異変の正体
この辺りは本と何か物が入った箱がやらなにやらが、雑然と積み上げられ、とても整理されている区画とはいえない場所だ。とにかく、何でもしまっておけ、とばかりに荷物を突っ込んだ感じだ。
皆でそこらを探すことしばらく。
「これから、精霊の力を感じる」
アルが箱を一つ持ち上げた。
よく見れば、封が外れ箱が半開きになっていて、小さい紙が貼り付けられている。
「どれどれ、何かメモがついておるの」
ルディアが箱を受け取り、そのメモを読み始める。
「何が書いてあるんだ?」
「『迷いの鍵』というアイテムが入っておるそうじゃ。どうも、人をおかしなところに飛ばしてしまうようでの、封印されておったらしいのじゃが」
「いつの間にか、封印が緩んでた、と」
「我に呼応したのか?」
「可能性はあるの」
アルの言葉を、ルディアが肯定する。なるほどね、精霊同士で呼びあったか。
「で、アイテムには精霊が封じられてるのか?」
「そのようじゃの」
じゃあ、早速解放してやるか。
「勝手にアイテムを持っていったりしたら、怒られない?」
ミリィが心配そうに聞いてくる。そりゃそうだ、じゃあどうするか?
「ここで、解放しちまえばいいんじゃね? で残ったアイテムのガワだけを箱に入れとけば」
「……お義兄ちゃん、考え方が悪党だよ」
ミリィがジト目で言ってくる。まぁ、そう言うな、何か他の手を考えるか?
「我に貸してみよ。封じられている精霊の声を聞こう」
アルが手を差しだし、アイテムを渡せと言ってきた。ここは任せてみるか。
「では、頼もうかの」
俺をチラリと見たルディアが、察した様子でアルにアイテムを手渡した。
「ふむ」
アルはアイテムを手に、しばらく目を閉じ何事かに集中する。
「ルディアは、精霊の言葉は分かるの?」
「いや、分からんな」
ミリィとルディアが、小声でやり取りしている。
そうこうしていると、アルは目を開けた。
「この精霊は扉の精霊だ。しかし、力が今暴走しかけているようだ」
「力を失ってるんじゃ無いのか?」
俺の問いかけに、アルは首を振る。
「ずっと使っていなかったためらしい。世界を繋ぐことが、ここ千年ほど全くできていなかったためだ。なので、今は封印しておいて欲しいそうだ」
「使わなくて暴走しかけてるのに、封印しておいて欲しいのか?」
「力の一部を我に渡し、暴走を鎮める。また、世界が正常に戻れば、封印は自ずから解けよう」
なるほど、アルに力の一部を渡して、自分は封じられておく。なかなか人のできた精霊だな。
「我は力の大半を失っているので、力を受けとる余裕はある」
「すぐできる事なのか?」
「さして時間はかからぬ」
話し終わると、アルはまた集中を始めた。
やがて、目に見えぬ何か波のようなものが、アルの手にした箱からアル自身へと流れていく。
アルが光に包まれるように、微かに輝いた。
「終わったのか?」
「ああ、力は受け取った」
確かに、図書館を覆っていた、妙な空間の歪みは感じられなくなっているが。
「後は我がこの力を使う事ができるか、だが」
「すぐに使える訳じゃないのか?」
「すぐに使えぬ事もないが、力が我に馴染むまでは今少し時間が必要だ」
じゃあ、少し時間をおくか。
「せっかく図書館に来たんだ。ルディアとミリィは調べたいものがあったら、見てきたらどうだ」
どうせ今日は、調べものするつもりだった訳だしな。
「そうじゃな、せっかくじゃし、ちと見てくるとしよう」
「私はいいかな~。お義兄ちゃんはなにするの?」
「俺も魔法のことでも調べて、知見を広げるか」
「ええっ!! お義兄ちゃんが、率先して勉強してる!?」
「俺は昔から、一応は勉強してたよ!」
「うそうそ、ちょっとした冗談だよ~」
あぁ、そうですか。我が妹にしちゃあキツイ冗談だ。
「じゃあ、夕刻にここに集合で。アルはここにいてくれ」
「承知した」
俺たちは各々、自分の調べたい本を探しに書架に向かった。




