砂漠へ行こう!
「はぁ? あなた達のような駆け出しが、こんな難度の依頼を受けて大丈夫なんですか?」
完全に見下した態度の受付嬢に腹を立てつつも、なんとか依頼を受け、俺たちはサンドワームの目撃された砂漠へと向かった。
丸一日かけてたどり着いた砂漠へ、入る前に夜営を行う。明日の朝一番で砂漠へ入るわけだ。
「案外、近場に出てたのな」
「近くでないのなら、そう問題にはならんじゃろて」
ルディアの意見に、もっともだと頷く。そうだよな、普段は交易ルート上には出てこないから問題にならんわけで。
「今回はモロに商人とか通るルート上だからな」
「そうさな、まあ、その事を考えると、巣分かれした新たな女王だと思うんじゃがな」
「と言うことは、群れ自体の数は少ない?」
焚き火にかけた鍋のスープをかき混ぜながら、ミリィが聞いてくる。
「恐らくは少なかろうが、それでも数千はおろうかの?」
ルディアが、干し肉を切るというよりは千切り分けつつ答える。
「なんだかんだで、大量に相手しにゃならんわけか」
俺も、焚き火に枯れ枝を突っ込みながらぼやいた。どちらにしても、大変だ。
皆で夕食の準備をしていると、遠くでどどーんと
くぐもった音が聞こえた。
「何だ?」
「主殿、ミリィ殿、武器を持たれよ。アル殿は下がるがええ」
ルディアが注意してきた。いつになく真剣な表情だ。
「ワームじゃ」
マジか!? 俺は慌てて置いてあった短剣をひっ掴む。先端に重量が増してある、叩ききるのに適した武器だ。ワームの体くらいならぶった切れるはずだ。
日が暮れかかった砂漠の砂丘の向こうから、砂煙が上がっている。
「誰か走ってないか?」
砂丘の上で、ワームが飛び出し始めた。その中を誰かが駆け抜けてくる。
「まずいの。ワームは振動に反応して、獲物に襲いかかる。あれでは、ワームを叩き起こしているのと変わらん」
ルディアが面倒なことになったと、言わんばかりに愚痴る。
「転移の魔法で迎えに行って、戻ってくるか?」
俺の提案に、ミリィは驚いた顔をする。
「お義兄ちゃん、転移ってホントにできるの?」
「できるぞ」
「遺失魔法と言われてるんだけど?」
「やってみれば、意外と簡単だったぞ?」
嘘ついた。うん、一ヶ月の特訓でどうにかものにしたんだが、まあ、いい格好しておこう。
「すごい……」
ミリィが感動している。うん、悪くない気分だ。
「主殿、さっさとやらんと、あの人間が死ぬぞえ?」
「おっと、そうだった。じゃあ、ちょっくら行ってくる」
そう言って、転移の魔法を使う。
走って逃げてるやつの目の前に出現した俺は、そいつを抱き抱え、再度転移する。
一瞬で、みんなの元に無事戻ってきたんだが、逃げてたやつに食いついてたワームも何匹か、一緒に着いてきちまった。
ルディアがすぐさま、風の魔法でワームを両断する。
ボテボテっと落ちたワームが、地面でのたうってるのをミリィは悲鳴をあげそうな顔で見ていた。
「切ったくらいでは、やはり死なぬの」
ルディアがそう呟くと、今度は火の魔法で焼いていった。
それを確認した俺は、抱き抱えていた人物に声をかける。
「おい。大丈夫か?」
「あ……あぁ、すまない、命拾いしたよ」
そのおっさんは、放心したようにぼんやりした後、ようやく声を出した。
見れば旅商人のようだ。
「いててて」
おっさんが呻く。ワームに食いつかれた傷口が、ざっくりとえぐられてる。こりゃあ、ほおっといたら、明日には骨だけになってたな。
「大丈夫ですか?」
ミリィが近寄ってきて、尋ねた。ここはミリィの出番だな。
「ミリィ、治してあげてくれ」
「わかった」
ミリィはおっさんの傷口に手をかざし、魔法を発動する。
みるみる、えぐられた肉が盛り上がり、傷口を塞いでいった。
「あんた、何だってこんな時間に砂漠を渡ろうと思ったんだ?」
もうじき日が暮れる。こんな時間に砂漠の中を移動しているのはおかしい、もう夜営の準備をしてないと真っ暗の中、動くことになる。
「いやぁ~砂漠を抜けてから夜営をしようと急いでたら、サンドワームに遭遇しちゃってね」
おっさんは、参ったとばかりに手を上げる。
「逃げ回ってたらこんな時間だよ」
なるほどね、そういうことか。
「あんたたちも、砂漠を渡るなら注意した方がいいよ」
「あぁ、気を付けるよ」
おっさんは俺たちから少しはなれたところで、夜営するとのことだった。
「生命力が少しおかしかったな」
アルが唐突に口を開いた。お前は今までの騒ぎでも動じずに、何平然とスープ飲んでんだ? 精霊が飯を食うのか?
「精霊も食事から力を貰うことはできる。食事以外でも力を貰えるがな」
「それはいいから、生命力がおかしいとは?」
「ワームの生命力が、何かに歪められているような感覚があった」
「何だと?」
「なるほど、なにか裏があるやも知れんの?」
ルディアが頷く。確かに、なにか怪しげなものがある気がするが。
「明日は気を付けた方がええの」
「そうだな」
俺たちは、食事を取って明日に備えることにした。




