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咆哮する二角獣③

その翌日のこと、真っ暗闇の中、何者かに体を引っ張られるのを感じた。

暖かく真っ暗な、柔らかい感触の下で固い物が後ろに流れていく。

全く・・・誰だろうこんな惨いことをするのは。


「もう朝の9時です!早く起きてくださいッ!!」

「・・・あと、2時間」

「そんなに待ってたらお昼を回ってしまいますッ!! 明日はクエストを受けに行くって言ってたじゃないですか!」

「・・・朝は人間が起きる時間じゃない。それに明日からでいいことは明日やればいい・・・」

「―いい加減に起きてください!」

布団を引きはがされ、俺は廊下の大理石の上に投げ出されてしまった。


「何でこんな早くに・・・、火事じゃあるまいし」

「そんなに朝早い時間ではないのですが、それはいいとして・・・。

早くいかないと、他の方に受けたいクエストを取られてしまいますよ? 先着順なのですから」

「そうだけどさ、残り物には福があるって言うじゃん。そんな焦ることかね?」

「あれを見てもそう言い切れますか?」

シルヴァは廊下の窓の方を指さした。そちらを覗いてみると、沢山の人が何やら町の外を走っていくのが見えた。


「・・・花見の場所取りか何かか?」

「違います!皆クエストを取るためギルドに向かってるんです。私達もいかないと・・・」

血が回らない俺の手を引きながら、シルヴァは階段を降り始める・・・が、不意にそこに人影が現れた。


「おや、姫様・・・。そんな早くに階段を走ったりして、どうなさいましたか?」

セバスの顔を見ると、シルヴァは明らかに繕った笑みを浮かべながら後ろに後ずさっていた。

違和感を感じ、俺はシルヴァに耳打ちする。


「・・・もしかして、お前。クエスト受けるってこと言ってないの?」

「言えるわけないじゃないですか?言ったら絶対に反対されること間違いなしですッ!」

「アホかッ、黙っていく方が問題だろ、仮にも立場がある人間なんだし! そもそも行くこと自体が本来おかしいわ 」

「そうですけど・・・」

「どーすんだよ、今日はもう諦めようぜ。明日がある。」

自分の部屋に向かおうとすると、シルヴァの手は俺の腕を掴んでいた。


「大丈夫です。ここは私が切り抜けます」

シルヴァは決心を決め、セバスをしっかり見つめていた。


「・・・姫様?」

「あら、セバスごきげんよう。朝早くから屋敷の清掃でしょうか?」

「いえ、今日の分は済ませてしまいました。ただ姫様の洗濯物を取りに・・・、ユート様はご自身で持ってきていただいたようですので」

シルヴァの繕った表情は完全にメッキがはがれていた。昨日言ったのに・・・。

しかしさすがは女子、小さな咳払いを1つすると新しいメッキを顔に着けていた。


「・・・セバス、あなたは毎日本当によく私に尽くしていただいておりますね」

「・・・全くだよ。―ってぇ! 足踏みやがったなこいつ!!」

「とにかく、あのですね・・・。セバスは働きすぎていると思うのですッ!

どうですか?偶には1日くらいお休みを取ってはいかがでしょうか?!」

・・・こいつ、休暇で監視の目をかいくぐる気か。

セバスは少し考えてから、首を横に振った。


「いえいえこれしきの事、何も問題はありません」

「そんなことはおっしゃらず! あなたが倒れてしまったら、私は悲しみでもう生きてはいけません!

無理はなさらずお休みになってください」

生きていけないのは寧ろお前の方だろうよ。


シルヴァはセバスの両肩を持って階段を降りようとする。

その姿はまるで孫とおじいさんみたいで・・・、シルヴァをクエストに連れ出したいとは正直思えなかった。

モンスターはスタータスが逆転していて、現状俺だけがその特殊ルールを無効にすることができている。

逆に言えば、シルヴァが如何に優秀だろうが強化されたモンスターには太刀打ちはできない。

冷静に考えたら、俺一人で行けばいい話なんじゃないか?


俺は後ろからひっそりとシルヴァに近づき、ポケットに手を伸ばすと・・・。

そっとポケットの中のギルドカードを引き抜いた。


「シルヴァ、何か落ちたぞ?」

「へ・・・? ――ッ!!」

当然引き抜かれたギルドカードは俺が手を離したら、音を立てて地べたに落ちる。


「姫様、何か落とされたようですが・・・」

「あっ・・・、ああっ・・・」

シルヴァの顔には絶望が浮かんでいた。

恨むなよ?これは合理的な判断だ。

セバスの足は真っ直ぐにギルドカードの方に一歩一歩向かっていく・・・、その時だ。


「――ファントム、ゲート!!!」

シルヴァは叫んだ。

突如、セバスの前から蝶の大群が階段を上っていった。


「おっと・・・」

セバスにとっては見慣れた光景なのだろう。俺のように特に驚くことはなく、一歩横にずれて蝶の大群を躱した・・・が、シルヴァの体は先ほどのところにいない。

シルヴァは俺の手を引きながらいつの間にか、蝶の大群に紛れて階段を下り始めている。


「早くこっちへ!」

「お、おいっ!」

いつの間にかカードはシルヴァの手に握られている。


「姫様・・・、もしものことがありますので、屋敷の中での魔法の仕様は緊急時以外は控えてくださいとあれほど・・・」

「すみません、急いでるのです!

今日の夜には帰るつもりですので、夕飯の支度はなしで大丈夫です。」

セバスは何が何だかわからないまま俺達の背中を見送っていた。

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