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咆哮する二角獣④


冒険者ギルドの受付には長蛇の列ができていた。


「はいそこ、押さないでください!

クエストが決まった方は案内に沿って列に並んでくださーい!

決まっていない方はクエストボードより受注するクエストを選んでから受付に来てくださいね!!」

両手をメガホン代わりに、大きな声で受付嬢が叫んでいる。


「なんだあれ?」

まるで人気遊園地の入館案内みたいだ。


「クエストの受注は混むのです。さっきも言ったじゃないですか」

「そうじゃなくて混むのって話」

シルヴァは受付から離れた人だかりを無言で指さした。

そこには大きな掲示板がぶら下がっており、沢山の案内が記載されていた。

皆々、クエスト内容が記載された紙をを掲示板から剥がしては、受付の列の方に走っていく。


「達成できるクエストが少ないからです。

モンスターの強さが逆転して、人間の力ではどうしようもない以上、達成できそうな依頼の絶対数があまりないみたいです」

「あ・・・、なるほど」

クエストボードの依頼を確認してみると。


「ボブゴブリンの討伐、デビルラットの駆逐・・・、確かにこんな状況で受けるやつはいないよな・・・。

報酬金とギルドポイントは高いみたいではあるけど」

「最近はドラゴン討伐のような簡単なクエストは、受注するのにお金がかかる上に報酬がないと聞いておりますが」

「何のメリットがあるのそれ」

「冒険者のレベルが上げるには一番簡単な方法ですから。

どっかの誰かさんがお寝坊さんでしたから受けれませんでしたけど?」

「うるさいな・・・、ってもしかしてモンスターってステータスがひっくり返っても経験値みたいのって変わらないの?!」

頭の中で何か嫌な予感がした。


「変わらないから、皆急いで並んでいるのですよ?」

「つまりあれか、経験値がたまるクエストを受ければ報酬が低くて、経験値がたまらないクエストほど報酬が高いと」

「そういうことになります」

普通のゲームなら、もらえる経験値の量と報酬の量は比例するものなんだけど。


「どのクエストの討伐対象も、ステータスが戻っても俺の力じゃどうにもならなそうだな・・・」

「それでどうしますか? 今日は諦めて明日に仕切り直しますか?」

「いいや、残念ながらそれはない。どうせ俺は朝に起きることはできないからね」

「・・・変なところに自信を持たないでください」

呆れるシルヴァに俺はクエストボードのクエストを剥がして突き出してやった。


「薬草つみ・・・ですか」

「そう、弱いモンスターのステータスが戻っても正直勝てる保証はない。ならどうするか?

簡単だ。戦わなければいい」

「何でそう、あなたはそういうところで自信ありげなんですか・・・」

シルヴァは俺からクエストを受け取ると内容に目を通し始める。


「えっと、モンスターの侵入を極力避けた私有地内での薬草の採取。報酬4000G

薬草以外に採取したものはご自由に持ち帰っていただいて結構です。勿論報酬はハズませていただきます・・・と 」

「これなら俺達みたいな駆け出し冒険者でも大丈夫でしょうよ、さっそく受けに行こうぜ」

列に数分並んで受付を待つと、朝にクエストを受けていた人達が掃けたのか、すぐに俺達の順がやってきた。


「こんにちは、クエストの受注ですね? かしこまりました。

――採取クエストですか、すぐ手続きを行いますが何かこちらで準備をされますか?」

「準備っていいますと?」

「こちらでクエストの詳細の確認をしたり、隣の売り場で武器や医療品の購入、売却ができます」

要するにブリーフィングみたいな物みたいだ。


隣のカウンターには背丈が低い老婆が立っており、その後ろには武器や不思議な形をしたアイテム思われるものが値札が掛けられて陳列されていた。


「・・・見慣れない方ですな、探し物ですかな?」

「えっと、特にないんですけどちょっと見させてもらいたいなって」

カウンターにはメニューがあるんだけど・・・。


レザーブーツ:500000G

ライフポーション:30000G

薬草:10000G

因みにカウンター裏のリンゴに似た赤い果物の値段は130Gだ。


「これ、相当ぼったくりでは・・・、むぐっ!」

シルヴァに口を強く押さえられ、老婆は俺のことをギロりと睨んだ。


「お主ら、不服と申すか?」

「あはは、この人最近この町に流れ着いたみたいで! すみません、私達これで失礼しますッ!」

口に続けて、首に腕を巻きつけられて俺は店から引きはがされる。


「さすがに今のは正当な主張だと思うんすけど?」

「・・・確かにユートにはあまり馴染みがないことかもしれないですけど、町の外でしか手に入れられないものは値段が高くなってしまうのですよ。

モンスターの皮や、森の中でしか取れない植物、それらを使う商品は、モンスターが脅威になってしまった以上、こうならざるを得ません」

受付から離れたテーブルでシルヴァは俺を解放してくれたが、近くにはクエストボードがあった。

クエストボードには誰にも選ばれない、元雑魚モンスター討伐の依頼が大量に貼り付けられている。


「あれって多分さ、ずっと誰も受けないまま残っている依頼だよね」

どれも紙の端には何度も画鋲のようなものを指した跡が残っていた。


「もしかしてさ、予想だけど・・・。

ドラゴン討伐のクエストを受けるのに必要な額って、まともに生活している人は受けられないくらい高いんじゃないかな」

「はい、その通りです。

多分、呪いが広がる前に十分にお金を貯めていた手練れの冒険者の方か、もしくは貴族の方しか受注できないと思います」

「そういうクエストは一般人ではまず受けることはできないし、元々弱かったモンスターの討伐は誰も受注しない。

そうなると、受けることができるクエスト自体が少ない。

さっきのお店も、本当に必要な商品はあるけど、材料がそろわないのに皆が欲しがり続けるから値段は下がらない。

・・・需要と供給がめちゃめちゃになってる」


初めは自分自身、モンスターの力関係がひっくり返ってしまう呪いに関してはいつかは慣れるものだと思っていた。

300年くらい時間があれば、もしかしたら人が住めない地域からは人間が撤退して、新天地を開拓しているかもしれないし、

高くて手に入らない製品の代替品も発見されるかもしれない。


だけど、そういう日が来るのはずっとずっと先のことで・・・。

呪いはこの世界を確かに蝕んでいるようだった。


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