北へ!
で、だ。図書館に行って色々調べてみたわけなんだが、いくつか怪しい情報は出てきた。
古い時代の遺跡ってのが、この大陸のあちこちにある。
ただ、ほとんどが場所がはっきりしない。近くまでは転移できるとしても、そこからは足で探さなきゃ行けなさそうだ。
「さて、どっから手を付けたもんかね」
宿に戻った俺は、雑に書いた大陸の地図を見ながら呟く。何で手書きの地図使ってんだって? 正確な地図は国家の戦略に関係してるから、簡単には持ち出せないんだよ。俺たちが転移するときは、魔法で転移先を確認してから飛んでるから、正確な地図がなくても何とかなるが。
「北の氷河、東の森林、南の海、じゃな」
だいたいの場所を指し示しながら、ルディアが応じる。
「砂漠は西に当たるの。そして、中央にアラートラ山。何か作為的なものを感じるの」
「お義兄ちゃん、これホントに行くの?」
ミリィが、割りと絶望的な顔で聞いてくる。
「手掛かりが少ないからな、不安になる気持ちは分かる」
ミリィに答えながら、手段を考える。
「近くの町まで行って、そこでギルドの依頼でもこなしながら情報収集するか?」
「それがええかの、ダメならまた別の手を考えればええ」
俺のいい加減な案に、意外にもルディアが賛成した。
「よし、じゃあそうするか」
俺は頷き、二人に準備するように伝える。
「明日出発するぞ。まずは転移で、北の町クインティアに行く」
「向こうでスムーズに活動するために、ギルドでギルドカードを貰っておくかの」
ギルドカードってのは、ギルドが発行する俺たちの身分証明書みたいなものだ。これで遠くの町で活動する時でも、またギルドに入り直しとかしないで済む。
「だな、そうしよう」
ただ、あの受付嬢はちょっと苦手なんだが、まあ、仕方ない。
やることを確認したあと、俺たちはそれぞれ準備を始めた。
「ダイリンの町で登録された方ですね」
クインティアの町のギルドにギルドカードを提出した俺たちは、すぐに手続きをして貰えた。
「この町で依頼を受けられるように、登録しますね」
この町のギルドの受付嬢は、事務的にテキパキと仕事をこなすタイプだ。職業で人を差別するようなことは無さそうでよかった。まあ、俺とルディアのカードを確認したとき、ピクリと眉が動いたが、それだけだ。
「クイーンサンドワームを複数体、短期間で討伐ですか? 凄いですね」
カードに記載された実績を見て、感心したように呟く受付嬢。
「内一体は特殊大型個体? よく三人で討伐できましたね」
「まあな、さすがに苦戦はしたがな」
「この町でも、腕の立つ方は歓迎いたします。今日から早速依頼を受けられますが、いかがされますか?」
「氷河の方に行く依頼はないかの?」
ルディアが受付嬢に尋ねる。
俺たちの目的は氷河の方にある遺跡の探索だ。そっちに行くのがあれば、ついでにやってきてしまえばいい。
「いくつか、有るには有りますが、その前に防寒具を調えられた方が良いですよ」
氷河に迂闊に入ると死にますよ、と受付嬢は真面目な顔で忠告してくる。
「そりゃそうだな。それも含めて、町で準備をさせて貰える余裕のある依頼はないかい?」
俺も問いかけてみる。さて、めぼしいものはあるかな?
「それなら、氷結晶の採取の依頼が有ります。日程にも余裕が有りますが、その分依頼料は低いです」
氷結晶は氷河の中に時々ある、氷のような透き通った結晶だ。建材等に使われることがあるそうなんだが。
「じゃあ、それでいい。一旦氷河がどんなもんか、見てやろうじゃないか」
「氷河を歩く際の簡単な講習が有りますので、それを受けていただきますよ」
受付嬢が注意をしてくる。まあ、当然だろうし、受けさせてくれるってならありがたい。
「有料ですが」
うぉい! タダじゃないのか。
「まあ、当然じゃな。ギルドだって慈善事業でやっておるんではないのじゃし」
「お義兄ちゃん、知識を得られる対価って案外高いんだよ」
二人から突っ込まれる。はいはい、俺が悪かったです。
「仕方ねぇ、三人分頼む。あと、防寒具扱ってる店紹介してくれ」
「かしこまりました」
俺たちは、こうして北の町クインティアでの活動を始めた。




