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神託下る

プロローグとしてはながすぎる。

「美しい瞳の色だな。私の好きな色だ。」


低く澄んだ声。

穏やかな語り口。

私のようなものに対しても告げられる丁寧な言葉。

でも圧倒的な威圧。


ああ、彼は生まれながらの王だ。


目の前の人は私をじっと見つめていながら表面だけを観察しているだけにも思う。

褒めてくれていながら私を見通そうとする。


慣れている目。


人に見られることが当たり前で。

人に好かれ憧れられ慕われ請われる。

そして。

人に恐れられることに慣れている人の目。


人をかしずかせることに疑問を持たない人の目だ。

何も見ていない目。私を見ていながら見ていない。

透明な壁に隔てられている感覚がヒシヒシとする。

きっと彼に近づくことは誰にもできない。


圧倒的な美と圧倒的な気高さ。


ああ、この人にはきっと誰も手が届かないだろう。



でも、それでもいいんだと思う。

私ごときが。

ああ、私なんかがというのが正しい。


ずっとずっと昔からどうしてだか知っていた。

私のしてきたこと。

成そうとしてきたことは全てこの人の為だったのかと。

それを知った時、ふっと腑に落ちたことに安堵した。



隣に佇む人を謂う。

私に注意を向けながら、彼を護るように庇うように傅くように。

ああ、この人とは話があうといいな。

この人もきっと彼を唯一人の主君だと決めた目をしていた。



黒髪の、なんだか全てを見通すような黒曜石のような瞳の騎士が彼に寄り添う。

あのときはいなかった。

あの日のこの方のそばにはいなかった。




覚えているのは華奢な背中。


あの日の小さな背中を覚えている。しゃがみこんだ背中、一人ぼっちの背中。

いつかこの人の苦しみを取ってあげられたなら。



今ふと思う。

私と同じ瞳の色を持つ人。


私と同じ苦しみを抱える人。




たとえこの人が。


私が覚えているという事実に気づき私の命を奪うことになるとしても

私がこの人を恨むことはできない。

その隣りにいる騎士が私を疎んだとしても恨むことはない。

でもできればこの方々とは仲良くしたい。


だって、疎まれたくはないだろうと思うのだ。助けたい人に。


私が生まれ育った国とは違う国で育った人。

私が何をして、何を成して、何に思いを馳せて生きてきたのかなんて

きっとちっとも気が付かないし、どうでもいいと思っているだろう。



ふっと唇を引いて。

目を細めて距離をとった。

ああ、神がいるのだとしたらなんと残酷なことだろうか。

私には荷が重い。

ああ、そんな気がヒシヒシとしている。


だがまあ、そんな事お首にも出さず完璧な淑女の礼を取る。

あと少し。あと少し時間が欲しかった。

まだ固まりきらない私の気持ちを叱咤しながら甘えるなと鼓舞する。



完璧な淑女の礼を取りながら少しだけ母国の礼よりも深く膝を下げる。

苦笑いが浮かぶ。

あと一年、いや半年でも遅かったなら完璧だったのに。


彼のための知識が満ちたはずだったのに。

ああ、あの薬草の栽培方法はこの国には馴染むのだろうか?とか、あの薬の

抽出方法はどうやってやれば一番この国に馴染むかとか。

ここにいてもまだ学ぶ時間があるのだろうか・・・。



いけないいけない・・・こと薬草や医療に頭が切り替わるとどうも良くない。



でも、心がトクトクといつもより少し早い。

ああ、そうか。



私は喜んでいるのだ。

どうあれ彼に会えたことを。

そして彼が無事だったことを。

今も無事で、生きていることを。

よかった。あの日からおとなになったこの人を見ることができた。

ホッとした。


きれいに隠せている。

ああ、本当に無事に隠せているその瞳の色と、彼の全てに関わることを。



でもきっと彼も知ってしまったのだろう。

私に神託が下ったと共に。

この人にも神託が下ったはずだ。


私よりも過酷な神託が。




それを全くきれいに隠し、私の目の前にいるこの人の豪胆さに感銘を受ける。



礼を取る前にふっと頬が緩んでしまったことは許してほしい。


その瞬間を目の前の人が心のなかで動揺しつつも顔に出さないことを私は知らなかった。

なんの表情も変わらない彼の表面しかこの時しらなかった。

そう私は知らなかったのだ。



だって。


記憶の中の彼はもっとずっと幼い。

もっとずっと高くて澄んだ声だった。

「ありがとう、とても安心したよありがとうお嬢さん」

そういって、まだ苦しそうな息をしながらも彼は紳士的に笑った。


だいたい私が何故覚えているのかもその記憶が大体が私にあるのもびっくりモノだ。

あの時一瞬、そばに寄った少女のことなんか彼が覚えているはずがない。

きっと誰にも信じてもらえないだろうがなんせ私が彼に初めてあったのは4歳のときだから。

4歳。ほぼ赤子じゃないかと。いや、幼児か。



ちなみに忘れたことがないなんてそんなわけがない。

4歳の記憶なんてそんなに長持ちするわけがない。

でも、一年に一回。

必ず5月の1日その日にフラッシュバックして頭に一瞬浮かぶ顔。


五歳のときにフラッシュバックしたその映像は切り取るように

カシャカシャと場面が変わるように繰り返される。



誰?きれいな顔。。誰?あなたは誰?


今までであったことがない。


私の瞳と同じ色の人。



その色を秘密にしなければならない人。



理由はわからない。でもきっと私と一緒だ。

私のこの瞳の色も、誰にも知られてはいけない。

だからきっと彼も知られてはいけないのだろうと漠然と思っていた。

でもさっきまできれいなダスティーブルーだった瞳の色がかわったのが綺麗で。

あまりにも綺麗で何も言えなかったんだ。


だから小さい私は忘れていたのだろう。



彼も私もどうしてか隠さなければならないその瞳の色をわかったのか。



思い出し始めて五回目の5月1日。

その日に点と点がつながったように、彼の記憶がつながった。




「もう一度あなたに会える?」


優しく私の頭をなでてくれた彼にそう聞いた私。

記憶の中の彼はたしかに言った。


「僕と同じ色の君、君は      だよ。だからきっと     だ。」




とぎれとぎれの記憶は今になってもつながらない。

だから彼が小さいときの私に何をいったのかはわからない。

でも私は笑ったのだ。


「わかったわ。きっとそうね。」


そういって。



座り込んでいる小さな背中を見つけたあの時。

私は走って彼に駆け寄り、そして彼の背中をなでた。

彼の咳が止まらなかったから。

彼がうずくまっているのを見つけた。

息をするのも苦しそうだったから、私も一緒だったから。


そのときに私が持っている薬を一粒。


彼の口の中に押し込んだ。



咳が止まるまで背中を擦っていたのは、いつも私がそうしてもらうから。

この優しい瞳をした少し年重のお兄さんにも通じると思った。

薬はすぐに効く。それは自分が一番良くわかっている。

3分ほどで彼の呼吸がもとに戻り始めた。

ひゅうひゅうという呼吸音が穏やかに、そして普通に戻っていく。


安堵したのを覚えている。




あのときの彼は・・・・。



そう、この人。



国の名前をそのままに背負う人。

いえ、この国そのものの尊きお方。

29歳という若さで一番高い場所にいる方。


ドゥーゼット王国のたった一人の王。




エルンハルト・ディ・ドゥーゼット



孤高の国王陛下だ。




ミルクティー色のきれいな髪は光を受ければ金色に輝くような美しさだ。

前髪は少し長めで目にかかりそうだけど反対に襟足はきちんと短く切られた髪。

貴族は髪を伸ばす人が多い。その中でも異色なほどに短い髪。


長い手足に平均的な令嬢の身長よりも少し高い私よりも頭一つ分高い背。

長い指、ほっそりしたきれいな手。きっと彼は剣は握らない。

その代わりに左手の中指に節くれたペンだこ。


ああ、この人は剣ではなく言葉で文字で全てで戦う人なんだろう。



恐ろしいほどに冴え冴えとする程に美しい顔。

薄い唇、血が通っているのかわからないほどに真っ白な肌。

そして・・・。

切れ長の美しいダスティーブルーの瞳。



でも私は知っている。

その瞳の色は本当は澄んだ銀であることを。



そしてその銀色の瞳を持つ人は天を統べる人だと言われていることを。




そしてこの人ももう知っている。

きっと知っている。



私の瞳も、同じく銀色であることを。




そしてそれを隠しているのが、我が国の秘匿される薬学の賜であることを。





ナディアレーヌ・エミィ・オーウェン。17歳。

今は紫がかった瞳を持つ、これが私の名前だ。



エルロッドウェイ皇国。

とても小さな小さな皇国が私の生まれた国。

私はその国のたった一人の皇女だ。

まあ、皇女が一人なだけで兄が二人いる。

一人は皇太子として、一人は皇籍を離れることが決まっており宰相補佐として

ゆくゆくは長兄の右腕となる宰相になることが決まっている。

父と母はここにはいない。皇国を守っている。

私はその代理であり、兄二人は私と医療技術をこの国に提供することを

共に確認に来ただけだ。



この大国のドゥーゼット王国に。




婚姻のためではない。

私は文字通りこの国に捧げるのだ。

私の知識、そして私をも。


我がエルロッドウェイ皇国は医療を生業とし、薬とともに生きる国だ。

人の命を救い、人の病を治し、心を癒やすことを生業とする。

それ故に王と王妃は国を出ることを禁じられている。

それは世界で認められていることであり、エルロッドウェイを独占しないがための

法でもある。



そう、私達自体がもはや医療そのものとされる。


そして皇族も貴族も民もいちばん大切な守るべきもののために命をかけることにためらわない。

それは生まれながらにして背負わされる重荷とも言える指名。



その中でも皇女役割がある。

すべての皇女がそうなわけではない。

その密命を帯びる皇女は体にある身体的特徴が現れるのだ。

そしてその特徴は代々伝わる使命を帯びて現れる。

そしてそのために、それを護るために皇女は生きて生かされ、守られている。



銀の瞳を持つものを護る。

そしてその皇女は同じ銀の瞳を持つ。


その瞳を持つものが産まれた時、同じように同じ色を持つ統べるものが現れる。

そのもののために皇女は共にあらねばならない。


同じように現れたその銀は皇女が17歳になるまでは秘匿される。

何をおいても国と世界に保護され、皇女に神託が下るまでは誰にも知られてはならず

そしてその銀を持つものは何らかの疾患を抱えている。

それを癒やすべく治すべく皇女は助力しなければならない。


ただその一命のみを伝えられ、それを行使するために生きていく。




その者が人でなしであろうと、どこぞの国の盗賊であろうと、はたまた

残虐な王であろうと、優しき宣教者であろうと。

我が国に現れる神託に伴い、その御方を護る。


そしてそれは皇女が17歳になった年に神託が下る。と。




そして私が17歳になって一月後。

神託が下った。



その日、それは護る人と同じような銀色の雲に覆われた、ブルー。

抜けるような青ではなく、私の気持ちを組んでくれたようなダスティブルー。


ドゥーゼットに赴くようにと。

その国そのものを護るようにと。

降って来たような神託。


まあ、文字通り我が国の聖堂に白い羽根とともに降ってくる。



まるで嘘のようだが事実である。





事、すなわち。




国王であるエルンハルトを護る。

それが私の使命である。と。


そして唯一神託とともに下される命がある。

まだあるのか?と思わないわけではないが更に密命にも似たものとも言う。



その人を得ようと望んではならない。

常に陰日向となり沿うようにその人の命を守る。

自分の命が尽きるときはその御方のためでなくてはならない。


しかしその相手が本当に自分を選んだのならば。

何をおいてもその相手の願いを叶えなければならない。

その相手が一緒に死んでくれと言ったら一緒に命を絶ち。

共に行きてくれと請われたら何があっても何をおいてもその願いを叶える。


自分からは望んではいけない。

相手ののぞみのみを叶えなければならない。


それが。




銀の瞳を持って生まれた我が国の皇女における一つの理。







私の矜持たる理なのだ。





とまあ、掻い摘んで言えばこういった事だ。

私だって皇女だ。

自分に下る神託がどんなものかもわかっていたし、そのために私が為さねばならないことも

わかっている。

逃げたくても逃げられないことも。

逃げるという選択肢も持たせてもらえないことも恨んではいない。

皇女としての矜持もある。自分ができることを成し得なければならないことはもう

血に組み込まれたのかというくらい理解している。



まあ、それ故私は甘やかされて育ってきてはいない。

愛情を沢山注がれて育ってきたが、甘やかされたわけではない。

何ならしごかれた。

ああ、扱かれた。

薬草に関する知識、毒物に関する知識、そして薬物毒物それを摂取するための方法。

それを回避する方法。

その上。


誰に神託が下るかわからないため。



淑女教育、もし悪者だった場合は身を護るためそして相手を護るために

身体訓練、そして、商人だった場合は貿易ビジネス、そして普通の人の場合には

それに合わせられるように質素倹約。

逆に王族や貴族だった場合にはそれに合わせられるように社交まで。


ああ、もはや口にするのも嫌になるくらいいろんなことを叩き込まれた。


神託さえ下らない身分の皇女であればこんな事しなくていいだろうということまで

全て。



ええ、全てだ。



やさぐれたい・・・。

何を好き好んで何もない場所から自分で知力を尽くし脱出経路を見出したり。

売り物か?というくらいの刺繍やレース編みが出来たり。

薬になるか毒になるか、火を通したら食べられるか、水にさらせば毒がながれるか

体にとどまるものなのかを実地で訓練したり。

6ヶ国語を普通に操りなんとなくの会話であればさらに9ヶ国語を操れる語学力とか・・・。



そんな事したい女がいるか?

そして出来てしまうのが神託が下ってしまった皇女だからなのか意地だからなのか

もはや自分の性格も負けず嫌い極めなくてもいいだろ?くらいの中身が屈強な男状態に

育つという弊害・・・。

見た目も無駄に良いらしい。

ああ、全く自分の見た目に興味もないので良いらしいとしかわからない。

でも、お兄様たちもお母様とお父様も見目麗しいのだから私が見るのも憚られる見た目では

ないのだろう。くらいの認識だ。

何故なら生き抜くために必要なことを詰め込むことで精一杯だからだ。



何故だ・・・。平和に生きたかっただけだというのに・・・。

神託なんか・・・神託なんか・・・。



ああ、本音が・・・。


だからこそとも言えるがそんな私に愛情はたくさん与えられたかと言っても

甘やかされた記憶はない。

お父様やお母様は惜しみなく愛情を与えてくださいました。

ええ、お兄様たちに至ってはきっと多分・・・。





溺愛の部類に入るかと。






本当に甘やかされたわけではないのだ。何なら血反吐はいたかな?くらいだ。

人間が曲がらなかったのが不思議なくらいだし、なんなら褒めたいくらいだ。

何度も言うなと言われるかもしれないのだけれど事実なのだから仕方ない。

アメとムチの使い方まで習うとは思っても見なかった。



それも全ては神託のせい・・・。



ああ、神託のせいとかいってしまった。


段々と私という人間の本質がバレてきてしまう予感はする。

うまく隠せるだろうか。



とまあ、頭の中ではこんな事を考えていながらもそうは見えないだろうと思う。

今ここで殊勝に淑女の礼をとっているのも私の全てをかけて整えた武装とも言える。

私はこの人を救わなければならないのだ。



でも。



私がこの人を望んではならない。




ということは。





望まれなかった場合どうだという話だ。


私には一体どんな道があるのかということだ。





その場合。





この方が望む方に健康体であり、完璧なこの方をお渡ししたいと思う。

そして全力をもってこの方を助け上げた後には。




自由をいただきたいと思う。

そう望んではならないひとなのだからこの人にすべてを捧げてはならない。

この人が愛する人に完璧なこの人を捧げさせていただく。そのために私は全力で

この方の力になろうと思う。

だからきっと、この方は私ごときに興味を示すはずがない。こんな大国の王だ。

婚姻も然るべき方を迎えるはずだし私よりも12も年上の方だ。

きっともう心に決めた人もいるだろう。


だからこそ私にもきっと私が望んでもいい人がいるはずだ。

恋したいわけではない。

私は。




ただ自由がほしいのだ。




ああ、ぶっちゃけてしまった・・・。



神託が下ってからは少しだが事は私が産まれたときには定まっていたのだ。

第一私がそれを為さねばならないと決まった瞳を持って産まれた時お母様は

泣きに泣いたらしいのだ。

きっと私が不憫だったのだと思う。私を手放さなければならないと産まれた瞬間に

決まってしまったからだ。



でもそこからのお母様の立ち直りも早かった。

お母様は私に全てを叩き込むことに決めたのだ。

それは勉学、生きていく力、それだけではない。



私に折れない心を。

何にも惑わされない力を。

全てを注ぎ込んだと言っても過言ではない。

見た目が嫋やかであろうとも、中身はそこいらの男には負けないほどに男前なお母様。

それを知っている家族全てが、それに習い、私を全力で守ってくれる。

護れなければならない私は、全力で家族に守られているのだ。



それを忘れない、それを身に沁みるほど理解している。



そんな心をもたせてくれた。



私はだから、決めている。







私はわたしのものだ。

助けなければならないとしても私の意思で助けたい。

助けなければならない人として接したくはない。


人として、当たり前のように。




この人を望まず、対等にいたいのだ。

私に意思決定はないとわかっている。


でもそのときに私は後悔したくない。



その時私に愛しい人がいたとしてもこの人を一番に考えなければならないとしても。



私の心は私のものだ。






それは理を超えた、私の矜持。



涼やかな声に応える。

色を褒めていただいた事実と、この方もまた、食えない方であるという事実を

刻みつける。



ゆっくりと淑女の礼をとったまま答える。



「わたくしが知っていることなど貴方様の名前とこの国の医療のこと。

わが皇国が役に立てる医療技術があるということその程度のものでございますれば。

エルロッドウェイ皇国の第一皇女ナディアレーヌ・エミィ・オーウェンでございます。

わたくしはエルロッドウェイの医療の知識をすべて詰め込んだものにございます。

派遣という形ではございますが、この国で薬草に関する栽培方法と医療を確立させたいとのこと。

その手助けとしてわたくしがこの国にとどまることになります。


どうぞお見知りおきを。」




表向きはこういった要請により私はここにいる。


神託が下ったのはこの公的に届けられた国王自らの親書が届いたあと。




私の仕える相手がドゥーゼット国王だと知ったお母様は安堵し。

お父様は頭を抱え、兄達は眉間にシワを寄せ苦虫を噛み潰したような顔だった。


お母様の気持ちはわかる。

私だって自分の娘が仕えるのが犯罪者まがいの方でなかっただけでも

安心材料だ。


だがお父様やお兄様たちは違う。


私が仕えるのが男性というだけでも気に入らないのだ。

しかもぐうの音も出ないタイミング、そしてぐうの音も出ない程に完璧な

公的なお願いと来ては駄々の捏ねようもない。



全ては私に決定権はないのだ。


そして私はここにいる。




淑女の礼を取りながらも思う。


ああ、この人はきっと私ではなくお兄様のどちらかを望んでいたのだろうなと。

だがしかし神託は下った。

私が来るしかなかったのだ。

そして私を受け入れるしかないのだ。彼も。


諦めてもらうしかない。



そして。




心のなかで唱える。

私を望まないでいただきたい。

こんな美しい貴方様と比べるのも烏滸がましいほどの平凡な私なんて

良き時が来た暁には解き放っていただきたい。

ええ、解放していただきたい。


助けるだけは助ける。あの日のあの背中を救いたかったように。




だからお願いします。



私はただ。





薬草を育て、その薬草で料理を作り、自分の為に笑い、多くの人を助け。

ただ平凡に生きていきたいだけなのだから。






だが私は知らなかったのだ。



とうの昔に私が捕まっていたことを。

彼はずっとこの日を待っていたことを。




もう色々と手遅れだったということを。






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