クイーンの後始末
「やれやれ、何とかなったか」
俺は溜め息をついた。固い外殻に守られているといっても、所詮は生物、体内に雷級の電撃を何発も食らっては、さすがにどうにもならんだろ。
「外殻を打ち破って電撃を流し込んだからの。外殻があっては電撃も体内に届かぬが、主殿の短剣から体内に届いておるはずじゃ」
ルディアが、クイーンサンドワームの様子をうかがいながら話す。その通りだと、俺も思うんだが。
「凄かった……あんなのよく倒せたよね」
ミリィが呆然として呟く。そういえば、ミリィに俺が本格的に戦ってるとこは、初めて見せたな。
「まぁ、俺が本気を出せばこんなもんよ」
「さっき、『何とかなったか』とか言ってなかった、お義兄ちゃん?」
「そういうとこは、きちんと聞いてるのな」
軽口を叩きつつ、クイーンサンドワームの死骸をさわってみた。
外殻は確かに強靭な感じだ、なるほど、真っ正面からなら軍隊が必要なわけだ。
「倒した証に何か持ってかないとならんのだが」
「歯でももぎ取っていくかの?」
「だな」
クイーンの歯は短剣のように鋭い、これに噛みつかれたら一撃でお陀仏だな。
「ふむん、腹にまだ卵が残っている。それに、こやつ自分の児を食っていたな」
クイーンの腹の辺りを触りながら、アルが呟いていた。
「繁殖能力が暴走して、食うものもないのに大量に児を産んでいたようだ」
放っておけば、やがて群れごと餓死しただろう、とアルが推察する。
「やはり、精霊の力の乱れが原因か」
放っておいて、群れごと餓死するって言ったって、それまでに砂漠が文字通り地獄になってただろうがな。
「精霊の力の乱れってのは、アルが封じられていたことと関係あるのか?」
気になったから、質問を投げ掛けてみる。
「関係はあるであろうが、何故こんなことが起こったのかは分からぬ」
なんとなく怪しい、以上ではないわけか。
「どっちにしろ、今は倒した証拠持って帰るか」
「そうじゃの」
俺たちはクイーンサンドワームの歯を何枚か引き剥がし、町へと帰還した。
「クイーンサンドワームをたった四人で討伐したぁ?」
バカ言っちゃいけません、といった顔をするギルドの受付嬢に、クイーンサンドワームの歯を差し出してやった。
「ほら、これが証拠だ」
「クイーンサンドワームの歯がこんなに大きいわけ無いじゃないですか。作り物でしょ?」
「何なら、砂漠に死骸が転がってるぞ。でかすぎて処理も移動もできんかったからな」
「確認のために職員を派遣しますけど、ギルドを嘘の情報で混乱させると資格剥奪もありますよ」
コノヤロウ、どこまでも信用しない奴だな。
「おお、あんたらか!」
唐突に後ろから声をかけられる。振り返って見てみれば、砂漠で助けた旅商人のおっちゃんだった。
「どうだ、クイーンは退治できたかい?」
「退治してやったぜ。これが証拠だ」
おっちゃんにも、クイーンの歯を見せる。
「こりゃまたデカイな。群れも大きかったしな、逃げても逃げても次々沸いてきてたからな」
「ほんとですかぁ?」
受付嬢がまだ疑問の視線を投げ掛けてくる。
「おう、この人たちなら倒してるんじゃないかな。確認してみてあげてくれ」
旅商人のおっちゃんの言葉に、しぶしぶ受付嬢が確認の派遣の手続きを行う。
いい加減信用してくれよな、まったく。
結局、俺たちが討伐したと認められたのは、それから三日たってからだった。
「レイジィさん凄いです。クイーンサンドワームを討伐しちゃうなんて、さすがですね!」
唐突に受付嬢に話しかけられ、俺は驚いた。俺に対する態度が百八十度変わっている。
にこやかな笑顔で、受付嬢は続けた。
「私はレイジィさんなら必ず、討伐できるって信じてましたから」
「お、おう」
報酬を受け取ろうとした俺の手を、受付嬢はそっと掴んだ。
「私、今日は勤務が終わったら暇なんです。一緒に夕食なんて、いかがですか?」
小声で伝えてくる。が、確実にルディアとミリィには聞こえたな。
チロリと後ろを見ると、白~い視線でこっちを見ている二人がいた。
「マジな話な」
「はい」
「連れも一緒でいいならいいけどな」
俺はこういう態度を取る人は、苦手なんだよ。
チッとか言ってる受付嬢を後に、俺は報酬を受け取り皆のところへ戻る。
どさりとテーブルの上に報酬を置き、椅子にかけた。
まだ白い目で見ている二人に、軽く咳払いをして話を始める。
「とりあえず、これで当面の生活費はなんとかなるが、問題はアルの方だな」
視線をアルの方へ流すと、彼女はそれを受けて話し始める。
「うむ、扉の精霊の力はずいぶんと馴染んできた。近く精霊界へ赴くことができよう」
「じゃあ、そろそろだな、二人とも準備をしておいてくれ」
「承知じゃ」
「分かった」
いい加減機嫌直せや、お前ら。
「精霊界にいってアルの記憶を取り戻したら、魔女の痕跡を追う。で、この世界で起こってる異常をもとに戻す」
我ながら、壮大なほら話のようだな。
「レイジィさん! 大変です!」
そんな話をしていると、珍しく受付嬢が俺のところに駆けてきた。
「どうした?」
「砂漠でまたクイーンサンドワームが見つかったって!」
「またかよ!」
「経験のあるあなた達に、まず確認してほしいと依頼が来てます」
どうするか、今はそんなことをやってるヒマは無いんだが。
「困ってる人は放っとけないよな……」
「そうだよ、お義兄ちゃん」
「まあ、わしらで対応できるなら、した方がよいの」
「お前らがその気ならしかたねぇ、やるか!」
そういって、俺たちは席を立った。




