クイーンの中のクイーン
「なんだこりゃ?」
転移をし終わって、俺たちが目にしたもの。それは、破壊し尽くされた遺跡の姿だった。
「え、何で何で?」
ミリィが混乱していた。無理もない、いきなりほぼ跡形もなくなった遺跡を見れば、混乱するだろ。
もっとも、俺は元の遺跡がどんなだか知らないが。
「破壊されたのは、わりと最近じゃの」
ルディアが割られた石材の断面を観察している。確かにそこは風化してない、鋭い断面になっている。
「何があったんだ?」
「分からんな。ただ、ここまで派手に壊せるのは、人ではないであろうな」
ルディアの推察をなんとなく流し聞きしていたんだが、ふと気になった。
「人でないなら、何なんだ?」
「さての」
と、その瞬間、石の影から何かがミリィめがけて、飛び出してきた。
「きゃっ……」
「っと、危ない!」
とっさに槍を振り回し、地面に叩き落とす。良く見ればサンドワームだ。そのまま、槍で串刺しにして止めを指す。
「あ、ありがと。お義兄ちゃん」
「あぁ、気にすんな。それより、こりゃ気を付けた方が良さそうだな」
礼を言うミリィに軽く返し、回りを注意深く見渡す。
「ここは地面が固い。なのにサンドワームがおると言うことは、何がここで起こったか察しが付いた気がするの」
ルディアが辺りをうかがいながらも、勿体ぶって話す。
「いや、こんだけ派手に石材やらなにやらぶち壊すのに、クイーンサンドワームじゃあ力不足だろ」
ルディアの気づいたことを、先回りして文句を言ってやる。
「それが可能な個体、と言うことじゃ」
「そんなもん、倒しようがねーぞ」
ぶつくさ言いつつ探索を行うと、遺跡の中心部にあたる場所であるものを見つけた。
「こりゃあ、魔方陣の跡じゃねーか?」
「封印用の魔方陣だよね、これ」
ミリィの言う通り、地面に刻まれた魔方陣だ。既に荒らされてその効果は失われている。
「精霊の力の痕跡を感じる」
アルがポツリと呟く。何だ? 精霊でも封じられてたのか?
「主殿、これを見りゃれ」
ルディアが魔方陣の一角に付いた、擦り傷のような跡を指差した。
「なんか付いてるな」
傷跡を良く見ると、粘液のようなものが付着している。
適当な小石でこそぎ取り、粘液の臭いを嗅いでみる。
「臭っ! てか、これサンドワームの臭いだな」
「やはりクイーンサンドワームが暴れたようじゃの」
思わず天を仰いだ。遺跡をここまでメチャメチャに壊せるサンドワームなんざ、どんだけでかいんだ。
「恐らく、この遺跡の中心部に隠されておった精霊の力を持つ何かを、たまたま封印が弱まったか解けたかしたお陰でサンドワームが気付き、それを喰ろうた、といったところじゃろ」
ルディアが情報を整理してくれた。だが、色々まずい状況じゃないか? それ。
「巣分かれしたクイーンサンドワームの生命力が暴走しておったことからすると、精霊の力は生命の精霊、つまりアル殿と関係のあるものかもしれんな」
「じゃあ、それを取り返せば、アルの力や記憶が戻るかもしれない、と?」
俺が意気込んで尋ねると、アルは頷く。
「可能性は否定できん」
「まぁ、過度な期待は禁物じゃがな」
ルディアが横から忠告してくる。分かってるけど、期待はしたいじゃねーか。
「作戦も無しで突っ込んで、勝てる相手とも限らんしの」
分かってるさ、遺跡をここまで破壊した可能性の有る奴だからな、どんなバケモンか分かったものじゃない。
「まずは探すか。どれだけでかいか見ておかないと、作戦の立てようもないしな」
「そうじゃの」
俺は振り返り、遺跡を出ようと砂漠の方へ足を踏み出した。
その時、ズドドドドーッと轟音が鳴り響き、地震のように地面が揺れる。
少し行った先にある砂丘の向こう側に、巨大な影が見えた。
その影は身をくねらせ頭から砂に突っ込み、また、轟音と共に地面へ沈んでいく。
「なあ、今の見たか?」
「肉体は若いはずなんじゃが、もう老眼かの? あり得んものが見えた気がしたんじゃが」
「私も見た。多分見間違いだと思うけど」
ルディアとミリィが呆然と呟く。そりゃそうだ、二、三百メートルはあったぞ、たぶん。
「クイーンサンドワームだな、間違いない」
アルが冷静に語る。いや、分かってるって、理性ではあれがクイーンサンドワームだってのは分かってるんだが、感情が理解したくないって言ってるんだ。
「どうやったら倒せるんだ、あんなもん」
「作戦を何とかせんといかんな」
ルディアが腕組みをして考える。
いや、俺たち全員、黙り込んでしまった。そもそも、小手先の作戦でどうにかなる相手か?
「転移の魔法があるでの、色々準備するのに町に戻るかえ?」
そうだな、転移の魔法で行き来できるから、町で武器を調達して戻ってくるのも手だな。
「つか、ほぼほぼ、それしか手がねぇな」
可能な限り、強力な武器やら道具やら仕入れて来ないと歯が立たないぞ、あんなバケモン。
俺たちは、一旦町へ帰って作戦を練ることにした。




