依頼は何と災厄級!
図書館で各々好き勝手に本を読み漁った帰り、俺たちは歩きながら雑談をしていた。何てことは無い、他愛ない話だ。だが、そのうち、ミリィがこう切り出した。
「明日から何するの?」
「そうだなぁ、とりあえず、アルが力が馴染むまでは、食ってくための金を稼ぐか?」
俺はそう答える。遊んでたら、減っていくばかりだからな、金ってのは。
「また、アリ退治する?」
「依頼が有りゃあそれでいいが、無いかもしれんしな」
「この時期じゃとそろそろ魔獣どもも繁殖期じゃ、人里に降りてきた魔獣の討伐の依頼も有るやもしれん」
ルディアが口を挟んできた。そういや、そんな時期だな。
「魔獣はロイドも苦労してたよ?」
ミリィが心配そうに聞いてくる。ま、ロイドじゃあ苦戦するのも仕方ないよな。
「とんでもない相手でなけりゃあ、よっぽどなんとかできるだろ」
俺は自分の魔力の量を考えながら答える。ルディアもいるし、普通に人里に出てくるレベルの奴ならどうにかできるだろ。
「そうじゃの、災厄級にでも当たらねば、なんとでもなろう」
「災厄級って、国の軍隊が動くレベルだよ?」
「ルディア一人で、並の騎士団より強いぞ、多分」
心配するミリィに、俺は言ってやる。そういう俺も、並の騎士団くらいには負けるつもりは無いけどな。
「冗談……だよね?」
ミリィがルディアと俺とを交互に見ながら、聞き返してきた。完全に信じてない顔だ。
「本気だ」
ルディアが凄いのは、あの一か月の特訓で身をもって知ってる。そこで俺がどれだけ成長したかも。
「試しに、明日の朝一番の依頼で難しそうな奴、受けてみるか?」
「えっ!? いきなり!?」
「大抵の依頼なら、別にどうということはないぞよ」
ルディアも調子良く乗ってくる。
「じゃあ、決まりだな」
「えーっ!」
ミリィの悲鳴を後に、俺たちは帰路に着いた。
「で、朝一番で依頼を見に来た結果が、これか」
俺は依頼内容が張り出されているボードの前で、思わず頭を抱えた。
そこには、『災厄級討伐依頼、クイーンサンドワームを討伐』と書かれた紙が一枚、張られているだけだった。
「サンドワームってあれよね? 砂漠にいる蛇みたいな奴」
ミリィが言うことは間違っちゃいない。普通のサンドワームは体長数メートル、砂にもぐって通りかかる獲物に襲いかかる巨大な肉食ミミズ、戦う術のないものにとっては危険、といった程度のモノなのだが。
「クイーンとはの。巣が見つかったか、巣渡りしておると言うことじゃろ」
ルディアのいうとおり、クイーンとは巣の中央で子を産む個体だ。砂のなかに有るため場所が普段出くわすことはあまりないが、運悪く巣分かれの時などにクイーンに出くわすと酷いことになる。何せクイーン自体が馬鹿でかい上に数百、場合によっては数千のサンドワームを連れているからだ。
「どうする? さすがにサンドワームを毒餌でどうこうはできんだろ?」
「体が大きすぎて毒が効きづらい。群れを殺すだけの毒を用意できんしの」
手が足りんかの、とルディアは漏らす。まわりを見渡しても、俺たち以外に依頼を受けようとしているパーティーは無さそうだ。
「主殿、魔法の鍛練は積んでおるかえ?」
ルディアの唐突な質問に、少し遅れます面食らいながらも俺は答える。
「一応、毎日言われたメニューはこなしてるよ」
魔力の集中、解放の繰り返しと魔法の理論の基礎実技を繰り返しやる。これを一日十セット、結構ハードだ。
「それをやっておるなら、これくらいのサンドワーム、物の数ではあるまい」
「いや、無理だろ」
即効で突っ込んでやるコノヤロー。他人事だと思ってやがるな?
「大丈夫じゃ。わしもおるしの」
全部俺にやらせる訳じゃないのな? そうだったらどうしようかと思ったぜ。
「ホントに受けて大丈夫?」
ミリィが、恐る恐るといった感じで聞いてくる。
「大丈夫じゃ、ここらで主殿とわしの実力を、ご披露しておかんとの」
「ご披露って誰にだよ?」
「ギルドの受付嬢殿とミリィ殿にの」
そう言うことかよ、ま、いいか。
「やる以上はきちんと成功させるぞ!」
「勿論じゃ」
俺は、意を決しギルドの受付へと向かった。




