クイーンを探せ!
翌朝、砂漠だけあって晴天、というか酷暑だな。
「さて、どう攻略するかだが」
「サンドワームは振動に敏感じゃ、強い振動を感知すると地表に飛び出してきよるでの、地面を揺さぶってやればええ」
ルディアがにこやかに説明する。なるほどね、地面を揺するのか。
「ちょっと待て、地面を揺するってどうやるんだよ?」
簡単なことじゃねーぞ。地面に火球の魔法打ち込んだところで、そんなに揺れないだろ。
「音を地中に転移させるんじゃ、増幅しての」
ルディアはそう言うと、魔法を発動させる。見たところ確かに、転移の魔法のようだが?
「では、主殿。歌でも歌ってくりゃれ」
「はあっ!? 歌だぁ!?」
思わず大声か出たんだが。どうやらその声が増幅され地中に響いたのか、数匹、サンドワームが地中から飛び出してきた。
「火炎」
すかさずルディアが炎の魔法を放つが、サンドワームは素早く砂に潜ってしまった。
「サンドワームは温度変化にも敏感じゃったの」
しまった、という顔でルディアが呟く。サンドワームが迫ってくる火炎を敏感に感知して、砂に潜ったというわけだ。意外と敏感だし、動きも早い。
「もう一回やってみよう、今度は俺が魔法を使ってから、火炎を撃ってくれ」
「承知じゃ」
ルディアが音を転移させる魔法を発動する。
「出てきやがれ!」
俺の声が地中に増幅転移され、それに驚いたサンドワームが数匹、地上に飛び出してくる。
「風の刃」
俺は魔法を発動、風が高速で渦を巻き、刃のように相手を切り裂く魔法だ。
たちまちの内に、サンドワームを切り裂く。が奴らはまだ生きている。
「なるほどの」
火炎の魔法を発動させたルディアが、切り裂かれのたうち回っているサンドワームを焼いていく。
体を切り裂かれて、自由の利かなくなっているサンドワームなら、これで焼き殺せる。
そうこうしている内に、サンドワームは絶命していった。
「この手でいくかの」
「だな」
俺とルディアが頷いていると、ミリィが近寄ってきた。
「お義兄ちゃん、すごいね。今のスキル『風の剣』? 無職なのに使えるの?」
「いや、違うぞ」
今のはルディアから教わった古代魔法だ。スキルではなく、修練と理論理解で誰でも使えるようになる技術なんだ。ルディアが前世で再発見した古代の魔法技術で、世界に流れる魔力を元に超常的な力を発揮させることができる。
「俺は無職だからな、スキルには頼らないんだ」
「へ~良く分かんないけど、お義兄ちゃん、すごく頼もしいね!」
ミリィがにこやかに笑いかけてくる。正直悪い気はしないな。
「主殿、さっさとやらんと、日が暮れてしまうぞえ?」
ルディアの苦言に、慌てて気を取り直す。
「おう! じゃあ、次行くか!」
勢い良く答えて、俺は次の魔法の準備をした。
「なかなか、本隊に当たらぬの」
ルディアが汗をふきつつぼやいた。さっきから地中のサンドワームを誘きだしては、切り刻んで燃やすを繰り返しているが、なかなか例のクイーンサンドワームがいる本隊に出会えない。
「派手にやりすぎて、逃げられたか?」
「だとしたら失敗したの、安全を重視して砂漠の端から始めたのがいかんかったかの」
俺とルディアが交互に愚痴った。さて逃げられたとして、じゃあ、どうするか?
「いや、近くに多数の命がある。ここまで近付けたお陰で感知できた」
アルが汗一つかいてない顔で、教えてくれた。さすが精霊、連れてきたのは正解だったか?
「あの砂丘の向こう側だ」
アルは真面目な表情で続ける。
「巨大な生命を感じる。だが、やはり少しおかしい。何かが狂っているようだ」
「狂ってるって、何だろうな?」
「時々起こる大量発生やも知れんの」
俺とルディアは顔を見合わせ、囁き合った。砂丘の向こう側とはいえ、クイーンがいるとなると、少しは小声にもなる。
「さて、じゃあ今までみたいにやってみっか」
「そうじゃの、まずは音を打ち込むかの」
砂丘を登りつつ、ルディアと打ち合わせする。
砂丘を登りきり、目の前の視界が開けた。
「うわぁ……」
俺は思わず呻いてしまった。だって、眼下に広がる砂漠があちらこちらで蠢いているんだぜ? 気持ち悪くもなるさ。
「これは壮観と言うには、あまりにおぞましい眺めじゃの」
隣に立ったルディアも、呆れた声で呟く。
「ひっ!」
ミリィがひきつった悲鳴を、小さく上げる。
「生命力が暴走しているようだ。大発生、と人が呼ぶものだな」
アルが頷きながら、小声で告げる。ありがとう、空気読んでくれて。
「どうする? 音を打ち込んだら、大変なことになりそうだが?」
「やるより仕方あるまい。ここでクイーンを逃がすと、どれだけ増えるかわからん」
無論、被害もな、とルディアが自分に言い聞かせるように呟く。まあ、そうだな。ここまで来たら、やるしかないわな。
「じゃあ、仕掛けるか」
「そうじゃの、充分注意してかかるかの」
俺たちは、そっと距離をとり、魔法の準備に入った。




