンで倒したイビルグリズリーの皮を取ってきてあるでの。それを売り払えばよかろ」


 1ヶ月陰干ししておいたので、状態はよいはずじゃ、と荷物袋から大きな毛皮を取り出す。あぁ、これが収納魔法とか言うやつか。毛皮は、あのでかい熊みたいなやつのだな。


「ギルドがあるはずじゃろ、まずはそこへゆくかの」


「ギルドならこっちだな」


 しばらく進むと、やたらとでかい構えの建物が見えてきた。

 冒険者ギルド、なんで職業に冒険者なんて無いのにこんなもんがあるかと言うと、勇者や旅人、それに雇い先のない戦士や魔法使いなんかが日銭を稼ぐための互助組織なわけだ。当然、入会するのに金がかかるし、年会費も取られる。それも結構な額だ。だが、一般の人の困り事や厄介事の仲介することで、仕事のない連中が金を稼げる、それなりに大事な組織だ。


「これ売って、入会金と会費払ってどんなもん残るかね」


「大丈夫じゃろ。なんせレアモンスターの皮じゃからの」


 俺たちは堂々と正面から建物に入った。


「いらっしゃいませ。ギルドへようこそ。ご依頼ですか?」


 俺たちを、受付の女性が作り笑顔で出迎えた。


「これを買い取って欲しいのじゃ」


 ドン! と毛皮を受付の上に置くルディア。


「買い取りですと会員サービスになりますので、ご入会いただく必要がありますが」


「入会金を買取金額から差し引いてくりゃれ」


「承知しました。お二人でご入会になりますが」


「構わんぞ」


 毛皮を受け取った受付の女性の手が、はた、と止まる。


「こ、これは、イビルグリズリーの毛皮! しかもこんな上質なのは初めてです!」


 棒読みで受付の女性がいった。わざとらしいな、まったく。


「なんじゃ、そういって素人から買い叩いておるのかや?」


「あ、えー、おほん。そんなわけないですよ、ギルドは誠実に皆さまのご要望に対応いたします」


 そういって、手元の紙に買取価格を記入する。


「こちらで、買い取らせていただきます」


「そうかえ、市場価格はもう1個ゼロが多かったと思ったがの?」


 ルディアの言葉に、受付がウッと怯む。大丈夫か? ここのギルド。


「仕方ない。これは仕立て屋にでも卸すとするかえ」


「し、少々お待ちくださいね」


 慌てた様子で、ささっと金額を書き換える受付嬢。なにやってんだか、まったく。


「只今新規ご入会キャンペーンで、入会金、会費お二人分差し引いて、この値段で買い取らせていただきます」


「ふむん、まあ、妥当なところじゃの」


 目を細めて、金額を睨んだルディアが、ようやく承諾した。


「主殿。この金額じゃ」


 ピラリと紙を俺に見せてくる。うぉ! ゼロがいっぱい並んでるぞ。これだけあれば、しばらくは暮らせるな。


「問題ないかえ」


「大丈夫なんじゃねぇの」


「では、これでよいぞ」


 受付嬢はにっこり微笑む。相変わらず目は笑ってないのな。


「はい! ご利用ありがとうございます」


 毛皮を受け取った受付嬢が、金貨の入った革袋を渡してくる。


「それと、新規ご入会された方の基礎講習があります。ギルド会員として活動される際の最低限の知識を学ぶものですので、受講していただく必要があるのですが、よろしいですか?」


「主殿、受けておくかえ?」


「まぁ、必要だってんなら、仕方ないだろ」


「では、お二人のステータスを確認させていただきます」


 受付嬢が俺たちの開いたステータスを覗き込む。


「……無職と……奴隷? 奴隷の方がステータス高いけど……」


 なんかぼそぼそと呟いている。地味に聞こえてるんだがな。


「なんぞ問題あるかや?」


 書類にいろいろ書き込んでいる受付嬢に、ルディアが声をかける。絶妙に呟きにタイミング合わせてるところが、チンチクリンのいやらしいところだ。


「あ、いえ、なにも、ございません。どうもありがとうございました」


 受付嬢に言われて、ステータスを閉じる。どうにも気分が悪いな、まったく。


「では、明日からこのギルドの二階で講習会をうけていただきますので、時間までにおいでください」


 ペコリと頭を下げる受付嬢を後に、俺たちはギルドから出た。


「今日は宿に泊まるか」


「そうじゃの、主殿は二人部屋と一人部屋二つ、相部屋のどれがよいかや?」


「二人部屋はないだろ、さすがに」


「わしは構わんぞ」


「俺が構うの!」


 そういい合いながら、俺たちは仲良く宿屋に向かった。

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