決戦!巨大クイーンサンドワーム
バリスタで強引に放たれた槍は、狙い通りにクイーンサンドワームの口の中に突っ込んだ。
血飛沫があがり、槍が深々と突き刺さる。
「やった?」
ミリィが歓声を上げかけるが、それはまだ早い。
「いや、まだだ」
俺は駆け寄りつつ、魔法を二つ発動させる。
「纏い穿つ旋風! 弾ける獄炎!」
風の魔法で空気の渦を作り、その中で炎を炸裂させる。炸裂する炎の勢いを槍に叩きつけ、その勢いでさらに奥まで押し込む。
「打ち破る電!」
雷を槍を通して、クイーンサンドワームの体内へと送り込んだ。
「もう一発!」
立て続けに打ち込むが、まだ倒れやがらねぇ。
仕方ねぇな、奥の手だ。
「黒鉄の百剣!」
槍に使われている鋼を媒介にして、百の剣を作り出す。それをやつの体内で、強引に魔力で振り回した。
ブチブチィと音を立てて、クイーンサンドワームの先端部分がちぎれる。
「これでどうだ!」
「まだじゃの、貪り喰らう影」
ルディアが放った魔法により、彼女の影から数本触手のように影が伸び、やつのちぎれた断面に達する。そこに到達した影は獰猛な顎を開き、柔らかい肉を食い散らかす。
「うわぁ……」
ミリィが引いているけど、そんなことを気にしている余裕はない。ルディアが攻撃魔法を使ってるってことは、もうクイーンサンドワームを拘束しておく魔法が切れる、ということだ。出し惜しみ無しで行くしかない。
魔法で産み出した剣を手当たり次第につき立たせ、雷の魔法を叩き込む。
「ここまでやれば、さすがに」
だが、まだこいつは生きていた。ちくしょう、どれだけしぶといんだこいつは?
「おそらく、あれが原因だな」
アルがすっと、クイーンサンドワームに近づく。
「おい! 危ないぞ!」
「大丈夫だ」
アルは気にするでもなく、やつの体に手を伸ばした。
そのまま、何もない空間を握る。そして、その手をグッと後ろに引くと、クイーンサンドワームの断面からキラキラと輝く、結晶のようなものが涌き出てきた。
大きさは握り拳くらいか。それが体を抜けきると、クイーンサンドワームの体から力が抜け、ドサリと地面に倒れる。そのまま、やつは動きを止めた。
「精霊石かの?」
ルディアが尋ねる。精霊石ってのは、確か精霊の力を他者に貸し与える時などに使われる、精霊の力が込められた石だ。非常に珍しいものだと聞いている。
「こやつが生きていた、いや、繁殖力を含めた生命力が暴走していた理由がこれだ」
アルが珍しく、感情らしきものを見せて話している。怒っているのか? それとも悔いているようにも見えるが。
「この石には我の力が込められている。それも、我が持つ力の大半が、だ。こんなものが体内にあれば、並みの命持つものであれば狂いもしよう」
なるほど、遺跡で封印されてたのはその石か。で、何らかの理由でクイーンサンドワームが、封印を破壊し石を喰らった。
「お前はどうして、その石に力を込めておいたんだ?」
「自分からではない、何者かに力を奪われ封じられたのだ」
アルの答えは、余り考えたくない事態が起こったことを示していた。
「それが『魔女』か?」
「分からぬ、不意を突かれたのでな。ただ、魔女が世界の法則をねじ曲げた後であることは確かだ」
「魔女以外、そんなことができたやつがいるのか?」
「いたんじゃないかな?」
ミリィが口を挟む。
「だって、世界を変えた後なら、アルだって魔女には警戒していた筈でしょ?」
「それもそうだな」
珍しく冴えたミリィの推測に、思わず同意する。
「我が力、戻しても良いか?」
「ああ、もともと、機会があればそのつもりだったんだから、かまわないぜ」
うなずくと、アルは精霊石を抱き締めるように胸に抱えた。
光が溢れだし、アルの全身を覆っていく。
うん? 少し大きくなったか?
やがて、光が吸い込まれるように消え去り、そこには長い青い髪は同じだが、ちんちくりんではなく、大人の女性の姿があった。
あぁ、これが全ての母なる姿、ってやつか?
「皆さん、ありがとうございました。おかげで生命の大精霊としての力を、再び振るうことができるようになりました」
おお、口調まで変わっている。いかにも大精霊って感じになってきたな。
神々しさまで感じる、さすがは大精霊様だ。好みにドンピシャな姿だが、こうも神々しくては下劣な妄想など抱けそうもない。あ、こう考えること事態が下劣だったか?
「主殿?」
「お義兄ちゃん?」
あ、ヤベ、気づかれたか?
「下劣な妄想は禁止じゃぞ」
「お義兄ちゃん、ここは真面目にやってよね」
「はいはい、わーってるって」
さて、アルの力が戻ったところで、どうしたものか?
「私は一度精霊界に帰り、当時のことを覚えている精霊を探しましょう」
「一人でか?」
「黙っておりましたが、私が預かった扉の精霊の力では、精霊の私しか世界を渡ることは叶いません。皆様を利用した形になってしまい、申し訳ありませんでした」
「それは仕方ないが、もっと早く言ってくれ。俺たちだって力のない状態のお前を、一人で行かせるとか、なんとしても連れていけとごねるようなことはしないぞ」
あ、ルディアがそっぽを向いた。ありゃあ精霊界に行きたかったんだな。
「あなたの心遣いには感謝します。精霊界で何か分かるか、あなた達も世界を渡る手立てを見つけたら、必ず戻ってきます」
「ああ、頼む。それと、精霊の感覚で急ぐんじゃなく、人間の感覚で急いでくれ。俺たちが年寄りになってからでは遅いからな」
「分かりました、人の数え方で一月したら、一度はこちらに参りましょう」
「それなら任せる」
では、と一礼してアルは風景に溶けるように消えた。
「お義兄ちゃん、良かったの?」
「仕方ない、相手は精霊だ。俺達の都合を押し付けても意味がない。あれだけ約束してくれれば充分だよ」
「……ずいぶんと鼻の下が伸びておったようじゃの」
ルディアが不意に、チクリと言ってくる。
「な、な、何を言い出すんだルディア君」
「主殿はああいうのが好みかえ?」
「そ、そんなわけあるわけないだろ」
ふむ、とルディアが黙る。が、
「どうやら、図星のようじゃの」
「な、な、なんで分かった!?」
「バレバレだよ、お義兄ちゃん」
ミリィが、呆れたようにため息を突く。
「と、とにかく、元凶のクイーンは倒した。大元の精霊石も片付けた。町に凱旋するぞ」
「誤魔化したの」
「誤魔化したね」
二人の小言を背に浴びながら、俺は遺跡を後にした。




