クイーン攻略戦!
さて、あのバケモンをどう攻略するか、だが。
「とりあえず、外殻を撃ち抜かんことには手も足もでないな」
「装甲値、先に出てきたクイーンサンドワームでも、とんでもなく高かったよ」
ミリィが言ってくる。そうだったよな、並みの魔法じゃ無理だった。
「外殻を撃ち抜いても、生命力も凄そうなかんじだよ」
どうしたものか、何か直接命に関わることで、攻撃できればいいんだが。
「窒息か雷か……餓死かの?」
ルディアがいくつか候補を挙げるが、そりゃ無理ってもんだな。外殻に穴開けて雷でって作戦でも、今回はどこまで通用するかわからない。
「毒ってのも、あんだけでかいとどれだけ毒がいるか分からんしな」
「そうじゃの」
待てよ、サンドワームは地中に潜っているとき、呼吸はどうしてるんだ?
「ルディア、サンドワームの呼吸方法知ってるか?」
「サンドワームは尻にある呼吸器官で呼吸しておる。息を止めるのも長く行えて、一日くらいなら砂のなかに完全に潜っておれる」
「サンドワームの呼吸器官に補水の魔法で水を流し込んでやればどうだろう?」
「できなくはないかもしれんな、ただし、ある程度拘束し続けなければならん」
うーん、悩ましい。相手は三百メートルは有ろうかと言うバケモンだ。並みの方法では拘束なんてしようがない。
「そうじゃの、試してみてもいい方法があるの」
ルディアがポツリと呟いた。なに、なんか妙案でも思い付いたか?
「少しばかり金はかかるがの」
金は経費として、ギルドに請求できないかな?
まあ、手持ちの金はそれなりにある、何とかなるだろ。
俺たちはルディアの指示のもと、色々買い物に走った。
再度、俺たちは遺跡跡にやってきた。遺跡「跡」ってなんか言葉がおかしいな。まあ実際、遺跡が壊された跡だから仕方ない。
まずはここに、買ってきた魔力石を配置していく。魔力石は普通はスキルを使う際に消費する魔力を補ってくれる物なんだが、今回は違う使い方をする。ルディアが言うには、本来この使い方が正しいってことだ。
時々飛び出してくるサンドワームに気を付けながら魔力石の配置を終えると、次は台車に載せて持ってきた弩弓、まあ、いわゆるバリスタだな、これを使える状態に組み立てる。弦を張るのにとんでもない力がいるが、魔力で力を増幅して何とか組みつける。
で、打ち出す銛の先端部に掘ってある溝に、例のカエンタケから作った毒を塗り込んでいく。直接触らないように注意しながらやらないと、今回の毒は抽出して濃い状態になってるから、触っただけで死にかねない。
諸々の準備が終わり、俺たちはそれぞれ配置につく。
ルディアは魔法発動のため、脇に隠れる。
ミリィはバリスタを撃つ役だ。
アルは万が一、誰かが負傷したときのために待機。
で、俺なんだが……。
「消去法で俺しかいないとは言え、気が重いな」
遺跡まで、クイーンを引っ張ってくる囮役だ。
砂漠に転移して、砂中に魔法を送り込み、サンドワームを大量に飛び出させる。クイーンがでなかったら転移で逃げて、また別の場所で繰り返す。
試し始めて三回目で、クイーンが飛び出してきた。
「やっぱりデケぇ……」
暴れるクイーンに巻き込まれたら、そのまま御陀仏だ。短距離を転移しつつ、クイーンの口に肉塊を放り込んでやる。畑を荒らすってんで、農家さんが狩った豚猪を貰ってきたんだ。
これで、腹を減らしてる筈のクイーンの注意をこちらに向ける。
あとは俺についた血の臭いを追って、ついてくる筈だ。
砂漠を全力で駆ける俺を、クイーンが追い始めた。
上手くいってるのはありがたいが、恐ろしい光景だ。マジで怖い。
追い付かれそうになると、短距離を転移して必死で逃げる。
ようやく、遺跡まで引っ張ってこれた。
「連れて! きたぞ! みんな! 頼む!」
息を切らしながら叫び、俺は一気に遺跡に走り込んだ。
「承知じゃ!」
ルディアがクイーンが予定地点まで入ったことを確認して、魔法を発動する。あちこちに配置された魔力石を頂点に魔方陣が形成され、拘束の魔法が発動する。魔方陣を魔力石で形成することで、効果時間と威力を大幅に強化した魔法だ。
ビクンとクイーンは震えた後、痙攣したように動きを止める。
「ミリィ!」
「分かった!」
ミリィはバリスタをクイーンに向ける。おそらくいくらバリスタでも、クイーンの外殻は貫通できない。
だから、口の中を狙うようにあらかじめ打合せしておいた。
ミリィは台車ごとバリスタを動かし、クイーンの口を狙う。
「いけっ!」
バネの跳ねる乾いた音と共に、銛が打ち出されクイーンの口腔内に突き刺さる。
「毒が効いてくれよ」
息を整えた俺は、祈るように呟いた。
「後は水じゃな」
ルディアが補水の魔法で、大量の水をクイーンの呼吸器官に流し込む。
「主殿、魔力を貸してたもれ。魔方陣を維持せんとならんでの」
「おう」
ルディアの求めに応じて、魔力を融通する。
後はこれで毒で弱ったクイーンが、早く窒息してくれるのを祈るだけだ。
「毒と拘束の魔法で、呼吸器官に入った水を吐き出せん筈じゃ。窒息するまでそう時間はかからんじゃろ」
確かに、一日息を止めていられるといっても、呼吸器官に蓄えた空気で息をしている筈だからな。そこが水で満たされれば、そんなにもつ筈はないだろう。さらには毒で弱っていればなおさらだ。
要は、それぞれ一つの行動では殺せないから、全てを組み合わせて弱らせて窒息させる、と言う手段を取った訳だ。
「どうだ? 上手く行くか?」
誰となく問いかける。目の前のクイーンはかなり弱っている様子だが。
そうこうしている間に、クイーン取り巻きのサンドワームが追い付いてきた。これをクイーンの様子を見ながら、ルディアと協力して魔法で一掃する。
「いかんな」
ルディアが呟くと同時に、クイーンの呼吸器官から水が吹き出した。
「くっそ。ダメか」
「お義兄ちゃん!」
ミリィのもとへ走りより、バリスタに俺の持ってた槍を無理矢理装填する。
風の魔法で、槍に真空の渦を纏わせクイーンの口腔内に狙いを定める。
「これで効かなきゃ一時撤退だ! 逃げる準備しとけ!」
全員に向けて叫ぶと、俺はバリスタを発射した。




