精霊界はどこ?
さて、精霊界への行き方を探すはめになった訳だが、どうしたもんかね。
「そもそも、精霊界ってどこにあるんだ?」
アルに何とはなしに聞いてみた。さっき、わからないとかいってたが、さすがに何も知らないってことはないだろう。
「この人の世と精霊界、魔界は、どこに問われれば同じ場所にあると答えるしかない」
「はぁ?」
訳が分からんぞ。
「あぁ、つまりそれぞれの世界にはどこからでも行ける、しかし、今はその方法が見つからない、ということじゃな?」
ルディアが確認するように、アルに問いかけた。
「そうだ」
頷くアル。どういうことだ? まるで分からんのだが。
「つまりじゃな、魔界を含めた三つの世界はそれぞれ同じ場所に存在しておるが、そうじゃな、微妙に時空にズレがあっての、お互いが認識したり影響を及ぼすことができんようになっておるんじゃ」
「よく分からんが、精霊界はここにあるってことか?」
「ここにもある、が正解じゃろうな」
俺が何もない空間を指差して聞けば、ルディアはアルを見ながら冷静に訂正する。
アルはそれを見て、ゆっくりと頷いている。
「だったら、転移の魔法で行くことはできないのか?」
「できんじゃろな。精霊界に行ってから、精霊界内の転移はできるじゃろうが」
それじゃあ、どうやって行き来してたって言うんだ? 昔は精霊がこっちの世界にもいたようなんだが。
「世界の渡し守、扉の精霊がいるのだが、今は呼び掛けに答えぬな。ゆえに今の我には精霊界がどこにあるのか分からぬ、と言えよう」
アルが重々しく答える。なるほど、それ専用に精霊がいたのか。
「じゃあ、その扉の精霊とやらを探し出せばいいんだな」
俺がアルに確認すると、彼女は頷く。
「我が声が届く場所まで近づけば、後は扉を開くだけだ」
「お前の声はどのくらい届くんだ?」
「人の国一つ分は届く」
「そりゃ広いな」
ってことは、少なくともこの国にはいない、ということか。
「いずこかへ封じられておるやも知れぬぞ?」
ルディアが忠告してくれた。まあ、確かにそうだ、昔はそこら中にいた精霊が全くいないってのは、アルと同じく封じられている可能性が高い。
「転移の力を持ったアイテムでも、探した方が早いか?」
「可能性はあるの」
では、どうやって探すか、だが。
「ミリィ、国立図書館へ入れないか?」
「だから、王族か貴族に伝手がいるってば」
俺たちの会話をつまらなそうに聞いていたミリィは、少し苛立った声で答えた。
「伝手ねぇ……」
俺はしばし考え込む。ふと思い付いたことがあった。
「ロイドに会いにいこう」
「あ、」
ミリィが気づいた顔をする。そうだよ、勇者になると国王に拝謁することがあるはずだ。
「勝負の負け分は、払って貰わないとな」
「なにぃ!? 僕に国王陛下に陳情をしろというのか!?」
ギルドの受付前の広間にいたロイドを捕まえて、用件を伝えるとこの反応だ。
「勝負は俺たちの勝ちだろ。図書館を研究のために聖女様に使わせて貰えるように、申し立てしてくれ」
ついでに荷物持ちでも、雑用でもなんでもいいから、俺たち、というかルディアが入れれば充分だ。
「ま、まぁ、下手な頼み事よりはできる。できるが、できればやりたくない」
なんだよそれは! できるのかやらないのかどっちだ!?
「僕だって陛下に拝謁したことがあるけど、まだ、一回しかないんだぞ!」
「一回だろうが十回だろうが、陛下にお目通りできるんならやれるだろうが」
こいつ、こんなに権威に弱かったっけ?
「わかった! わかりました! やりますぅ!」
拗ねた子どもじゃねぇんだから、もうちょっと大人な対応してくれ。
「でも、お義兄ちゃん、国立図書館に手掛かりがあるとは限らないよ?」
「ない、とも限らないし、なけりゃないで、他の国のことを調べりゃいい。次はそこの国に行って調べるさ」
ミリィが心配してくるのを、安心させるように話してやる。
とにかく、なにもやらないよりは、なにかやった方がいい。
国王との拝謁に備えて、言上の練習を始めたロイドを横目に、俺たちは打ち合わせを続けた。




