図書館探検!
ロイドのやつが、国王陛下に話を通してくれたお陰で、俺たちに図書館の入館許可が下りた。
思ったよりも早かったな、後でロイドに礼を言っておくか。
「どんな事を調べればいいの?」
図書館への道すがら、ミリィが聞いてくる。一応、名目的には聖女であるミリィと知識奴隷のルディアの研鑽のため、になってるから、やる気があるのはありがたい。
「まずは神隠し、かの」
ルディアは考え込んでいる顔で答えた。神隠しってことは行方不明者の情報か?
「人が消えた、急に居なくなった、といった伝承に、精霊の力が関わっておるか調べるのが良かろう」
なるほど、扉の精霊ならば人をどこかに飛ばす、とかできそうだからな。
「おそらく、精霊は何かに封じられておろう。魔法のアイテムのようなものが関わっておらぬか、一つづつ調べるのじゃ」
「結構、大変そうだな」
「大変じゃぞ、何日かかるか分からぬ」
「うへぇ」
俺は思わず肩をすくめる。
そうこうしているうちに、図書館までたどり着いた。
「でかいな」
建物を見上げ、俺は呟く。マジででかいって、中で迷子になったら出てこられなくないか?
「増築に次ぐ増築で、中は迷路のようじゃからな。離れんように気を付けるのじゃ」
「入ったことあるのか?」
「前世での」
なるほど、しかし、図書館に入るのに、ダンジョンに潜るような心構えが必要とはね。
俺たちは図書館入口の守衛に、ロイドが届けてくれた入館許可証を見せて中に入った。
書架の有る部屋に入ると、古い紙の独特な匂いが鼻につく。
「この匂いを嗅ぐと、落ち着くの」
「そうか?」
ルディアの呟きに、思わず聞き返してしまった。普通はそんなことないだろ。
「風の精霊がおらぬな、空気が澱んでいる」
アルが少し気分が悪そうに言う。
「私も好きじゃないなぁ。雰囲気悪くない?」
ミリィも同意している。確かに、なんか不気味な雰囲気があるな。
「モンスターでも出そうな感じだな」
本当にダンジョンに入っているような気になってくる。
「お義兄ちゃん……それはない」
ミリィに呆れられてしまった。だって雰囲気悪くね? つーかお前も雰囲気悪いといってただろ。
「あれ?」
ふと気がつくと、まわりに誰もいない。そして、通ってきた道が、明らかに違っている。
「なんだこりゃ? なにが起こった?」
辺りには、整理されていない本が雑然と積み上げられ、天井まである書架が見通しを遮っている。
そういえばさっき、一瞬空間が揺らいだような気がするな。
確かめるため、転移の魔法を使うための、空間把握の魔法を使ってみる。
結果、俺は建物のずいぶん奥にいるっぽい。しかも微妙に空間が歪んでて、外に直接転移できないようだ。
「なんで、図書館でこんなことが起こってるんだよ」
ルディアの場所が把握できた、そこまでは転移できそうだ。
「とりあえず転移するか」
えいやっ、と転移の魔法を使う。一瞬にして景色が変わり、別の場所へ出る。とはいえ、天井まで届く書架と雑然と積み上げられた本で、景色自体はかわりばえしない。
「主殿!? 転移かや?」
ルディアが珍しく慌てた様子で声をかけてくる。
「よう。合流できたな」
何を慌てているか知らないが、どうにか合流できたようだ。
「こんな空間が歪められておるところで転移すると、狙った場所からズレることもあり得るでの」
ルディアは真剣な表情でいった。
「これだけものが溢れておるとな、転移の瞬間に書架に突っ込んで大爆発したり、本と融合してしまったりするでの。安易な転移は控えた方がいいじゃろ」
「え?」
俺、今ヤバかったのか?
「主殿は強運じゃの。並みのものなら今頃『本の中にいる』じゃ」
危ないな! いやはや軽率な行動は慎まないとな。いや、助かった。
「他のメンバーとの合流どうしよう?」
隠したつもりだが、動揺が声に出たな、こりゃ。ルディアのやつ、人の台詞を聞いてニヤリと笑ってやがる。
「アル殿は最初の位置から動いておらんようじゃ。ミリィ殿はこっちじゃの」
人の話も聞かず、てくてくと歩き出すルディア。
さすがに、魔法ではまだ勝てないな。そんなことを考えながら、俺は後を追った。
書架の間を、ミリィが一人でとぼとぼ歩いていた。
「いきなりこんなところに飛ばされるなんて、ってかここどこ~!」
盛大に独り言を叫んでいる。声がでかいよ、まわりの本が崩れてきそうだ。
「お義兄ちゃん~どこ~!? 私だけのけ者はいや~!」
はいはい、今いきますよ。
「お~い! ミリィ~!」
俺はミリィに声をかけて、近寄った。
「あっ、お義兄ちゃん」
俺を見つけたミリィが駆け寄ってくる。
「よかった~! 一人で心細かったよ」
「よう、無事なようだな」
駆けてきたミリィは、俺の腕にしがみつく。
「びっくりしたよ。いきなりみんな消えちゃうんだもん」
「ああ、俺も驚いた」
「でも、お義兄ちゃんと二人っきりだね!」
「どうやら邪魔じゃったかの」
「なんだ、ルディアも一緒か」
ウキウキしていたミリィが、俺と一緒にいたルディアを見て少しがっかりする。気持ちはありがたいがね、今は非常時だ。
「ミリィ、そう拗ねるな。後はアルと合流しないとな」
「なにが起こったの?」
「分からんが、アルのところに行けば」
俺の台詞の後をルディアが受けた。
「何かわかるやも知れんでの」
急ごうかえ、とルディアがいい、俺たちはアルのいる場所へと向かった。
アルは書架の部屋に入って、少し行った所で突っ立っていた。なにやら書架の片隅を眺めている。
「アル! 無事だったか」
「我には精霊の力に対して抵抗がある。容易く影響はされん」
アルが答えた、が、精霊の力だと?
「なるほどの、わしらが飛ばされたのは、精霊のせいかの」
ルディアが納得する。いや、分かるように話してくれ。
「つまり、この辺りに精霊、それも空間を操るタイプの精霊の力を持った何かがある、ということじゃ」
「お、それじゃあ、例の扉の精霊か?」
「それはまだ分からんがの」
ルディアはぐるりと辺りを見渡す。
「その何かを探そうかの。案外、当たりやもしれん」
ルディアの言葉に、俺たちはまわりの書架わ漁り始めた。




