俺が「無職」!?
「レイジィ、無職はさっさと出ていくことだな!」
投げつけられた言葉と共に、目の前で扉が閉められた。
「くそ! 言われなくても出てってやるよ!」
だん! と扉を殴りつけ、そのまま孤児院に背を向ける。
俺の名前はレイジィ。レイジィ・クラストラだ。俺は孤児で、この孤児院で育ってきた。今日までは。
俺は15歳を過ぎると受けられる職業決定の儀式で、なぜか「無職」を与えられてしまった。いや、無職を与えるって、言葉としておかしいだろ!?
この職業決定の儀式で与えられた職業以外のことを行おうとすると、なぜか良くないことが起きて結果的に不幸になってしまう。だから、職業決定の儀式で与えられた職業には、皆好きな職業でなくても就くしかないんだ。
俺も、どんな職業を与えられてもいいように、孤児院でできる限りの努力はしてきた。読み書き、計算、剣の鍛練に魔法の修行と一通りのことは、少なくともあいつ以上にはこなせるはずだ。
あぁ、あいつってのはさっき俺を追い出したロイド・トライグさ。あの野郎、普段からなにもせずに遊んでいただけなのに、職業が「勇者」だと。
ふざけるな! 勇者ってのは、例えば街を襲った魔物を退治したり、盗賊を捕らえたり、国の危機に戦ったりする職業だぞ! あんなやつにそんなことができるわけ無いだろう!
しかし、勇者ともなればステータスが上昇するから、なにもせずに優秀になれる。
ステータスってのは職業を与えられると見られるようになる、体の能力を表記した表だ。
心で「開け」と念じると、目の前に写し出される。何がどうなってるかよく分からないが、これがあると、自分がどんな能力を持っているかが分かるようになってる。
ちなみに、俺のは「財力0、運気1、やる気0」とか表示される。これが勇者だと、やれ筋力が99だ、生命力が100だ、だの華々しい能力になる。
実際、職業が与えられる前にどれだけ鍛えていても、体力のステータスが低ければ大した力は出せなくなる。今の俺がそんな状態だ、無職になってから体が重くて仕方がない。
あぁ、あとスキルってのもステータスには表記されてるな、まあ、無職の俺には無いが。
「しかたない、なんとか食い物と寝る場所だけでも確保しないと……」
つぶやいて歩き始める。とはいえ、「無職」ではどこも雇ってくれないだろう。そんな人間を置いておいたら、そこに不幸が訪れてしまう。
「物ごい」でもないので、街の人にものをめぐんでもらう生活も難しい。
「詰んでないか、俺」
生きていく方法が思い当たらない。このまま冬になったら確実に死ぬな。
「とりあえず森かどこかで、食えるもん探すか」
街を出て、森の方に向かう。魔物が出るかもしれないが、その時はその時だ。どのみち、なにもしなければ死ぬ。
その時、
「きゃぁぁぁッ!」
という悲鳴が聞こえてきた。
誰かが何かに襲われているのか?
仮にそうだとして、俺が行ってどうにかなるのか?
「考えてても仕方がねぇ!」
とにかく俺は走り出した。
少し行った先で、小柄な人影に覆い被さるようにしているおっさんを見つける。
「おっと」
素手じゃあ勝ち目が薄い。それになにやってるかも分からねえ。
様子をうかがいながら、得物になりそうなものを探す。
とりあえず、一抱えほどある石を持ち上げる。
どうやら、おっさんは女の子を押さえつけて、服を剥ぎ取っているようだ。
取り押さえないと、女の子が危ないな。俺はおっさんの暴行を阻止する決意を固める。
女の子に夢中になってるおっさんの背後にそっと忍び寄り、石をゆっくり振りかざす。
組み敷かれた女の子と目があった。彼女の目が驚いたように見開かれたあと、全力でおっさんを振りほどきにかかった。
おっさんが全力で押さえつけようとした瞬間に、俺はおっさんの後頭部に石を叩きつけた。
「グガッ!」
あ、やりすぎたか? 心なしかヤバめな声を上げて、おっさんが意識を失う。
「よし、と。おい、大丈夫か?」
目の前の女の子に声をかける。
「あぁ、すまなんだな。世話をかけた」
見た目に反して、年寄りみたいなしゃべり方をする奴だ。
女の子は、剥ぎ取られた服をどうにか着直そうと、もぞもぞしている。
「これでも年頃の娘じゃ。しばし、あちらを向いておってくれんかの?」
「あ、あぁ、すまない。気が利かなかったな」
奇妙なしゃべり方に気を取られ、ぼんやり眺めてしまっていたのを詫びて、女の子から視線を外す。ついでにおっさんが気がついても大丈夫なように、縛り上げておくか。ロープはおっさんの荷物の中にあったしな。
「うむ、もうこちらを見てもよいぞ」
女の子が声をかけてきたので、おっさんを縛り上げたのち、そちらを振り向く。
そこには、かわいいと美人のちょうど中間、くらいの美少女がいた。歳は13くらいか?
はだけられた服は直され、引きちぎられた部分は紐で結ばれている。とりあえず動き回るのには支障はなさそうだ。
「助かった、改めて礼をいうぞ。わしの名はルディア・マイトスじゃ」
「あぁ、俺はレイジィ・クラストラだ。職業は……無職だ」
職業まではいわなくても良かったんだが、いっておかないと誤解を受けたりしたら面倒だからな。
まぁ、無職と分かれば好んで係わることもないだろうしな。
「ほう! 無職かえ、好都合じゃ。レイジィよ、わしの主にならんかえ?」
「はぁ?あるじぃ?」
「わしの職業は奴隷じゃ、今は主無しだでの。どうじゃ?」
にっこりと微笑んだ顔をルディアに向けられ、俺は困り果てる。
「俺は無職だぞ?」
「無職が奴隷の主人になってはならん、とはならんはずじゃ。いっておくが、わしは有能じゃぞ?」
ルディアは平たい胸をエヘンと張った。いや、どこ見てんだ、俺。
「お前を食わしてゆくくらい、なんとかできよう」
「まぁ、そういうことなら、こっちからお願いしたいことではあるが……」
「じゃあ決まりじゃの」
ルディアは俺の前に、ちょんと軽くステップしてやってくる。
「よろしく頼むぞ、主殿」
こうして、俺は無職で奴隷持ちとなった。
ゆっくり書いていこうと思います。次回更新は未定です。気長にお待ちください